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名古屋地方裁判所 昭和62年(わ)560号 判決 1992年5月08日

本籍及び住居

愛知県尾西市東五城字若宮前一五番地の一

会社役員

小林正雄

昭和三年三月一〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官泉良治出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金三億円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金六〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、愛知県尾西市東五城字若宮前一五番地の一に居住し、名古屋市中村区名駅四丁目二二番一七号中央ビル二階等に営業所を設け、「ローンズユニー」の商号のもとに貸金業を営んでいたものであるが、所得税の確定申告に際しては、実際の所得金額よりも殊更過少な適宜の所得金額を計上するところの、いわゆる

「つまみ申告」を行なう方法により、所得税を免れようと企て、

第一  昭和五七年分の実際の所得金額が九億六二三四万四四〇八円あった(別紙一修正損益計算書参照)にもかかわらず、同五八年三月一四日、愛知県一宮市栄四丁目五番七号所在の所轄一宮税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の所得金額が三二三八万円であり、これに対する所得税額が一三七七万七六〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額七億〇七〇〇万五〇〇〇円と右申告税額との差額六億九三二二万七四〇〇円(別紙二脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五八年分の実際の所得金額が六億〇九〇五万七三三二円あった(別紙三修正損益計算書参照)にもかかわらず、同五九年三月一四日、前記一宮税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の所得金額が五一七三万円であり、これに対する所得税額が二五九一万六五〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四億四二〇一万三五〇〇円と右申告税額との差額四億一六〇九万七〇〇〇円(別紙四脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五九年分の実際の所得金額が八億六五七三万九七三八円あった(別紙五修正損益計算書参照)にもかかわらず、同六〇年三月一三日、前記一宮税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の所得金額が七三二二万八五〇〇円であり、これに対する所得税額が三九一八万二七〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、源泉徴収税額を差し引いた同年分の正規の所得税額五億九三二四万六八〇〇円と右申告税額との差額五億五四〇六万四一〇〇円(別紙六脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判事全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  公判調書中の被告人の供述部分(第四回ないし第一六回公判調書<特に利息収入金額につき>、第一七回公判調書<特に雑収入につき>)

一  被告人の検察官に対する供述調書六通(乙19ないし24)

一  被告人の収税官吏に対する質問てん末書一八通(乙1ないし18)

一  被告人作成の上申書(昭和六二年三月二〇日付)三通(昭和五七年分ないし同五九年分の利息収入金額についてのもの各一通、乙25ないし27)

一  証人小林行の当公判廷における供述

一  第一八回公判調書中の証人鈴木末廣、同岸素由の各供述部分

一  第一九回公判調書中の証人青木信博の供述部分

(以下、勘定科目毎に証拠を掲げる。)

一  押収してある返済金明細カード一一六綴(甲87ないし89、91ないし95、97ないし100、112、122、149、150、152、153、157ないし161、171、173ないし178、196、234、239、244、252ないし254、257、262、268、270、273、275ないし278、282、283、291、301、307、309、310、312、313、315、316、322、327ないし331、333、349、360、367ないし369、371、393、405、418、427、450、451、471、474、476、477、480ないし482、515ないし530、535、537ないし543、545、547ないし549、551、553ないし555、557、昭和六三年押第二七四号の二<以下、押収物については、「符の2」というように略記する。>、符の83、26、27ないし30、217、219ないし222、14、18、36、37、39、40、44ないし48、58ないし60、80ないし82、61、74、115、120、125、129ないし131、134、139、145、147、150、152ないし155、159、160、164、171、177、179、180、182、183、185、186、216、192ないし196、198、211、236、240ないし242、244、256、265、272、280、283、284、293、296、298、299、302ないし304、341ないし373)

(以上、雑収入金額につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(給料賃金等について、甲13)

一  押収してある給与算出資料一綴(甲561、符の374)、給与・源泉税店別表等一綴(甲562、符の375)

(以上、給与賃金につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(減価償却費等について、甲14)

一  押収してある総合受渡計算書等一綴(甲567、符の376)

一  収税官吏作成の査察官報告書(甲563)

一  友松正雄、光宗、春日井徳次郎作成の各回答書(甲564、568、565)

(以上、減価償却費につき)

一  被告人作成の上申書(昭和六一年二月一七日付、乙29)

一  収税官吏作成の査察官調査書(減価償却費等について、甲14)

(以上、除却費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(貸倒金について)四通(甲15ないし18)

一  押収してある営業管理資料等一綴(甲570、符の377)、返済金明細カード七綴(甲175ないし177、270、607、608、613、符の80ないし82、147、379、ないし381)、六〇年六月度岡崎店棚卸報告書等(甲80、符の6)、58年上期不良引落明細等一綴(甲580、符の378)、不良引落明細等一綴(甲581、符の447)

