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名古屋高等裁判所 昭和42年(ネ)704号 判決 1968年8月30日

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和四二年七月二三日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、左記のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここに右記載を引用する。

一、控訴代理人の事実上の陳述

(一)  被控訴人主張にかかる請求原因事実中、控訴人が別紙目録記載にかかる学園債券(以下本件学園債券という。)を作成した事実は認める。被控訴人が昭和三九年九月初頃訴外石川博之から本件学園債券の譲渡を受けたことは不知、その余の点は争う。

(二)  控訴人は、昭和四〇年六月頃訴外神仲伸吾を知るに至つたが、右訴外人は、当時控訴人が金融を求めていたことに目をつけ、控訴人から学園債券を騙取しようと企て、昭和四〇年九月頃控訴人に対し、真実は融資斡旋の意思がなく単に自己の利得を得ることのみが目的であるにかかわらず、「学園債券を担保に金を借りてやる。」旨虚構の事実を申し向け、控訴人をしてその旨誤信させた上、控訴人より控訴人作成の学園債券額面金額合計金二、五〇〇万円相当を騙取したものである。本件学園債券は右騙取にかかる債券のうちの一枚である。

(三)  本件学園債券は、控訴人に対して現実に債権を有する者に対し、その債権の存在、履行条件等を明確ならしめるために交付される証拠書類たる書面であつて、通常の消費貸借証書や銀行の発行する定期預金証書と同一の法的性格を有する証拠証券もしくは免責証券の類にすぎない。

本件学園債券の基礎となる実質関係上の債権(いわゆる学校債)は、学校の単なる借入金であつて、只借入先が広範囲に亘るところから、「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律」等の法規制を受けるに過ぎないものである(昭和二九年一〇月一三日各都道府県私立学校主管部長宛て文部省管理局振興課長通知参照)。

(四)  それ故に、被控訴人が本件学園債券の取得を理由に、控訴人に対し譲受債権の弁済の請求をするためには、単に右のごとき債権という「紙片」を取得したことを主張立証するのみでは不十分であつて、本件学園債券の基礎となる「債権」が発生し、またはこれを取得した事実を主張立証する必要がある。しかるに、被控訴人はこの点につきなんらの主張立証をなさないから本訴請求は失当である。

(五)  本件学園債券には「質入禁止」の文言が表記されているが、その趣旨は、単に質入のみを禁止する趣旨ではなく、一般的に本件学園債券に関する権利を他に移転する場合には、控訴人の承認ないし同意を必要とする趣旨である。権利の一部の処分たる質入を禁じた以上、権利全部の移転ないし処分の許されないことは当然である。

けだし、そうでなければ、単なる質入を禁止するのみでは、容易に他の譲渡方法をもつて質入と実質的に同様の効果をもたらし得るからである。

本件学園債券は昭和三九年度に作成されたものであるが、それより後に作成された学園債券には、質入禁止はもちろんのこと、譲渡につき控訴人の承認印を必要とする旨記載されているのである。従つて本件学園債券についても、一般的に、これを譲渡する場合控訴人の承認を要することを前提としているものと解すべきである。このことは、また、本件学園債券の実質関係たる「債権」それ自体指名債権たることを裏書きするものである。

二、被控訴代理人の事実上の陳述

(一)  原判決事実摘示中、請求原因のうち「昭和三九年九月初頃」とあるを「昭和四〇年九月初頃」と訂正する。

(二)  本件学園債券は、一般公衆に対する起債によつて生じた負債に対する債権を表彰する有価証券である。

学校法人といえども、この意味における債券を発行し得るのであつて、控訴人はその校舎建築等の必要からこれを発行したものである。

本件学園債券は、文言証券であり、受戻証券の性質を有する。無記名式である。

(三)  本件学園債券の譲渡が禁止されている旨の控訴人の主張事実は否認する。この種債券の譲渡は自由であつて、譲渡の方式は意思表示と債券の交付である。

三、証拠関係(省略)

理由

一、控訴人が本件学園債券を作成したことは当事者間に争いがないところであり、成立につき争いのない甲第一号証および当審における控訴人代表者本人尋問の結果によれば、本件学園債券は、控訴人の学園設備拡充資金借り入れの目的をもつて、一般の起債の方法により作成された無記名証券であることを認めることができ、本件学園債券の記載中に「質入禁止」の文言の存することは右甲第一号証によりこれを認め得るが、この一事をもつて右認定の妨げとなすに足りず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。してみれば、本件学園債券は、控訴人の右債券作成により無記名証券として成立したものと解するのが相当である。

しかして、被控訴人が本件学園債券の正当な所持人であることは、弁論の全趣旨により本件学園債券として提出されたものと認められる甲第一号証が被控訴人の手裡に存すること、および当審における被控訴人本人尋問の結果を総合してこれを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二、控訴人は、本件学園債券の証書上に、前記のごとく「質入禁止」の文言の記載あることを根拠として、本件学園債券の譲渡その他の処分は禁止されており、またはその譲渡につき控訴人の承認を要するものと解すべきである旨主張するが、これが証書上の文言として記載されているならば格別、前掲甲第一号証によれば、本件学園債券の証書上控訴人主張のごとき文言の記載が存しないのみならず、仮りに控訴人主張のごとき類推解釈が容れられるものとすれば、無記名証券の証書上記載ある事項については証券所持人の知不知にかかわらず拘束力を有する一方、更にこれに加えて証書上記載なき事項についても、これをもつて物的抗弁となし証券所持人に対抗し得る結果となり、かくのごときは、証券所持人の利益保護に著しく欠け証券の流通を阻害すること大であつて、とうてい許されざるところとしなければならない。控訴人のこの点に関する主張は採用することができない。

また、控訴人は、本件学園債券は訴外神仲信吾に騙取されたものである旨主張するが、当審における証人磯谷信義の証言、控訴人代表者本人尋問の結果中、右主張に副うがごとき各供述部分はたやすく措信しがたく、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。のみならず、本件学園債券の所持人たる被控訴人のこの点に関する悪意の事実に至つては、なんらの主張立証が存しないので、控訴人の右主張も採用することができない。

三、しかして、本件学園債券が前記のごとく無記名証券である以上、その権利行使については証券の呈示を要するものと解すべきところ、本件においては、本件学園債券の所持人たる被控訴人がその償還期日たる昭和四一年四月一四日以降本件学園債券を適法に呈示したとの点につきなんらの主張立証が存しないので、右償還期日当時被控訴人において本件学園債券に基き適法な権利行使をなしたものとみることはできない。しかしながら、無記名証券についてはその償還を求める訴訟提起によりその呈示があつたのと同一の効力を生ずるものと解すべきであるから、本件においても、本訴状送達の日たること記録上明らかな昭和四二年七月二二日本件学園債券の適法な呈示があつたのと同一の効果を生じ、右債券の発行者たる控訴人に対し付遅滞の効力を生じたものと解するのが相当である。

従つて、控訴人は、被控訴人に対し右債券償還金一〇〇万円およびこれに対する右訴状送達の翌日たる昭和四二年七月二三日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

被控訴人の本訴請求は、右の限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。

以上のしだいで、当裁判所の右判断と一部結論を異にする原判決はこれを変更し、民訴法三八六条、九六条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

学校法人ジオリオン学園債券

金額       一〇〇万円

債券番号     〇〇〇〇五三

発行日      昭和三九年四月一五日

償還日      昭和四一年四月一四日

債券元金支払場所 学校法人ジオリオン学園事務所

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