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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)1565号 判決 1990年12月28日

原告(反訴被告)

溝口運輸有限会社

被告(反訴原告)

日本梱包運輸倉庫株式会社

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金一二四万六九八六円及び内金一一四万六九八六円に対する昭和六三年二月二〇日から、内金一〇万円に対する同年六月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金三八九万〇六九二円及び内金三六四万〇六九二円に対する昭和六三年二月二〇日から、内金二五万円に対する同年八月一三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)及び被告(反訴原告)のその余の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴及び反訴を通じ、これを三分し、その二を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決の一項及び二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

被告(反訴原告。以下「被告」という。)は、原告(反訴被告)。以下「原告」という。)に対し、四四九万四四二〇円及び内四〇九万四四二〇円に対する昭和六三年二月二〇日から、内四〇万円に対する同年六月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告は、被告に対し、五六〇万〇九八九円及び内五二〇万〇九八九円に対する昭和六三年二月二〇日から、内四〇万円に対する同年八月一三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告及び被告が、左記一1の交通事故の発生を理由に、それぞれ相手方に対し、民法七〇九条、七一五条により損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 昭和六三年二月一九日午前二時三〇分過から三六分ころ

(二) 場所 新潟県柏崎市大字下大新田地内北陸自動車道下り線四〇一キロポスト付近(別紙図面参照)

(三) 原告車 訴外浅野清和(以下「浅野」という。)の運転する普通貨物自動車(名古屋一二あ六二〇)

(四) 被告車 訴外瀧澤管樹(以下「瀧澤」という。)の運転する大型貨物自動車(滋一一か三九六五)

(五) 態様 別紙図面記載のとおり、原告車が事故(以下「自損事故」という。)での位置に停止しているところへ、訴外中澤直輝(以下「中澤」という。)の運転する普通乗用自動車(以下「中澤車」という。)が<×>1地点で原告車の右後部に衝突した(以下「第一事故」という。)。第一事故により原告車はの位置に移動して停止しているところへ、被告車が<×>2地点で原告車の右後部に衝突した(以下「本件事故」という。)。

2(一)  被告は瀧澤の使用者であり、本件事故は同人が被告の業務の執行中に発生したものである。

(二)  原告は浅野の使用者であり、本件事故は同人が原告の業務の執行中に発生したものである。

二  争点

1  原・被告は、後記2・3の如く、互いに、本件事故は相手方の運転者の過失により発生したもので、自車の運転者には過失がないと主張するほか、本件事故による損害額を争つている。

2  原告の主張

浅野が自損事故を起こしたのは、当時本件道路は降雪、路面凍結等の状況にあつたうえに、圧雪された路面は随所に車両の轍による窪みを生じるという劣悪な状況であつたところへ、予期していなかつた突風が吹きつけたため、浅野は瞬時にして原告車の運転操作を奪われたことによるものであつて、浅野にとつて不可抗力的なものであつた。そして、第一事故は、中澤が高速度で前方不注視のまま走行した過失により発生したものであるところ、瀧澤も十分な車間距離又は完全な速度制禦等の措置をとることなく漫然と走行したため、原告車に衝突するに至つたものであるから、本件事故は、中澤と瀧澤の過失の競合により発生したものである。

3  被告の主張

第一事故は、浅野がハンドル、速度調整、ブレーキ操作等を確実にし、滑走による進路変化、横すべり等が発生しないように注意すべきにかかわらず、これを怠つたため、突然の強風によるバランス喪失と路面滑走に対処することができず、原告車を中央分離帯へ衝突させて路上に停止したことが原因となつて、中澤車が衝突したものであるところ、浅野は、直ちに夜間用停止表示器材の設置や非常信号用具による合図等の適切な措置をとつて、第一事故の発生を知らせなかつた過失により、本件事故を発生させるに至つたものである。

第三争点に対する判断

一  本件事故の発生状況及び責任

1  甲一二ないし一四、甲一五(ただし、後記措信しない部分を除く。)、甲一六(同)、甲一七ないし一九は、証人浅野清和(ただし、後記措信しない部分を除く。)及び同瀧澤管樹によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故現場の状況は、別紙図面記載のとおりである。

本件事故当時の本件道路の状況は、雪が降つていて路面は圧雪で凍結していたため、最高速度は時速五〇キロメートルに制限されていた。本件事故現場は直線で見とおしは良いが、地吹雪(路面の雪が横風で舞い上がる状態)が起きると、前方の見とおしはせいぜい一〇〇メートルから五〇メートル位になつた。