(以上、貸倒金につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(地代家賃等について、甲19)

一  定仙政次郎、中野英信、石橋元次、三浦泰廣、伊藤寿洋、熊沢一男、大村与治郎、村谷俊明、大橋緑、加藤征紘、佐竹恒實、岡川相子、天野連、五藤市二、川島一太、小林松男、中村房江、壁谷芳明、枝田幸代、中尾藤治郎、竹内光伸、加藤了史、北村宰爾、野口昭三作成の各回答書(甲628ないし632、634ないし638、640ないし644、646ないし648、650、652、653、655、657、658)

一  収税官吏作成の査察官報告書七通(甲633、639、645、649、651、654、656)

一  押収してある主要勘定口座取引明細書一綴(甲455、符の316)、使用済預金通帳一綴(甲660、符の382)

(以上、地代家賃につき)

一  愛知県一宮県税事務所長寺澤治作成の回答書(税の納付状況照会に対する回答、甲675)

一  収税官吏作成の査察官調査書(租税公課等について、甲22)

(以上、租税公課につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(租税公課等について、甲22)

一  大下実(二通)、菅沼建次、林広江(二通)、村上美代子、山村敏之、小酒井均、佐野宏、古川りう子、鬼頭守男、加藤武、服部兼次、鈴木節郎、青木博俊(二通)、榊原浩隆、江崎勇、佐久間たき子、磯島昌夫作成の各回答書(甲676ないし690、692ないし696)

一  収税官吏作成の査察官報告書(甲691)

一  押収してある領収証書等一綴(甲669、符の386)

(以上、水道光熱費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(地代家賃等について、甲19)

一  定盛茂、豊島三良、近藤利彦、古川幸美、森山寿久、加藤久雄、喜早信行、寺西保、小境和久、古川良平、河合正史、松下耕士、神道迪生、金子辰雄、中野正敏、尾関知、江藤亘二、高橋勝美、小木曽実、田渕俊雄、田口高志、小川勝之、鈴木好一、西脇朝秋、中村清、尾関利彦、安江弘二、小山典之作成の各回答書(甲697ないし724)

一  早川善雄、島信行作成の各証明書(甲880、881)

一  押収してある請求書等一綴(甲672、符の387)、領収証書等一綴(甲669、符の386)

(以上、通信費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(支払利息等について、甲20)

一  稲垣博之作成の証明書(甲882)

一  押収してある借用書一綴(甲884、符の388)

(以上、支払利息につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(地代家賃等について、甲19)

一  収税官吏作成の査察官報告書(甲691)

一  山田誠二、富田武雄、古沢芙佐江、小林豊、赤羽慶子、中浜良子、宝田洋、小曽根克達、岡崎弘子、萩間重次、長谷川泰子、森田真由美、伊藤圭子、江崎崇明、千田里美、川手英志、伊藤豊海、赤塚和夫、片桐繁俊、佐藤円三、山田鎰夫、小畑尚武、村瀬治雄作成の各回答書(甲725ないし727、729、730、732ないし742、745、748ないし753)

一  収税官吏作成の査察官報告書六通(甲728、731、743、744、746、747)

(以上、広告宣伝費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書二通(租税公課等について・甲22、減価償却費等について・甲14)

一  春日井徳次郎、山田しげみ、駒澤美都男作成の各回答書(甲565、754、755)

(修繕費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書二通(地代家賃等について・甲19、減価償却費等について・甲14)

一  浅野恒夫、友松正雄、佐藤千代子、氏永千鶴、水守常子作成の各回答書(甲756、564、759、757、758)

一  収税官吏作成の査察官報告書(甲563)

一  被告人作成の上申書(昭和六一年二月一七日付、乙29)

(以上、消耗品費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(福利厚生費等について、甲21)

一  愛知労働基準局長作成の回答書(甲760)

一  稲垣博之作成の証明書(甲761)

一  被告人作成の上申書(昭和六一年二月一七日付、乙29)

一  押収してある給与算出資料一綴(甲561、符の374)、給与・源泉税店別表等一綴(甲562、符の375)

(以上、福利厚生費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(地代家賃等について、甲19)

一  篠本貞雄、倉田茂男作成の各回答書(甲762、763)

(以上、調査費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(租税公課等について、甲22)

一  今井達雄、小田嶋誠、西山雅雄、八巻和江(一九通)、広村秀好作成の各回答書(甲764ないし766、768ないし787)

一  収税官吏作成の査察官報告書(甲767)

(以上、有線放送料につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(各店小口経費について、甲23)

一  押収してある経費明細五一綴(甲789ないし839、符の389ないし439)、経費出金伝票一綴(甲840、符の440)、振込金受取書一綴(甲841、符の441)、出金伝票二綴(甲842、843、符の442、443)、入金伝票一綴(甲845、符の444)

