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名古屋地方裁判所 昭和58年(行ウ)16号 判決 1986年3月24日

半田市岩滑高山町八丁目五九番地

原告

加藤市郎

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

半田市宮路町五〇番地

被告

半田税務署長

横並昌治

右指定代理人

畑中英明

小久保雅弘

和田正

辻中修

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が原告の昭和五三年、同五四年、同五五年分の所得税につき昭和五七年三月一日付でした各更正処分はいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二原告の請求原因

一  本件課税の経緯等

原告は、肩書地において「東名コンクリート工事」の商号でコンクリート打設工事業を営むいわゆる青色申告者であるが、昭和五三年、同五四年、同五五年の各年分の所得税について、原告のした確定申告、これに対する被告の各更正(以下、「本件各更正」という。)の経緯、内容は、別表一の一ないし三の課税処分表記載のとおりである。

なお、原告は、本件係争各年分の本件各更正につき審査請求をし、これに対し、国税不服審判所長は、昭和五八年二月一七日付でこれをいずれも棄却する旨の裁決をした。

二  しかしながら、被告がした本件各更正は、原告のした減価償却費の一部の必要経費算入を違法に否認したり、不動産所得、雑所得の収入の帰属認定をあやまることにより、原告の所得を課題に認定したものであるから、違法なものである。

よつて、本件各更正の取消しを求める。

第三請求原因に対する被告の認否

請求原因一は認めるが、同二は争う。

第四被告の主張

一  事業所得金額

1  昭和五三年分

原告の昭和五三年分の事業所得の金額は、別表二の一・被告主張額表(昭和五三年分)の「1事業所得金額」欄記載のとおり、二二六一八四五円であり、その内訳は、別表三の一・事業所得金額内訳表(昭和五三年分)のとおりである。

(一) 売上(収入)金額

売上(収入)金額六五九〇五四三円は、原告の確定申告額と同額である。

(二) 必要経費等(減価償却費)

必要経費等六三六四三一九八円のうち、原告の確定申告額と相違する部分は、減価償却費のみであり、被害主張の減価償却費一三六四九三七八円の算定根拠は次のとおりである。

原告は、確定申告において、減価償却費一四二一六五一八円を必要経費に算入しているが、その対象たる別表四の一・減価償却表(昭和五三年分)記載の資産のうち、耐用年数を四年として、定率法による償却率〇・四三八を適用し減価償却費を算出している。

しかし、右コンクリートポンプ車は、原告の営業種目である生コンクリート圧送の作業をすることを目的とする自送式作業用機械であり、これは減価償却資産の耐用年数等に関する省令・別表第二に掲げられている番号「334」・設備の種類「プルドーザー、パワーシヨベルその他の自走式作業用機械設備」に該当するから、そはの耐用年数は、五年とされるべきである。

したがつて、右コンクリートポンプ車にかかる減価償却費の計算は、耐用年数五年の定率法(所得税法四九条に基づき原告が選定した償却方法)により、償却率〇・三六九(同省令・別表第一〇参照。)を適用すべきであり、右償却率〇・三六九を適用して、右コンクリートポンプ車の減価償却費を計算すると、別表四の一・減価償却表(昭和五三年分)のとおり、その償却額は当年分償却額欄記載のコンクリートポンプ車小計一二八〇〇三二〇円となり、これにその他の資産にかかる減価償却費八四九〇五八円(原告申告額と同額)を加算した合計一三六四九三七八円が原告の昭和五三年分の必要経費に算入すべき減価償却費となるのである。

2  昭和五四年分

原告の昭和五四年分の事業所得の金額は、別表二の二・被告主張額表(昭和五四年分)の「1事業所得金額」欄記載のとおり、八八五九九二七円であり、その内訳は、別表三の二・事業所得金額内訳表(昭和五四年分)のとおりである。

(一) 売上(収入)金額

売上(収入)金額五九八七〇七三〇円は、原告の確定申告額と同額である。

(二) 必要経費等

必要経費等五一〇一〇七五八円のうち、原告の確定申告額と相違する部分は、減価償却費、専従者給与及び青色申告控除額の三点であり、これらについての被告主張額の算定根拠は次のとおりである。

(1) 減価償却費(七三九五〇六八円)

原告は、確定申告において、減価償却費七〇八八八八三円を必要経費に算入しているが、その対象たる別表四の二・減価償却表(昭和五四年分)記載の資産のうち、同表・順号1ないし3のコンクリートポンプ車について、前記昭和五三年分と同様に、適用耐用年数を誤つているので、これを是正して計算すると、別表四の二のとおり、その償却費は当年分償却額欄記載のコンクリートポンプ車小計六五五一四七五円となり、これにその他の資産にかかる減価償却費八四三五九三円(原告申告額と同様)を加算した合計七三九五〇六八円が原告の昭和五四年分の必要経費に算入すべき減価償却費となるのである。

(2) 専従者給与(一四一一五〇〇円)

原告は、確定申告において、専従者給与一八九一五〇〇円を必要経費に計上しているが、右専従者給与には、原告の扶養親族とされている加藤雅俊に対する給与四八〇〇〇〇円が含まれているところ、右加藤雅俊に対する給与は所得税法五七条一項の規定により必要経費に算入することができない。

したがつて、専従者給与は、原告の確定申告額一八九一五〇〇円から右四八〇〇〇〇円を控除した一四一一五〇〇円となるのである。

(3) 青色申告控除額

原告は、租税特別措置法二五条の三第二項一号に規定する青色申告控除額一〇〇〇〇〇円を事業所得の金額から控除して申告しているが、原告には後述のとおり不動産所得の金額があるので、同条三項により、青色申告控除は、右不動産所得の金額から控除すべきこととなり、事業所得の金額から控除することはできないのである。

