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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)1666号 判決 1989年11月29日

原告

畑中傅次

被告

北垣司郎

ほか一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金三九三万四一六四円及び内金三五五万九一六四円に対する昭和六二年五月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六二年五月二三日午前一一時ころ

(二) 場所 愛知県小牧市大字外山三〇六四番地先路上

(三) 加害車 普通貨物自動車(尾張小牧四四ね三一九八)

右運転者 被告北垣司郎(以下「被告北垣」という。)

(四) 被害車 普通乗用自動車(尾張小牧五六と一八八二)

右運転者 原告

(五) 態様 前記日時場所において、信号待ちのため停車していた原告運転の被害車に被告北垣運転の加害車が追突したもの(以下「本件事故」という。)

2  責任原因

本件事故は、被告北垣の前方不注意により発生したものであるところ、被告株式会社すずや(以下「被告会社」という。)は加害車を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、被告北垣は自らの前方不注意により発生したものであるから民法七〇九条により、原告が受けた損害を賠償する責任がある。

3  受傷及び治療経過

原告は、本件事故により頸部・腰部挫傷、右膝部挫傷等の傷害を受け、昭和六二年五月二三日から同年五月二五日まで大口クリニツクに通院(実通院日数一日)し、同月二六日から同年七月二日まで同病院に入院し、さらに昭和六二年七月一三日から同年一一月二日まで小嶋病院に通院した(以上、入院日数は三八日、通院期間は三・八か月、実通院日数は五一日である。)。原告の後遺症は同年一一月二日に固定したが、後遺障害等級第一四級が相当と認められる。

4  原告の損害

治療関係費 金一一五万四二九〇円

(1) 治療費(文書作成料も含む。) 金一〇九万三六九〇円

内訳 大口クリニツク 金一〇七万八〇八〇円

小嶋病院 金一万五六一〇円

(2) 入院雑費 金四万五六〇〇円

一日当たり一二〇〇円として三八日分

(3) 通院交通費 金一万五〇〇〇円

三〇〇円を五〇日分

逸失利益 金七〇万四八七四円

(1) 休業損害 金四二万七二七八円

原告は、事故当時五一歳であり、愛鋼株式会社に勤務し、一日平均八三七八円の収入を得ていたが、本件事故により昭和六二年五月二四日から同年七月一三日までの五一日間休業を余儀なくされ、その間金四二万七二七八円の収入を失った。

(2) 将来の逸失利益 金二七万七五九六円

原告は、前記後遺障害のため、その労働能力を五パーセント喪失したものと認められるところ、原告の労働能力喪失期間は昭和六二年一一月二日から二年間と認められるから、将来の逸失利益をホフマン係数を用いて算出すると、金二七万七五九六円となる。

慰謝料 金一七〇万円

(1) 傷害慰謝料 金九五万円

(2) 後遺症慰謝料 金七五万円

弁護士費用 金三七万五〇〇〇円

よつて、原告は、被告らに対し、被告北垣に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては自賠法三条に基づき、前記損害合計金三九三万四一六四円及び右のうち弁護士費用にかかる損害を除く金三五五万九一六四円に対する本件事故の翌日である昭和六二年五月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2はいずれも認める。

2  同3は知らない。

3  同4は争う。

なお、本件事故は、本件事故現場において、赤信号のため、被害車に続いて停止していた被告北垣が、加害車中の塵を塵箱に入れようとして体を左へ傾けた際にクラツチとブレーキから少し足が離れ、そのため、停止していた加害車が発進して被害車に衝突して発生したものであつて、その衝撃等を鑑みると、本件事故と原告が主張する傷害、ひいてはその損害との間に因果関係はないと認められる。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるので、これらを引用する。

理由

一  請求原因1及び2はいずれも当事者間に争いがなく、したがつて、被告らは本件事故により原告が被つた損害について賠償の責任を負うものである。

二  そこで、本件事故により原告が被つた損害について判断する。

この点について、原告は本訴において、本件事故により頸部・腰部挫傷、右膝部挫傷等の傷害を受けたことを理由に損害賠償を求め、一方、被告らは原告の主張する傷害と本件事故との間には因果関係がない旨主張している。