(以上、小口経費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(雑費について、甲24)

一  菅谷喜代子、松本明、尾山圭祐、春日部照子、井戸たか子、山路正雄、渡辺勝美、三輪尚、今尾千鶴、加藤裕康、森山長治、真栄平房昭、竹内生修、上野仁、山口光代、光宗作成の各回答書(甲847ないし853、855ないし860、864、865、568)

一  収税官吏作成の査察官報告書五通(甲854、861ないし863、866)

一  被告人作成の上申書(昭和六一年二月一七日付、乙29)

一  押収してある源泉徴収簿二綴(甲868、869、符の445、446)

(以上、経費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(支払利息等について、甲20)

一  被告人作成の上申書(昭和六一年二月一七日付、乙29)

(以上、旅費交通費、接待交際費につき)

判示第一の事実につき

一  一宮税務署長富田保男作成の証明書(昭和五七年分の確定申告書添付のもの、甲1)

(以上、昭和五七年分の申告内容等につき)

一  押収してある他店領収貸付ノート等一綴(甲74、符の3)、六〇年上期引落明細等一綴(甲76、符の4)、ノート二冊等一綴(甲78、符の5)、六〇年六月度岡崎店棚卸報告書等一綴(甲80、符の6)、営業報告書等一綴(甲82、符の7)、返済金明細カード二〇綴(甲85、87、89、91ないし94、103、105ないし107、109、111、112、114、115、121、122、126、130、符の1、2、26ないし30、8ないし20)、ノート一冊(甲133、符の21)、ノート等一綴(甲135、符の22)、来店客状況報告等一綴(甲137、符の23)、元帳一冊(甲139、符の31)

(以上、利息収入金額につき)

判示第二の事実につき

一  一宮税務署長富田保男作成の証明書(昭和五八年分の確定申告書添付のもの、甲2)

(以上、昭和五八年分の申告内容等につき)

一  押収してある他店領収貸付ノート等一綴(甲74、符の3)、計算書等四綴(甲141ないし144、符の24、25、32、33)、返済金明細カード二七三綴(甲146、148ないし171、173ないし178、88、111、180、89、185ないし221、223ないし244、248、112、250ないし285、289、291、292、295ないし297、299ないし317、320、87、324ないし335、337、338、340ないし343、345ないし353、322、85、91ないし100、103ないし107、109、111、112、114ないし118、120ないし124、126、127、129ないし131、355、357、358、360ないし362、366ないし371、376、378ないし380、383ないし387、389、391、393ないし396、399、401ないし405、409、411、412、414、415、417、418、420ないし427、442、449、450、451、符の34ないし60、80ないし82、61、83、13、62、26、63ないし79、84ないし125、126、14、127ないし187、188、2、189ないし216、1、27ないし30、217ないし222、8、223、9ないし16、224ないし227、17、18、228、229、19、230、231、20、232、233ないし284)、ノート二冊等一綴(甲78、符の5)、六〇年六月度岡崎店棚卸報告書等一綴(甲80、符の6)、営業報告書等一綴(甲82、符の7)、ノート一冊(甲133、符の21)、完済分アプローチリスト等一綴(甲407、符の311)、五八年度新瑞橋店資料等(甲432、符の312)、銀行日計帳一綴(甲434、符の383)、電話融資ノート等一綴(甲436、符の313)、ノートブック一綴(甲438、符の384)、新規ノート一冊(甲440、符の385)、金銭出納帳一冊(甲873、符の314)、主要勘定口座取引明細書一綴(甲455、符の316)

(以上、利息収入金額につき)

判示第三の事実につき

一  一宮税務署長富田保男作成の証明書(昭和五九年分の確定申告書添付のもの、甲3)

(以上、昭和五九年分の申告内容等につき)

一  押収してある他店領収貸付ノート等一綴(甲74、符の3)、棚卸報告書二二綴(甲457、458、460、461、491、459、490、492ないし497、499、510、498、500ないし502、504、506、508、符の319、320、322、323、325、321、324、326ないし331、333、340、332、334ないし339)、返済金明細カード二九綴(甲462、89、112、464ないし488、176、符の285、26、14、286ないし310、81)、ノート一冊(甲133、符の21)、完済分アプローチリスト等一綴(甲407、符の311)、電話融資ノート等一綴(甲436、符の313)、総勘定元帳一冊(甲874、符の315)、主要勘定口座取引明細書一綴(甲512、符の317)、振込金受領書等一綴(甲513、符の318)

(以上、利息収入金額につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(有価証券について、甲5)

一  江崎晴久作成の証明書(甲870)

(以上、利子所得につき)

(事実認定についての補足説明一)

一  当裁判所の認定した昭和五七年から昭和五九年までの各年分の所得金額は、検察官が平成三年一二月一一日(第三四回公判期日)訴因変更した所得金額と若干の差があるので、検察官が同日付で提出した意見書(所得金額の内訳説明について、以下「内訳意見書」という。)記載の各勘定科目の金額との関係で補足説明する。

