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名古屋地方裁判所岡崎支部 昭和61年(ワ)307号 判決 1989年11月06日

原告

伴野清勝

ほか一名

被告

伊藤久幸

ほか一名

主文

一  被告両名は原告伴野清勝に対して、連帯して金三二万七〇七六円及びこれに対する昭和六〇年一二月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告伴野清勝のその余の請求を棄却する。

三  原告伴野美雪の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告伴野清勝に生じた費用を同原告の負担とし、被告両名に生じた費用の二分の一を被告両名の負担とし、被告両名に生じたその余の費用及び原告伴野美雪に生じた費用を同原告の負担とする。

五  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告両名の請求の趣旨

1  被告両名は原告伴野清勝に対して、各自金一一一万六七二六円及びこれに対する昭和六〇年一二月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告両名は原告伴野美雪に対して、各自金二一万四八〇〇円及びこれに対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告両名の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被告らの答弁

1  原告両名の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告両名の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告両名の請求原因

1  昭和六〇年一二月二五日午後五時五〇分ころ、愛知県幡豆郡一色町大字一色字前新田一九〇番地の二の道路上で、原告伴野清勝(以下原告清勝と略称する。)が運転し原告伴野美雪(以下原告美雪と略称する。)の同乗していた軽四輪貨物自動車(三河四〇の二七二六)に、被告まるひ建設株式会社(以下被告会社と略称する。)の保有する、被告伊藤久幸(以下被告伊藤と略称する。)運転の普通乗用自動車(三河五八つ八三四一)が追突する交通事故が発生した。

右事故は被告伊藤の過失によるものであるので、同被告は民法七〇九条により、被告会社は自賠法三条により、それぞれ右事故により生じた損害につき賠償責任を負うべきものである。

2  右事故は、赤信号で停車していた原告車が、信号が青に変わつたため発進しかけたところ、後方から減速せずに走行してきた被告車に追突されたものであり、そのため原告清勝は頸部挫傷及び右肩挫傷の傷害を、原告美雪は頸部挫傷の傷害をそれぞれ受けた。

3  右傷害のために、原告清勝は事故の当日から昭和六一年一月一八日までの二五日間(実日数一八日)、原告美雪は事故当日から昭和六一年一月一七日までの二四日間(実日数一六日)、それぞれ神谷病院への通院治療を要した。

4  本件事故により原告両名の被つた損害の額は以下のとおりである。

(一) 原告清勝 次のとおり計金一一三万一七二六円

(1) 治療費 金七万九六四〇円

(2) 交通費 金九三六円

自宅から神谷病院までの距離は二キロメートルであり、自動車で通院したので、その要したガソリン代を一リツトル一三〇円で一〇キロメートルを走行するものとして算出。

(3) 休業損害 金七七万二三五〇円

原告清勝は妻である原告美雪と二人で船(宝栄丸)を運航して、砂採取、運搬の業に従事している。昭和六〇年一年間の運航回数は一五九回で、その水揚げ額は金二〇四一万九六二一円、従つて一航海の平均水揚げ額は金一二万八四二五円であつた。原告清勝は本件事故による受傷のため、六航海分運航を休まざるをえなかつた。従つてこれに伴う損害額は金七七万二三五〇円である。

(4) 慰謝料 金一五万円

(5) 車両修理費 金二万八八〇〇円

(6) 弁護士費用 金一〇万円

(二) 原告美雪 次のとおり計 金二二万九八〇〇円

(1) 治療費 金五万九八〇〇円

(2) 慰謝料 金一五万円

(3) 弁護士費用 金二万円

(交通費及び休業損害については、原告清勝に対して支払われれば、それにより填補されるので請求しない。)

5  被告両名は原告両名に対し、金三万円を支払つたので、これを原告両名の損害金に各一万五〇〇〇円充当することとし、被告両名に対し、原告清勝は金一一一万六七二七円、原告美雪は金二一万四八〇〇円の各損害賠償金及びこれらに対する本件事故の翌日である昭和六〇年一二月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、各自支払うよう求める。