3  昭和五五年分

原告の昭和五五年分の事業所得の金額は、別表二の三・被告主張額表(昭和五五年分)の「1事業所得金額」欄記載のとおり、五六一六一八四円であり、その内訳は、別表三の三・事業所得金額内訳表(昭和五五年分)のとおりである。

右事業所得金額内訳表のとおり原告の確定申告額と被告主張額が相違する部分は、売上(収入)金額、修繕費、減価償却費及び青色申告控除額であり、これらについての被告主張額の算定根拠は次のとおりである。

(一) 売上(収入)金額(六〇四一六四五七円)

右金額は、原告の確定申告にかかる売上金額五九九〇七一〇七円に左の<1>及び<2>の各売上計上もれの金額を加算した六〇四一六四五七円である。

<1> 株式会社山成建材に対する売上計上もれ 二四四一五〇円

<2> 佐藤工業株式会社に対する売上計上もれ 二六五二〇〇円

(二) 修繕費(三七五〇一三一円)

原告の確定申告にかかる修繕費三九三三一三一円には、修繕費に該当しない(後述の減価償却資産に該当する。)「カークーラー」の購入・取付費用一八三〇〇〇円が計上されているので、原告の当年分の正当な修繕費は、申告にかかる三九三三一三一円から右一八三〇〇〇円を控除した三七五〇一三一円である。

(三) 減価償却費(一二一〇四七三六円)

原告は、確定申告において、減価償却費一二三〇八〇八八円を必要経費に算入しているが、その対象たる別表四の三・減価償却表(昭和五五年分)記載の資産のうち、同表・順号1ないし4のコンクリートポンプ車について、昭和五三年分と同様に適用耐用年数を誤つているので、これを是正して計算すると、別表四の三のとおり、その償却費は当年分償却額欄記載のコンクリートポンプ車小計一一四一九六六〇円となり、これに前記(3の(二))カークーラーにかかる減価償却費二九一八八円及びその他資産にかかる減価償却費六五五八八八円(原告申告額と同様)を加算した合計一二一〇四七三六円が当年分の必要経費に算入すべき減価償却費である。

(四) 青色申告控除額

原告は、租税特別措置法二五条の三第二項一号に規定する青色申告控除額一〇〇〇〇〇円を事業所得の金額から控除して申告しているが、原告には、後述のとおり、不動産所得の金額があるので、青色申告控除は、前記のとおり、右不動産所得の金額から控除すべきこととなり、事業所得の金額から控除することはできないのである。

二  不動産所得金額(昭和五四年分、昭和五五年分)

1  昭和五四年分

原告は、自己の所有する名古屋市南区柴田町四丁目一五番の一所在の土地・地積九九・一七平方メートル(以下、「本件土地」という。)を森侑に賃貸し、もつて不動産所得を得ていたものであり、右不動産所得の金額は、別表二の二・被告主張額表(昭和五四年分)の「2不動産所得金額」欄記載のとおり九七〇六〇円であり、その算定根拠は次の(一)総収入金額二一〇〇〇〇円から、(二)必要経費一二九四〇円及び(三)青色申告控除額一〇〇〇〇〇円を控除した金額である(所得税法二六条二項参照)。

(一) 総収入金額(二一〇〇〇〇円)

右金額は、本件土地の賃貸にかかる昭和五四年中の(賃貸期間は昭和五四年六月ないし同年一二月、賃貸料は月額三〇〇〇〇円)総収入金額(三〇〇〇〇円×七ヵ月)である。

(二) 必要経費(一二九四〇円)

右金額は、本件土地にかかる固定資産税七二五〇円都市計画税五六九〇円の合計額である。

(三) 青色申告控除額(一〇〇〇〇〇円)

右金額は、租税特別措置法二五条の三の規定による控除額である。

2  昭和五五年分

原告は、昭和五五年中においても、昭和五四年分と同様に本件土地を森侑に賃貸し、もつて不動産所得を得ていたものであり、右不動産所得の金額は、別表二の三・被告主張額表(昭和五五年分)の「2不動産所得金額」欄記載のとおり二二二九三〇円であり、その算定根拠は次の(一)総収入金額三六〇〇〇〇円から、(二)必要経費三七〇七〇円及び(三)青色申告控除額一〇〇〇〇〇円を控除した金額である。

(一) 総収入金額(三六〇〇〇〇円)

右金額は、本件土地の賃貸にかかる昭和五五年中の(賃貸期間は昭和五五年一月ないし同年一二月、賃貸料は月額三〇〇〇〇円)総収入金額(三〇〇〇〇円×一二ヵ月)である。

(二) 必要経費(三七〇七〇円)

右金額は、本件土地にかかる固定資産税三〇五三〇円と都市計画税六五四〇円の合計額である。

(三) 青色申告控除額(一〇〇〇〇〇円)

右金額は、租税特別措置法二五条の三の規定による控除額である。

三  配当所得金額

1  昭和五三年分

配当所得の金額は、別表二の一・被告主張額表(昭和五三年分)の「2配当所得金額」欄記載のとおり一二七二六〇円であり、右金額は原告の確定申告額と同額である。

2  昭和五四年分

配当所得の金額は、別表二の二・被告主張額表(昭和五四年分)の「3配当所得金額」欄記載のとおり一七三四六〇円であり、右金額は、原告の確定申告額と同額である。

3  昭和五五年分

配当所得の金額は、別表二の三・被告主張額表(昭和五五年分)の「3配当所得金額」欄記載のとおり一七一五六二円であり、右金額は、原告の確定申告額と同額である。

四  譲度所得金額(昭和五五年分)

昭和五五年分の譲度所得金額は、別表二の三・被告主張額表(昭和五五年分)の〔4譲度所得金額〕欄記載のとおり、一八四二四五三円であり、その算定根拠は、次のとおりである(所得税法三三条三項参照。)