1  昭和五七年分の所得金額について

<1> 内訳意見書の収入金額の明細中、岐阜店分の収入金額が二億八〇四九万九一一八円となっているが、第五回公判調査中の被告人の供述部分(二丁)、六〇年上期引落明細等一綴(甲76、昭和六三年押第二七四号の四)によれば、この金額は二億八〇四八万一〇〇〇円(検察官の昭和六三年一月二一日付冒頭陳述要旨添付別紙三の明細金額と同一)であると認められる。

<2> 内訳意見書の貸倒金額の明細中、元金値引金額が四一八万七八四〇円となっており、貸倒金として認容されているが、被告人の当公判廷における供述(第二一回公判期日、二丁)、返済金明細カード一綴(甲607、昭和六三年押第二七四号の三七九)、収税官吏作成の査察官調査書(貸倒金について、甲15)によれば、四日市店の会員番号一二八一の分の一万七七六二円は、元金の値引ではなく利息の値引であって、しかも利息収入に計上していないものであるから、貸倒金とするのは妥当ではないので元金値引金額から減算する。

2  昭和五八年分の所得金額について

<1> 内訳意見書の減価償却費の明細中、備品(ファクシミリ)の金額が一六四万八三二二円となっているが、被告人の当公判廷における供述(第二〇回公判期日、三丁)、収税官吏作成の査察官調査書(減価償却費等について、甲14)によれば、この金額は、一五〇万二〇一九円の間違いである。

<2> 内訳意見書の通信費の明細中、弁護士主張分の一六万〇五〇〇円は、検察官作成の平成三年三月二五日付意見書、検察官の釈明(第三三回公判期日)によれば、一五万九五〇〇円の誤記と認められる。

また、NTT豊橋支店長山田敏太作成の回答書(弁12)、日本電信電話株式会社千種支店長勝又祐三作成の回答書(電話設置に伴う電話工事費等関連工事費明細、弁16)によれば、豊川店の末端機費用の取付料二万九五〇〇円、金山店のビジネスホン取付料三万円の合計五万九五〇〇円は、日本電信電話株式会社(NTT)支店長からの各回答書、検察官作成の通信費に関する前記意見書により経費として認容される中村公園店の工事料(弁10)、松阪店のビジネスホン取付料(弁11)、太田川店、半田店のビジネスホン取付料(弁14)、安城店、刈谷店のビジネスホン取付料(弁15)と同じものと認められるから、これを通信費(経費)に加算する。

3  昭和五九年分の所得金額について

<1> 内訳意見書の収入金額の明細中、株式会社コスモからの利息収入金額は、一二万円となっており、検察官は、主要勘定口座取引明細書一綴(甲512、昭和六三年押第二七四号の三一七)によって九万三二〇〇円、振込金受領書等一綴(甲513、昭和六三年押第二七四号の三一八)によって二万六八〇〇円、合計一二万円の利息収入が認められると主張(検察官作成の冒陳補充書1、第一六回公判調書中の被告人の供述部分、一三丁ないし一七丁)とする。

甲512の中にあるコスモ取引明細書の、支払利息割引料欄中に、コスモからユニー宛に、ア昭和五九年二月一四日付で二万四八〇〇円、イ同年三月二日付で七二〇〇円、ウ同月二六日付で四万九二〇〇円、エ同年七月一六日付で一万二〇〇〇円をそれぞれ支払った旨の記載がある。

そして、東海銀行の受領印のあるユニー宛振込金受取書(甲513)には、これらと同じ日付で、オ振込金額五〇二万四四〇〇円、振込手数料四〇〇円、カ振込金額三〇〇万七六〇〇円、振込手数料四〇〇円、キ振込金額七〇四万八八〇〇円、振込手数料四〇〇円、ク振込金額二〇一万一六〇〇円、振込手数料四〇〇円の各記載がある。

これらを総合すると、オ、カ、キ、クの振込金額の端数の金額が利息収入額と考えられる。ただし、カについては、振込金額の端数の金額がイの金額を上回るので、イの金額の限度内で利息収入額と認める。

また、甲513には、昭和五九年一〇月一日付で振込金額一五二万六八〇〇円、振込手数料四〇〇円の記載があるが、甲512にはこれに対応する記載がなく、振込金額の端数の金額がコスモからの利息収入額であるか否かは不明であるので、これを認定しない。

