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名古屋高等裁判所 昭和45年(く)21号 決定 1970年12月15日

主文

原決定を取り消す。

理由

本件抗告の趣意は、岐阜地方検察庁検察官検事加藤義樹名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、本件勾留の執行を停止する旨の決定をした原裁判所の措置は違法不当であって、取消しを免れない、というのである。

そこで、本件記録を精査すると、

(1)  被告人は、昭和四五年一〇月一八日強盗の被疑事実により、岐阜簡易裁判所裁判官の発した勾留状により、刑訴法六〇条一項各号の事由ありとして勾留され、以来引き続き身柄拘束のまま、同月二四日右と同旨の事実について原裁判所に公訴が提起され、ついで、同月三一日および同年一一月一九日の二回にわたり、いずれも窃盗の事実について追起訴がなされたこと。

(2)  原裁判所は、同年一一月二五日に開かれた第一回公判期日において、前記各公訴事実を併合して審理したが、その際、被告人および弁護人において、右の各公訴事実を全部認める旨の供述をし、また検察官が前記窃盗の事実を立証するために提出した各証拠書類も、被告人側の同意のもとに、すべてその証拠調べが行なわれたこと。

(3)  前記公判期日において、検察官は、被告人に対して更に、余罪捜査、追起訴準備のために、なお一箇月間前後を要する旨を述べ、また、弁護人においても、前記(1)の公訴事実のうち、各窃盗の事実については、いまだ検察官手持ち証拠の検討を終わっていないことを理由に審理の続行を求め、これに対して、原裁判所は、これらの事由を考慮し、第二回公判期日(続行期日)を昭和四六年一月二七日午前一〇時と指定、告知したこと。

(4)  被告人は、昭和四五年六月ごろから本件強盗の被疑事実によって逮捕、勾留されるまで、引き続きその住居が定まらず、岐阜市内、関市内などに所在する旅館を転々としていたことが認められ、右第一回公判期日の時点においても、刑訴法六〇条一項一、三号の事由があることが明らかであること。

の各事実を認めることができる。

以上の事実関係のもとで、原裁判所は、昭和四五年一二月三日、被告人に対する本件勾留の執行を当分の間停止する旨の決定をしたが、同決定の要旨は、本件勾留の基礎になっている強盗の公訴事実につき、右認定のごとく既に被告人、弁護人の意見陳述、適法なる証拠調べの終了した段階においては、本件の右強盗を基礎とする勾留は、尠なくとも右強盗の訴因を爾後審理するために必要な時間的、場所的制約の下に、その限度においてのみ継続することが許されるに拘らず本件においては検察官の余罪捜査のために公判期日が続行され、そのために右強盗の訴因とは無関係な余罪捜査の名目の下に、時間的に勾留が延長されることとなり、また場所的には公訴提起後は、原則として、拘置所に身柄を拘束すべきであるのに、いまだに岐阜中警察署に勾留されているのであるから、本件勾留をその儘の状態で継続させた場合においては、結局余罪取調べ、追起訴準備のために専らその勾留が、利用されることとなり、人権保障を基調とする令状主義の原則にも背馳する結果となって、著しく不当である。というに帰着する。

そこで、さきに認定したような事実関係に照らして、原決定の当否を検討してみると、捜査当局が、本件勾留を、被告人に対する余罪取調べ、追起訴準備のために事実上利用していることは、なるほど原決定の説示しているとおりであるけれども、前記(3)に認定したような経過によるものであるとはいえ、ともかく前記の第一回公判期日において、原裁判所が、適法且つ合理的な訴訟指揮権の行使として、本件勾留の基礎事実である強盗の訴因については、その審理を終結し得る状態であったに拘らずこれを終結する手続を敢て採らず、その続行期日として第二回公判期日を昭和四六年一月二七日午前一〇時と指定する措置をとったのであるから、本件において検察官が述べているような程度の余罪捜査、追起訴準備のために、本件勾留を利用したとしても、原決定が指摘しているとおり、専ら余罪捜査のためにこれを利用しているものとは謂えず、従って人権保障を基調とする令状主義の原則に背馳するものではない。また本件勾留を、その儘の形で継続させて置いたとしても、右勾留の基礎事実である強盗の訴因につき十分な防禦方法を講ずることができなくなるというような特段の状況など、本件勾留の執行を停止するのを相当とするような事情を窺うことができない。

そうだとすれば、原裁判所が被告人に対する本件勾留の執行を停止する旨の決定をしたのは不当であって、到底取消しを免れない。

(なお、記録によると、被告人は、原裁判所の本件勾留の執行停止決定により、即日釈放されたが、その後、昭和四五年一二月五日に至り、余罪たる窃盗の被疑事実により、岐阜地方裁判所裁判官の発した勾留状に基づいて勾留され、現在引き続き同被疑事実について身柄拘束中であることが認められるから、このような事実関係を照らすと、本件勾留が余罪捜査のために不当に利用されているという原決定の危惧は一応消滅したものというべきである。)

よって、検察官の本件抗告は、その理由があるので、刑訴法四二六条二項に則り、原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 野村忠治 裁判官 村上悦雄 服部正明)

<以下省略>

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