<省略>

五  雑所得金額

原告は、本件係争各年分について、手形割引の方法、すなわち、手形を名古屋市中区丸の内一丁目八番一六号所在の株式会社日証名古屋支店(以下「日証」という。)から、同支店の外務員を通じ、手形金額未満の金額で取得し、当該手形の支払期日にその取立てを半田信用金庫岩滑口支店の川畑喜幸名義普通預金、同支店の加藤まき子名義普通預金、同支店の田中幸一名義普通預金、協和銀行半田支店の川畑喜幸名義普通預金、東海銀行半田支店の加藤まき子名義普通預金及び同支店の川畑喜幸名義普通預金によつて行い、もつて右手形の手形金額と取得額との差額について割引料収入を得ていたにもかかわらず、これを申告しなかつたものであるが、右手形割引にかかる所得は、所得税法三五条に規定する雑所得に該当するものであり、右手形割引にかかる係争各年分ごとの雑所得の金額は次のとおりである。

1  昭和五三年分

昭和五三年中における原告の手形割引による雑所得の金額は、別表二の一・被告主張額表(昭和五三年分)の「3雑所得金額」欄記載のとおり一一三四〇八五円である。右金額は、次の(一)手形割引による総収入金額一一四四五三五円から、(二)必要経費一〇四五〇円を控除したものである。

(一) 総収入金額一一四四五三五円

手形割引にかかる割引料収入の金額は、次の(1)手形金額三四九三一七五八円と(2)手形取得額三三七八七二二三円との差額一一四四五三五円である。

(1) 手形金額三四九三一七五八円

右金額の内訳は、別表五の一・割引手形等明細表(昭和五三年分)「割引手形明細・<1>手形金額」欄記載のとおりである。

(2) 手形取得額三三七八七二二三円

右金額は、次の 三三七一七二五六円及び 六九九六七円の合計額である。

<ア> 原告は、日証の外務員を通じ日証から別表五の一・割引手形等明細表(昭和五三年分)の順号1ないし33の手形を取得しているところ、右各手形の日証における売却金額は同別表の「<2>売却金額」欄記載のとおりであり、その合計金額は、三三七一二五六円である。

なお、同別表の順号32及び33記載の手形については、日証における売却金額が不明のため、右各手形の手形金額を基礎に、日証における売却金額が明らかな同別表の順号1ないし31の手形にかかる平均割引日数(手形の期日と日証における当該手形の売却日との間の日数の平均)を適用し、次のとおり日証における売却金額を推計した。

<省略>

(注一) 平均期引日数は、順号ないし31の手形の割引日数の合計(三四一一日)を手形枚数(三一枚)で除したものである。

(注二) 平均割引率は、順号1ないし31の手形の割引率の合計(〇・〇〇九一二)を手形枚数(三一枚)で除したものである。

<イ> 原告の昭和五六年における手形割引に関する「買収メモ」によれば、原告が日証から取得した手形の取得日は日証における当該手形の売却日よりも後の日となつていること、原告の右手形の取得額が日証の売却金額を上回つていること、したがつて日証の売却日から原告の取得日までの間は日証の外務員が右手形を保有し、その保有期間に対応する金利相当部分だけ右のとおり原告の取得額が日証の売却金額を上回つているものと認められる。そこで本件各年分についての原告の手形取得額の算定においても、日証の手形売却金額(前記<ア>の三三七一七二五六円)に日証の売却日から原告の取得日までの間の日数に対応する金利相当額を加算するのが相当と認められる。

右の理由により、日証の手形売却金額に加算すべき右金利相当額を計算するに、原告の右「買取メモ」に記載の各手形(二七枚)にかかる原告の買取日から日証の売却日までの間の各日数の平均日数は、別表六・手形取得日明細表記載のとおり平均六・八日であり、これに対応する金利相当額を別表五の一・割引手形明細表(昭和五三年分)の順号1ないし33の各手形の手形金額及び割引率によつて算出すると同表の「<3>六・八日に相当する金」は記載のとおりであるから、右加算すべき金利相当額の合計金額は六九九六七円となる。

(二) 必要経費 一〇四五〇円

右は原告が割引した手形の取立手数料であり、その取立手数料は、手形一枚につき昭和五三年五月八日までが一五〇円、昭和五三年五月九日以後四〇〇円を必要とするため、手形の支払期日により別表五の一記載の各手形を右期間に区分すると、昭和五三年五月八日までに支払期日の到来する手形が一一枚、昭和五三年五月九日以後支払期日の到来する手形が二二枚あり、これらの手形に係る取立手数料は合計一〇四五〇円(一一枚×一五〇円+二二枚×四〇〇円)である。

2  昭和五四年分

原告の昭和五四年分の前記同様の手形割引にかかる雑所得の金額は、別表二の三・被告主張表の「4雑所得金額」欄記載のとおり一三七六一六六円であり、右金額は、手形割引による総収入金額一三九二一六六円から必要経費一六〇〇〇円を控除したものであり、その内訳は次のとおりである。

(一) 総収入金額 一三九二一六六円

前記昭和五三年分と同様、手形割引にかかる割引料収入の金額は、次の(1)手形金額四八三五九五九〇円と(2)手形取得額四六九六七四二四円との差額一三九二一六六円である。

(1) 手形金額 四八三五九五九〇円

右金額の内訳は、別表五の二・割引手形等明細表(昭和五四年分)の「割引手形明細・(1)手形金額」欄記載のとおりである。

(2) 手形取得額 四六九六七四二四円

右金額は次の<ア>の四六八八四九一八円と<イ>の八二五〇六円の合計額である。

<ア> 別表五の二・割引手形等明細表(昭和五四年分)の順号1ないし40の手形の日証における売却金額は、同別表の「<2>売却金額」欄記載のとおりであり、合計金額は四六八八四九一八円である。

