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名古屋地方裁判所 昭和52年(ワ)922号 判決 1979年6月27日

主文

一、被告は原告に対し金三四五万六、三〇〇円および内金一一万五、二一〇円に対する昭和五一年五月一一日から、内金一一万五、二一〇円に対する同年六月一一日から、内金一一万五、二一〇円に対する同年七月一一日から、内金三一一万〇、六七〇円に対する同年八月二〇日から各支払ずみまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

主文一、二項同旨並びに仮執行の宣言

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

(原告)

一、原告は、機械設備等のリース(賃貸)を業とする会社であるところ、昭和四八年五月九日被告との間で、別紙物件目録の物件(以下、本件物件という)につき左記内容のリース契約を結んだ。

リース期間 六〇か月

リース料  月額金一一万五、二一〇円

リース料支払期・支払場所

毎月一〇日限り株式会社百五銀行名古屋支店の原告の預金口座に振込んで支払う。

特約(1) 被告がリース料の支払を一回でも遅滞したときは、原告は通知催告を要しないでリース料全部の即時弁済を請求できる。

(2) 被告が本契約により原告に対して負担する金銭の支払を怠つたときは、遅滞期間中日歩四銭の割合による遅延利息を支払う。

二、原告は、昭和四八年一一月二〇日被告に本件物件を引渡し、以後そのリース期間が開始し、本件物件を使用収益させていたところ、被告は、昭和五一年五月一〇日以降リース料の支払を怠つた。

三、そこで原告は、昭和五一年八月五日被告に対し、郵便の方法をもつて、同年五月から七月分までの未払リース料合計金三四万五、六三〇円を右郵便到達後七日以内に支払うよう催告するとともに、右期間を徒過したときは残リース料全額の即時弁済を求める旨通知し、右郵便は同年八月一二日被告に到達した。

四、よつて、被告に対し昭和五一年五月一〇日以降支払予定と定められていた残リース料全額金三四五万六、三〇〇円と内金一一万五、二一〇円に対する昭和五一年五月一一日から、内金一一万五、二一〇円に対する同年六月一一日から、内金一一万五、二一〇円に対する同年七月一一日から、内金三一一万〇、六七〇円に対する同年八月二〇日から各支払ずみまで日歩四銭の割合による遅延利息の支払を求める。

五、被告主張二、三項の事実は否認する。

同四項の事実中、被告が昭和四八年一一月分から昭和五一年四月分までのリース料合計金三四五万六、三〇〇円を原告に支払つたこと、原告が本件物件を中部システム・マシン株式会社(以下、訴外会社という)から買受けたことは認め、原告が昭和五二年一一月七日被告の許から本件物件を引揚げたとの事実を除くその余の点は争う。

本件リース契約におけるリース料債権は、被告による本件物件の使用収益期間に応じて発生するものではない。

すなわち、原告は、被告が自己の資金で購入せずして使用収益することを希望する本件物件を、被告の使用収益に供するために訴外会社から購入して同会社にその代金全額を支払い、被告に本件物件を引渡すと同時に、リース全期間にわたる本件物件の使用収益権を付与し、その対価としてリース全期間にわたるリース料債権を即時に取得したものである。被告の負担する毎月のリース料支払義務は、リース全期間のリース料支払義務につき期限の利益が付与されたものにすぎないものであるから、被告が本件物件を使用収益しなかつたときでも、全期間についてのリース料支払義務を免れることはできず、その他毎月のリース料の不払など期限の利益の喪失事由が生じた場合に、原告が残リース料の一括請求、本件物件の返還請求をなすことは何ら違法な措置ではない。

なお被告は、本件物件の引渡しを受けた際、原告に対し本件物件に瑕疵などが存する旨通知することなく本件物件の借受証を提出したものであるから、完全な状態でその引渡しを受けたものとみなされるものである。

(被告)