(二)(1) 浅野は、原告車を運転して本件道路の下り線の走行車線を時速約六〇キロメートルで走行し、本件事故現場付近にさしかかつた際、左真横からの突風にあおられたかあるいは轍にハンドルをとられたかして、原告車が少し右側に流れるようになつたので、左方にハンドルを切つたところ、原告車が左側に寄りすぎたので、あわててハンドルを右方に切つたところ、そのまま原告車の右前部がやや斜め向きの状態で中央分離帯のガードロープに衝突した。原告車はほぼそのままの角度で約一九・四メートル進行し、別紙図面の地点で停止した。

(2) 浅野は、衝突の衝撃で掛けていた眼鏡が落ちてしまい、これを拾おうとして足下を捜したが見付からなかつたので、ドアを開けてルームランプをつけようとしたところ、中澤車が別紙図面の位置で原告車の右後部に衝突してきた。原告車がガードロープに衝突後、第一事故が発生するまでの間はわずかな時間であつた。

(3) 浅野は、すぐ原告車を降りたが、原告車は、中澤車の衝突により別紙図面の位置に走行車線をふさぐような状態で停止した。また、中澤車は右図面の位置に逆向きの状態で停止した。

(4) 浅野は、中澤車の被害者が心配で車の方へ近付いて行き声を掛けようとしたところ、被告車が別紙図面<1>の位置で原告車の右後部に衝突した。浅野が原告車から降りてから本件事故が発生するまでの間はわずかな時間であつた。

(5) 浅野は、自損事故を起こしたのに、ハザートランプを点灯したり、夜間用停止表示器材の設置や非常信号用具による合図などの措置をとることによつて、原告車の停止を知らせるという処置をしなかつた。

(三) 中澤は、本件事故当時、中澤車を運転し、前照灯を下目にして追越車線を時速約八〇キロメートルの速度で走行し、本件事故現場付近にさしかかつた際、前方の見とおしは地吹雪のため約五〇メートル位であつたが、衝突地点の前方約五四メートルの地点に迫つたとき、進路上に黒い物体がぼうつと見えたが、そのままの速度で走行し、前方約二八メートルの距離に至つたとき、原告車が進路をふさぐ状態で停止しているのを認め、ハンドルを左方に切るとともに急ブレーキをかけて衝突をさけようとしたが間に合わなかつた。

(四) 瀧澤は、本件事故当時、被告車を運転して走行車線を時速約六〇キロメートルで走行し、本件事故現場付近にさしかかつた際、前方の見とおしは約七〇メートル位であつたが、衝突地点の前方約七〇メートルの地点に迫つたとき、進路上に何か物体がぼうつと見えたので、アクセルを離したが、そのまま進行し、前方約三五メートルの距離に至つたとき、原告車が進路をふさぐ状態で停止しているのを認め、急ブレーキをかけて衝突をさけようとしたが間に合わなかつた。

(五) 以上の事実が認められ、甲一五、甲一六の各記載及び証人浅野の証言中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

すなわち、被告は、浅野の自損事故と第一事故との間、また第一事故と本件事故との間には相当な時間差があり、特に本件事故は第一事故から数分以上経過して発生している旨主張するが、これは紙上計算による想定としては理解しえないわけではないが、関係車両が被告主張どおりの走行経過をたどつたとはにわかに断定し難いので、右主張は採用できない。

また、浅野がハサードランプを点灯したかどうかの点については、点灯したとする甲一五、甲一六中の各記載及び証人浅野の証言は、甲一七ないし一九の記載内容及び証人瀧澤の証言内容に照らしてたやすく措信し難いものがあり、浅野がハサードランプを点灯したとの心証を抱かせるに至らない。

2(一)  右認定の事実により検討するに、第一事故についていえば、車両の運転者としては、本件のような道路状況においては、制限速度を遵守するは勿論、ハンドル操作を確実にして進行し、ガードロープへ衝突するような事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、浅野は、これを怠つたために右衝突事故を起こしたところ、ハザートランプの点灯は勿論、速やかに夜間用停止表示器材を後方から進行してくる自動車の運転者が見えやすい位置に設置するほか、非常信号用具により合図するなどの措置をとつて、原告車の停止を知らせることにより衝突事故の発生を防止すべき注意義務があるのに(浅野がこれらの措置の一つでもとりうる余裕がなかつたとまでは認め難い。)、これを怠つたことと、後続車の運転者である中澤が漫然時速約八〇キロメートルの高速度で前方注視不十分のまま走行した過失が競合して発生したものであることが認められる。

(二)  次に本件事故についていえば、浅野は、自己の過失により第一事故を発生させ、さらに後続車との衝突事故を起こさせる危険を生じさせるに至つたのであるから、直ちに前記のような措置をとつて後続車に事故の発生を知らせる義務があつたのに(浅野が右措置の一つでもとりうる余裕がなかつたとまでは認め難いことは前同様である。)、これを怠つたため、本件事故が発生したものであることが認められるので、原告には過失があるといわなければならない。

