大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和54年(ネ)136号 判決 1980年3月27日

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。第一次的請求として、被控訴人は控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録(一)記載の土地につき津地方法務局昭和四九年八月二七日受付第二八六八九号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。第二次的請求として、被控訴人は控訴人に対し、控訴人から金二万四八〇〇円の支払を受けるのとひきかえに同目録(一)記載の土地につき所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および書証の認否は左記のほか原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

一  双方代理人の追加陳述

(控訴代理人)

1  控訴人は、原審において、第一次的請求原因として、本件売買契約の通謀虚偽表示による無効、民法第九三条但書の規定による無効、要素の錯誤による無効、詐欺を理由とする取消による無効等を主張し、これに対し、原判決は右第一次的請求原因は、前訴判決の既判力に抵触し許されない旨判示した。

しかしながら、右各主張の内詐欺を理由とする取消による無効以外の主張は、控訴人が前訴において主張したところであるにも拘らず、前訴の受訴裁判所が釈明権の行使を怠り、審理の対象としなかつたものである。従つて控訴人は本訴において右各主張について判断を受け得る権利があるにも拘らず、原判決が前訴判決の既判力に抵触するとして、右各主張の当否について判断を示さなかつたのは、民事訴訟における信義則に違反し、憲法第三二条が保障している裁判を受ける権利の侵害であり許されない。

2  仮に百歩を譲り、前訴の受訴裁判所の釈明権の不行使は暫く措くとしても、判例は債権が存在しているとの確定判決があつても、その債権について詐欺その他の原因によつて取消権を有している場合は、既判力の標準時である最終の口頭弁論期日後に取消権を行使しうるとしている(大審院大正一四年三月二〇日判決民集四巻一四一頁)。そして控訴人が詐欺を理由とする取消の意思表示をしたのは、本件訴状においてであるから、第一次的請求原因中少くとも詐欺の主張については前訴の既判力に抵触しないことは明らかである。

3  原判決は第二次的請求について、本件売買契約中の「桜町区民総意の下に」が同区民全員一致の下にという趣旨であるにも拘らず、「前示契約における総意が常に全員一致を要することを意味するものと解すべき根拠は見出せない」旨判示した点において本件売買契約の解釈を誤つている。

また、本件売買契約においては「同公民館は一般的に通常公民館と認め得る建築物とする」との条件が付されていたところ、昭和四五年頃の同区の戸数が一一〇戸位もあつたにも拘らず、現実に建築された公民館は六畳並びに八畳の和室二室しかなく、しかも一部の区民の反対を押し切つて国立三重療養所(結核療養所)の解体材を使用して建てたものであるから、人口比、特にその後の人口増が見込まれていたこととの対比から、衛生上は勿論面積的にも到底通常公民館と認め得る建築物と言い得ないことは明らかである。

仮に百歩を譲つても「区民の総意」とは商法所定の株主総会における特別決議と同様の圧倒的多数による賛成を要すると解すべきである。そして本件公民館の建設についてはもと結核療養所であつた国立三重療養所の食堂の解体材を使用することにつき一部の区民から異議が出されたのであるから、異議をとなえた区民の数を明確にせずに桜町区民の総意の下に建設されたものと判断することは許されない。

仮りに本件公民館建設自体については桜町区民の総意に基づくものと言い得ても、公民館の規模については桜町区民の総意に基づくものとは言い得ないことは明らかであるから、本件公民館の建設はいずれにしても本件売買契約に定める要件を具備していない。

(被控訴代理人)

控訴人の右主張中1・2は既判力の客観的範囲を理解しない謬論であつて採るに足りない。

また本件売買契約における「桜町区民の総意」の意義に関する原判決の解釈、認定、判断は正当である。

二 証拠関係(省略)

理由

当審において取調べた新証拠を加えてなした当裁判所の判断によつても本訴請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきものと考える。その理由は、左記に付加するほか原判決の理由説示と同一であるからここにこれを引用する。

1  控訴人の当審における主張1について

前訴判決に、控訴人主張のような判断遺脱、釈明権不行使等の違法があつたか否かは、前訴判決の既判力の及ぶ範囲に何らの消長を来たすものではないし、右のような違法の有無にかかわらず、前訴判決の既判力を認めたからといつて、訴訟法上も何ら信義則に反するものでないことはもとより、憲法三二条が保障する裁判を受ける権利を奪うものでないことは、既判力の本質に照らして明らかというべきであるから、控訴人のこの点の主張は採用しえない。

2  同2について

詐欺を理由とする取消権の行使と既判力の時的限界に関する控訴人の見解は、当裁判所はこれを採用しない。控訴代理人指摘の大審院判例は、最高裁判所昭和三六年一二月一二日判決(民集一五・一一・二七七八)によつて実質的に変更されたものと解される。

3 同3について

本件全証拠によつても、本件売買契約において条件とされた「桜町区民総意の下に」「一般的に通常公民館と認め得る建築物」の意味を控訴人主張の如く解すべき根拠を見出すことはできないし、建設された桜町公民館が右条件を充たすものであることは原判決認定(引用にかかる原判決一二枚目裏四行目から一三枚目表八行目)のとおりであつて、他に控訴人の主張を認めるべき証拠はない。

してみると原判決は相当であつて本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例