一、原告主張一項の事実は否認する。

同二項の事実中、被告が原告に対し昭和五一年五月一〇日以降リース料の支払をしていないことは認め、その余は否認する。

同三項の事実は認める。

二、被告は、昭和四八年春ごろから、訴外会社より原告とのリース契約によつて本件物件(電算式事務処理機械)を採用するよう強く勧誘されていたが、それが被告の事務の合理化、能率化に適するか否かにつき疑問があつたため、訴外会社の指導、協力を得て本件物件を試用し、その適否を判断することとした。そして、右試用を開始するにあたり、訴外会社から右試用に協力する必要上、原告を賃貸人とする本件リース契約書に賃借人として署名捺印してもらいたい旨要望されたため、これに応じて右契約書に署名捺印したにすぎない。

従つて、被告は原告と本件リース契約を結ぶ真意のないまま右契約書に署名捺印したものであるから、原被告間に本件リース契約は成立していないものというべきである。

三、仮に、原、被告間に本件リース契約が成立しているとしても、それには左記の停止条件が付されていた。

すなわち、被告は、原告の共同行為者的関係若しくは代理人たる地位にある訴外会社との間で、被告において本件物件を試用した結果それが被告の事務の合理化、能率化に適するものと判明したときにその採用を決定するとの停止条件を付けて、本件リース契約を結んだものである。

しかるに、昭和四九年春ごろ本件物件が右合理化、能率化に適さないものと判明したため、被告において本件物件を採用しないものと決定し、そのころその旨訴外会社および原告に通知した。

従つて、本件リース契約は条件の不成就により効力を生じなかつたものである。

四、原告は、昭和五二年一一月七日被告の許から訴外会社と共同して、本件物件を引揚げた。その結果、被告の本件物件の使用収益は不能となり、それと対価関係にある右引揚げ日の翌日以降のリース料支払義務も消滅した。

更に、被告は、昭和四八年一一月分から昭和五一年四月分までのリース料合計金三四五万六、三〇〇円を支払い、また、本件リース契約においては、右引揚げの時点において本件物件が滅失した場合、被告が原告に支払うべき規定損失金が金三五四万九、〇〇〇円と定められていることに照らし、右引揚げ時における本件物件の価格は金三〇〇万円を下らなかつたから、原告の右引揚げによつて被告の昭和五一年五月から右引揚げ時たる昭和五二年一一月までのリース料合計金一九五万八、五七〇円の支払義務も清算されて消滅した。

なお原告は、本件物件を訴外会社から買受け、それを被告に使用させていたものであるが、訴外会社との右売買契約を解除し、その売買代金約金四七〇万円の返還を求め得る方法を採ることができるにかかわらず、これによることなく、また右引揚げ後右訴外会社において本件物件を原告から買戻しているにかかわらず、被告にリース料全額の支払を求めることは権利の濫用として許されないものである。

第三、証拠(省略)

理由

一、成立に争いのない甲第一、第二号証、証人柏木一夫の証言によれば、原告主張一項の事実(本件リース契約の成立)および、原告が昭和四八年一一月二〇日被告に本件物件を引渡してその使用収益を委ね、同日から本件リース契約に定めるリース期間が開始したことが認められ、右認定に反する被告主張二項の本件リース契約不成立の主張、原本の存在、成立およびその写であることに争いのない乙第二号証の記載部分、被告代表者本人の供述部分は、前記甲第一、第二号証、原本の存在、成立およびその写であることに争いのない乙第一七号証の一、二、証人柏木一夫、同高倉仁郎の各証言に照らして採用できない。

また、訴外会社が原告と共同行為者的関係若しくは原告の代理人たる地位にある旨の、本件リース契約の締結にあたつて被告の本件物件の採用決定を停止条件とする旨の約定が付けられていたとの被告主張三項についても、右主張に副う前記乙第二号証、証人高倉仁郎の証言によつて成立を認め得る乙第一〇号証の一、弁論の全趣旨によつて成立を認め得る乙第一四ないし第一六号証(第一四、第一五号証については官署作成部分の成立については当事者間に争いがない)の各記載部分、被告代表者本人の供述部分は、前記乙第一七号証の一、二、証人柏木一夫、同高倉仁郎の各証言に照らして、いずれも採用し難く、他に右主張を認定するに足る証拠はない。