なお、同別表の順号30ないし40の手形については日証における売却金額が不明のため、前記(五の1の(一)の(2))と同様に日証における売却金額が明らかな同別表の順号1ないし30の手形にかかる平均割引日数(一一九・二日)及び平均割引率(〇・〇〇〇二四九)によつて日証における売却金額を推計した。

<イ> 前記昭和五三年分と同様に、日証の手形売却金額に加算する金利相当額は、別表五の二・割引手形等明細表(昭和五四年分)の「<3>六・八日に相当する金額」欄記載のとおりとなり、その合計額は二八五〇六円である。

(二) 必要経費 一六〇〇〇円

原告が割引した手形の取立手数料は、手形一枚につき四〇〇円を必要とするため、昭和五四年中に取立てを行つた手形四〇枚(別表一一の順号1ないし40の手形)にかかる取立手数料は一六〇〇〇円(四〇枚×四〇〇円)となる。

3  昭和五五年分

原告の昭和五五年分の前記同様の手形割引にかかる雑所得の金額は、別表二の三・被告主張額表(昭和五五年分)の「5雑所得金額」欄記載のとおり二四四一二五六円であり、右金額は、手形割引による総収入金額二四六六四五六円から必要経費二五二〇〇円を控除したものであり、その内訳は次のとおりである。

(一) 総収入金額 二四六六四五六円

前記昭和五三年分と同様、手形割引にかかる割引料収入の金額は、次の(1)手形金額八一五九一三六一円と(2)手形取得額七九一二四九〇五円との差額二四六六四五六円である。

(1) 手形金額 八一五九一三六一円

右金額の内訳は、別表五の三・割引手形等明細表(昭和五五年分)の「割引手形明細・<1>手形金額」欄記載のとおり八一五九一三六一円である。

(2) 手形取得額 七九一二四九〇五円

右金額は次の<ア>の七八九八五三〇二円と<イ>の一三九六〇三円の合計額である。

別表五の三・割引手形等明細表(昭和五五年分)の順号1ないし63の手形の日証における売却金額は、同別表の「<2>売却金額」欄記載のとおりであり、その合計金額は七八九八五三〇二円である。

昭和五三年分と同様に、日証の手形売却金額に加算すべき金利相当額は、別表五の三・割引手形等明細表(昭和五五年分)の「<3>六・八日に相当する金額」欄記載のとおりとなり、その合計は一三九六〇三円である。

(二) 必要経費 二五二〇〇円

原告が割引した手形の取立手数料は、手形一枚につき四〇〇円であるから、昭和五五年中に取立てを行つた手形六三枚(別表一二の順号ないし63の手形)にかかる取立手数料は二五二〇〇円となる。

六  本件課税処分の適法性

本件係争各年分の課税標準(総所得金額)及び税額は、別表二の一ないし三の各被告主張表のとおりであり、右の範囲内でなした本件各更正は適法である。

第五被告の主張に対する原告の認否

一  事業所得金額

1  昭和五三年分

(一) 売上(収入)金額

被告主張事実を認める。

(二) 必要経費等(減価償却費)

コンクリートポンプ車(以下、「本件ポンプ車」という。)の減価償却費についての被告主張を争うが、その余の被告主張事実は認める。なお、本件ポンプ車の法定耐用年数が五年であること、原告がこれを四年として減価償却費を計算し、申告したことは認める。

2  昭和五四年分

(一) 売上(収入)金額

被告主張事実を認める。

(二) 必要経費等

(1) 減価償却費

本件ポンプ車の減価償却費についての被告の主張を争うが、その余の被告主張事実は認める。なお、本件ポンプ車の法定耐用年数が五年であること。原告がこれを四年として減価償却費を計算し、申告したことは認める。

(2) 専従者給与

被告主張事実を認める。

(3) 青色申告控除

被告の主張を争う。

3  昭和五五年分

(一) 売上(収入)金額

被告主張事実を認める。

(二) 必要経費等

(1) 修繕費

被告主張事実を認める。

(2) 減価償却費

カークーラーの減価償却費に関する被告主張事実を認め、本件ポンプ車の減価償却費についての被告主張を争う。

(3) 青色申告控除

被告の主張を争う。

二  不動産所得金額(昭和五四年分、昭和五五年分)

被告の主張を争う。本件土地の登記簿上の所有名義が原告となつていること、本件土地にかかる賃料収入金額、必要経費の金額が被告主張のとおりであることは認める。

三  配当所得金額

被告主張事実を認める。

四  譲渡所得金額

被告主張事実を認める。

五  雑所得金額

被告の主張を争う。ただし、別表五の二の順号1、2の各手形の割引料収入が原告に帰属すること、原告が日証から満期前の手形を買受けて、これを満期に取り立てることにより割引料に相当する収入を得ていたことは認める。

第六原告の反論

一  本件ポンプ車の減価償却費について

原告は、本件ポンプ車につき、関与税理士によつて、その耐用年数を四年とする耐用年数短縮申請がされ、それに対する承認を得て、減価償却費の計算がされているものと確信していた。昭和四九年頃、被告の所属職員により原告の所得調査が行われた際にも、本件ポンプ車の耐用年数を四年としてした原告の右計算が非違事項として指摘されたこともなかつたので、原告が、被告により耐用年数の短縮が承認されたものと信じたことには無理からぬ点があつた。

右のような場合には、採用された耐用年数の誤りを是正するに当たり、遡及して更正をするのではなく、将来に向かつて正当な耐用年数による計算を要求するにとどめるべきである。したがつて、被告がした本件各更正には、信義則違反の違法がある。

