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名古屋地方裁判所 昭和58年(行ウ)26号 判決 1990年12月21日

名古屋市昭和区白金三丁目九番五号

原告

合資会社伊藤メッキ工業所

右代表者代表社員

伊藤守一

右訴訟代理人弁護士

清田信栄

名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地の四

被告

昭和税務署長 越智崇好

右訴訟代理人弁護士

久野忠志

右指定代理人

三輪富士雄

金川裕充

間瀬暢宏

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、昭和五七年四月二六日付でした以下の各処分(ただし、いずれも昭和五八年七月二七日付でされた別紙一ないし五の各7欄に記載の各審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件課税処分」という。)を取り消す。

一  原告の昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までの事業年度分(以下「昭和五二年三月期分」という。)の法人税に係る別紙一の3欄記載の再更正のうち総所得金額が別紙一の1―4の更正欄に記載の金額を超える部分及び重加算税賦課決定。

二  原告の昭和五二年四月一日から同五三年三月三一日までの事業年度分(以下「昭和五三年三月期分」という。)の法人税に係る別紙二の3欄記載の再更正のうち総所得金額が別紙二の1-4の更正欄に記載の金額を超える部分及び重加算税賦課決定。

三  原告の昭和五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度分(以下「昭和五四年三月期分」という。)の法人税に係る別紙三の3欄記載の更正のうち総所得金額が別紙三の1-2の修正申告欄に記載の金額を超える部分及び重加算税賦課決定。

四  原告の昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度分(以下「昭和五五年三月期分」という。)の法人税にかかる別紙四の3欄記載の再更正のうち総所得金額が別紙四の1-3の更正欄に記載の金額を超える部分及び重加算税賦課決定。

五  原告の昭和五四年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度分(以下「昭和五六年三月期分」という。)の法人税にかかる別紙五の3欄記載の再更正のうち総所得金額が別紙五の1の確定申告欄に記載の金額を超える部分及び重加算税賦課決定。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告が原告に対して昭和五七年四月二六日付で行った昭和五二年三月期分から同五六年三月分(以下、これらを併せて「係争各期」という。)の法人税に係る本件課税処分が違法な行政処分であるとして、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  本件課税処分に至る経緯等

原告は、金、亜鉛等の電気メッキ業を営む会社であるが、係争各期の法人税の確定申告から本件課税処分、異議決定、審査裁決に至るまでの経緯は、別紙一ないし五に記載のとおりである。

2  原告の係争各期における税額等の基礎となるべき事実

(一) 原処分直前の所得金額

別紙一、同二及び同四の各3欄記載の各再更正、ならびに別紙三及び同五の各3欄記載の各更正(以下「原処分」という。)の直前における係争各期の原告の所得金額は、次のとおり(別表一ないし五の「原処分直前の所得金額」欄記載の金額)であった。

昭和五二年三月期 六七〇万三九七六円

昭和五三年三月期 五五四万一一二六円

昭和五四年三月期 七二八万一〇一三円

昭和五五年三月期 七四万二〇四〇円

昭和五六年三月期 △六七〇万三五九九円

(二) 益金の額に加算するもの

原告には、以下のとおり、係争各期の益金に加算すべき計上漏れの金額があり、その内訳は、後記(1)の売上除外及び(2)の簿外預貯金に対する受取利息である(別表一ないし五の「被告主張額」の「益金加算額」欄に記載の金額)。

昭和五二年三月期 一五五七万〇〇八九円

昭和五三年三月期 二五八九万九五九四円

昭和五四年三月期 二八五四万四二八八円

昭和五五年三月期 二五四〇万三二一九円

昭和五六年三月期 二三九七万四四八五円

(1) 売上除外

原告が係争各期に公表帳簿に記載しなかった売上除外の金額は次のとおりであり(別表一ないし五の「被告主張額」の「売上除外」欄に記載の金額)、その明細は、別表六に記載のとおりである。

