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名古屋高等裁判所 平成2年(行コ)16号 判決 1990年12月25日

岐阜市曽我屋一五四六番地

控訴人

坂口幸雄

岐阜市千石町一丁目四番地

被控訴人

岐阜税務署長 吉田正

右指定代理人

秋庭武

西口武千代

鈴木彬夫

清水利夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和五九年三月二九日控訴人に対して行った昭和五七年分相続税にかかる更正処分のうち、相続税額が八二万〇二〇〇円を超える部分は無効であることを確認する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  課税処分の無効原因としては、最高裁判所第一小法廷昭和四八年四月二六日判決(以下「昭和四八年判決」という。)の趣旨に沿って、課税要件の根幹についての内容上の過誤があり、被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情が存すれば足りるとすべきであるのに、原判決は、右例外的事情のほかに、当該処分に重大かつ明白な瑕疵のあることをも無効要件に加えており、失当である。

2  相続税の総額とは、相続人全員に係るそれを言うのであるのに、本件更正処分の通知書に「相続税の総額」欄には相続人の一人である控訴人の分についての記載しかなく、この点においても本件更正処分には手続上の瑕疵がある。

二  被控訴人

控訴人の右一2の主張のうち、本件更正処分の通知書に主張に係る記載の誤りのあることは認めるが、その余の主張は争う。

第三証拠

証拠関係については、本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、失当であって棄却すべきものと判断する。その理由についてと、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

二  原判決五枚目表六行目の冒頭から同裏六行目の末尾までを次のとおり改める。

「ところで、行政処分が、当然無効であるというためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵のあることが必要であり、右にいう明白な瑕疵とは、何人の判断によってもほぼ同一の結論に到達しうる程度に明らかなものをいうと解されるところ、控訴人が主張する違法事由は、遺産たる農地について、相続税法二二条所定の「時価」の評価に誤りがあるというものに過ぎないのであるから、たとい主張のような事実が認められるとしても、それが重大かつ明白な瑕疵に当たるものでないことは明らかである(付言するに、右にいう「時価」とは、当該財産の客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解されるところ、本件記録から窺われる被控訴人の行った本件農地等の評価に、何人の判断によってもほぼ同一の結論に到達しうる程度に明らかな瑕疵があったとは到底認められない。)。控訴人は、課税処分の無効原因としては、昭和四八年判決の趣旨に沿って、課税要件の根幹についての内容上の過誤があり、被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情が存すれば足りるというべきであり、本件はそういう場合に当たる旨主張するが、同判決は、被課税者が全く不知の間に第三者がほしいままにした登記操作によって、突如として課税処分を受けた等の事実関係を前提としているものであるところ、本件は、相続税法にいう「時価」の評価の過誤が争われているに過ぎない事案であり、同判決がその前提としている「課税要件の根幹についての内容上の過誤」がある場合とは認められないから、同判決を本件に当てはめることはできない。控訴人の主張は失当である。

三  原判決六枚目表末行の後に行を変えて次のとおり付加する。

「控訴人は、相続税の総額とは、相続人全員に係るそれを言うのであるのに、本件更正処分の通知書の「相続税の総額」欄には相続人の一人である控訴人の分についての記載しかなく、この点においても本件更正処分には手続上の瑕疵がある旨主張する。しかしながら、右主張のような記載上の過誤のあることは当事者間に争いが無い者の右通知書(甲第一号証)が、相続人の一人である控訴人のみについてのものであり、したがって、同書面上の「相続税の総額」欄の記載も、厳密な意味における相続税の総額(相続人全員に係るそれ)ではなく、便宜上控訴人だけのものを記載したに過ぎないものであることは、同書面及び控訴人を含む相続人全員の相続税の修正申告書(甲第六号証)等から一見して明らかであり、容易にその誤記であることが判明できるものであるから、右の通知書による通知に本件更正処分を当然無効とする程の重大な瑕疵があったとは到底認められない。控訴人の右の主張も失当である。」

四  以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅香恒久 裁判官 林輝 裁判官 鈴木敏之)

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