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名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)164号 判決 1969年12月26日

主文

原判決を取消す。

別紙物件目録記載の不動産が控訴人の所有であることを確認する。

被控訴人李は、控訴人に対し右不動産につき名古屋法務局古沢出張所昭和三九年四月一三日受付第一〇七三七号所有権移転仮登録に基き、昭和四二年二月四日付売買を原因とする所有権移転本登記手続をせよ。

被控訴人松波義雄、同小原善治郎は、控訴人に対して前記所有権移転仮登記の本登記手続をなすことを承諾せよ。

被控訴人李は、控訴人に対し右不動産を明渡し、かつ昭和四二年三月一〇日から右明渡完了に至るまで一日金一五〇〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人李は、別紙目録記載の不動産が控訴人の所有であることを確認する。被控訴人李は、控訴人に対し右不動産につき、名古屋法務局古沢出張所昭和三九年四月一三日受付第一〇七三七号所有権移転仮登記に基き昭和四二年二月四日附売買を原因とする所有権移転本登記手続をせよ。被控訴人松波、同小原は、控訴人に対し、控訴人が前項記載の所有権移転仮登記に基き昭和四二年二月四日附売買を原因とする所有権移転本登記手続をなすことを承諾せよ。被控訴人李は、控訴人に対し、右不動産を明け渡し、且つ昭和四二年三月一〇日から右明渡済みまで一日金一五〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」旨の判決並に被控訴人李の不動産明渡に関する部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、書証の認否は、左記に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここに右記載を引用する。

一、被控訴代理人の主張

被控訴代理人は、当審においてつぎのとおり予備的主張を追加した。

(一)  控訴人と被控訴人李柄朝との間に締結された本件代物弁済予約(売買一方の予約)は、被控訴人李の窮迫、軽卒、無経験を利用し、著しく過当な利益の獲得を目的とする行為であつて、これは暴利行為にほかならず、公序良俗に反し無効である。

(二)  この点につき詳論するに、従前の判例、学説は主観的要件と客観的要件とを要求している。すなわち、

1、主観的要件としては、本件契約の債権者(本件控訴人)において相手方の窮迫、軽卒、無経験に乗じたこと

2、客観的条件としては、本件契約により債権者の享受する利益が自己の給付に比し明らかに権衡を失し過大であること

の二点である。

(三)  本件については右の要件をいずれも充足しているものと考えられる。

1、主観的には、被控訴人李は朝鮮人(韓国籍)であり、署名が可能な程度の識別力であつて、当初の元金八五万円が二二五万円にまでふくれ上つていること、これに署名押印した際のいきさつ、被控訴人李のなした弁済の努力とその額からみて、主観的要件を充足しているものとみるべきである。

2、客観的には、原判決認定のとおり残額金三四万二、二六二円に対し本件土地建物の価額は金三〇〇万円以上に達すること、殊に被控訴人の弁済額が元本を上廻つていること等から前記客観的要件を充足している。

(四)  従つて、これらの点並に原判決認定の各経緯からみると、本件契約―それが売買一方の予約であると、代物弁済予約であるとを問わず――は無効であるといわざるを得ない。

二、更に予備的に、売買予約完結権の行使が権利の濫用であつて、その効果を発生していない旨の主張をなす。

(一)  控訴人は、昭和四二年二月一〇日到達した書面(甲第一〇号証)によつて金二二五万円の貸金債権の遅滞を理由に売買予約完結権の意思表示をなしている。

(二)  しかし、右予約完結権行使の時点における残存債権は、多くみても元本金三一万二、三四六円、遅延損害金は二万九、九一六円であつて、このような少額の遅滞を理由に、時価三〇〇万円以上の本件不動産を、売買予約完結権の行使により取得することは、権利の濫用として許されないものというべきである。

立証関係(省略)