<2> 内訳意見書では、各店小口経費として七三五万四二七六円を認容しているが、被告人の当公判廷における供述(第二四回公判調書、四丁)、収税官吏作成の査察官調査書(各店小口経費について、甲23)、経費明細二綴(甲819、昭和六三年押第二七四号の四一九、甲820、同押号の四二〇)によれば、岡崎店の小口経費は、一月分の金額訂正(一万円の減算)によっても合計金額には影響ないから、栄店、豊田店、豊橋店、津店の金額訂正分だけを考慮すれば足り、結局、各店小口経費としては、七三六万四二七六円を認容するべきである。

二  なお、以上により、昭和五八年分の所得金額については、検察官の主張する(訴因変更後の)所得金額を上回ることになるが、訴因調整勘定を設けてこの金額の範囲内で認定する。

(事実認定についての補足説明二)

一  弁護人は、被告人の各年分の収入金額を確定するためには、各年中に実際に支払われた利息収入金額から前年末の未収利息金額を差し引いた上、当該年末の未収利息金額を加えて算出するべきであると主張する。そして、未収利息について何らの立証も行わなかったとして検察官の訴訟行為を非難し、未収利息の計算をすれば、本件の対象期間の各年分の所得金額、ほ脱税額は、起訴された金額よりも減少する蓋然性が高いから、本件公訴事実については、結局その立証がないものとして被告人を無罪とするべきであるとする。

二  検察官は、弁護人の主張する収入金額の確定方法については、これを正しいものとするが、証拠上の制約から、本件においては各年中に実際に支払われた利息収入金額の立証(現金主義による立証)によって各年分の利息収入金額の確定をしなければならなかったものであり、本件の対象期間においては、当該年末の未収利息金額は前年末の未収利息金額を下回ることはないから、このような立証方法によっても被告人に不利益となることはないと主張する。

三  課税の対象となる所得の計算上総収入金額に算入すべき金額は、「収入すべき金額」(所得税法三六条一項)であり、これは、まだ収入がなくても「収入すべき権利が確定した金額」のことであると解され、一般に、金銭消費貸借上の利息、損害金(利息制限法による制限内のもの)については、その履行期が到来すれば、現実には未収の状態にあるとしても、課税の対象となる所得を構成すると解される。

そして、本件の場合、各年分の収入金額を確定するためには、各年中に実際に支払われた利息収入金額から前年末の未収利息金額を差し引いた上、当該年末の未収利息を加えることによって算出するべきであることは弁護人指摘のとおりであり、しかも、未収利息の計算にあたっては、約定利息が利息制限法による制限利率をこえるときは、この制限利率に従った上、これをこえて支払われた部分は順次元本に充当し、この元本を基礎として計算するほか、利息制限法による制限利率内か否かについてもこの元本が基準となる。

四  本件においては、顧客の数が膨大である上、被告人が利息制限法による制限の内外によって収入を区分けし、正確な記帳をしていないことはもとより、各店舗から送られてきた顧客の返済金明細カード、現金出納帳などの証拠書類の相当部分を廃棄していたことから、検察官は、未収利息の計算をすることなく、現金主義による立証をしているが、当該年末の未収利息金額が前年末の未収利息金額を下回ることがなければ、被告人にとって不利益となることはないから、この点について検討することとする。

五  前掲証拠によれば以下の事実が認められる。

1  被告人の事業は、いわゆる「サラリーマン金融業」であって、給与所得者等の個人に対して数万円ないし数十万円位の金員を貸し付け、月一回の割合による所定の分割回数で利息等を含めて貸付金の返済を受けるのがその通常の形態である。約定利息の利率は、無担保の通常の貸付の場合、貸金業の規制等に関する法律などの規制法が施行される以前(昭和五八年一〇月以前)は、日歩一五銭(貸付金額が二〇万円まで)又は日歩一三銭(貸付金額が二一万円以上五〇万円まで)であり、それ以後は、日歩一三銭(貸付金額が二〇万円まで)又は日歩一一銭(貸付金額が二一万円以上五〇万円まで)というものであった。

2  各年中に実際に支払われた利息収入金額(現金利息収入金額)は、昭和五七年が一五億六三一七万円余、同五八年が一五億九七五八万円余、同五九年が一八億七九九二万円余と増加しているところ、店舗数も、昭和五六年末は九店舗であったが、同五七年末に一四店舗、同五八年末に二七店舗と増加している。(ただし、同五九年中に各務原店、蒲郡店を廃止したので同年末には二五店舗となっている。)

3  そして、新店舗の関係で現金利息収入金額の増減をみると、昭和五七年中に新設された五店舗は、いずれも同五八年、同五九年は前年に比べて現金利息収入金額を飛躍的に増加させており、昭和五八年に新設された一三店舗中現金利息収入金額が一応確定できた九店舗も、いずれも同五九年は前年に比べて現金利息収入金額を飛躍的に増加させている。

