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名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和44年(ワ)111号 判決 1974年8月13日

原告 島田四郎

同 島田さかえ

右両名訴訟代理人弁護士 山本卓也

被告 豊橋市長 河合陸郎

右指定代理人 遠藤きみ

<ほか七名>

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

被告は原告らに対し各金二三三万七、五八〇円及びこれに対する昭和四一年四月二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行宣言を求める。

二、本案前の申立

主文同旨の判決を求める。

三、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

四、請求の原因

(一)  訴外島田敏弘(昭和二八年六月一一日生、以下敏弘という。)は次の事故により死亡した。

1、日時 昭和四一年三月三一日午前一〇時二五分頃

2、場所 豊橋市大山町字五分取四九番地県道大崎街道路上

3、事故の態様、過失の内容

(1) 訴外島田敏弘は、前記日時場所道路左側を西から東へ向け自転車で進行していた。

訴外高柳繁次は長さ二・七メートル位の割竹束をかついで敏弘の進行方向左側を対向歩行してきて敏弘とすれちがう際、不注意にも割り竹束の前部を道路中央部に向けて突き出したゝめ、敏弘の顔面部を右の割り竹束ではらう結果となり、そのため敏弘は自転車もろとも道路に転倒し、頭蓋骨々折の重傷を負い、同年四月二日午前六時二五分頃死亡するに至った。右は訴外高柳繁次が、道路通行者に対して危険を及ぼすおそれのある長い割り竹束を背負って進行する場合、通行者に対して危害を加えないように注意すべきであるのにこれを怠ったことによるものである。

(2) 仮にそうでないとしても、訴外高柳繁次と訴外平野準二の過失が競合して本件事故が発生したものである。

すなわち、本件事故は(1)に主張した態様で発生したものであるが、その直後訴外平野準二の運転する自動車が敏弘に接触したものであり、右訴外人の自動車運転上の過失があったものである。

(二)  原告らは敏弘の両親であり、敏弘の死亡により同人の権利義務を相続した。

(三)1、訴外高柳繁次は生来の精神薄弱者であるうえ、本件事故の相当期間前から、老人性痴呆の状態で法律的には心神喪失の常況にあり、適当な施設に入れて必要な措置をすべき精神衛生法にいう精神障害者であった。

したがって訴外高柳繁次に対しては民事上の責任を問うことはできないものである。

2、しかして精神衛生法二一条は本件のような精神障害者について同法二〇条による保護義務者がない場合、精神障害者の居住地を管轄する市町村長が保護義務者となることが規定されており、本件の場合、訴外高柳繁次には近隣に親族がなく生活している以上被告豊橋市長が保護義務者であることは明白である。

すなわち右訴外人の親族である姉高窪は明治二六年生れの老婆で田原町に居住し、国見診療所に入院し、生活保護を受けている状態であり、弟高柳仙蔵は千葉県松戸市に居住しているようであるが、遠隔地に居住しているうえ、約束した月給金二、〇〇〇円の送金もしていない状態である。

右のように高柳繁次の親族は、繁次と同居して同人の日常生活の世話ができる者ではなく、同居できない場合に右同人と密接な関係を保てる者ではないから右同人の右親族はいずれも右同人の保護義務者としての適格性を有しない者である。

3、高柳繁次は精神障害者であって保護義務者が不存在であったのであるから抽象的な保護の必要性があった。更に次に述べるように右同人には具体的な保護の必要性があったのである。

高柳繁次は昭和二六年一〇月から生活保護を受けていた。そして昭和三三年には顔面切創を負いその後毎年のように種々の傷病によって医療扶助を受けている。そして昭和三九年四月三日、高柳繁次と同居していた同人の弟高柳桂次が水死(事故死)したのである。

原告らは繁次に対して高柳桂次の死亡直後には、具体的な保護の必要性が生じたものと考える。すなわち、桂次の死後、同人と同様あるいは同人以上に、精神に障害のあった繁次に対して、適切な保護を開始していたならば本件事故は発生しなかったであろう。