理由

一、控訴人は、昭和四一年九月一九日被控訴人李に対し金二二五万円を、利息一箇月五分五厘前払、弁済期昭和四一年一〇月一八日、遅延損害金一〇〇円につき一日三〇銭の約で貸し付けた旨主張するので検討するに、原審および当審における証人藤井清彦、同安田よしの各証言、原審における被控訴人李本人尋問の結果によれば、控訴人の使用人たる訴外藤井清彦は、昭和四一年九月一九日、被控訴人李に対し金額二二五万円、支払場所株式会社東海銀行、振出人控訴人とする小切手一通を交付し、同被控訴人に右小切手の裏書をさせたことが認められるが、他方右訴外人は、被控訴人李が右小切手に裏書をした後直ちにこれを取り上げ、同被控訴人に右小切手を現金化する機会も与えなかつたことを認めることができるので(証人藤井清彦の証言中右認定に反する供述部分は措信できない。)、右小切手の交付をもつてしては、未だ控訴人主張にかかる金二二五万円の貸与があつたものとは認められず、更に甲第一、二号証、第四、五号証ならびに証人藤井清彦の前記証言中に控訴人の右主張に副うがごとき記載および供述部分が存するが、右は原審および当審における証人安田よしの証言、原審における被控訴人李本人尋問の結果と対比してたやすく措信しがたく、他に控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。よつて、控訴人の右主張は理由がない。

二、ところで、控訴人の前記主張は、「控訴人において昭和三九年四月一三日以降被控訴人李に対し金員を貸与してきたが、控訴人は、同被控訴人との間で、同被控訴人に対する従前の貸金元本債権およびこれに対する遅延損害金の合計額を目的として、控訴人主張のごとき内容の準消費貸借契約を締結した」という趣旨に解せられないこともないので、かかる趣旨の主張を含むものとしてこの点を検討する。

被控訴人李が昭和三九年四月一三日以降金融業を含む控訴人との間で金融取引契約を結びこれに基き右同日金五〇万円を弁済期同年五月一二日と定め、同年七月一三日金一五万円を弁済期同年八月一一日と定め、同年一一月一九日金二〇万円を弁済期同年一二月一八日と定め、いずれも利息月五分五厘前払、遅延損害金一〇〇円につき一日三〇銭の約で貸与したこと(以下本件貸金三口合計八五万円と略称する。)、その後控訴人は、被控訴人李との間で三回にわたり貸金元本と遅延損害金との合計額を目的として準消費貸借契約を結び、最終的に(第四回目)、昭和四一年九月一九日、貸金元本一六〇万円およびこれに対する遅延損害金六五万円の合計金二二五万円を目的として、弁済期同年一〇月一八日、利息月五分五厘前払、遅延損害金一〇〇円につき一日三〇銭の約で、準消費貸借を締結したこと、被控訴人李は、右貸金ないし準消費貸借の利息および遅延損害金債務の弁済として、原判決添付別紙第一表(弁済明細書)中の裁判所の認定額欄記載のとおりの金員合計金九七万六、一〇五円を支払つたことについては、当裁判所の判断によるも、原判決「理由」欄一、二、および三、の第一項の「……従前の貸金元本にこれに対する約定遅延損害金を加算した金員を準消費貸借の目的とする契約を締結したものと認めるのが相当である。」(原判決一〇枚目表二行目)とある部分までの説示と同一であるから、つぎに付加するほか、右記載を引用する(但し、原判決八枚目表二行目の「甲第一号証」とあるを「甲第三号証」と、同四、五行目にわたり「……証人藤井清彦の証言に比して措信し難く、他に甲第三号証の成立に関する前記推定を覆えすに足る証拠はない。」とあるを「……証人藤井清彦の証言と対比して措信し難く、他に、被控訴人李において甲第三号証の記載内容を知らずに、これに署名押印したものと認めるに足りる証拠はない。」と、同八枚目裏五行目の「……被告李本人尋問の各結果……」とあるを「……被告李本人尋問の結果……」と、同九枚目裏一〇行目の「……同年五月一九日頃各被告李と……」とあるを「……同年九月一九日それぞれ被告李と……」と訂正する。)。

(一)  右引用にかかる三、の認定事実についての証拠として当審証人安田よ志の証言を附加する。右認定に反する当審証人藤井清彦の証言はたやすく措信し難い。

(二)  原判決理由欄三、の第一項のうち「……いずれも利息月五分五厘を前払い、遅延損害金百円につき一日三〇銭の約で貸与したこと、」とある部分(原判決九枚目表二行目)の次に、左記文言を挿入する。