二  不動産所得金額(昭和五四年分、昭和五五年分)について

本件土地の登記名義が原告となつているのは、本件土地を買受けたときの登記手続の錯誤によるものであり、その真実の所有者は、原告の妻加藤まき子である。右錯誤を訂正するため、真正な登記名義を回復する目的で登記手続を依頼したところ、誤つて、贈与を登記原因とする所有権移転登記がされたため、加藤まき子に不動産所得税が課され、更に、贈与税も課税されるということであつたので、右移転登記を錯誤によるものとして抹消した。本件土地の登記名義が原告となつているのは、右のような経緯によるものであるが、真実は、加藤まき子が、自己資金により本件土地を買受けたものであり、賃借人も、加藤まき子が探して契約したものであつて、その賃料収入は、同人の預金口座に入金されている。

したがつて、本件不動産所得については実質所得者課税の原則が適用されるべきであり、これに反して被告がした原告の昭和五四年分、昭和五五年分の所得税に係る本件各更正は違法である。

三  雑所得金額について

原告が、本件係争各年度において、日商から満期前の手形を買受けて、これを満期に取り立てることにより、割引料に相当する収入を得ていたことは事実であるが、原告の妻加藤まき子も同じ時期に、同じ方法で手形の買取り、取立てをしていた。半田信用金庫岩滑口支店の加藤まき子名義の普通預金口座において取り立てられた手形は、同人の資金により同人の独自の判断によつて買取つたものであり、それらの取引によつて生じた所得は同人に帰属するものであつて、原告とは関係がない。すなわち、被告主張の手形の割引等のうち、左記の分は、加藤まき子が自己の計算と危険において行つた取引であつて、その手形の売買等による所得があつたとしても、それは原告に帰属するものではない。

1  別表五の一の順号1ないし12の各手形に関するもの

2  別表五の二の順号3ないし13及び31の各手形に関する分

3  別表五の三の順号1ないし19の各手形に関する分

また、別表五の一の順号32及び33の約束手形は、原告が日証から買受けたものではない。これは、株式会社石井組の知多出張所長である伊原稔の紹介によつて、同社の下請業者の依頼により同人が受取つた株式会社石井組振出にかかる約束手形を原告の銀行口座を使用して取り立てただけである。したがつて、右二通の手形に関しては、原告は何らの所得を得ていない。

第七原告の反論に対する被告の認否及び再反論

一  認否

原告の反論はすべて争う。

二  再反論

1  本件ポンプ車の減価償却費について

本件ポンプ車の法定耐用年数は、五年であつて、所得税法施行令一三〇条によれば、使用可能期間を基礎として償却費の額を計算するには、当該減価償却資産が同条一項一号ないし六号に掲げる事由のいずれかに該当し、かつ納税地の所轄国税局長の承認を受けなければならず(同条一項)右承認を受けようとする居住者は、耐用年数短縮の規定の適用を受けようとする減価償却資産の種類、名称等所定の事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長を経由して納税地の所轄国税局長に提出しなければならないところ(同条二項)、本件において原告がコンクリート打設工事業を開始した昭和四二年以降本件係争各年分に至るまで、名古屋国税局長に対し本件ポンプ車に係る耐用年数短縮の承認申請書を提出した事実及び所轄国税局長の承認の事実は全く存在しないのであるから、本件ポンプ車について耐用年数を四年とすべき余地は全くない。

したがつて、本件係争各年分にかかる課税処分において本件ポンプ車の耐用年数を五年とした被告の減価償却費の計算は適法である。

原告は、本件各更正には、信義則違反の違法があると主張するが、本来法律に則り、厳正かつ公平な公的負担が図られるべき租税法の分野においては、通常の私人間の契約関係におけるのと異なり、「信義則」の適用があるかどうか自体が議論のあるところであり、仮にこれを肯定するとしても、その適用は極めて厳格・慎重になされるべきである。このような観点からして、課税処分が信義則違反に問われるのは、単に法に反した非課税の状態が継続した後に課税したという場合ではなしに、少なくとも、課税機関が納税者に対して信頼の対象となるべき公の見解を積極的に表示した後に課税した場合に限られるというべきである。ところが、原告の主張するところは、要するに、申告者である原告が法律等を誤解して税申告をしたのに対し過去において被告がその違法であることを指摘しなかつたという点をとらえて信義則違反の根拠とするにとどまるのであつて、被告が原告に対し、積極的に当該耐用年数を四年とする旨の公の見解を示したというような主張・立証は全く行つていないのである。したがつて、原告の主張するような事情が仮に存するとしても、本件各更正がこれにより違法となるものでないことは明らかというべきである。

2  不動産所得金額について

原告は、昭和三五年一〇月二四日受付で、本件土地につき、訴外桜井信一郎(以下「桜井」という。)から、売買を原因として所有権移転登記を経由し、その後、昭和四三年九月一七日受付で、加藤まき子に対し、贈与を原因として所有権移転登記がなされたものの、右まき子に対する移転登記は、昭和四四年九月一一日受付で、錯誤を原因として抹消され、以後一貫して原告が登記簿上の所有名義を有している。かかる登記関係に鑑みると、原告が本件土地の所有名義を取得した後一貫してその所有権を有していることが少なくとも事実上推定されるものというべきである。また、実質的にも本件土地の所有者が原告であること、したがつて、本件土地についての賃料収入が原告に帰属するものであることは、本件証拠上明らかである。

3  雑所得金額について

(一) 原告は、「半田信用金庫岩滑口支店の加藤まき子名義普通預金口座、東海銀行半田支店の加藤まき子名義の普通預金口座において取立てられた手形は、同人の資金により、同人の独自の判断によつて買取つたものであり、それらの取引によつて生じた取得は、同人に帰属するのであつて、原告とは関係がない。」旨主張するが、原告の右主張は、以下述べるとおり失当である。