4  すなわち、昭和五七年中に新設された五店舗の現金利息収入金額は、同年において一六二一万円余(全体の一・〇パーセント余)であったが、同五八年において一億七七八一万円余(全体の一一・一パーセント余)同五九年において二億七〇五二万円余(全体の一四・三パーセント余)と増加し、同五八年中に新設された前記の九店舗のそれは、同年において一億三五〇四万円余(全体の八・四パーセント余)であったが、同五九年において三億〇〇六一万円余(全体の一五・九パーセント余)と増加している。

5  貸倒金の増減についてみると、昭和五七年は九四〇七万円余であるが、同五八年は二億一五九六万円余、同五九年は二億五二五三万円余となっており、増加している。

六  被告人の供述によると、昭和五八年中は返済のあった貸倒金元金や利息金のほとんどが営業資金として新規の貸付に回っており、店舗数の増加もあって、同年末の貸倒債権残高は最も多かったが、同五九年になると、貸付の増加も思わしくなく、返済される金が営業資金として回転しなくなったので、同年末の貸倒債権残高は同五八年に比べると少なくなっていると思う、現金利息収入金額も昭和五八年が最も多かった記憶で、昭和五七年は店舗数も少なく、同五八年、同五九年に比べて現金利息収入金額も少ないはずである(被告人の収税官吏に対する質問てん末書・昭和六一年一月二二日付・乙14)というのであり、また、昭和五八年分の現金利息収入金額については、返済金明細カードで確定した店舗がかなりあり、同カードが廃棄されていたことなどから、昭和五八年分の現金利息収入金額はかなり控えめな金額と認められる。

七  以上によれば、昭和五六年から同五八年にかけて、現金利息収入金額、貸付債権残高は増加しており、特に新規店舗の現金利息収入金額が飛躍的に増加し、全体に占める割合も高くなっていると認められる。昭和五八年から同五九年にかけて、現金利息収入金額の増減は、昭和五八年の金額がかなり控えめな金額と認められるところから、やや不明な部分があるが、前年と同様に新規店舗の現金利息収入金額が飛躍的に増加し、昭和五七年以降新設の新規店舗の収入の全体に占める割合が更に高くなっていること、認定した現金利息収入金額の比較などから、やや増加しているが、少なくともあまり極端な増減のない状態と認めるのが相当であるが、貸付債権残高自体は、前記のとおり、昭和五八年から同五九年にかけて約定利息の利率が下げられている上、昭和五七年から同五九年にかけて事故率が増え、貸倒金も増大しているなど不良債権が増えていると認められるにもかかわらず、現金利息収入がやや増加しているか、少なくともあまり極端な増減のない状態とみられることから、前年を下回ることはないものと認めるのが相当である。

そうすると、未収利息の点についてみても、昭和五六年末から同五九年末までの間の未収利息は、超過利息分の元金組入の計算を考慮しても、逐年増加していると認めるのが相当であり、現金主義による本件の立証によって計算された各年分の利息収入金額は被告人にとって少なくとも不利益とはならないものと認めることができる。

よって、弁護人の主張は理由がない。

(事実認定についての補足説明三)

一  弁護人は被告人の妻小林行から借り入れた事業資金に対する支払利息について、被告人の所得を計算する上で、これを必要経費に算入するべきであると主張する。

1  そして、被告人も、昭和四六年のころ、貸金業を始めるにあたり、自分の手持資金のほか妻から一億五〇〇〇万円位の金を借りて事業資金としたが、それについて利息を支払う約束をし、毎年、年の初めに前年の利息分を計算して元金に組み入れ、その都度借用証書を書き換えて、昭和五九年一月一日現在でその額は五億九二八三万六七一五円になっていたが、同年六月ころまでに元利金全額を返済したと説明(被告人の当公判廷における供述・第二九回公判期日、被告人の収税官吏に対する質問てん末書・昭和六〇年一〇月一一日付・乙9)する。

2  しかし、所得税法五六条によれば、被告人と生計を一にする配偶者が被告人の営む事業所得を生ずべき事業のために金銭を貸し付け、その利息の支払を受けたとしても、この金額については、被告人の事業所得の計算上必要経費に算入されないことが明らかであり、証人小林行の当公判廷における供述、被告人の検察官に対する供述調書(昭和六一年一一月一二日付・乙19)、被告人の戸籍謄本(乙28)によれば、小林行が被告人と生計を一にする配偶者であることが認められるから、弁護人の主張は理由がない。

3  弁護人は、

<1> 所得税法五六条は、給与所得ないしこれに準ずる所得となる金員を配偶者らが受ける場合に限定されるものと解するのが相当であり、

<2> 本件のような支払利息まで必要経費に算入できない旨の規定であれば、憲法一三条、一四条一項に違反する、

と主張する。

4  しかし、所得税法五六条についての弁護人の解釈は独自の見解であり採用できない。

また、所得税法五六条については、

<1> 我が国においては、いまだ一般に家族の間において給与等対価を支払う慣行がなく、事業から生ずる所得は通常世帯主が支配しているとみるのが実情に即していること、

<2> 給与等対価の支払という形式にとらわれてこれを一般に必要経費と認めることとすると、家族間の取りきめによる恣意的な所得分割を許すこととなり、税負担のアンバランスをもたらす結果となること、