昭和五二年三月期 一五三七万六二三一円

昭和五三年三月期 二五五〇万二六一四円

昭和五四年三月期 二七七四万五五七一円

昭和五五年三月期 二三八七万三七六三円

昭和五六年三月期 二二〇七万一八四二円

(2) 簿外預貯金に対する受取利息

原告が係争各期に右売上除外に係る入金額を預け入れていた預貯金で、公表帳簿に記載しなかったもの(以下「簿外預貯金」という。)の受取利息の金額は次のとおり(別表一ないし五の「被告主張額」の「受取利息」欄に記載の金額)であり、その明細は、別表七に記載のとおりである。

昭和五二年三月期 一九万三八五八円

昭和五三年三月期 三九万六九八〇円

昭和五四年三月期 七九万八七一七円

昭和五五年三月期 一五二万九四五六円

昭和五六年三月期 一九〇万二六四三円

(三) 損金の類に加算するもの

係争各期の原告の損金の額に加算すべき計上漏れの金額について、少なくとも後記(1)に記載のとおりの簿外費用があり、また、簿外費用の総額が(1)に記載のとおりのものだけであることを前提とした場合に、損金に加算すべき未納事業税の額は(2)のとおりであって(別表一ないし五の「被告主張額」の「損金加算額」欄に記載の金額)この場合には、原告の係争各期の損金の額に加算するべき計上漏れの金額の合計額は、以下のとおりとなる。

昭和五二年三月期 一六六万一九四八円

昭和五三年三月期 四三九万〇四三五円

昭和五四年三月期 五〇五万〇一七三円

昭和五五年三月期 六〇八万〇二九〇円

昭和五六年三月期 四二四万五六七〇円

(1) 簿外費用

原告が、異議申立て及び審査請求において、前記の売上除外に対応する仕入れ、雑仕入れ、消耗品費、人件費、交際費及び外注費で、公表帳簿に記載しなかった簿外費用がある旨主張したもののうち、被告がこれまでの調査により確認し、損金として認容した係争各期の金額は次のとおり(別表二ないし五の「被告主張額」の「仕入」欄に記載の金額、別表一については同欄の金額と「被告主張額」の「消耗品費」欄に記載の金額を計上した金額)であり、その明細は別表八に記載のとおりであって、原告には、係争各期につき少なくとも以下の簿外費用が存在した。

昭和五二年三月期 一六六万一九四八円

(一六一万九九四八円と四万二〇〇〇円の合計額)

昭和五三年三月期 二五五万七五九五円

昭和五四年三月期 二二七万八三八三円

昭和五五年三月期 二九九万〇七七〇円

昭和五六年三月期 二〇三万〇一〇〇円

(2) 未納事業税

簿外費用が(1)の金額であることを前提にした場合、係争各期の損金の額に加算すべき未納事業税の額は以下のとおり(別表二ないし五の「被告主張額」の「未納事業税」欄に記載の金額)算定される。なお、その計算根拠は、別表九に記載のとおりである。

昭和五二年三月期 〇円

昭和五三年三月期 一八三万二八四〇円

昭和五四年三月期 二七七万一七九〇円

昭和五五年三月期 三〇八万九五二〇円

昭和五六年三月期 二二一万五五七〇円

二  争点

本件は、前記のとおり、本件課税処分の適法性が争われた事案であるが、前記争いのない事実2(三)(1)に記載のものの他に簿外費用等が存在し、その合計金額及び内訳は別表一〇に記載のとおりであるとの原告主張事実が認められるか否かが争点であって、この点について、原告の主張は、以下のとおりである。

1  原告には、係争各期の損金に加算すべき経費として、被告が認容する金額を超える簿外費用が存在したが、このうち、金地金の仕入れのために支出した金額は別表一〇の「金地金」の欄に、ニッケル板を含めた雑仕入のために支出した金額は同表の「雑仕入(ニッケル板試薬)」の欄に、治具を含めた消耗品のために支出した金額は同表の「消耗品費(治具等)」の欄に、それぞれ記載したとおりである。原告は、金地金、ニッケル板及び治具(以下「金地金等」という。)については、仕入れ値が安いと信じて、氏名不詳の商人から購入して仕入れた。そのため、領収書はないが、取引の都度、その仕入れた金額をノート(甲六の一ないし六。以下「仕入れノート」という。)に記帳した。