「被控訴人李は、右金融取引の債務担保のため、別紙物件目録記載の不動産(以下本件不動産という。)につき、(1)所定期日に右債務の全部または一部の支払いを怠り、もしくは他から差押、仮差押、仮処分、破産の申立等を受けた場合には、何時にても代金二五八万円をもつて一方的に売買を完結し得ること(2)被控訴人李の占有家屋(別紙物件目録記載(三)の建物)は、右売買予約完結権行使の時より一箇月間内に無条件で明け渡すこと(3)売買完結の場合には、被控訴人李が控訴人に対して負担する一切の債務と売買代金債権とはその対当額において当然相殺決済するものとし、その結果過不足が生ずれば速かに清算すること、但し同被控訴人の受取分勘定があるときは、本件不動産の本登記手続をなし、且つ家屋明渡完了後に支払いを受けること等の条件のもとに売買一方の予約をなしたこと」

三、被控訴人らは、「被控訴人李は、原判決添付別紙第一表の被控訴人主張額欄記載のとおり昭和三九年四月一三日から昭和四一年一〇月二二日までの間合計金一二九万九、八二〇円を弁済した旨主張するところ、前記二、において認定したごとく、被控訴人李は、右第一表中裁判所認定額欄記載の金額すなわち合計金九七万六、一〇五円を弁済したので、右主張にかかる弁済額よりこれを控除した残額金三二万三、七一五円の弁済については、乙第一号証、第八号証ならびに原審および当審における証人安田よしの証言中に、右残額弁済にかかる主張に副うがごとき記載および供述部分が存するが、右は原審証人安田よしの証言により同人が作成したものと認められる乙第一号証、第四号証、原審および当審における証人藤井清彦の証言により真正に成立したものと認め得る甲第一九号証、ならびに同証人の証言と対比してたやすく措信しがたく、他に右弁済の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

四、しかして、原審および当審における証人藤井清彦、同安田よしの各証言によれば、前記三、において認定した被控訴人李の弁済は、利息については該当金員の貸与の際天引されたものであり、その余は遅延損害金として同被控訴人の任意により支払われたものであることを認めることができ、右利息および遅延損害金はいずれも利息制限法所定の率を超過するものである(利息については月五分五厘、遅延損害金については日歩三〇銭)ことは、前記二、において認定したとおりであるから、同法所定の制限を超える部分は民法四九一条により残存元本に充当されるものと解すべきである(最高裁昭和三九年一一月一八日言渡大法廷判決、民集一八巻九号一八六八頁参照)。

そこで右見解に立脚して、前記二、において掲記した本件三口の貸付金(昭和三九年四月一三日貸付の金五〇万円、同年七月一三日貸付の金一五万円、同年一一月一九日貸付の金二〇万円)に対する被控訴人李の弁済額(原判決添付にかかる別紙第一表の裁判所の認定額欄記載分)につき、これを利息制限法所定の率に引き直し、同法による制限額を超過した弁済分をその時における残存元本に充当して計算すれば(但し、昭和四〇年五月四日、同年一〇月一六日、昭和四一年一月一七日、昭和四一年九月一九日においては、それぞれその時における元本と遅延損害金の合計額を目的とする準消費貸借契約を締結したものとして計算する。)、別表(計算書)に記載したとおりであり、結局被控訴人李が控訴人に対して負担する残存元本債権額は金二九万〇、七九二円、遅延損害金二万七、六八九円(いずれも後記の本件売買予約完結権の行使された昭和四二年二月一〇日現在)となる筋合である。

五、ところで、本件不動産については、控訴人主張の、売買一方の予約に因る所有権移転仮登記手続を経由していることは前記のとおりであり、他方、控訴人は、被控訴人李に対する金二二五万円の準消費貸借契約上の債権が遅滞に陥つていることを理由として、昭和四二年二月一〇日到達した書面をもつて同被控訴人に対し右売買予約完結権の行使をなしたことは、成立に争いのない甲第一〇号証、原審および当審における証人藤井清彦の証言を総合してこれを認めることができ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そして、被控訴人李が現在および将来において負担する手形債務借用金債務その他につき所定の弁済期にその全部または一部の支払を怠つた場合等には本件不動産に対する売買予約完結権を行使し得る旨、本件売買予約上定められていることは前記認定のとおりであり、また前掲甲第五号証、原審および当審における証人藤井清彦の証言を総合すれば、被控訴人李は、昭和四一年九月一九日、その時までの貸金元本および遅延損害金合計金二二五万円を目的として準消費貸借契約を結び、その弁済期は同年一〇月一八日と定められていたところ、同被控訴人は右弁済期に遅延損害金として金三万三、〇〇〇円を支払つたのみで、その後右予約完結権行使に至るまで、控訴人に対してなんら弁済をしなかつたことを認め得るから、他に特段の事情なき限り、控訴人のなした本件売買予約完結権の行使は適法有効とみるべきである。