半田信用金庫岩滑口支店の加藤まき子名義の普通預金(以下「半田信金まき子名義預金」という。)口座により、最初に手形取立てがされたのは、別表五の一・割引手形等明細表の順号1及び2記載の二通の手形でありその取立日は昭和五三年一月四日、手形額面合計は二、〇五〇、〇〇〇円である。

ところで、右二通の手形を日証から取得したのは、昭和五二年七月二六日(右別表五の一・割引手形等明細表の「(株)日証の売却金額等」の「売却日」欄参照。)以降数日の間と推人される。一方、半田信金まき子名義預金が開設されたのは昭和五二年八月二七日である。したがつて右二通の手形を取得した当時には同預金は存在しなかつたのであり、同預金から右二通の手形の取得資金が出金されていないことは明らかである。

そして当時原告は、自己の仮名預金として協和銀行半田支店川畑喜幸名義の普通預金を有していたのであるが、同預金から右二通の手形の取得日に近接する昭和五二年八月一日に二、一三八、〇〇〇円の出金があり、これが右二通の手形の取得資金にあてられたものと判断される。

したがつて右二通の手形は、原告が自己の資金と自己の判断により取得したと認められ、それを半田信金まき子名義預金で取立てたとしても、その割引料収入に係る雑所得は、同女の所得ではなく、原告の所得である。

原告は、右と同様の方法により、右半田信金まき子名義預金、東海銀行半田支店の加藤まき子名義の普通預金(以下「東海まき子名義預金」という。)のほか、原告の簿外の仮名預金たる協和銀行半田支店の川畑喜幸名義普通預金、半田信用金庫岩滑口支店の川畑喜幸名義普通預金、同支店の田中幸一名義普通預金、東海銀行半田支店の川畑喜幸名義普通預金等の各預金を資金として、日証から手形を取得し、支払期日にこれら預金口座によつて取立てることを繰り返し行つて取引料収入を得ていたものである。

半田信金、東海の各まき子名義預金講座は、このように原告が自己の手形を取立てるために利用していた家族名義預金であるから、その取立てににかかる手形の割引料収入は、取立預金の口座名義如何にかかわらず、原告に帰属するものである。

(二) 次に、原告は、別表五の一・割引手形等明細表の順号32及び33記載の手形は、日証から買受けたものではなく、右手形の受取人からの依頼により、原告の銀行口座を使用して取立てただけであるから、右手形によつては原告は何らの所得を得ていない旨主張する。

しかしながら、右各手形は、原告の仮名預金たる半田信用金庫岩滑口支店の川畑喜幸名義普通預金によつて、昭和五三年八月一四日に二、四六〇、〇〇〇円、同年九月七日に四四四、八〇〇円と取立入金されているのであるから、右各手形についても、他の手形と同様に、原告が手形の取得価額と取立額との差額たる割引料収入を得ていたことは明らかであり、したがつてその割引料収入の所得は、原告に帰属するものと判断するほかないものである。

仮に、右各手形が日証から買い受けたものではなく、右各手形の受取人からの依頼によるものであつたとしても、原告は、右各手形の取立てにつき、いわゆる手数料収入(手形割引にかかる収入同様、所得税法三五条の雑所得にかかる収入金額に該当する。)を得ており、右手数料収入の額は、他の手形取引による利得と同程度の割合による金額と推認するのが相当である。

第八証拠関係

本件訴訟記録中の証拠関係目録欄の記載をここに引用する。

理由

一  請求原因一(本件課税の経緯等)の事実は当事者間に争いがない。

被告の主張事実は、左記の点を除き当事者間に争いがない。

<1>  本件ポンプ車の減価償却費(被告の主張一、1、(二)、同一、2、(二)の(1)及び同一、3、(三))

<2>  青色申告控除額(被告の主張一、2、(二)の(3)、同一、3、(四))

<3>  不動産所得金額(被告の主張二)

<4>  雑所得金額(被告の主張五)

もつとも、右<2>の点は、租税特別措置法二五条の三第二項一号所定の青色申告控除額金一〇〇〇〇〇円を事業所得の金額から控除するか(原告主張)、それとも、不動産所得の金額から控除するか(被告主張)という点に関する争いであり、この点は、結局、原告に右<3>の不動産所得が帰属するか否かによつて決せられる問題である(同法二五条の三第三項)から、本件における実質的な争点であるとはいえない。したがつて、本件の争点は、右<1>、<3>、<4>の三点であり、これらについて、以下、順次、検討する。

二  本件ポンプ車の減価償却費について

原告は、本件係争各年分の本件ポンプ車にかかる減価償却費について、その耐用年数を四年として計算すべきであり、これを五年としてした本件各更正には信義則違反の違法がある旨主張する。しかしながら、本件ポンプ車の法定耐用年数は五年であり(当事者間に争いがない)、また、原告が名古屋国税局長に対し、所得税法施行令一三〇条に則り、本件ポンプ車について耐用年数短縮の承認申請書を提出し、右局長がこれを承認するなどにした事実がないことは弁論の全趣旨により明らかである。原告は、被告の所属職員が原告調査を行つた際に、右職員から右計算が違法であることの指摘を受けなかつたことを根拠として、本件各更正が信義則違反であると主張するのであるが、右のような事実が存したとしても、本件各更正が信義則に違反したものとは到底いえない。すなわち、租税法律関係において信義則が適用されるためには、少なくとも、課税庁の一定の責任ある立場の者が、納税者に対し、信頼の対象となる公の見解を正式に表示し、納税者がこれを信頼して申告等の行為をしたことなどの事実が必要であると解すべきであるが、原告が主張するような、被告の職員が税務調査の際に、原告の右計算が違法であることを指摘しなかつたことにより原告が本件ポンプ車の耐用年数の短縮が承認されているものと信じたといつた事実は、信義則を適用するための前提となる右事実に該当しないことが明らかである。