なお、原告が除外したのは金メッキ製品の売上げであるところ、原告は、仕上げをよくするため、金メッキの材料としてシアン化金カリウムだけでなく金地金をも使用しており、現に係争各期後には金地金を購入したことを示す領収書(甲一三ないし三〇の各一、二)があり、被告自身これらについては経費として認める扱いをしているのであるから、被告が本件処分において金地金を全く経費として認めなかったのは不当である。

2  シアン化金カリウム及び硫酸ロジウムについても、別表一〇の該当欄記載の金額を支出した。

3  交際費及び人件費は、支出の性質上領収書等が得られなかったので、実績に基づき、売上高に対する一定比率の金額を、必要最低限必要な支出をしたものとして計上した。

4  外注費についても、別表一〇の該当欄記載の金額を支出した。これを裏付ける領収書(乙三ないし五)もある。

第三争点に対する判断

一  原告主張の簿外費用等の有無について

1  金地金等について

(一) 主張に沿う証拠の信憑性

金地金等についての原告の主張に沿う証拠としては、仕入れノート、証人加藤の証言及び原告代表者の供述があるが、以下の理由により、右証拠はいずれも信用するに足りない。

(1) 取引形態自体の不自然さ

原告代表者は、原告が、係争各期まで一〇年以上にわたって、名前も住所も電話番号も不明のいわゆる闇ルートの商人から金地金等を購入した旨供述している。しかし、このような取引では、原告の方から同商人に連絡のとりようがなく、事業の継続に必要な材料の仕入れについて、商人の側からの連絡を待つしかないことになるが、このような取引形態が一〇年以上にわたって継続したということ自体、取引上の経験則に反するし、また、金メッキ製品の製造を始めると原告から連絡もしないのに右商人がどこからともなく現れ、そして、係争各期後は右商人からの仕入れが全くなくなったとの原告代表者の供述内容とあいまって、極めて不自然であって、信用し難いものである。

(2) 闇ルートの商人から仕入れた理由に関する不自然さ

原告代表者は、右のような素性不明の商人から金地金を購入した理由として、仕入れ値が安いと思ったことをあげているが、原告が係争各期の原告主張の金地金の仕入れ値を裏付けるものとして提出している仕入ノート(甲六の二、三)と田中貴金属工業株式会社発行の「金価格の資料」(乙二)の金地金一グラムあたりの価格を比較すると別表一六に記載のとおりとなる。これによると、原告主張の金地金の購入価格が乙二の平均小売価格を上回る場合が五三回中三〇回あり、乙二の最高小売価格を上回る場合も五三回中一九回も存在するのであって、原告の仕入れ値は一般的取引価格より安いとはいえないことになる。

もっとも、原告代表者は、金地金の単価については知識がなく、商人のいう金額が一般的取引価格より安いと信じていた旨供述するが、乙一四の一ないし七によれば、遅くとも昭和五一年以後金の一般的取引価格が中日新聞紙上に掲載されていたことが認められるところ、これらの記事に気付かず、商人の言い値で金地金を購入していたとする原告代表者の供述は、金地金の価格につき通常人以上の知識を有していたはずの金メッキの専門業者の供述としては極めて不自然である上、原告代表者は、当初、「係争各期の当時新聞紙上には金価格の記事は掲載されておらず、掲載されるようになったのは昭和五七年ころからである」旨供述し(第一四回口頭弁論調書に添付の原告代表者調書一五丁)、一般の金価格を知ろうにも知る術がなかったとの供述をしておきながら、後になって、乙一四の一ないし七を示されると、「新聞に掲載されていたという事実自体知らなかった」旨供述を変更しているのであって(第一六回口頭弁論調書に添付の原告代表者調書一七丁)、これらの事情を総合すると、結局原告が闇ルートの商人から金地金を仕入れた理由についての原告代表者の供述部分は信用できない。