六、そこで、まず、被控訴人らは「本件売買一方の予約は、被控訴人李の窮迫、無経験を利用し、著しく過当な利益の獲得を目的とする行為であつて、これは暴力行為にほかならず、公序良俗に反し無効である」旨を主張するので、この点につき検討する。

前掲甲第三号証(売買予約証書)、原審および当審における証人安田よし、同藤井清彦の各証言の一部、原審における被控訴人李本人尋問の結果を総合すれば、被控訴人李は、昭和三九年四月一三日、本件貸金三口のうち最初の金五〇万円の貸与を受けた際に、現在および将来の債務担保のため本件不動産につき売買代金を金二五八万円とする本件売買予約を結んだものであるが、同被控訴人は右金銭貸借以前には未だ金融業者より融資を受けたことはなく、偶々自己経営の熔接鈑金業の〓跌から知人の紹介で右のごとく控訴人より金融を受けたことを認めることができ、右認定に反する前記各証言はたやすく措信しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。右認定事実によれば、被控訴人李としては、控訴人のごとき金融業者から融資を受けることについては無経験であり、かつ、その当時経済的窮境に陥つていたことを窺うに足りるが、他方、債権者たる控訴人が、債務者たる被控訴人李の、右のごとき無経験や窮境に乗じて本件不動産所有権を取得し暴利を貧る目的に出たものとは断定しがたいところである。すなわち、本件売買予約上定められた売買代金は前記のごとく金二五八万円であるから、右代金は、本件貸金三口合計金八五万円の約三倍に当るにすぎないのみならず、前記二、において鑑定したごとく、本件売買予約完結権を行使したときは本件不動産の売買代金二五八万円と、被控訴人李の控訴人に対する一切の債務とを対当額で相殺し、その結果過不足を生じたときは速かに清算する旨、なお、債務者たる被控訴人李の受取勘定となる場合には、同被控訴人が、まず先履行として本件不動産の所有権移転の本登記手続とこれが明渡を完了した上、右受取勘定分の支払を受ける旨定められている。以上のごとく、本件売買予約上定められている売買代金額二五八万円は、本件貸金三口合計八五万円に比して著しく高額であつて被担保債権たる古貸金と均衡を失するとみることはできないし、また相殺の結果生ずることあるべき過不足につき右のような清算の定めを設けていることに鑑みれば、債権者たる控訴人は、本件売買予約を締結することにより著しく過当な利益の獲得を目的とするものとは認めがたいところである。

なお、当審証人藤井清彦の証言によれば、本件予約上の売買代金二五八万円は、本件不動産の時価の七~八掛で算定したものである旨の供述部分があるので、右の倍率を七・五掛として逆算により同証人のいう時価を算定すれば、金三四四万円(坪約一一万円)となることは明らかであり、本件不動産の所在場所等および弁論の全趣旨を総合すれば、これをもつて本件不動産の時価として認めるを相当とする。原審および当審における証人安田よしの証言、原審における被控訴人李本人尋問の結果中右認定に反する各供述部分はたやすく措信しがたい。しかして、右時価三四四万円と本件予約上の売買代金二五八万円との差額金八六万円は、前記清算の対象に当らないが、本件貸金三口合計八五万円と対比し、且つ前記清算の定めの存することを考慮すれば、特に均衡を失し暴利行為に該当するものとはなしがたい。右のしだいで本件売買予約は暴利行為とみることはできず、被控訴人らのこの点に関する抗弁は採用できない。