したがつて、原告の右主張は理由がない。

三  不動産所得金額(昭和五四年分、昭和五五年分)

本件土地の登記簿上の所有名義が原告となつていること、本件土地にかかる賃料収入金額、必要経費の金額が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

原告は、本件土地の登記名義が原告となつているのは、本件土地を買受けたときの登記手続の錯誤によるものであり、その真実の所有者は原告の妻加藤まき子であつて、被告主張の本件不動産所得は、同人に帰属すべきものである旨主張する。そこでこの点についてみるに、成立に争いのない乙第一号証の二によれば、原告は、本件土地につき、昭和三五年一〇月二四日受付で訴外桜井信一郎から売買を原因として所有権移転登記を経由し、その後、昭和四三年九月一七日受付で、加藤まき子に対し、贈与を原因として所有権移転登記がなされたものの、右まき子に対する移転登記は、昭和四四年九月一一日受付で、錯誤を原因として抹消され、以後、原告が登記簿上の所有名義を有していることが認められる。原告は、右登記名義変更の経緯につき、本件土地の右桜井から買受けたのは、右まき子であつたのであるが、その際、登記手続を第三者(訴外鰐部某)に任せていたので、誤つて、原告の所有名義になつてしまつた。そこで、右過誤を是正するため、真正な登記名義を回復する目的で登記手続を依頼したところ、誤つて加藤まき子への贈与を登記原因とする所有権移転登記がなされたため、同人に不動産所得税が課され、更に、贈与税も課税されるということであつたので、右移転登記を錯誤によるものとして抹消した旨主張し、証人加藤まき子及び原告本人の各供述中には、右主張に副う部分が存する。しかしながら、反面、証人加藤まき子及び原告本人は、原告から加藤まき子への所有権移転登記がなされた経緯につき、原告とその妻である加藤まき子の間の夫婦仲が、原告が浮気をしたりなどしたため、一時、険悪な状態になつたことから、加藤まき子の要望で、原告からまき子への贈与を原因とする所有権移転登記がなされたが、右登記名義の移転に関し、不動産所得税等が課されることになつたので、右課税を免れるため右移転登記を抹消したものである旨の供述、すなわち、原告から加藤まき子への登記名義の移転が、当初の登記手続の過誤を是正するためになされたとの原告の前記主張とは異なる趣旨の供述をしており、また、証人加藤まき子は、本件土地の登記名義が同人名義になる以前は、本人土地の所有権は原告にあるものと思つていたし、現時点においても原告にあると考えている趣旨の供述をもしている。更に、成立に争いのない乙第一号証の二及び証人加藤まき子の証言によれば、原告は、右まき子に何ら相談することなく、昭和四一年一一月二八日、本件土地につき、その事業の取引先である三菱商事株式会社を根抵当権者とし、原告を債務者とする元本極度額一三〇〇〇〇〇円の根抵当権を設定していること、右まき子は、本件土地についての固定資産税の納付に全く関与していなかつたこと、本件土地は、昭和五四年、訴外森侑に対し、駐車場として賃貸されたが、その賃貸借契約に関する交渉は、原告が行つたこと、右賃貸に伴い必要となつた本件土地上の建物の取りこわしも、原告がその費用を負担し、自己の営む事業の従業員を使用して行つたことが認められる。これらの事実及び本件土地の所有名義が原告になつていることを考え合わせると、本件土地は、昭和三五年、訴外桜井から取得した当初から原告の所有する土地であり、これを訴外森侑に賃貸したのも原告であると認めるのが相当であり、これに反する証人加藤まき子及び原告本人の各供述部分は採用し難い。なお、原告は、本件土地の購入資金は、加藤まき子がその自己資金により支出したものである旨主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。また、本件土地の賃料が、訴外森侑から半田信用金庫岩滑口支店の加藤まき子名義の預金口座に送金されていることは、成立に争いのない乙第二号証の一、四及び証人加藤まき子の証言によりこれを認めることができるが、右預金口座は、後記認定のとおり、原告が自己の計算において手形取引を行うために自由に利用していたものであるから、右口座に賃料収入が入金されていたことは、むしろ、右賃料収入が原告に帰属するものであることを窺わせる事実というべきである。

したがつて、本件不動産所得、すなわち、本件土地の賃料収入は原告に帰属するものと認めるのが相当であり、これを前提として被告がした原告の昭和五四年分、昭和五五年分所得税にかかる本件各更正は適法である。

四  雑所得金額について

原告は、原告が本件係争各年度において、日商から満期前の手形を買受けて、これを満期に取り立てることにより割引料に相当する収入を得ていた事実を認めており、また、被告主張の各手形取引(別表五の一ないし三の各割引手形等明細表記載のもの)のうち、別表五の一の順号1ないし12、別表五の二の順号3ないし13及び31、別表五の三の順号1ないし19の各手形に関する分(半田信用金庫岩滑口支店の加藤まき子名義の普通預金口座において取り立てられた手形に関するもの)及び別表五の一の順号32、33の手形に関する分(原告が日商から買受けたものではないと主張するもの)を除いた各手形取引については、原告は、右各手形取引による所得が原告に帰属することを明らかに争わないので、これを自白したものとみなす(なお、原告は、別表五の二の順号1、2の各手形取引による所得が原告に帰属することは、明確に認めている。)。