あるいは被告は当時繁次には狂暴性もなく、自他を害する危険も感じなかったと主張するかもしれない。しかし桂次は自己を最大に害した死に至らしめているのであって、繁次についてその危険がなかったということはないのである。

4、右のように繁次に対して具体的な保護の必要性が生じたにもかゝわらず、豊橋市の関係職員は漫然その措置を怠ったのである。

本件においては、豊橋市の関係職員はかなり早期に高柳繁次が、精神障害者であると認識していた。そして右同人をして医師の診察を受けさせて適切な施設へ収容すべきであったものである。

右のような義務を果さなかった豊橋市の関係職員は精神衛生法の本旨を理解していないものであり、公務員としての職務の懈怠であるといわなければならない。

5、そして右の関係職員の故意過失は、豊橋市長の故意過失である。

(四)  しかして敏弘は自己の責に帰すべからざる理由でしかも不可抗力でなく死亡したものであるから、その損害はつぐなわるべきである。

そして敏弘の死は心神喪失者である高柳繁次を保護義務者がいないのに精神衛生法二一条に定める保護義務をつくさなかった被告の責任であるから、被告は原告に対して国家賠償法一条一項民法七一四条により、原告らの損害を賠償すべき義務がある。

(五)  右により原告らのこうむった損害は次のとおりである。

1、敏弘の得べかりし利益

敏弘は健康な男子であったので、原告らは将来上級学校に進学させる予定であったので、多額の収入を得ることが予想されていたものである。そこで本訴では控え目に高等学校卒業後一八才で就職し、六〇才まで稼働できるものとし、その収入は第一八回日本統計年鑑三九八ページの産業別の企業規模及び年令階級別給与額の全労働者(男子)の企業規模一〇人ないし二九人より、同人の月収を一ヵ月金二万〇、五〇〇円とし、同人の生活費を二分の一強の一ヵ月金一万〇、五〇〇円として中間利息をホフマン計算で控除すると、同人の得べかりし利益は金二六七万五、一六〇円となり、原告らは、その二分の一宛を相続したものである。

2、原告らの慰藉料、

原告らは敏弘の成長を何よりも楽しみにし、老後は敏弘に扶養されることを希望していたのに、一瞬にしてその希望を奪われたものであって、その精神的苦痛は重大である。

そして右精神的苦痛は諸般の事情を考慮して原告ら各金一五〇万円をもって慰藉されるものである。

(六)  よって原告らは被告に対し、右の内金二三三万七、五八〇円宛及びこれに対する不法行為の後である昭和四一年四月二日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、本案前の主張

原告は本訴において行政機関たる豊橋市長を被告として訴えている。

しかし行政機関そのものに訴訟における当事者能力が認められるか否かについては、行政事件訴訟法一一条の場合は、行政事件の特殊性によるあくまでも例外的な措置であって、通常の民事訴訟においては行政機関そのものに当事者能力は認められないと解すべきである。

本訴は原告らが公務員である豊橋市長の公権力の行使が違法であったと主張してこれによって生じた損害の賠償を請求している通常民事事件であるから、行政機関そのものを被告として訴えることはできないものである。

また公務員の違法な公権力の行使によって生じた損害についてその賠償責任を負う者は当該行政事務の帰属主体たる国又は公共団体であって、当該公務員は行政機関としての地位においても、また個人としての地位においても、その責任を負うものではない。

したがって本件において仮に原告らの主張するように豊橋市長にその職務遂行上の過失が認められるとしても、これによって生じた損害を負担すべき者は国又は公共団体であって、豊橋市長は行政機関としての地位においても、また個人としての地位においてもその責任を負うものではない。

なお精神衛生法二一条にもとづく市町村長の事務は、地方自治法一四八条三項に規定する市長村長に対する国の機関委任事務(地方自治法別表第四の二の(ハ))であるので、本件行政事務の帰属主体は国である。

