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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)45号 判決 1949年6月01日

被告人

藤田利雄

主文

原判決を破棄し、本件を名古屋地方裁判所に移送する。

理由

弁護人鈴木貢の控訴趣意は、末尾添綴の同弁護人名義の控訴趣意書と題する書面記載の通りであるが、之に対し当裁判所は次のように判断する。

先づ(1)の論旨に付按ずると、刑事訴訟法第二百九十六條は「証拠調のはじめに、檢察官は、証拠により証明すべき事実を明かにしなければならない」旨を規定して居り、之が所謂檢察官の冐頭陳述である。同法が此の檢察官の冐頭陳述を規定し居る趣旨は、檢察官をして証拠調の請求に先立ち、起訴状に記載されて居る訴因に付いて更に具体的に其の事実関係を明かならしめ、それを証拠によつて証明する意図を陳述させることに依り、爾後の訴訟手続を公正且円滑に進展せしめようとする点に存する。左れば檢察官の冐頭陳述は之を省略し得るものとは解し得られない。然るに原審第一回公判調書を閲すると、原審の公判期日手続に於て、檢察官が右の冐頭陳述を爲した事跡は之を認め得ないが故に此の点に於て、原審の訴訟手続には法令の違反があると謂わねばならぬ。

次に原審に於て所論(3)の小石一個及原審弁護人が取調方を請求した所論(4)の書面四通に付、夫々所論のように適式な証拠調手続が履践されて居ないことも、原審第一回公判調書に依つて之を認め得られるので夫等の点に於ても、原審の訴訟手続には法令の違反があると謂うの外がない。

而して右の各違反は刑事訴訟法第三百七十九條に所謂判決に影響を及ぼすことが明かなものと認められるので之と同趣旨に出でた本件控訴は既に其の点に於て理由があるから、爾余の論旨に付いては之が説明を省略し、且本件は当裁判所に於て直ちに之を判決し得るものと認められないので、同法第三百九十七條第四百條に則つて、主文のように判決する。

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