しかし、他方、車両の運転者は、制限速度を遵守するは勿論、適宜速度を調節して、進路上に正体不明の障害物を発見したような場合には、その実体が何であるかを確かめ、その確認結果によつては直ちにこれとの衝突を回避できるような態勢をとつて走行すべき注意義務があるのに、瀧澤は、これを怠り、制限速度を上回る速度で走行していたうえに、衝突地点の約七〇メートル前方に迫つたときに物体を発見しながら、直ちに減速することもなく進行したため、前方約三五メートルの至近距離に迫つて原告車を発見したときはすでに遅く、衝突を回避しえなかつたものであることが認められる。そうすると、本件事故の発生については、瀧澤にも過失があると認められる。

二  損害額

1  原告 三八二万三二八九円

(一) 車両修理代(請求二八八万〇二三〇円) 二八五万九〇八〇円

甲三の一ないし七(成立についてはいずれも原告代表者溝口桂二)及び原告代表者によれば、原告は、本件事故による原告車の修理費相当額として、右金額の損害を被つたことが認められる。

(二) レツカー代(請求も同額) 三〇万三〇〇〇円

甲三の七、甲五(以上成立についてはいずれも原告代表者)によれば、原告は、原告車のレツカー代として、右金額を要したことが認められる。

(三) 休車損(請求九一万一一九〇円)六六万一二〇九円

甲六、甲七(以上成立についてはいずれも原告代表者)によれば、原告車の修理には約三〇日を要するとされたこと、この間の原告車の運行利益は、原告車の本件事故前三か月の売上額三四八万六三五〇円から経費一五〇万二七二三円(甲七に記載の費目のほか、運転手の三か月分の給料と推認しうる七五万円を含む。)を控除した金額を九〇日で割り、その三〇日分の六六万一二〇九円と認めるのが相当であるから、原告は、本件事故により右金額の休車損を被つたと認められる。

3,486,350-1,502,723=1,983,627

1,983,627÷90×30=661,209

2  被告 五二〇万〇九八九円

(一) 車両修理費(請求も同額) 三二四万六七八〇円

乙二の一、乙二の二の一ないし八、乙二の三(以上の成立についてはいずれも証人近藤益弘)、乙一七及び同証人によれば、被告は、被告車の修理費として、右金額を支出したことを認めることができる。

(二) レツカー代(請求も同額) 四四万八三〇〇円

乙三の一ないし六(以上の成立についてはいずれも証人近藤)、乙一七及び同証人によれば、被告は、被告車のレツカー代として、右金額を支出したことを認めることができる。

(三) 休車損(請求も同額) 九四万二〇四七円

乙四の一ないし三、乙五の一ないし三、乙六の一の一・二、乙六の一の三ないし五〇、乙六の二の一ないし二二、乙六の三の一ないし三四、乙七の一ないし三(以上の成立についてはいずれも証人近藤)、乙一七及び同証人によれば、被告車の修理には五九日間を要したこと、この間の被告車の運行利益は九四万二〇四七円を下らなかつたものと認められるので、被告は本件事故により右金額を休車損を被つたと認めるのが相当である。

(四) 諸費用(請求も同額) 五六万三八六二円

乙九、乙一一の一・二、乙一二の一ないし五、一五の一ないし三、乙一六(以上の成立についてはいずれも証人近藤)、乙八の一ないし四、乙一〇の一・二、乙一三の一・二、乙一四の一ないし五(乙一三、一四の各書込部分の成立については乙一七)、乙一七及び同証人によれば、被告は、その主張の本件道路支柱修理費ほかの諸費用として、右金額を支出したことが認められるので、これも本件事故による損害と認めるのが相当である。

三  過失相殺

前記双方の過失を対比すると、本件事故の発生についての過失割合は、原告が七割、被告が三割と認めるのが相当であるから、原告の前記損害合計三八二万三二八九円から七割を、被告の前記損害合計五二〇万〇九八九円から三割をそれぞれ減額すると、被告が原告に対し賠償すべき損害額は一一四万六九八六円となり、原告が被告に対し賠償すべき損害額は三六四万〇六九二円となる。

四  弁護士費用

1  原告(請求四〇万円) 一〇万円

原告が被告に対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は一〇万円と認めのが相当である。

2  被告(請求四〇万円) 二五万円

被告が原告に対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は二五万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上によれば、原告の請求は、一二四万六九八六円及び内一一四万六九八六円に対する本件事故当日である昭和六三年二月二〇日から、内一〇万円(弁護士費用)に対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな同年六月一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告の請求は、三八九万〇六九二円及び内三六四万〇六九二円に対する本件事故当日である昭和六三年二月二〇日から、内二五万円(弁護士費用)に対する反訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな同年八月一三日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 寺本榮一)

図面

<省略>