<3> 我が国では記帳習慣がまだ一般的とはなっておらず、企業と会計との区分が必ずしもはっきりしていないところから、給与等対価の支払の事実の確認に困難が伴うこと、

などがその立法の趣旨であるとされており、本件の場合(貸付金の支払利息)においても、特に<2>、<3>の問題点は無視できないのであって、これを規制する必要性、合理性も認められる上、これによる不都合があるとしてもそれほどのものではないから、この規定が憲法一三条、一四条一項に違反するとの主張も理由がない。

二  弁護人は、平成二年一〇月二二日付の弁護人の冒頭陳述書添付貸倒損失一覧表に記載された一一件、合計金額二七九万一〇〇〇円を、昭和五九年分に貸倒金に算入するべきであると主張する。

1  被告人の当公判廷における供述(第二六回、第二八回公判期日)、不良引落明細等一綴(甲581、昭和六三年押二七四号の四四七)、返済金明細カード一綴(甲464、昭和六三年押二七四号の二八六)、豊川店店長鈴木彰仁作成の報告書(弁2)、安城店店長光武孝則作成の報告書(弁3)、名古屋地方裁判所書記官作成の証明書(弁護士山路正雄作成の「証明願い」と題する書面中のもの、弁4)、豊橋店店長鈴木彰仁作成の報告書(弁5)、豊田店店長内藤純二作成の報告書(弁6)によれば、以下のとおりである。

<1> 田中久枝、田中秀和については、昭和五九年一二月二八日に元利金の一部について支払があったが、その後支払がなかった、

<2> 小川光男については、昭和五九年一二月一日に三回目の利息支払があった後支払がなかった、

<3> 坂野栄については、昭和五九年一一月五日に元利金の一部について支払があったが、その後支払がなかった、

<4> 小栗王頼については、昭和五九年一二月五日に元利金の一部について支払があったが、その後支払がなかった、

<5> 飛田勲については、昭和五九年一二月四日に元利金の一部について支払があったが、その後支払がなかった、

<6> 野上健治については、昭和五九年一二月一〇日に元利金の一部について支払があったが、その後支払がなかった、

<7> 大道弘については、昭和五九年一一月一四日に元利金の一部について支払があったが、その後支払がなかった、

<8> 今井保昭については、昭和五九年一二月一二日に元利金の一部について支払があったが、その後支払がなかった、

という状態であったため、被告人の店の従業員がそれぞれ調査したところ、飛田勲については、昭和五九年一二月一七日に破産宣告の申立があり、昭和六〇年二月四日に破産宣告があったほかは、いずれも行方不明となっていることが判明したので、昭和六〇年の上期にこれらの債権を不良債権として扱うことになり、これらは昭和六〇年上期不良引落明細に載せられている。

2  また、弁護人の主張によれば、松井信行(春日井店)は、昭和五九年一二月三一日に最後の入金があった後は行方不明であり、佐藤八重子(中村公園店)は、昭和五九年四月二一日に貸し付けたが、その後一回の入金もなく行方不明であるというが、これらも、同様に昭和六〇年上期不良引落明細に載せられている。

3  以上によれば、弁護人が昭和五九年分の貸倒金に算入するべきであると主張する一一件の債権については、被告人が昭和五九年中に債権を放棄したといえないことはもとより、同年中に回収する見込みの全くないことが客観的に確実になったともいえないことは明らかであり、いずれも昭和五九年分の貸倒金と認めることはできない。

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑を併科し、かつ、各罪の罰金につき情状により同法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年六月及び罰金三億円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金六〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人に負担させることとする。

(量刑の事情)

一  本件は、個人で貸金業を営んでいた被告人が、昭和五七年から同五九年までの三年間の所得税について、合計一六億六〇〇〇万円をほ脱していたというものであり、これまでの個人所得税の巨額脱税事犯と比較しても、その脱税額は極めて多い。

被告人は、昭和三〇年ころから織物業を始め、この事業を廃業した後の昭和四六年ころから、「ユニー商事」、「ローンズユニー」の商号をもとに、個人で貸金業を営んでいたものであり、その所得のほぼ全部が利息収入等を内容とする事業所得であるが、本件の対象期間において継続的に多額の所得を得ていたにもかかわらず、この所得の大部分について所得税を免れていたものである。すなわち、昭和五七年には九億六〇〇〇万円余の所得に対し申告所得額が三二三八万円、同五八年には六億円余の所得に対し申告所得額が五一七三万円、同五九年には八億六〇〇〇万円余の所得に対し申告所得額が七三二二万八五〇〇円となっており、ほ脱税率をみても、昭和五七年は九八パーセント余、同五八年は九四パーセント余、同五九年は九三パーセント余で、三年間の通算のほ脱税率でも九五パーセントを上回っている。量刑にあたっては、以上の諸点が最も重視されるべきところである。