(3) 金地金等の購入資金の出所に関する不自然さ

原告代表者は、原告は素性不明の商人から金地金等を購入していたと供述するのであるから、当然その代金を購入の都度現金で支払っていたはずであるが、右購入資金の出所を裏付けるに足りる預金通帳等の証拠はない。もっとも、この点につき、証人加藤は、原告代表者の家族の収入から現金を支出した旨、原告代表者から聞いたと証言するが、証拠(乙六の四の一、二、乙七の四の一、二、乙八の四の一、二、乙九の四の一、二、乙一〇の四の一、二、乙一一、証人鳥居)によれば、係争各期の原告の確定申告に係る家族の収入の合計額は、原告主張の簿外経費の額を下回っていることが認められるのであって、証人加藤の証言も、購入資金の出所を裏付けるに足りない。

(4) 仕入れノートの不自然さ

金地金等について原告が仕入れ値を記帳したとする仕入れノートにも、以下のような不自然な点があり、原告代表者が供述するように、金地金等の仕入れの都度記帳した資料であると信用することができない。

a 別表一〇の原告主張の金額と合致するのは金地金についての部分(甲六の二、三)についてのみであって、金地金と同様にして記載されたはずのニッケル板及び治具の仕入れ値については、別表一〇記載の金額と合致せず、特に治具については、甲六の五に記載の金額が別表一〇の「消耗品費(治具等)」の欄に記載された金額を上回っているなど、別表一〇の金額との関連性が不明である。

b 昭和五〇年から同五七年までの仕入れの都度記帳したノートにしては、金地金の仕入れについて年を特定する記載がないなど、全体に極めて簡単な記載である。また、シアン化金カリウム及び硫酸ロジウムの仕入れについては一切記帳されていない。

c 証拠(乙一、原告代表者)によれば、原告は、昭和五〇年三月期から同五四年三月期においても、売上除外を行い、税務調査を受けているが、その際には、昭和五〇年から記帳しているはずの仕入れノートを提出せず、その際提出した上申書(乙一)にも、仕入れについて記載した記録がない旨の記載がある。

(二) 金メッキの材料としての金地金の必要性

原告は、上質の金メッキをするために、金地金は必要な材料であり、現に係争各期後は金地金の領収書があるから、金地金の仕入れを全く認めないのは不当であるとも主張する。

しかしながら、証拠(乙一三、乙一八、証人鳥居、同石川)によれば、金メッキの材料としては、シアン化金カリウムを用いるのが一般的であり、金地金を用いることは必要でないばかりか、かえって、金メッキの作業工程が増えることなどの弊害があること、シアン化金カリウムを用いた場合と金地金を用いた場合とで金メッキの質に差は生じないことが認められ、これらの事実からすると、金メッキの売上げを認めながら金地金の仕入れを経費として認めなくても、そのこと自体何ら不合理な点はないことになる。更に、係争各期後の原告の金地金の領収書(甲一三ないし三〇の各一、二)が存在するとしても、このことから係争各期においても原告が金メッキのために金地金の仕入れをしていたと推認することはできず、また、係争各期後において被告が金地金の仕入れを経費として認めているとしても、それは右領収書が存在するからであって、領収書等の証拠のない係争各期においても同様に金地金の仕入れを経費として認めねばならない理由はない。

したがって、原告の右主張には理由がない。

(三) 結論

よって、金地金等に係る原告の簿外費用等の主張は認めることはできない。

2  シアン化金カリウム及び硫酸ロジウムについて

これらの品目について、被告が認容した額を超えて原告主張の支出があったことを裏付ける証拠はない。

3  交際費及び人件費について

交際費及び人件費について原告の主張に沿う書証はなく、わずかに、原告代表者が子供の連れをアルバイトとして頼んだことがある旨供述するほか、証人加藤が、原告代表者から原告主張の支出があった旨聞いたと証言するのみである。しかしながら、他方で、証人加藤は、原告代表者からそれらを裏付ける領収書等の提示はなかったこと、また、原告代表者からこれらの経費については係争各期後は支出はないとの説明を受けたが、その理由については、人件費については売上げが減った旨の説明を受けたものの、交際費については明確な理由を告げられなかったと証言していること、原告の主張する交際費及び人件費が係争各期のいずれにおいても同額であって不自然であること、その支出先等の具体的内容は一切不明であることなどを総合すると、右供述ないし証言は信憑性の乏しいものであって、これらから原告主張の交際費及び人件費の支出があったと認めることはできない。