よって本件訴は不適法であるから、却下を免れないものである。

六、本案前の主張に対する原告らの反論

(一)  本件訴訟における被告は豊橋市である。たゞ訴状における被告の表示がいさゝか不適当であったにすぎない。

まず訴状における被告の住所として豊橋市今橋町一番地と表示されており、この住所は豊橋市役所の所在地である。次に豊橋市長と肩書を付してある以上河合陸郎に対する個人責任を追求する趣旨でないことは明白である。

次に豊橋市長河合陸郎と表示したのは、あたかも○○株式会社社長××と表示したのに等しく、団体の代表者としての表記であって豊橋市市長河合陸郎が正確であったのに豊橋市長河合陸郎と表示し、市一字を脱落させたタイプミスともいうべきものである。

(二)  次に原告らは訴状においては右のような表示をしたけれども、その後の昭和四五年二月三日付準備書面、同年三月及び六月に提出した証拠申出書、同年一〇月二日付期日指定の申立、昭和四八年七月一〇日付証拠の申立、昭和四八年四月二日付準備書面、昭和四九年五月七日付証拠の申立等の各書面においては、いずれも被告を豊橋市と表示しており、右の事実からしても、原告は本件において豊橋市を被告とする意思を有していたことは明らかである。

(三)  次に従前の訴訟の経過から考えても訴訟係属後四年を経過するまで右の被告の表示の厳密な正確性について被告はもとより、裁判所からも何の釈明もなかった。

もとより被告の特定は訴訟要件であり、当事者能力のない者を訴訟当事者とするのは不適法であるから、裁判所としては、もし右の点に疑念をもてば、少くとも釈明を求めるべきであり、被告としても、その職種の発動をうながすべきであろう。にもかゝわらず、右の点について今まで何ら問題視されなかったのは、裁判所も被告も本件の被告が豊橋市であると当然考えていたからである。

原告のさゝやかな不適切な表示は、本案の審理にとってさしたる影響のないものと全訴訟関係人が認めて訴訟を進めてきたのである。

そして被告のこの点に関する主張は、原告らの不適切な被告の表示に誘因するものとすれば、原告らとしてこれを陳謝するにやぶさかではないが、念のため、被告の表示を「豊橋市、代表者市長河合陸郎」と訂正する旨申立てる。

(四)  なお精神衛生法二一条にもとづく市町村長の事務が国の機関委任事務であることは認めるが、それ故豊橋市に損害賠償義務が存在しないというものではない。国家賠償法三条は、本件のような場合、競合的に国と地方自治体の双方に賠償義務が存することを明らかにし、その二項において双方の求償関係を定めているのである。

七、請求の原因に対する答弁

(一)1、請求の原因(一)1、2の事実は認める。

2、同3の事実中敏弘が原告ら主張の日時場所において、その道路左側を西から東へ自転車で進行していたこと、訴外高柳繁次が、長さ二・七メートル位の割竹束をかついで敏弘の進行方向左側を対向歩行していたこと、敏弘が自転車もろとも道路に転倒し、頭蓋骨々折の重傷を負い、昭和四一年四月二日午前六時二五分頃死亡したことは認めるがその余の事実は不知。本件事故の発生原因は争う。

(二)  同(二)の事実は認める。

(三)1、同(三)1の事実は否認する。

高柳繁次は、本件事故当時、何ら心神喪失者ではなく責任を弁識するに足る知能をそなえていたものであるから、仮に本件事故が右同人の行為に起因するものとすれば、同人が不法行為責任を負うべきである。

2、同2の事実中精神衛生法の規定に関する点は認めるがその余の事実は否認する。

まず、高柳繁次は本件事故当時精神衛生法上の精神障害者ではなかった。

仮に同人が精神障害者であったとしても、同人には扶養義務者として姉高窪が隣町に居住しており、また弟高柳仙蔵が千葉県松戸市に居住しているから、右両名が精神衛生法二〇条の保護義務者である。

