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名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)763号 判決 1970年4月27日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、立証関係は、左記のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここに右記載を引用する。

一、控訴代理人の主張

本件事故は、控訴会社より訴外杉浦広一に対し、本件自動車を好意的に無償貸与していた際に、借主たる右訴外人が惹起したものであるが、控訴会社としては、右自動車の貸与により損失を被りこそすれ、なんの利益も得ていないものである。すなわち、

(一)  本件自動車貸与は好意的になされたものであること

(二)  本件自動車貸与は無償であること

(三)  控訴会社は、本件自動車貸与により、その間控訴会社の社用にこれを使用することができず、その限りにおいて損失を受けていること

(四)  借主たる前記訴外杉浦においてさしたる荷物を運んでいないこと

(五)  本件自動車の貸与は、右訴外杉浦が、もと控訴会社の従業員であつた関係上、前記のごとく好意的になされたものであること

(六)  本件事故当時の本件自動車の運行管理は、すべて右訴外杉浦に任せられており、完全に控訴会社の運行支配の領域を離脱していたこと

等の諸般の事情を考慮すれば、控訴会社は、本件事故については自動車の運行供用者としての責任を負うべき筋合ではない。

(立証省略)

理由

第一、当裁判所の判断によるも、被控訴人らの本訴請求は、原判決認容の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものと考える。その理由は、左記のほか、原判決書「理由」欄において説示するとおりであるから、ここに原判決の理由記載を引用する。

一、原判決書「理由」欄中「一、責任について。」の項につき、

(一)  第一段落のうち、「第七号証の一ないし一六」(原判決書第五枚目裏第四行目)とあるを、「第七号証の一ないし六、同号証の八ないし一二、同号証の一四ないし一六」と訂正する。

(二)  同段落のうち「……大阪市内の被告の寮においていた」(原判決書第五枚目裏第六行目)の次に、「机、書籍、布団、衣類、洗面具その他の」を加える。

(三)  同段落のうち「……前方数十メートル」(原判決書第五枚目裏第九行目)とあるを、「……前方約一〇〇メートルの地点」と訂正する。

(四)  同段落のうち「……自車左前部を対向車の右側前部に衝突させたもので」とある部分から「……相手側に危険を感じさせるような運転をしたことによつて惹起されたものであること、」とある部分まで(原判決書第六枚目表第五行目ないし第一〇行目まで)を、つぎのとおり訂正する。

「…………自車左前部を対向車の右側前部に衝突させたものであること、しかして本件事故は、事故現場に至る道路が右の如く可成り急な下り勾配であつて、しかも当日の降雨のためスリップし易い路面の状況にあつたのみならず、加害車の運転者杉浦広一において亡長田実操縦にかかる被害車が対向して蛇行運転をしつつ進行してきたのを認めたのであるから、右杉浦としては、加害車が過速に陥り、前記のごとき被害車の異常な走行状態と相まつて、これと接触事故を起す危険のあるべきことを予見し、かかる事故発生を未然に防止するため、急停車によるスリップやハンドル操作の自由を奪われるがごときことのないように、事に当つて即時停車をなし得るように徐行し、かつハンドルを確実に把持して操作すべき注意義務があるのにかかわらず、右のごとき状況のもとにおいて漫然とフットブレーキに足を掛けた程度の措置をとつたのみで、そのまま進行したことの過失に起因すること。」

(五)  同段落のうち「証人杉浦広一、同久保田修正の証言中……」とある部分(原判決書第六枚目表第一一行目)の冒頭に「甲第七号証の八(証人長田早子の供述に関する第二回公判調書)の記載および」を加える。

(六)  同段落のうち「(前記甲第一七号証の一六によると事故後であると認められる)」とある部分(原判決書第六枚目表末行)を、「(前記甲第七号証の一六によると、右パンクは本件事故に因り生じたものであることが認められる。)」と訂正する。

(七)  第二段落のつぎに、第三段落として左記のとおり附加する。

「もつとも、本件事故は、被害車を操縦していた亡長田実においても、前記認定のごとく蛇行運転をなし、センターラインを越えて対向車たる加害車の進路に飛び出さんとするがごとき気配を見せたなどの過失に起因するところも少くないと認められるので損害額の算定については、右長田実の車輌運行上の右過失を斟酌してこれを決定するを相当とする。」

(八)  なお、右引用の「一、責任について」の項における認定事実についての証拠として、当審証人杉浦広一の証言(一部)を附加する。右認定に反する当審証人杉浦広一同久保田修正の各証言は措信することができない。

二、原判決書「理由」欄中「二、損害について。」の項につき、

(一)  冒頭部分のうち、「証人稲垣進(第一、二回)の証言、」とある部分より「右同証言並びに本人尋問の結果によると、」とある部分(原判決書第七枚目裏第二行目ないし第四行目まで)を、「原告長田早子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四、五号証、証人稲垣進の証言(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第九号証、右証人の証言(第一、二回)並びに右本人尋問の結果によれば、」と訂正する。