二  被告人は、脱税の動機として、事業を拡大していくための営業資金(貸付資金)を確保するためであると述べており、脱税によって留保した資金は、営業用貸付資金、新規店舗の借入保証金、マンション購入資金、中期国債ファンドの買付資金に充てていたと認められる。貸金業を営んでいた被告人が貸付資金を確保して事業を拡大したいと考えたことは理解し得るが、脱税の動機として量刑上斟酌するべきものがあるとは到底いえない。

弁護人は、昭和五七年、五八年当時の所得税の最高税率が七五パーセントであり、昭和五九年においても七〇パーセントと高率であることを指摘し、現在の所得税の最高税率が五〇パーセントであることとの比較において、本件の対象期間の所得税の税率は違法ないし不当であるとし、納税を回避しようとした動機との関係でこれを量刑上考慮すべき事情として主張する。しかし、最高税率が引き下げられたことをもって、従前の税率の妥当性をあれこれ言うことはできないのみならず、被告人は、さきに指摘したとおり、事業を拡大していくための営業資金を確保するため、所得の大部分について所得税を免れていたものであるから、脱税の動機、結果との関係で、弁護人主張の点が被告人に必ずしも当てはまるものとはいえず、特段考慮すべき事情とすることはできない。

三  被告人は愛知県、三重県、岐阜県などのほか神奈川県にも店舗を拡大し、昭和五九年において最大二七店舗で事業を営んでいたが、各店舗から被告人のいわゆる駅前店(本店)宛に、金の出入りと内訳を記載した日報、日計表を、毎日ファクシミリで送付させていたほか、貸付残高、利息収入などを記載した棚卸報告書も毎月送付させ、全店舗の収支を常に把握して事業を自ら統括していた。したがって、利息収入額についてはほぼ正確に把握していたが、所得税を免れるため、実際の所得金額よりも殊更過少な適宜の金額を申告書に記載していたものである。ほ脱の態様としては、いわゆる「つまみ申告」による脱税であって、事前の所得秘匿工作を殊更伴うものではないが、結果として申告納税制度を軽視する態度であり、悪質である。

さらに、被告人は、脱税の証拠の隠滅を図ったものとまではいえないが、各店舗から送られてきた顧客の返済金明細カード、現金出納帳などの証拠書類を、半年毎に焼却場に運び込んで廃棄していたもので、これが結果として利息収入金額を明らかにするについて支障となったことは否定できず、納税に対する意識の薄さの一端を示すものである。

四  しかし、さきに述べたとおり、本件の動機、脱税によって留保した資金の使途をみても、被告人は事業の拡大を意図して、資金の多くも事業に注ぎ込んでいたものと認められ、個人営業の形態において事業の拡大は個人資産の増大につながるとはいえ、現実に個人で贅沢な生活をしたり、そのために財産を蓄積していたというものに比べて悪質とはいえないこと、ほ脱の態様としても、架空経費の計上、売上除外のための二重帳簿の作成といった方策に比べて悪質とはいえないこと、本件対象期間の所得税本税、個人事業税、住民税についてはすでに納付済みであり、重加算税、延滞税については未納分が残っている(平成三年三月三一日現在で六億六四五四万円)ものの、毎月四〇〇万円ずつ納付を継続していること、被告人は、査察を受けた後に事業を法人化し、税理士に経理事務を依頼するなどして経理態勢の改善をしていること、被告人には前科、前歴がないこと、被告人は事業の中心であり、その存在は会社にとって重要であると認められることなどの被告人にとって有利に考慮すべき事情も認められる。

五  以上のとおり、本件において、ほ脱税額、ほ脱税率がいずれも極めて巨額かつ高率であることを考慮すると、被告人にとって有利に考慮すべき事情を十分に斟酌しても、その刑事責任は重く、懲役刑について執行を猶予するべき事案ではないことはもとより、その刑期及び罰金金額についても、これまでのほ脱犯の量刑などに鑑み、主文のとおりの刑は免れないものと言わざるを得ない。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役四年及び罰金五億円)

(弁護人小松正富、同豊島時夫、同山路正雄各出頭)

(裁判長裁判官 小島裕史 裁判官 石山容示 裁判官松原里美は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 小島裕史)

別紙一 修正損益計算書

<省略>

別紙二

<省略>

税額の計算

<省略>

別紙三 修正損益計算書

<省略>

別紙四

<省略>

税額の計算

<省略>

別紙五 修正損益計算書

<省略>

別紙六

<省略>

税額の計算

<省略>

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