4  外注費について

原告は、外注費についての原告の主張を裏付ける領収書(乙三ないし五)がある旨主張するが、このうち乙三については、証拠(乙一七、証人石川)によると、乙三に記載された昭和五二年度において原告と仲野工業所との間に取引はなかったことが認められ、乙四については、昭和五二年三月期のものであるが、弁論の全趣旨によると、同領収書に記載された金額は同事業年度の経費として計上済みであることが認められ、乙五については、昭和五六年六月一二日付である上、弁論の全趣旨によれば係争各期後の昭和五七年三月期に属する支出であることが認められるのであって、いずれも外注費についての原告の主張を裏付けるものではなく、他に原告の右主張を裏付ける証拠はない。

5  原告主張による仕入材料費率が不自然であること

更に、原告の簿外費用等についての主張には、以下のとおり、仕入材料費率の比較の点からも不自然な点がある。

(一) 原告主張の仕入れ材料費率等の認定

(1) 原告主張の仕入材料費率

原告主張の係争各期における仕入材料費の額(別表一〇の「仕入(金地金)、(シアン化金カリウム、硫酸ロジウム)」及び「雑仕入(ニッケル試薬)」に記載の金額の合計額)を、係争各期の売上除外額(争いのない事実2(二)(1))で除して、原告主張の仕入材料費率を算出すると、別表一一に記載のとおりとなり、係争各期の平均仕入れ材料費率は四一・五九パーセントとなる。

(2) 確定申告仕入材料費率

証拠(乙六の四の一、乙七の四の一、乙八の四の一、乙九の四の一、乙一〇の四の一)によれば、係争各期の原告の確定申告書に添付された損益計算書に示された売上原価の額(期首たな卸材料費に期中仕入材料費を加えて、期末たな卸材料費を差し引いたものをいい、以下「確定申告仕入材料費の額」という。)及び右損益計算書に示された売上高の額は、別表一二に記載のとおりと認められるところ、右確定申告仕入材料費の額を右売上高で除して算出した仕入れ材料費率は別表一二に記載のとおりであって、その係争各期の平均値は一一・七四パーセントとなる。

(3) 被告認容の仕入材料費率A

争いのない事実2(三)(1)に記載の被告が認容した別表一ないし五の「仕入」欄に記載の各金額(以下「被告認容仕入額」という。)を争いのない事実2(二)(1)に記載の売上除外額で除した仕入材料費率は別表一三に記載のとおりであって、その係争各期の平均値は一〇・一〇パーセントとなる。

(4) 被告認容の仕入材料費率B

別表一二記載の確定申告仕入れ材料費の額に別表一三記載の被告認容仕入額を加えた金額を、別表一二記載の売上高に別表一三売上除外額を加えた金額で除して算出した被告認容仕入材料費率Bは別表一四に記載のとおりであって、その係争各期の平均値は一〇・七六パーセントとなる。

(5) 類似同業者仕入材料費率A

証拠(乙一五、証人鳥居)によれば、名古屋市内で金メッキを扱う法人のうち昭和五五年三月期から同五八年三月期の法人税の確定申告において別紙六に記載の一及び二の各要件を充たした類似同業者三名の平均仕入材料費率は、別表一四に記載のとおりであって、各事業年度の平均値は一二・八二パーセントとなる。

(二) 評価

以上によれば、前項(1)の原告主張の仕入れ材料費率を除く前項(2)ないし(5)の各仕入材料費率は、いずれも一〇パーセントから一三パーセントの間にあるのに対し、原告主張の仕入材料費率のみが四〇パーセントを越える高率となっており、原告が昭和五四年一二月二〇日付で被告に提出した申立書(乙一)には、売上除外分に対応する直接原材料費率は二〇パーセントくらいと思う旨の記載があることとも矛盾するのであって、原告主張の簿外費用の金額は、特段の事情のない限り、高額に過ぎ、不自然であると評価すべきものである。