二  被告両名の認否

請求原因1の事実を認める。

同2の事実を否認する。被告伊藤は本件事故現場の交差点進入前に原告車を認めていたが、原告車は直ちに加速して進行するものと考えていたところ、意外にゆつくりと発進したため接近し過ぎ、あわてて衝突回避措置をとつたが僅かに及ばず、被告車前部バンパーのナンバープレートが原告車の後部バンパーを押しつけるようにして接触したものである。そのため同後部バンパーが車体に押しつけられたが、一見してわかるような曲損等は生じていなかつた。このような極めて軽微な追突事故によつて原告らが負傷するとは考えられない。原告清勝も事故当日は警察へ事故届けをする程の事故ではないと認めていた。しかるに同原告は、翌日になつて被告伊藤に対し、新車を賠償せよ、休業損害を一日一五万円の割合で賠償せよと要求しだしたもので、極めて軽微な本件事故を奇貨として、不当な利益をえようとするものである。

請求原因3の事実は知らない。

同4の事実のうち、車両修理費の額を否認し、その余の事実は知らない。本件事故により原告両名に受傷に基づく損害賠償請求権を生じたとの主張を争う。車両修理費はリヤバンパー及びラインテープの部品代一万八〇〇〇円、取り替え等工費八五〇〇円の計金二万六五〇〇円である。

被告伊藤が原告等に対して金三万円を支払つたことは原告等の述べるとおりであるが、その充当関係を否認する。原告等の感情宥和を望んで交付したものである。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告両名の本件事故による受傷の事実について判断する。

原本の存在及びその成立に争いのない乙第二、第一二号証並びに被告伊藤本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、市街地の前方の見通しの良いアスフアルト舗装の平坦な道路であること、本件事故の態様は、被告伊藤が被告車を運転して事故現場にさしかかつた際、前方の交差点手前で信号待ちをしている原告車を認めて、時速約二五キロに減速したものの、対面する信号が青に変わり原告車が発進したのでそのまま追従し、一瞬脇見をしたために、原告車が交差点を越えたところで駐車車両の関係で一時停止した前車に続いて停止するため減速したのに気付くのが遅れ、約四メートルに迫つて気付いて(被告伊藤本人尋問の結果中これに反する部分は信用できない。)急制動の措置をとつたが及ばず、停止前の原告車に追突したものであること、追突直前原告清勝は右肘をドアの取つ手に載せてやや右に傾いた姿勢でハンドルをにぎつており、被告車のブレーキ音を聞いてルームミラーとサイドミラーを見たこと、衝突後原告車は約五・五メートル、被告車は約二メートル進行して停止し、路面には被告車のスリツプ痕が約三メートル印象されていたことが認められる。そうして、本件事故による車両の損傷は、成立に争いのない甲第八号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第三、第四、第一二、第一三号証によれば、原告車両(スズキアルト)がリヤーバンパー(合成樹脂製。)、左ステー、ラインテープ、及びバツクパネルに、バンパーの陰のためもあつてちよつと見ただけではわからない損傷を受け(その修理代金二万六五〇〇円相当。)、被告車両はナンバープレートが凹損したのみで、いずれもごく軽微であつたことが認められる。

そうして原本の存在及び成立に争いのない甲第一五号証の一ないし六、第一六号証の一ないし五、乙第一〇、第一二、第一三号証、並びに原告両名及び被告伊藤各本人尋問の結果によれば、原告清勝は昭和二一年生まれ、原告美雪は昭和二三年生まれの夫婦で、二人で一〇〇トンの船を運航して、川砂の採取運搬を業としているものであるが、原告清勝は、本件事故直後に首の右後部に痛みを感じ、その晩に整形外科神谷病院で受診して頸部挫傷と診断され、その夜には右肩にも痛みを生じて、翌日の受診の際右肩挫傷との診断も加えられて、以後昭和六一年一月一八日まで(実日数一八日)通院して、湿布、注射、投薬、理学療法等の治療を受けたこと、原告美雪は、事故直後に被告伊藤には異常がないといつていたが、その晩には首の後部の痛みを訴えて原告清勝と共に前記病院で受診し、頸部挫傷との診断で治療を受け一旦痛みが消失したが、再び痛みを訴えて同月二八日から昭和六一年一月一七日まで(実日数通算一六日)通院して、湿布、投薬、理学療法等の治療を受け、昭和六一年一月八日には右肩胛部痛を訴えたことが認められる。

