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名古屋家庭裁判所 平成8年(少)2903号 決定 1996年9月09日

少年 T・K子(昭和54.1.7生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、法定の除外事由がないのに、平成8年8月6日午前3時ころ、名古屋市○○区○○町×番××号にある○○東側路上に駐車中の軽自動車の中で、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含む結晶約0.02グラムを鼻から吸引する方法で摂取し、覚せい剤を使用した。

(法令の適用)

非行事実 覚せい剤取締法41条の3第1項1号、19条

処遇等少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項

(処遇の理由)

少年は、平成8年2月ころ、当初はダイエットできるなどとの興味本位から安易に覚せい剤を使用するようになったものであるが、その直後は毎日のように覚せい剤を使用し、3月には友人を巻き込み、自らも当時同棲に等しい状態であった中年男性に頼んで密売人から覚せい剤を購入するなどし、これまでに30回以上覚せい剤を使用してきた。少年の覚せい剤使用の状況は常習者に等しく、薬物に対する親和性も高いと言うべきである。

少年は、少年調査票等にもあるとおり、非常に自己中心的であるとともに、たとえば、将来の職業の希望なども場当たり的・思いつきだけで口にしているなど、社会性も未熟なため、同年代の友人に恵まれない。そのため少年の言い分を聞いてくれる者に依存し、甘えることによって生活を送ってきた。後述するような実母・養父との関係、高校中退の経緯、あるいは鑑別所での生活態度や収容処分を逃れることのみを気にして、本件非行の重大性や自己の問題点に対する内省の深まりはみられないことなどに、こうした少年の問題を明らかに見て取ることができる。

本件非行の背景には、この少年自身の問題が存在することは明らかであるが、この少年の問題とあいまって、少年が家庭に安住することができないという現状を無視することはできない。すなわち、少年は、社会性の未成熟さなどもあり、実父母の離婚を現実の問題として受け止めることができないまま、養父との生活を始めており、少年の躾についても生真面目なほどに、時には感情的に細かな注意を与える養父との関係を悪化させ、その結果、少年は家出同然で覚せい剤を一緒に使用するような友人宅に居候したり、中年男性と同棲まがいの生活を送るなどしている。このような少年の生活態度は、もっぱら家庭で受け入れられていないとの寂しさに起因するものと考えられるが、少年の生活について、実母も生活に追われて、その実態を把握できないままである。過去2回の事件の際の少年調査票からは、家庭に監護の熱意も能力も乏しいことが指摘されているが、今回、少年が鑑別所に収容されてもなお、家庭の監護の状況には目立った好転を見いだすことはできない。

したがって、もはや家庭に少年の監護を委ねることはできず、施設に収容の上、なによりもまず、少年自身にその社会性の未熟さや規範に対する認識の甘さについての自覚を促し、年齢にふさわしい自立ができるよう教育することが必要である。

よって、主文のとおり決定する。

なお、少年にはその未成熟さ故ではあるが、少年の話に耳を傾ける者の指導には従おうとする素直さもまだ見られること、少年の前歴や本件非行の態様に照らして非行の深化の程度はそれほど大きくないことを勘案して一般短期処遇の勧告を付することとしたが、家庭も少年の教育と並行して短期間の内に前記の問題の解消を図り、少年との関係改善を急ぐ必要があることから、環境調整命令を併せて発することとした。

(裁判官 千葉俊之)

〔参考1〕処遇勧告書<省略>

〔参考2〕環境調整命令書

平成8年9月9日

名古屋保護観察所長殿

名古屋家庭裁判所

裁判官 千葉俊之

少年の環境調整に関する措置について

氏名 T・K子

年齢 17歳(昭和54年1月7日生)

職業 無職

本籍 名古屋市○△区○○×丁目××番

住居 名古屋市○△区○○×丁目××番××号 ○○ビル×××号

当裁判所は、平成8年9月9日に上記の少年につき、覚せい剤取締法違反保護事件により、中等少年院(一般短期処遇課程)に送致する旨の決定をしました。少年は、別添の少年調査票等記載のとおり、社会性も未熟で依存心が強いことが指摘されており、このような少年の問題とあいまって養父の少年に対する態度が、少年と養父との関係を悪化させ続けています。他方で、生活に追われる実母も少年を放置しているに等しく、家庭内では、養父と少年の緩衝役としても、少年の言葉に耳を傾け少年の疎外感や寂しさを受け止める役としても機能しておりません。

養父との関係悪化に起因する家庭からの少年の離反が本件非行の直接の引き金であったことに照らして、少年院仮退院後に、少年が家庭での安息を得られなければ、その後の社会内処遇にも大きな困難を来すことが予想されます。本件については、少年の非行性に鑑み、一般短期処遇を勧告したこともあり、特に早期の環境調整が必要であると考え、少年法24条2項、少年審判規則39条により、下記の措置をとられますよう要請いたします。

少年の家庭環境等については、別添の名古屋少年鑑別所長作成の平成8年9月3日付け鑑別結果通知書、名古屋家庭裁判所調査官○○作成の同月6日付け少年調査票の各写しをそれぞれ参照してください。

少年の養父に対しては、少年への接し方を、また、少年の実母に対しては家庭内における役割を自覚するとともに少年と養父との関係を改善するための具体的方策を検討、実行し得るよう指導し、もって家庭の少年受入れ態勢等を整備・調整するよう指導・援助を図ること。

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