3、同3、4の事実は否認する。

高柳繁次は日常生活を日々平穏に営んでおり、自傷他傷のおそれは認められなかったものであるから、同人をして直ちに精神衛生法二九条の強制入院をさせる必要もなく、また法三三条の同意入院を必要ないし適切とする状況にもなかったものである。

4、原告の主張は精神衛生法の誤解にもとづくものである。

精神衛生法は精神障害者の医療及び保護を行い、かつその発生の予防に努めることによって、国民の精神的健康の保持及び向上を図ることを目的とするものであり(同法一条)、それは精神障害者に対する医療保護という精神障害者の福祉のための法律であることを本質とするものである。

したがって患者に対する身体的拘束は、社会的な害悪の除去を目的とするものではなく、あくまでも本人のための医療保護を目的とするものなのである。

そしていわゆる措置入院制度が行なわせしめるためには、その対象者が精神障害者と認められるのみならず、更に自、他に危害を及ぼすおそれがあると認められる患者に限られるとするところに社会公安上の要請に応ずる面との調和がはかられており、しかも右の権限を行使できる者は都道府県知事であって市長村長ではないのである(法二九条)。

そして仮に高柳繁次が精神衛生法上の精神障害者であり、したがって被告が同法二一条の保護義務者であったとしても、被告には同法二二条の監督義務違反は存しないのである。

すなわち被告の場合には当該精神障害者を把握する端緒がなく、またその者の身近に関与しておらず、更に前記のように扶養義務者が二名存在していることなどからいって、保護義務の範囲は、事実上狭い範囲にとゞまらざるを得ないのである。

そして被告の右の保護義務は、県知事のなす強制入院(法二九条)に対する同意権(法三三条)にとゞまるものであって、本件においてはその必要のなかったことも前記のとおりである。

しかも本件事故は、訴外高柳繁次が肩に竹束をかついで歩いていた時に、その竹束が被害者に触れたことに起因しているとしても、右のような竹束をかついで歩行することは、何ら精神障害者に特有な行為とはいえず、一般通常人でも日常生活においてこれに類する行為はなしているものである。したがって本件のような事故は、被告が、保護義務者として監督義務を怠らなかったとしても容易に発生したであろうことが推認されるのである。

したがって被告には本件について何らの責任もない。

5、仮に右の主張が理由がないとしても、高柳繁次の行為と本件事故の発生との間には因果関係がない。

すなわち、本件事故は、当時たまたま同所を平野準二が大型トラックを運転して進行してきて、敏弘とすれちがった際に、敏弘が右トラックに接触し、もしくは、風圧を受けて転倒したことにより発生したものである。

そして原告らは本件事故が右トラックとの接触によって発生したものであることを認めて、自動車損害賠償保障法による責任保険金を受領しているのである。

(四)  同(四)の事実は否認する。

(五)1、同(五)1の事実は不知。

2、同2の事実は争う。

(六)  同(六)の事実は争う。

八、証拠関係≪省略≫

理由

まず、本訴の適否について審案する。

一、原告らは本件訴状において、被告として豊橋市長河合陸郎と表示しており、訴状三枚目表一二行目に「被告(豊橋市長)」と記載していることは記録上明白である。

しかして民事訴訟において被告とされる者は原告が訴状に被告として表示した者であり、かつその者が特定人として識別できるかぎり、原告の意思のいかんを問わず、その者を被告とすべきである。もっともその際には、訴状における当事者を表示する箇所だけでなく、一体としての訴状の記載の全体(請求の趣旨、請求の原因)から被告の特定がなさるべきである。

しかし右のように考えた場合においても、原告が当事者の表示を誤記した場合にはその訂正を絶対に許さないものとすべきではなく、できるかぎり訴状の記載を合理的に解釈して当事者の表示の訂正を許してもさしつかえない場合もあるであろう。しかしながらその表示の訂正の結果別人が表示されるに至ったときは、後述の当事者の変更になるものといわなければならない。

二、ところで原告らは本訴における被告は豊橋市であって豊橋市長河合陸郎ではない旨を主張しているのでこの点について検討する。

原告らが主張している原告らが提出している書面には被告として「豊橋市」と表示されていることは本件記録上明白である。そして原告らは「豊橋市」を被告とする意思であった旨を主張し、訴状の記載は誤記であるから、訂正する旨を申立てている。