もつとも、前掲甲第一五号証の一ないし六、第一六号証の一ないし五、乙第一〇号証によれば、上記の診断は、原告両名の、追突事故にあつて首や肩が痛くなつたとの訴えに基づいてなされたものであつて、両原告ともに頸部に運動時痛があると認められ、また原告清勝の右肩胛部には圧痛が認められたが、レントゲン写真、運動制限の有無の検査、知覚検査等のうえで、何ら他覚的所見はなかつたことが認められる。

また、弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第一号証(林洋の鑑定書)、成立に争いのない乙第九号証(上山滋太郎の鑑定書)、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一四号証(勝又義直の鑑定書)によれば、本件事故において推定される被追突車両に生ずる衝撃加速度は一G未満であり、これによつてはその乗員に傷害が発生する可能性は一般的にはないものであることが認められる。

以上の事実を総合考慮すると、原告清勝は本件事故によつてその主張のとおりの傷害を受けたものと認められる。同原告の症状に関する供述は、具体的でありかつ首尾一貫していて措信しうるし、衝撃に対する頸部の耐性には個体差があるうえ、同原告は被追突時前認定のとおりの姿勢をとつていたもので、頸部には損傷を受けやすい状態にあつたと考えられるからである。しかし原告美雪については、同原告は、事故後被告伊藤に対して異常がないと述べていながら、後には事故直後から痛んだと述べるなど、その供述はにわかには信用しがたく、また同原告に頸部に損傷を受けやすい特別な事情を認めるべき証拠はないので、その訴える症状が真実あつたか疑問といわざるをえない。また仮にそれがあつたとしても、それはもつぱら心因性のものとも疑われるのであつて、本件事故との相当因果関係を認めがたい。結局同原告の本件事故による受傷の事実は、これを認めるに足りる証拠がないことに帰するものである。

三  つぎに、原告清勝の本件事故により被つた損害の額について検討する。

1  治療費 原告清勝本人尋問の結果により成立の真正を認める甲第七号証の一により、同原告主張のとおり金七万九六四〇円と認められる。

2  通院交通費 原告清勝本人尋問の結果及び経験則により同原告主張のとおり金九三六円と認められる。

3  休業損害 原告清勝が本件事故による受傷のために六回の運航を休んだとの同原告主張の事実は、原告両名本人尋問の結果中これに沿う部分は、弁論の全趣旨により成立の真正を認める甲第三、第一二号証にてらして(昭和五九年に比し昭和六〇年の水揚げ金額は一〇月、一一月と下回つていることが認められるところ、原告両名の述べるように一二月中になお六回運航する機会があつたとすると、一二月のみ昭和六〇年の水揚げ金額がすば抜けて多くなるところであつたことになる。)にわかには信用しがたく、その他これを認めるに足りる証拠はない。従つてその余の事実を判断する迄もなく、休業損害は認めがたい。

4  慰謝料 認められるすべての事情を斟酌し、原告清勝主張のとおり金一五万円をもつて相当とする。

5  車両修理費 成立に争いのない甲第八号証により金二万六五〇〇円と認められる。

6  弁護士費用 本件事案の内容、訴訟追行の難易、認容額等を考慮し、原告清勝が訴訟代理人に支払うべき報酬の内金一〇万円は、本件不法行為と相当因果関係のある損害として、被告両名に賠償させるべきものと判断される。

以上合計金三五万七〇七六円が、原告清勝の本件事故により被つた損害の額である。

四  被告伊藤が既に原告等に対して金三万円を支払つたことは当事者間に争いがなく、原告清勝に対して損害賠償義務が認められる以上はこれをその債務に充当すべく、そうすると、原告清勝は被告両名に対し、前記損害額から右三万円を控除した金三二万七〇七六円の賠償請求権を有することとなる。

従つて、原告清勝の本件請求は、右損害賠償金三二万七〇七六円及びこれに対する本件事故後である昭和六〇年一二月二六日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、これを右の限度で認容し、右を超える部分を棄却すべきであり、また原告美雪の本件請求はすべて理由がないのでこれを棄却すべきものである。

よつて、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小島壽美江)

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