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名古屋地方裁判所 昭和58年(ワ)3341号 判決 1986年12月24日

原告

横地良介

右訴訟代理人弁護士

関口宗男

清水英男

被告

東海ビル株式会社

右代表者代表取締役

横地勇助

被告

横地勇助

右両名訴訟代理人弁護士

福間昌作

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「被告東海ビル株式会社(以下「被告会社」という。)の取締役被告横地勇助(以下「被告勇助」という。)を解任する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決。

二  被告ら

1  本案前につき主文と同旨の判決。

2  本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告会社の発行済株式総数二万株の一〇〇分の三以上にあたる二四〇〇株を本訴提起の六か月前から有する株主である。

2  被告会社の取締役であつた被告勇助は、被告会社の経理を処理するに際し、昭和四八年四月ごろから昭和五四年一〇月ごろにかけ、飲食費、贈答品代、ガソリン代、車修繕費等の名目で計三八二回にわたり、会社の金総額四九六万二八三七円を自己の個人的な経費に不正流用して費消した。

3  そこで原告は被告勇助の職務遂行に関し重大な不正行為があるとして同被告の取締役解任の総会招集を被告会社に求めたところ、昭和五八年一一月二日右総会において右議案は多数をもつて否決された。

よつて、原告は被告らに対し商法二五七条三項により少数株主権に基き取締役の職務を行つている被告勇助の解任を求める。

二  被告らの本案前の主張

1(一)  被告勇助は昭和五二年六月三〇日他五名の取締役と同時に被告会社取締役に就任(重任)したが同五四年六月三〇日右全員任期満了により退任し、取締役は全員欠員となつた。

(二)  被告会社は定款により取締役の定員を三名以上と定めているが、原被告間に別訴が係属していた事情もあり、新たに株主総会において取締役の選任手続を行うこととせず、被告勇助は商法二五八条一項により新たに取締役が選任されるまで取締役の職務を続行してきたものである。

(三)  右別訴において原被告間において取締役の選任方法等について訴訟上の和解が成立したので昭和六〇年一一月二二日被告会社は臨時株主総会を開催し、被告勇助他五名の取締役選任決議をなし、被告勇助は新たに取締役に就任し、同六一年二月三日右(一)の退任登記と併せて右就任登記を経由した。

(四)  よつて、右退任及び就任登記のなされた日をもつて本訴は目的を喪失し訴の利益を欠くに至つたものとして却下されるべきである。

2  仮に被告勇助において原告主張の行為があるとしてもこれは取締役であつた原告と協議して会社の架空経費を計上し原告が被告勇助より多額の分配金を受領していたのであり、原告が自ら被告勇助と共謀して行つたことを理由に被告勇助の解任を求める本訴を提起することは訴権の濫用として許されない。

三  右に対する原告の答弁

1  二1(一)ないし(三)の事実はすべて認めるが、同(四)については争う。被告勇助は昭和五二年六月三〇日に重任された取締役の地位から同五四年六月三〇日退任し同六〇年一一月二二日取締役に就任したものであるが、同被告は本訴の解任請求の事由となつた不正行為について、その後も是正措置をなさず、現在においても取締役たる適格性を欠くものである。商法二五七条三項は不正行為をなした取締役として不適任の者を少数株主権によつて裁判所が解任する制度であり、被告会社のように同族会社である場合に一旦取締役の地位を退任し多数派株主であることを利用して株主総会において新たに選任されたときは、従来の解任請求手続がすべて効力を失うことになるのは右解任請求制度は全く実効のないものとなり不当である。

2  二2の事実は否認する。原告は被告会社の取締役を既に退任している。

四  請求原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1、3の事実及び同2の事実のうち、被告勇助が被告会社の取締役の職務を行つていた者であることは認めるが、取締役の任期満了の昭和五四年六月三〇日以降は商法二五八条一項により取締役の権利義務を有する者としての地位にあつたのであり、その余の事実は否認する。被告勇助は同被告個人のために会社の金員を費消したことはない。

2  被告勇助が被告会社の必要経費として出費した以外の費用があるとしても、右出費は被告会社の代表取締役であつた原告、取締役であつた被告勇助、亡横地利彦三名の兄弟が協議して税法上の給与、配当金としての処理をすることなく被告会社から実質上の給与、配当金として金員の交付を受ける手段として帳簿上被告会社の架空経費の処理をしたうえ原告四二、被告勇助三一、亡利彦二七の割合で配分してきたものであるが昭和五三年末にこれを一切廃止している。従つて、原告が自ら行つたことを被告勇助のみの不正行為と主張することはいわゆるクリーン、ハンドの法理に反し許されない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一被告勇助は、昭和五二年六月三〇日他五名の取締役と共に被告会社取締役と就任(重任)したが同五四年六月三〇日右取締役全員任期の満了により退任したこと、被告会社は定款により取締役の定員を三名以上と定めているが、原被告間に別訴が係属していた等の事情により、株主総会において取締役の選任手続を行うこととせず、被告勇助は右任期満了の昭和五四年七月一日以降新たに取締役が選任される昭和六〇年一一月二二日まで取締役の職務を行つてきたことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実によると被告勇助は任期満了による取締役退任によりその資格を失つた後商法二五八条一項により取締役欠員のため、新取締役選任までの間取締役の権利義務を有する者として取締役の職務を行つていたに過ぎないものであり、取締役の地位には無かつたことが明らかである。

商法二五七条三項の取締役解任の訴を同法二五八条一項の退任後の取締役で取締役の権利義務を有する者に対してもなし得るかについてはこれを認める明文上の根拠もないうえ、同法二五八条一項は取締役の地位の重要性から法律、定款所定の最低限の員数を割つたときは会社は遅滞なくその欠員補充の措置をとらなければならない(同法四九八条一項一八号)が、なお若干の時日を要するところから任期満了、就任により退任した者に従前と同じ権利義務を保有させてこの間隙を埋めようとする立法趣旨であると解され、その様な極めて暫定的な性格を有するに過ぎない同法二五八条一項の取締役の権利義務を行う者は同法二五七条三項の解任の訴の相手方として予定されておらず、少数株主としては右の者を取締役の職務から排除するには、右の訴によるのではなく、すみやかに総会招集権または提案権を行使して新たに所定数の適当な取締役の選任を求める方法によるべきものと解される。

原告が昭和五八年一一月二八日被告らに対し本件取締役解任の訴を提起したことは本件記録上明らかであり、当時、被告勇助が商法二五八条一項の取締役欠員の期間中の取締役の権利義務を行う者の地位にあり、取締役の資格を有していなかつたことは前記のとおりであつて、そうすると原告の本訴取締役解任の訴は右訴により解任を求めることのできない者或いはその必要のない者を対象とする不適法のものというべきである。(原告が被告らの本案前の主張1(一)ないし(三)の事実を認めながら本訴請求を維持していることは被告勇助が商法二五八条一項の地位にある者としても解任を求める趣旨を含むものと解される。)

二なお、本訴係属後原被告間において取締役の選任方法等について別訴において訴訟上の和解が成立し、昭和六〇年一一月二二日被告会社の臨時株主総会で被告勇助が新たに取締役に選任されたことは当事者間に争いがないところであるが、本訴が新取締役に選任された後の被告勇助の取締役の地位を失わせることも含むものであるとしても、取締役としての適格性につき新たな判断がなされており、かつ、右訴の要件である新取締役選任後にその解任議案が否決された事実も認められないのであるからこれが許容されるものとは解されない。

三以上のとおりであつてその余の点につき判断するまでもなく、本件訴は不適法として却下することとし訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官松村 恒)

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