もっとも、証拠(甲八、証人加藤)によれば、昭和五七年四月から同六一年三月までの四事業年度の原告の平均仕入れ材料費率は二八・五二五パーセントと算出されているが、これによっても、なお前記(一)(1)の原告主張仕入材料費率と比べると低率であること、証拠(乙一九、証人石川)によると、愛知県内で金メッキを扱う法人のうち昭和五九年三月期から同六一年三月期の法人税の確定申告において別紙七に記載の一及び二の各要件を充たした類似同業者三名の平均仕入材料費率(類似同業者仕入材料費率B)は、別表一五に記載のとおりであって、その各期の平均値は一一・六八パーセントとなり、係争各期を含む前記類似同業者仕入材料費率Aと比べて大きな変動はなく、係争各期のみ仕入材料費率が高くなるような事情は認められないことから、前記証拠(甲八、証人加藤)をもってしても、係争各期における原告の仕入材料費率の不自然さは払拭できない。

また、甲一〇の二によれば、原告の昭和五七年四月一日から同五八年二月二八日までの原告仕入材料費率は四一パーセントと算出されているが、これについては、昭和五八年三月期全体の資料に基づいたものではないこと、証人加藤によれば、右書証は原告代表者の妻が作成したものであると認められるところ、いかなる資料に基づいて作成されたものかが明らかではないことからすると、甲一〇の二の内容は信用するには足りない。

6  簿外費用等の有無についての結論

以上のとおり、被告認容額を超えて別表一〇に記載の簿外経費があったとの原告の主張を認めるに足りる証拠はなく、これを採用することはできない。

二  本件課税処分の適用性についての判断

1  国税通則法六八条一項等の該当行為の有無

証拠(証人高田、原告代表者)によると、原告は係争各期につき、争いのない事実2(二)(1)に記載の売上除外をしたが、これについては、裏帳簿を作成して管理し、また、その売上金の回収に当たっては、取引先から受け取った小切手の各振出銀行に依頼して取り立てさせ、各支払銀行に口座を設けて、それを入金するなどの隠蔽手段を用い、更に、その調査にあたった被告担当係官の質問に対しても、売上除外に係る取引先との取引を否認し、売上除外をした表帳簿のみを提出していたことが認められるのであって、このような原告の行為は国税通則法六八条五項、昭和五六年法律第五四号(脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律)による改正後の国税通則法七〇条五項及び同一部改正法附則二条に該当するもの(以下「六八条五項等該当行為」という。)と認めるのが相当である。

2  係争各期の原告の所得及び税額の認定

前記一で記載したとおり、同争点に係る原告の簿外経費の主張が認められないため、結局、係争各期の損金の額に加算すべき金額は、争いのない事実2(三)(1)及び(2)に記載のもののみとなるところ、これに基づいて係争各期における原告の所得金額及び税額を算定すると、以下のとおりとなる。

(所得金額)

昭和五二年三月期 二〇六一万二一一七円

昭和五三年三月期 二七〇五万〇二八五円

昭和五四年三月期 三〇七七万五一二八円

昭和五五年三月期 二〇〇六万四九六九円

昭和五六年三月期 一三〇二万五二一六円

(本税)

昭和五二年三月期 七四〇万四八〇〇円

昭和五三年三月期 九九八万〇四〇〇円

昭和五四年三月期 一一六六七万三〇〇〇円

昭和五五年三月期 七一八万五六〇〇円

昭和五六年三月期 四三七万〇〇〇〇円

3  前記1で記載したとおり、原告には国税通則法六八条一項に該当する行為があったところ、同法の規定に従って算定した原告の係争各期の重加算税の額は、以下のとおりである。

