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名古屋高等裁判所 昭和53年(ラ)260号 決定 1979年3月06日

抗告人 小松建設工業株式会社

右代表者代表取締役 吉田義明

右代理人弁護士 山路正雄

主文

原決定を取消す。

理由

一  抗告の趣旨および理由

別紙のとおり。

二  当裁判所の判断

本件記録によれば、抗告人の原決定添付別紙物件目録記載の土地(以下本件各土地という)に対する競売申立に基づき、津地方裁判所は、昭和五一年八月二三日右土地の一部につき同裁判所昭和五〇年(ヌ)第一九号事件へ記録添付し、翌二四日残余の土地につき競売開始決定をしたこと、同裁判所は昭和五三年四月一八日鑑定人中山朝光に対し、本件各土地の評価を命じたところ、同鑑定人は同年六月二九日、「本件各土地は昭和四九年五月一〇日付県二一九号五二で、開発確認の許可を受け(中央自動車整備工業株式会社)、住宅団地の造成工事が開始されたが、昭和五一年六月に工事が中断されたままで、現状は盛土工事、宅地擁壁工事、側溝工事等ほぼ完了しているが、道路舗装工事給水工事等は未着手の状況で、本件各土地の全てについて、区画形質の変更がなされており、各物件の境界等は確定できず、現状では物件個々の評価は困難である。また、前記許可面積は本件各土地の総面積より、四九〇〇平方メートル余多く、それは縄のびあるいは農道等が含まれたための増歩と思料されるが、このほかに、本件各土地以外の土地が含まれているのか不明であり、詳細な調査をしなければ全体的な一括評価も困難である。」旨の、競売物件の評価についてと題する書面を提出したこと。その後、抗告人代理人から同裁判所に対し、本件各土地の特定のための資料として、前記住宅団地の現況図面と、公図上に右団地計画を投影した図面の各一葉が提出されたが、同裁判所は、本件各土地の位置が不明であり、これは、競落人の所有権取得を不可能にするものであるとの理由で、本件競売開始決定(記録添付にかかる前記昭和五〇年(ヌ)第一九号事件の開始決定を含む)を取消し、抗告人の競売申立を却下したことが明らかである。

そこで、右のように、本件各土地の形状が変更され、個々の物件の境界を具体的に確知することができない場合に果して右各土地の位置は不明か、換言すれば、本件競売物件は特定できないというべきかについて考えてみるのに、一般に、土地はその範囲を客観的に存在する境界線によって画されており、各筆毎に地番が付せられ、登記簿により公示され、かつ、登記所に備付けられた地図(公図)によって、その所在位置も明らかにされているわけであるから、本件各土地が、公図の示す位置に現在することが明らかな以上は、観念的には本件各土地は特定されており、競落人は右特定された各土地の所有権を取得するといって妨げないのであるが、現実に競売の対象物件としてこれをみるときは、競売申立人の担保権実行に対する利益はまず尊重されるべきものの、競売手続の円滑な遂行と手続の安定性に対する配慮も欠くべからざるものであるから、右のような観念的な特定で、競売不動産の特定として事足れりとするのも、競買人その他の利害関係人に対し不測の損害を生じさせる虞れがあり、競売手続を無用に混乱させるものであって適当ではないというべきである。

そこで、右のような競売手続上の観点から、本件各土地を、特定して競売することに、実際上の不都合はないかについて、検討してみることとする。

本件記録によれば本件各土地及び旧道路、水路は宅地造成工事の結果、全体としてその周囲を石垣、コンクリートブロック等によって比較的明確に区画され、その周辺にある本件競売対象外の土地との境界は一応確知することができ、しかもこれら周辺の土地所有者との間に境界等に関し格別の紛争もないこと、それゆえ、右画地全体の特定は容易であるばかりかその評価も困難ではないこと(前記鑑定人が本件各土地の鑑定を命ぜられた際、競売裁判所、所有者、競売申立人らに対象土地の範囲につき指示を求めるなどの行為をすることなく、直ちに、右画地全体の評価を断念したのは、安易にすぎるというほかはない。)、本件各土地全部について、実質上抗告人を順位一番とする共同抵当権が設定されており、現況は全体として前記のとおりほぼ均一に宅地化されているから、正当な価格で円滑にこれを売却するとすれば、一括競売に付するのが相当であること、もっとも右土地には順位の異なる権利者がいるので、単純な一括競売はできないわけであるが、右の趣旨を生かして、いわゆる同時競売の方法によることが可能であること、なお、その際各個の土地の価額は、本件各土地全体としての価額を公簿面積に従って割当てるのが適当であろうし、そうしたからといって、本件競売の利害関係人を害するような事情も窺われないこと、また右評価にあたり、右画地全体の中に存する旧道路、水路等の公有地の取扱いには、困難を伴うであろうことは否定できないにしても、一応前記のとおり、公簿上あるいは公図により、その面積所在位置、範囲を想定することができるから、これをその他の私有地と区別することができること、その地積範囲の画地全体に対し占める割合も、比較的僅少であること、しかも、現時点において、所有者が国等に対し、右公有地の公用廃止あるいは売払の申請に及ぶことなど望むべくもないから、右公有地の取扱いに関しては差し当って妙案も考えられないところ、本件各土地の現況に照らすと、将来、競落人等において右同様の申請をするときは、右公有地の公用廃止あるいは売払を受けられる余地は十分にあり、その場合においては、本件各土地の効用もしくは価値が増加することが確実に見込まれるから、競売裁判所として、予め右の実情を公告に掲載し、競買人等に周知させれば、これら競買人はもちろんその他の利害関係人に不利な結果を生じさせる虞れはないこと(右のような取扱いは競売不動産の現況が著しく変更されたり、仮換地指定がなされたりしている場合に、当該土地の評価にあたり、これらの事情を斟酌し、その旨公告に掲記するなど競売実務上通常行なわれていることである。)がそれぞれ認められ、これに反する資料は存しない。

以上みたところからすれば、本件各土地は、観念的にはもとより、競売手続上からも、これを特定して評価売却することが可能であるのみならず、競売裁判所において適正な措置を講ずるときは、競買人その他利害関係人に対し不測の損害を及ぼす虞れもないというべきである。

してみれば、右と異なる見解のもとに、本件競売開始決定を取消し、抗告人の競売申立を却下した原決定は不当であるからこれを取消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 上本公康 福田晧一)

<以下省略>

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