そこで、まず、半田信用金庫岩滑口支店の加藤まき子名義の普通預金口座(以下、〔本件口座〕という。)において取り立てられた各手形(別表五の一の順号1ないし12、別表五の二の順号3ないし13及び31、別表五の三の順号1ないし19の各手形)の割引料収入が原告に帰属するものであるか否かについてみるに、原告は、右各手形取引が行われた同時、自己の仮名預金として、協和銀行半田支店に川畑喜幸名義の普通預金(以下、「川畑預金」という。)及び半田信用金庫岩滑口支店に田中幸一名義の普通預金(以下、「田中預金」という。)を有していたこと(原告本人尋問の結果により認められる。)、本件口座により最初に手形取立てがなされたのは別表五の一の順号1、2記載の二通の手形であり、その取立て日は昭和五三年一月四日、手形額面の合計は二〇五〇〇〇〇円であるが、右二通の手形を日商から取得したのは昭和五二年七月二六日以降数日の間とみられるのに、本件口座が開設されたのは昭和五二年八月二七日であるから、右二通の手形の取得資金は、本件口座から出金されたものではなく、原告の仮名預金である川畑預金から出金されたものと推認し得ること(成立に争いのない乙第二号証の四、同第三号証の三及び弁論の全趣旨により認められる。)、本件口座には、原告の仮名預金である川畑預金から入金されたとみられる入金(昭和五四年三月二〇日の入金一五九七二八円、同年七月一四日の入金八〇〇九二〇円)及び原告の事業にかかる店主貸勘定(事業主が事業資金を事業外のことに使う場合に、その使う金額を店主貸として記録する勘定)から入金したとみられる入金(昭和五三年八月一二日の入金一五〇〇〇〇円、同年一一月九日の入金二〇〇〇〇〇円、昭和五四年八月一日の入金二〇〇〇〇〇円、昭和五五年四月三日の入金二〇〇〇〇〇円、同年六月二日の入金二〇〇〇〇〇円等)が数多くみられること(前掲乙第二号証の四、同第三号証の三、成立に争いのない乙第五、六号証、同第七号証の一、二、原本の存在及び成立につき争いのない乙第八号証及び弁論の全趣旨により認められる。)、本件口座の名義人である原告の妻加藤まき子は、手形取引に関する基礎的な知識すら有していないことが、同人の証言及び供述態度から窺えることなどの諸事実を総合すると、本件口座を実質的に管理、所有していたのは原告であつて、原告は、原告の計算において、日商から取得した前期各手形を本件口座で取り立てることにより、被告主張の割引料収入を得ていたものと認めるのが相当であり、証人加藤まき子及び原告本人の各供述中、右認定に牴触する部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない(証人加藤まき子は、子供名義等の郵便貯金(甲第一号証の一ないし二九)を解約して、これを資金として、本件手形取引を始めた旨供述するけれども、右各郵便貯金が同人の特有財産であつたことを認めるに足りる証拠はないので、右供述は前記認定を覆すに足りるものとはいえない。)。

次に、別表五の一の順号32、33の各手形に関する分についてみるに、成立に争いのない乙第二号証の一、三及び原告本人尋問の結果によれば、原告が、株式会社石井組の下請業者の依頼により、同人が受取つた右会社振出にかかる右各手形を、原告の仮名預金である半田信用金庫岩滑口支店の川畑喜幸名義の普通預金口座を用いて取り立てたこと、その結果、昭和五三年八月一四日に二四六〇〇〇〇円、同年九月七日に四四四八〇〇円が、右口座に入金されたこと、その際、原告は右各手形の受取人から手数料に相当する金員を受領したことが認められる。また、右各手形の取立ては、原告が右川畑名義の口座等を用いて多数回にわたり本件手形取立てを行つていた期間中に行われたものであること、右各手形取立てが有償のものであつたこと、原告と右各手形の受取人が特別の間柄ではなかつたことは原告本人尋問の結果から明らかであり、これらの点からすると、原告が右各手形の取立てをするに際し、右各手形の受取人から、日商との間でした本件手形取引による利得と同程度の利得を得たものと推認するのが相当である。したがつて、原告は、右各手形の取立てにより、少なくとも、被告主張の八八一三二円の収入を得たものと推認することができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

してみると、雑所得金額についての被告の主張事実は、これをすべて認めることができ、原告の主張は、いずれも理由がない。

五  以上の次第であり、本件各更正には原告主張の違法はなく、いずれも適法なものというべきである。

よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤義則 裁判官 高橋利文 裁判官 綿引譲)

別表一の一 課税処分表(昭和五三年分)

<省略>

別表一の二 課税処分表(昭和五四年分)

<省略>

別表一・三 課税処分表(昭和五五年分)

<省略>

別表二・一 被告主張額表(昭和五三年分)

<省略>

別表二の二 被告主張額表(昭和五四年分)

<省略>

別表二の三 被告主張額表(昭和五五年分)

<省略>

別表三の一 事業所得金額内訳表(昭和五三年分)

<省略>

別表三の二 事業所得金額内訳表(昭和五四年分)

<省略>

別表三の三 事業所得金額内訳表(昭和五五年分)

<省略>

別表四の一 減価償却表(昭和五三年分)

<省略>

別表四の二 減価償却表(昭和五四年分)

<省略>

(注) 「償却の基礎となる金額<2>」欄の金額は、別表四の一・減価償却表(昭和五三年分)の「未償却残高<6>」欄の金額である。

別表四の三 減価償却表(昭和五五年分)

<省略>

(注) 1.「償却の基礎となる金額<2>」欄の金額は別表四の二・減価償却表(昭和五四年分)の「未償却残高<6>」欄の金額である。

2.「当年分償却額<5>」欄及び「原告が必要経費に算入した償却額」欄の上段の金額は、租税特別措置法12条の2(昭和56年法律13号改正前のもの)による特別償却額である。

別表五の一 割引手形等明細表(昭和五三年分)

<省略>

<省略>

(注) 順号13の手形は、支払期日前の昭和五三年三月一四日に(株)日証に売却しているものである。

別表五の二 割引手形等明細表(昭和五四年分)

<省略>

<省略>

別表五の三 割引手形等明細表(昭和五五年分)

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表六 手形取得日明細表

<省略>

<省略>

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