昭和五二年三月期 一六五万八一〇〇円

昭和五三年三月期 二五二万八四〇〇円

昭和五四年三月期 二八七万七〇〇〇円

昭和五五年三月期 二〇九万三一〇〇円

昭和五六年三月期 一三一万一〇〇〇円

4  前記1で記載したとおり、原告には六八条五項等該当行為があったから、五事業年度に遡って更正及び重加算税賦課決定をすることができる。

5  したがって、いずれも右認定に係る所得及び税額の範囲内で五事業年度に遡って係争各期の原告の法人税について行った本件課税処分は適法である。

第四結論

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 杉原則彦 裁判官 岩倉広修)

別紙一 課税処分経緯表

昭和五二年三月期(昭和五一年四月一日~昭和五二年三月三一日)

<省略>

別紙二 課税処分経緯表

昭和五三年三月期(昭和五二年四月一日~昭和五三年三月三一日)

<省略>

別紙三 課税処分経緯表

昭和五四年三月期(昭和五三年四月一日~昭和五四年三月三一日)

<省略>

別紙四 課税処分経緯表

昭和五五年三月期(昭和五四年四月一日~昭和五五年三月三一日)

<省略>

別紙五 課税処分経緯表

昭和五六年三月期(昭和五五年四月一日~昭和五六年三月三一日)

<省略>

別紙六

(一)各事業年度を通じ継続して事業を営んでいる法人で次の(1)及び(2)に該当しない法人

(1) 災害等により経営状態が異常であると認められる法人

(2) 国税通則法又は行政事件訴訟法の規定に基づく不服申立期間又は出訴期間を経過していないもの並びに不服申立又は訴訟係属中の法人

(二)各事業年度の売上金額が原告の売上金額の二分の一ないし二倍に当たる次の範囲に当たる法人

(1) 昭和五五事業年度の売上金額が二三一二万八〇〇〇円以上九二五一万二〇〇〇円未満

(2) 昭和五六事業年度の売上金額が一九四四万四〇〇〇円以上七七七七万六〇〇〇円未満

(3) 昭和五七事業年度の売上金額が二〇一二万六〇〇〇円以上八〇五〇万六〇〇〇円未満

(4) 昭和五八事業年度の売上金額が一二九三万四〇〇〇円以上五一七三万七〇〇〇円未満

別紙七

(一)各事業年度を通じ継続して事業を営んでいる法人で次の(1)及び(2)に該当しない法人

(1) 災害等により経営状態が異常であると認められる法人

(2) 国税通則法又は行政事件訴訟法の規定に基づく不服申立期間又は出訴期間を経過していないもの並びに不服申立又は訴訟係属中の法人

(二)各事業年度の売上金額が原告の売上金額の二分の一ないし二倍に当たる次の範囲に当たる法人

(1) 昭和五九事業年度の売上金額が一〇九五万三〇〇〇円以上四三八一万五〇〇〇円未満

(2) 昭和六〇事業年度の売上金額が一〇四二万二〇〇〇円以上四一六八万九〇〇〇円未満

(3) 昭和六一事業年度の売上金額が一二一一万六〇〇〇円以上四八四六万五〇〇〇円未満

別表一

原処分及び原告の不服申立ての内容並びに被告主張額(昭和五二年三月期)

<省略>

別表二

原処分及び原告の不服申立ての内容並びに被告主張額(昭和五三年三月期)

<省略>

別表三

原処分及び原告の不服申立ての内容並びに被告主張額(昭和五四年三月期)

<省略>

別表四

原処分及び原告の不服申立ての内容並びに被告主張額(昭和五五年三月期)

<省略>

別表五

原処分及び原告の不服申立ての内容並びに被告主張額(昭和五六年三月期)

<省略>

別表六

売上除外明細表

<省略>

別表七

簿外預貯金の受取利息明細表

<省略>

<省略>

別表八

簿外費用等明細表

<省略>

別表九

被告主張に係る未納事業税の計算明細表

<省略>

別表一〇

<省略>

別表一一

<省略>

別表一二

<省略>

別表一三

<省略>

別表一四

<省略>

別表一五

<省略>

別表一六

原告主張の金地金仕入単価と田中貴金属工業(株)発行の「金価格の資料」による金地金店頭小売価格との対比表

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