七、進んで被控訴人らの予備的抗弁について検討する。

前記認定のごとく、控訴人が昭和四二年二月一〇日到達した書面をもつて、被控訴人李に対し金二二五万円の準消費貸借契約上の債務の履行遅滞を理由に、本件売買予約完結権を行使したこと、および右完結権行使の当時、被控訴人李の控訴人に対して負担していた元本債権は金二九万〇七九二円、遅延損害金は金二万七、六八九円、以上合計金三一万八、四八一円であつたのであるが、被控訴人らは、右のごとき少額の債務不履行を理由として売買予約完結権を行使して時価三〇〇万円以上の本件不動産の所有権を取得することは、権利の濫用として許されない旨主張する。

なるほど、債務者が概ね弁済を了し、僅少の債務が残存するにすぎない場合、これが優先弁済を得るがために売買予約完結権を行使することは、信義則違反として許されないと解すべき余地もあるが、本件のごとく被控訴人李の控訴人に対する債務が遅延損害金を含め金三一万八、四八一円にのぼるような場合には、債権者たる控訴人はその優先弁済を受けるため本件売買予約完結権を行使し得るものと解するのが相当である。しかして、本件売買予約完結権は、適法有効に行使せられ、かつ、本件売買予約については前記のごとき清算の定めが設けられていることに鑑みれば、本件売買予約完結権の行使をもつて権利濫用となすことを得ないし、他に被控訴人らの主張する権利濫用の事実を認めるに足りる証拠もない。よつて被控訴人らのこの点に関する抗弁は採用できない。

八、以上のしだいで、前記五、において認定したごとく、本件売買予約完結権が適法有効に行使された以上、本件不動産所有権は控訴人に帰属したものと解すべく、被控訴人らは控訴人の本件不動産所有権の取得を否認し抗争しているから、控訴人において本件不動産所有権の確認を求める利益が存するものというべきである。また、被控訴人李は、本件不動産の所有者たる控訴人に対し右不動産の所有権移転仮登記の本登記手続をなすべき義務がある。更に、前掲甲第三号証の記載に徴すれば、被控訴人李は、本件売買予約完結権行使のなされた昭和四二年二月一〇日から一箇月以内、すなわち同年三月九日までに本件不動産を明渡すべく、同被控訴人において右明渡義務不履行の場合は、明渡完了の日まで一日金一、五〇〇円の割合による損害金を支払うべき旨の約定が、本件売買予約上なされていることを認めることができるので、被控訴人李は、控訴人に対し、本件不動産を明渡し、かつ昭和四二年三月一〇日以降右明渡完了に至るまで違約損害金として一日金一、五〇〇円の割合による金員を支払うべき義務がある。

以上のしだいで、控訴人の被控訴人李に対する本訴請求はいずれも正当であるからこれを認容すべきである。

九、また、被控訴人松波義雄は、本件不動産につき、昭和四一年一一月二日受付第三四六七六号所有権移転請求権仮登記および同月九日受付第三五三七二号抵当権設定登記手続を、被控訴人小原善治郎は昭和四二年一月二七日受付第二五三七号抵当権設定登記手続をそれぞれ経由したことは、当事者間に争いがない、してみれば、控訴人が本件不動産に対する前記所有権移転仮登記の本登記手続を求めるにつき、被控訴人松波および同小原は、登記上利害関係を有する第三者(不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項)であることは明白である。従つて、控訴人は、被控訴人松波、同小原に対し右所有権移転仮登記の本登記手続をなす承諾の意思表示を求める権利を有するしだいである。

一〇、よつて、当裁判所は右判断と異る原判決は相当でなく、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条に則り原判決を取消すべく、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

第一名古屋市熱田区伝馬町五丁目五二番地の一七

宅地    八八・一六平方米(二六坪六合七勺)

第二右同丁目六五番の二

宅地    一六・五二平方米(五坪)

第三名古屋市熱田区伝馬町五丁目五二番地の一七

家屋番号 同目録第一三七番

木造瓦葺二階建店舗

床面積 一階二・二四平方米(一八坪八合三勺)

二階二六・八四平方米(八坪一合二勺)

附属建物(未登記)

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建物置

床面積二九・七五平方米(九坪)

右建物に附随した造作其の他一切有形の侭

別表

<省略>

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<省略>

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