(二)  (1)のうち、「……年金四九六、九〇六円の給料収入を得、その……」とある部分(原判決書第七枚目表第五、六行目)を「昭和四一年一月より同年九月までの差引支給額は金四一四、〇八九円であり、右支給額にその<省略>を加算した金五五二、一一八円をもつて同人の一箇年の給料差引支給額とみるを相当とし、そして同人の……」と訂正する。

(三)  (1)のうち、「ホフマン式によつて同人の得ることのできた利益を算出し、なお、同人の前記過失を考慮すると、」とある部分(原判決書第七枚目表第九、十行目)を、「ホフマン式計算方法によつて右三四年間に同人の得ることのできたはずの利益の現価を算出すると、金八、六八四、一九五円となり、なお、同人の前記一、において認定したごとき蛇行運転等の過失を参酌すると、」と訂正する。

三、原判決書「理由」欄中「三、結論」の第一段落のうち、「(相続と同割合で充当したものと認める。)」とある部分を、「(相続分と同割合で充当したものと認める。)」と訂正する。

四、なお、控訴人は、原審において自動車の運行供用者としての責任を負う筋合ではない旨主張し、更に当審においてもそれを敷衍して強調するので、当裁判所は既に前記のごとく原判決理由の引用によりその見解を明らかにしたところであるが、重ねてこの点に関し説示することとする。

控訴人は、前記のごとく、訴外英和石油産業株式会社よりその所有にかかる本件自動車を無償で貸与を受け、控訴人の日常の業務執行のためこれを運行の用に供していたものであるから、控訴人は一般的、抽象的にみて本件自動車の保有者であることは明らかである。

しかして、成立に争いのない甲第八号証、原審証人滝口光男、原審および当審における証人久保田修正、同杉浦広一の各証言を綜合すれば、

訴外杉浦広一は、かつて控訴人の従業員であつたが、昭和四一年九月三〇日、控訴人方を退職したこと、右杉浦は、控訴人の寮に置いてあつた机、書籍、衣類等の見廻り品を名古屋市所在の実家に運搬し右寮を明け渡すため、退職前の同月二八日頃、控訴人に対し予てより個人使用の目的で他に貸与したこともある本件自動車の借用方を要請していたが、退職の翌日たる同年一〇月一日、控訴人より、なるべく早朝大阪を出発すること、本件自動車運転に当つてはゆつくり走行させること、交通量の多い場所を通過するので休憩をすること、本件自動車は遅くとも使用の翌日たる一〇月三日までに控訴人に返還すること、運行上の責任は右杉浦において負うこと等の車輌運行等に関する指示を受け、ようやく無償でこれを借り受けることの承諾を得たこと、そして同月二日右杉浦は、控訴人より所要のガソリンの約半分の二〇リットルを貰い受け、その前日控訴人の負担において整備を完了した本件自動車を使用して控訴人の寮より同人の前記見廻り品等を名古屋市の実家に運搬し、同日夜控訴人に本件自動車を返還すべく名古屋市より大阪市方向へ本件自動車を運行中、本件事故を起したことを認めることができ、原審および当審における証人久保田修正の証言中右認定に反する供述部分はたやすく措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

さて、控訴人が前記のごとく右杉浦広一に対し本件自動車を使用貸ししていた間における本件事故につき、控訴人において自己のための運行供用者としての損害賠償責任を負うべきか否かの点については、問題の存するところであるが、要は右使用貸借期間中において本件自動車の運行支配および運行利益が控訴人に帰属すべき関係にあつたか否かによつてこれを決すべくこの点については、貸借期間の長短、貸借当事者の人的つながり、貸主の車輌運行に対する関与度等諸般の事情を参酌して判定するのが相当である。

前記認定事実に徴すれば、右杉浦はかつて控訴人の従業員であつて、控訴人方を退職した直後の一〇月二日、控訴人より本件自動車の貸与がなされたものであつて、しかも右杉浦においては本件自動車を使用して自己の所有物件を運搬して控訴人の寮を明け渡す目的であつた以上、控訴人と右杉浦との人的関係はその当時密接であつたというべきであり、本件自動車の使用貸しも控訴人の日常の業務執行それ自体を目的としてなされたものでないことは言を俟たないが、さればといつて控訴人の業務に全く無関連であつたとまではいえないところであり、加えて本件自動車の貸借期間は僅か一両日の約であり、しかも控訴人において本件自動車を整備したうえ、前記認定のごとき車輌運行上の指示まで与えて貸与したところからみれば、他に右自動車の運行が借受人たる右杉浦のため専ら排他的に行われたというがごとき特段の事情の認められない本件においては、貸主たる控訴人の本件自動車に対する運行支配および運行利益は、右杉浦に対するこれが使用貸しの間においても、なお継続していたものとみるのが相当であり、従つて控訴人は、自動車損害賠償保障法三条に定める運行供用者としての責任を免れ得ないところであつて、被控訴人らに対し前記認定にかかる損害賠償義務を負うべきものと解すべきである。控訴人のこの点に関する主張はとうてい採用できないところである。

第二、結論

よつて、当裁判所の判断と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条一項に則りこれを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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