二、被告は、原告に対し、昭和四八年一一月分から昭和五一年四月分までのリース料合計金三四五万六、三〇〇円を支払つたものの、昭和五一年五月一〇日以降リース料の支払をしていないこと、および、原告主張三項の事実(被告に対する原告のリース料支払の催告)は当事者間に争いがなく、原告が昭和五二年一一月七日被告の許から本件物件を引揚げたことは、原告において明らかに争わないから自白したものとみなされるところ、本件リース契約においては、前一項認定のとおり、被告においてリース料の支払を一回でも遅滞したときは、原告において通知、催告を要しないでリース料全部の即時弁済の請求ができる旨、被告が原告に対する金銭の支払を怠つたときは、遅滞期間中日歩四銭の割合による遅延利息を支払う旨定められていること明らかであり、更に前記甲第一号証によれば、原告は、右の即時弁済の請求のほか、本件物件の引揚げまたは返還請求をなし得る旨、原告が右の即時弁済の請求、本件物件の引揚げ、返還請求の措置を採つた場合でも、被告が本件リース契約によつて負担する義務は免除されない旨定められていることが認められる。

そこで、被告主張三項について判断するに、本件全証拠によるも、被告の前記リース料の不払、原告の本件物件の引揚げが原告の本件リース契約の不履行その他責に帰すべき事由によつて惹起されたものと認定することはできず、かえつて、前記乙第二号証、乙第一〇号証の一、乙第一四ないし第一六号証、被告代表者本人の供述によれば、被告は、昭和五〇年一月ごろから、原告および訴外会社に対し、本件物件の販売元であり被告に本件物件の採用を勧めた訴外会社との間で、本件物件の引渡しを受けるにあたつて、検討(試用)した結果採用しないと決定したときは訴外会社において本件物件を引取るとの約定があつたところ、採用しない旨決定したからとして、リース料支払義務を負わない旨訴え、本件物件の引取りを要望するなどして、本件リース契約を解約したい旨申し入れ、原告からリース料の支払を求める催告を受けていたにかかわらず、昭和五一年四月原告に対し、同年五月一〇日以降リース料の支払を打切る旨、本件物件の保管についてもその義務を負いかねる旨通知したこと(前記甲第一号証によれば、被告は本件リース期間中、本件物件の保管、使用につき善良な管理者の注意義務を負うべき旨定められている)が認められ、この事実に前一項認定の事実を併せ考えると、被告は、原告が本件リース契約によつて取得した地位(権利)を顧みることなく、被告自らのために、本件リース契約の期間満了前にそれを終了させようとしたものといわねばならない。

従つて、被告の前記リース料の不払、本件物件につき保管義務を尽さない旨の通知は本件リース契約に違背するものといわねばならず、かつ被告自ら本件物件の使用収益権を放棄したこと明らかであるから、原告による本件物件の引揚げも妥当な措置というべきであり、証人高倉仁郎の証言にみられるように、被告が本件物件の引渡しを受けたのちほとんどそれを使用しておらず、原告が右引揚げののちその販売元である訴外会社に本件物件を買取らせた事実があるにしても、その他、原告において被告の前記リース料の不払にもとづき前記認定の約定に従つて被告に対し昭和五一年五月一〇日以降に支払うべきものとされていたリース料全額の即時弁済を請求することが、違法不当な行為であると認定するに足る証拠のない本件においては、原告の右請求をもつて権利の濫用ということはできず、更に本件物件の引揚げによつて、被告のリース料支払義務が消滅し、清算されたとの被告の主張も採用できない。

三、以上の次第で、被告は原告に対し昭和五一年五月一〇日以降に支払うべきものとされていたリース料合計金三四五万六、三〇〇円の即時支払と内金一一万五、二一〇円(同年五月一〇日支払分)に対する同年五月一一日から、内金一一万五、二一〇円(同年六月一〇日支払分)に対する同年六月一一日から、内金一一万五、二一〇円(同年七月一〇日支払分)に対する同年七月一一日から、内金三一一万〇、六七〇円に対する同年八月二〇日から各支払ずみまで日歩四銭の割合による遅延利息を支払うべき義務があるから、被告に対し右義務の履行を求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

別紙

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