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名古屋高等裁判所 平成10年(ネ)564号 判決 1998年12月17日

呼称

控訴人

氏名又は名称

藤澤光男

住所又は居所

岐阜県岐阜市前一色一丁目一番六号

輔佐人弁理士

広江武典

呼称

被控訴人

氏名又は名称

有限会社アイリス井上

住所又は居所

岐阜県岐阜市津島町二丁目一一番地

代理人弁護士

木村静之

代理人弁護士

臼井幹裕

輔佐人弁理士

後藤憲秋

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、一二五万円及びこれに対する平成八年九月六日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  事案の概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に摘示されたところを引用するほか、「二 当審における当事者の主張」のとおりである。なお、被控訴人は、当審においてイ号物件の製造販売等の差止請求部分は、これを取り下げた。

二  当審における当事者の主張

1(控訴人)

一般に、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するにあたり、考案の詳細な説明の記載が斟酌されることは争わないが、この扱いはあくまでも実用新案登録請求の範囲の記載によってはその意義を明確に理解することができない場合に行われるものであるところ、本件「フィルム状の膜」の用語は、実用新案登録請求の範囲において「超音波溶融された化学繊維により形成されたフィルム状の膜」と記載されているから、繊維の一部もしくは全部が溶融硬化した薄い膜様のものであると明確に認められる。実用新案登録請求の範囲の記載は、「フィルム状の膜一であって、「フィルムの膜」ではない。したがって、「フィルム状の膜」は、原判決がいうところの、「繊維としての形態を完全に失った」ものに限定されないのであり、本件考案にとって「化学繊維が完全に溶融していること」は必須要件ではない。したがって、「フィルム状の膜」を「繊維としての形態を完全に失った」ものに限定した原判決の解釈は、実用新案法二六条、特許法七〇条一項に反するものである。

2(被控訴人)

控訴人の右主張は争う。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加・訂正のうえ、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」の説示を引用するほか、後記二の「付加する判断」のとおりである。当審における証拠調べの結果(甲一〇)も右の認定判断を左右するに足りない。

1  原判決一三頁九行目の「裁断切口端部には繊維状のものが認められるものの」を「裁断切り口端部は、断面視において、一部に数本分の繊維の厚さとなっているものもあるが、そのほとんどが一本一本の繊維のままであり、また、傾斜部分は、正面視において、繊維が密着して表面で融着しているようには見えるが」と改める

2  同一四頁八行目の次に行を改めて「なお、乙一七によれば、化学繊維は融点に達しなくても、軟化点で切断することが可能であるから、余剰の融液によりフィルム状の膜を形成するには、それが形成されるような加熱条件下で超音波溶融裁断する必要があると認められる(乙三の特許庁の判定では「織布素材を加工ロールにより超音波溶融裁断する際に、織布素材を単に裁断するばかりでなく、フィルム状の膜が形成するような操作条件下で裁断しつつわざわざ形成させるものであり」と同旨の判断がなされている。)。これを逆に言えば、余剰の融液をもたらさない加熱条件で超音波裁断することも可能であり、弁論の全趣旨によれば、イ号物件は余剰の融液をもたらさない加熱条件で超音波裁断されたものと認められるのである。」を加える。

二  付加する判断

控訴人は、本件「フィルム状の膜」の用語は、実用新案登録請求の範囲において「超音波溶融された化学繊維により形成されたフィルム状の膜」と記載され、それだけで繊維の一部もしくは全部が溶融硬化した薄い膜様のものであると明確に認められるから、「繊維としての形態を完全に失った」ものに限定されないのであり、本件考案にとって「化学繊維が完全に溶融していること」は必須要件ではないと主張する。そこで判断するに、一般に「フィルム」とは「薄い膜」のことを意味する(昭和五六年一〇月二三日発行の「広辞苑第二版補訂版第六刷」には、▲1▼薄皮、薄膜、薄葉、薄い層、▲2▼写真感光材料の一、▲3▼映画用の陰画・陽画の総称をいうとされている。平成三年一一月一五日発行の「広辞苑第四版」もほぼ同様である。)ところ、実用新案登録請求の範囲の記載からは、「薄い膜」は「超音波溶融」された結果形成されるものであることが理解されるのみであって、それが繊維としての性質ないし形態を変えていないのか、それとも繊維ではなくなっているのかは、一義的に明らかではないのであるから(もっとも、右各広辞苑によれば、「繊維」とは「▲1▼生物体を組織する構造のうち、細い糸状のもの、▲2▼一般に、細い糸状の物質」をいうとされており、実用新案登録請求の範囲に記載された「化学繊維」は細い糸状のものと解されるから、それが「薄い膜」に形成されているとすれば、考案の詳細な説明の記載において格別な説明がなければ、もはや繊維としての性質ないし形態を変えていると理解するのが素直な見方であるともいえよう。)、本件で「フィルム状の膜」の意義を明らかにするため、考案の詳細な説明の記載が斟酌されるのは当然である。そして、控訴人の主張する「繊維の一部もしくは全部が溶融硬化した薄い膜様のものである」との理解によっても、繊維が硬化した結果、それが繊維としての性質ないし形態を変えていないのか、それとも繊維はなくなっているのかは、一義的に明らかではないところ、右詳細な説明によれば、溶融によって生じた余剰の融液がフィルム状の膜を均一な厚さ及び幅に形成するというのであるから、化学繊維が完全に溶融していることは、本件考案の必須要件であると解さざるをえない。

以上からして、控訴人の右主張は採用の限りではない。

三  よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本増 裁判官 野田弘明 裁判官 永野圧彦)

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