よつて、前記当事者間に争いのない事実といずれも成立に争いのない甲第七号証及び甲第九号証の二、弁論の全趣旨によりいずれも真正に作成されたものと認められる甲第九号証の一、三ないし七及び甲第一〇号証、証人福本総一郎の証言によりいずれも真正に作成されたものと認められる乙第三、第四号証並びに原告本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告の運転する被害車は、昭和六二年五月二三日午前一一時ころ、愛知県小牧市大字外山三〇六四番地先路上において、信号待ちのため、先行車両に続いて停車したが、後続していた被告北垣運転の加害車も同様に、被害車と約一・〇メートルの間隔を開けて停車した。

ところが、被告北垣が車内に落ちていた塵紙を拾おうとした際、被告北垣の両足がブレーキ及びクラツチから離れたため、加害車は前進し、そのころ、同所において、加害車の前部バンパーが被害車の後部バンパーに衝突した(本件事故)。

2  本件事故により被害車は約七〇センチメートル前方に押し出されたが、肉眼で見る限り、加害車の前部バンパーのうちのバンパー・サイドがわずかに変形した程度であり、加害車の衝突部位に装備されているナンバープレートや破損しやすい方向指示器のレンズにも損傷はなく、被害車においても、事故後の整備においてもリヤー・バンパーを脱着してリンホースメイトを交換している程度であり、車体の構造体の修理等はなされていない。

3  原告は、本件事故後、その主張するように、昭和六二年五月二三日から同年五月二五日まで大口クリニツクに通院(実通院日数一日)し、同月二六日から同年七月二日まで同病院に入院し、さらに昭和六二年七月一三日から同年一一月二日まで小嶋病院に通院したことが認められるけれども、大口クリニツクへの入院は原告の希望により開始されたことが認められるうえ、その診断病名も原告の主張する頸部・腰部挫傷、右膝部挫傷に止まらず、頸部脊椎症及び腰部変形性脊椎症も掲げられている。

4  本件事故後、被告らが損害保険に加入している東京海上火災保険株式会社の依頼により(1)本件事故の衝突により被害車に生じた衝撃加速度及び(2)右衝撃加速度により原告の頸部・腰部等に傷害が起きる可能性について鑑定した大慈弥雅弘は、「本件事故において、加害車が被害車に衝突した速度は最大に見積もっても時速約九・〇三キロメートルと推定される。この速度で衝突すると、被害車に生じる衝撃加速度は、最大〇・九五G(平均値)程度である。この加速度は日常我々が、ブレーキを強く踏むときに車体に起こる加速度、約〇・九Gより少し高い値である。普通に考えて、通常我々が道路を走行しているときに起きる加速度より少し高いレベルで、原告の頸部・腰部に傷害が生じるとは、常識的に考えられない。本件事故の衝突により、原告に生じた頸部の屈曲トルクは、約三・〇ft/lbであり、普通の人を使った人体実験により得られた頸部の無傷レベル(三五ft/lb)の約八・六パーセントにすぎない。人間には身体の強い人や弱い人がいるといるいうことを考慮してもなお、原告に生じた頸部の屈曲トルクは極端に低いレベルであり、このような場合には、本件事故での衝撃程度では原告への受傷の可能性は無い、と断言しても良いと思われる。」としているが、同人の判断の過程には格別疑義を挟む余地はない。

以上の事実、とりわけ、本件事故の態様、本件事故後の両車両の状況等に大慈弥雅弘の鑑定結果を考え併せると、本件事故により、原告が主張するように、入院日数は三八日、通院期間は三・八か月、実通院日数は五一日をも要する頸部・腰部挫傷、右膝部挫傷等の傷害を受けたと認めることには多大の疑問があるというべきであって、結局、本件全証拠をもってしても、原告主張の損害を認めることができないというほかないというべきである。

三  以上の次第であるから、本訴においては、結局、原告が主張するところの本件事故による損害を認めることができないというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 深見玲子)

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