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名古屋高等裁判所 平成2年(く)57号 決定 1990年11月26日

少年 Z・O(昭46.12.25生)

主文

原決定を取り消す。

本件を鹿児島家庭裁判所に移送する。

理由

本件抗告の趣意は、少年名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が著しく不当である、というにある。

所論にかんがみ、本件少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討するに、本件は、スナックで働いていた少年が、平成元年10月26日夜明け前ころの帰宅途中、通勤に使用するのに良いと考え、私鉄の駅の自転車置場から原動機付自転車1台を窃取したという窃盗の案件であるところ、犯行の動機が安易で、エンジンをいわゆる直結にして盗み、その後3か月近く通勤等に無免許で乗り回していたこと、平成2年2月19日原審で補導委託による試験観察に付せられながら、1週間ほどで委託先を無断で飛び出し、暴力団組員が経営する新聞社に勤務し、その新聞社倒産後、暴力団組員の自宅で生活していたこと、裁判所に右事実を隠しており、同年8月22日の最終審判期日を前にしていながら、無断で鹿児島に帰省したことなど、少年の内省が甘く、我が儘な行動があること、少年は、酒癖の悪い亡父の下で生育して生活が乱れ、窃盗などの非行に走り、教護院に入所させられたこともあること、少年の保護者は、母1人で、孫の養育をも任され、生活に追われており、その監護能力も不十分であること等の諸事情を総合考察すると、少年を性格矯正のため中等少年院に送致した原決定もその限りで理解できないではない。

しかし、当裁判所の事実取調の結果をも参酌してさらに検討すると、少年の犯行自体はさほど重大な事犯ではなく、被害品も還付されていること、少年は、昭和62年3月中学校を卒業後、本件非行以外に立件されたものがないし、本件で検挙された後、特段の非行を犯した事実を窺えないこと、補導委託先を無断で飛び出したのは、暴力団組員関係者に無理に誘われ断れなかった事情があり(少年は、恋人に危害を加えると脅された旨弁解しており、それを虚言と断ずる根拠もない。)、審判を前に勝手に帰省したことも暴力団の束縛から逃れる目的があったこと、少年は、鹿児島に着いてから、審判期日前に裁判所に連絡をしていること、さらに、恋人と暮らし、ビル清掃会社に勤め、正業について働いていたこと、少年の母も少年のため、暴力団組員関係者に対する少年の借金30万円(法律上支払い義務のあるものかも明白とはいえないが。)を支払い、関係を断ち切らせ、少年の更生のため努力している様子は窺われること、少年は、今後鹿児島市の母の住居の近くに住み、恋人とも正式に婚姻する方向で話を進めていること、等の事情が認められる。そして、これらの事情をも併せて考慮すれば、少年の非行性はさほど深化していないことが窺え、少年に対しては、社会内において専門家及び母親の指導もしくは援助により、社会人として必要とされる基本的な生活態度を体得させ、更生の道を歩ませることが相当であって、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく重いものといわなければならない。論旨は理由がある。

よって、本件抗告は、その理由があるから、少年法33条2項、少年審判規則50条により、原決定を取り消し、本件を少年の住居地を管轄する鹿児島家庭裁判所に移送することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 本吉邦夫 裁判官 上本公康 前原捷一郎)

抗告申立書

私ことZ・Oは平成二年十月九日津家庭裁判所四日市支部において中等少年院送致決定の言渡を受けましたが決定に対して下記の理由で抗告します。

理由

1 私は前回、保護会を飛び出した理由として私本位の我がままでなく○○組系○○組前組員Aに脅迫されたからである。その脅迫というのは、私の最愛の恋人Bの身上を彼が「恋人がどうなっても知らないぞ、女を犯すぞ」と、○○タイムスに来ることを交換状件として脅迫されたのである。

2 私は、○○タイムス(○○組若頭経営)で働らかさせられ、組員にならないことを約束していたがいつのまにか組員にさせられていた。

3 私は、前回の審判から一度も犯罪を犯していない。

4 私は、自ら更生するため、必死で組脱退をはかった。

5 私は、仕事をして間もないが定職をもち、生涯にない意欲で自己改善につとめていた。

6 私は、今回の事に対して非常に被害者だと思っている。

7 今回の審判を行うことにして、調査官との話が一度しかされなかったので、充分に話を言えなかったことと、審判を開くための準備が一日しか作られていないことを疑問に思ったこと。

8 今回の審判で私の最近の状態を少しも考えて下さらなかったこと。

〔参考1〕 送致決定(名古屋高 平2(く)57号 平2.11.26決定)<省略>

〔参考2〕 原審(津家四日市支 平2(少)113号 平2.10.19決定)<省略>

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