しかし被告の確定を原告の意思にかゝらしめるときは、応訴をやむなくせられる被告の地位がきわめて不安定なものとならざるを得ない。

しかも本件において被告として行動していた者は昭和四四年九月二日の第一回口頭弁論期日から昭和四九年六月二五日の口頭弁論終結時に至るまで行政機関としての「豊橋市長」であって、地方公共団体としての「豊橋市」ではないのである。このことは国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律五条二項により、豊橋市長が上級行政庁である愛知県の職員を本件の指定代理人としていることよりしても明らかである。

そして行政機関としての「豊橋市長」と地方公共団体としての「豊橋市」とは明白に異る人格であるから、右の被告の表示を単なる誤記であるとして訂正することは許されないものといわなければならない。

原告らは精神衛生法二一条に市長村長が保護義務者となる旨が規定されていることから、行政機関である豊橋市長に対して民法七一四条、国家賠償法一条にもとづき本訴を提起したものと推認するのが相当であり、本訴提起後原告らが「豊橋市」を被告とする意思になったとしても、本件の被告が「豊橋市長」から、「豊橋市」に変更するといわれはない。

三、右のように判断した場合には、原告らの右の申立は本件の被告を「豊橋市長」から「豊橋市」に変更する旨の申立と解する余地があるので、次にこの点について考えてみよう。

行政事件訴訟法一五条は「原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤ったときは、……原告の申立により……被告の変更を許すことができる」旨を規定している。そして右の規定は、行政事件においては出訴期間の制限があるため原告が再訴するまでの間に右の期間が徒過してしまうおそれがあるため、特に原告を保護する趣旨に出たものと解するのが相当である(同条三項)。

したがって右の規定は行政事件にかぎって適用されるものであってこれを通常民事事件に拡張して適用すべきではない。

そうすると通常民事々件において任意的当事者変更は許されるかという問題に帰着するのである。

任意的当事者変更は新訴の提起と旧訴の取下との複合した訴訟行為であると解される。そして複合した訴訟行為といっても旧訴の取下が先行すると、訴訟手続は終了してしまうので、理論的には、まず新訴が提起され、そのあとで旧訴の取下があるとみなければならないであろう。そして右のように考えた場合には任意的当事者変更は、新訴の提起と旧訴の取下という可分な二個の訴訟行為であるから、その要件効果は、それぞれ別個に判断されることになるわけである。したがって右の二個の行為が双方とも有効になされた場合においてのみ当事者の変更を生ずるものと解すべきである。

しかして右の新訴の提起は、訴の主観的追加的併合であるがこれは許容されることは疑いがない。しかし旧訴の取下については旧訴の被告の同意(民事訴訟法二三条)を要件とするものであり、これがない場合には、任意的当事者変更の申立は許されないことになるわけである。

しかして本件において被告「豊橋市長」が右の訴の取下に同意しないことは弁論の全趣旨により明白であるから、原告の右の申立を当事者の変更を求める申立と解しても、これを認容することはできない。

四、右のように本訴の被告は行政機関としての「豊橋市長」であるが、原告らの本訴請求は、被告市長の職務行為を理由とする国家賠償の請求若くは、被告市長に対する民法七一四条にもとづく損害賠償請求であると解すべきであるから、このような請求については、国又は地方公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位においても、個人としての地位においてもその責任を負うものではないのである。

したがって「豊橋市長」を被告とする本件訴は不適法でありその余の点について判断するまでもなく、却下を免れない。

五、なお本件においては昭和四四年五月八日に訴が提起(この事実は記録上明白である)されて以来昭和四九年六月二五日に口頭弁論が終結されるまでの間、本案の審理がなされていたものであるが、かゝる事実があるからといって本来不適法な訴が適法な訴になるものではないことはいうまでもない。

よって民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋爽一郎)

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