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名古屋地方裁判所 昭和52年(ワ)1066号 判決

昭和五二年(ワ)第一、〇六二号原告

株式会社アイホー工業こと

松村賀夫

右訴訟代理人

古井戸義雄

昭和五二年(ワ)第一、〇六六号事件原告

有限会社マルイ鋼材工具商会

右代表者

井沢忠夫

右訴訟代理人

南館欣也

昭和五二年(ワ)第一、〇六二号事件被告

昭和五二年(ワ)第一、〇六六号事件被告

株式会社五十鈴製作所

右代表者

富松宗富

右訴訟代理人

竹下重人

主文

第一(昭和五二年(ワ)第一、〇六二号事件)

原告松村賀夫の被告に対する請求を棄却する。

第二(昭和五二年(ワ)第一、〇六六号事件)

被告は原告有限会社マルイ鋼材工具商会に対し金七七万九、二五一円及びこれに対する昭和五二年五月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第三(訴訟費用)

訴訟費用中原告松村賀夫と被告との間に生じた分は同原告の負担とし、原告有限会社マルイ鋼材工具商会と被告との間に生じた分は被告の負担とする。

第四(仮執行宣言)

この判決中第二項は、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

第一(昭和五二年(ワ)第一、〇六二号事件)

一訴外臼井が被告に対して、昭和五二年二月末日現在金二六六万一、九〇〇円の売掛代金債権を有していた事実は当事者間に争いがない。

二原告松村主張の債権譲渡契約については、その契約書の提出がないので契約書そのものの契約内容を知ることができないが、〈証拠〉には、訴外臼井と訴外日本特機株式会社(代表取締役榎本三郎)の両名が譲渡人となり、株式会社五十鈴製作所(被告)に対する昭和五二年一月三一日までの金二三七万三、六〇九円、同年二月二八日までの内金七〇万円(右合計金三〇七万三、六〇九円)の債権を同年二月二四日付で「株式会社アイホー工業代表取締役松村賀夫」に譲渡したから右債権者株式会社五十鈴製作所(被告)に通知する旨の記載があり、右記載からすれば、一応昭和五二年二月二四目、訴外臼井及び訴外日本特機が「株式会社アイホー工業」に対して右約旨により債権を譲渡する旨の契約が締結されたものと推認することができる。

三ところで、右債権譲渡契約は、その契約締結時に未発生と思われる将来の債権(二月二八日までの分の内金七〇万円)も譲渡債権としている点に疑問があるばかりでなく、前記のように譲渡人として訴外臼井と訴外日本特機の両名が漫然併記されているだけであつて、そのいずれが譲渡人(債権者)であるのか、或は共同債権者なのか、その各一部の債権者なのか明らかでなく、前記債権譲渡通知書(甲第一号証)から推認される譲渡契約自体に問題があるのであるが、被告が前記譲渡債権のうち金二六六万一、九〇〇円について原告松村主張のとおり訴外臼井に対して債務を負担していることを認めているところよりして、右債権譲渡契約は、訴外臼井を譲渡債権者とした右金額の債権に限つて一応その効力があるものということが可能である。

四しかし、右債権譲渡契約については、その譲受人が原告松村であるかどうかに更に大きい疑問がある。即ち、〈証拠〉によれば、債権譲渡の譲受人を「株式会社アイホー工業」としたのは、当時築炉業を営んでいた原告松村が、自己及び実弟、従業員らを発起人として「株式会社アイホー工業」の設立準備中であつたので、その発起人総代であつた原告松村が同原告を代表取締役とする予定の設立後の右会社に権利取得させる目的で前記債権譲渡契約を締結したのであるが、結局右会社は設立されないままとなつた事実が認められる。

この事実関係からすれば、設立準備中の会社を権利能力なき社団或は組合のいずれに該ると解すべきものとしても、右発起人総代たる原告松村が設立予定の「株式会社アイホー工業」に権利取得させるためにした右債権譲渡(譲受)の法律行為は、会社の設立自体に必要な行為にはもちろん、その開業準備行為にも該らず、従つて、のちの会社設立によつて当然会社のために権利取得の効力が生ずるという性質のものではなく、いわば設立予定の会社のための原告松村の無権代理行為と解すべきものであり、せいぜい設立後の会社の追認によつてその効果が生ずると解する余地があるかどうかにすぎない。そして、設立準備中の会社が設立されないで終つた場合は(なお、この場合その権利能力なき社団又は組合も消滅すると解するのが相当である。)、その無権代理行為を追認すべき会社(本人)も存在しないことになるのであるから、右無権代理人の法律行為は結局その効力のないものになると解するほかはない(但し、その相手方は民法一一七条一項により無権代理人に対し契約の履行又は損害賠償のいずれかを選んで請求することができる。)

右法理からすると、前記債権譲渡契約は結局その譲受人の関係において無権代理として効力を生じないものといわざるを得ず、もとより右契約の効力が無権代理人たる原告松村個人について生ずると解すべき余地もない。

もつとも、原告松村は、譲受人としての「株式会社アイホー工業」は即原告松村個人であり、同原告の法律行為である旨強弁するが、その供述するような同原告の訴外臼井に対する従前の貸金関係を考慮に入れても、前説示の契約の形式、内容等からして、前記債権譲渡を原告松村を譲受人とする契約と認めるに足りない。

五よつて、原告松村を本訴譲受債権の債権者と認めることはできず、右主張を前提とする同原告の被告に対する本訴請求は理由がない。

第二(昭和五二年(ワ)第一、〇六六号事件)

請求原因(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。

被告は、原告マルイの得た本件債権差押並びに転付命令の目的とする被転付債権は、それよりさき債権者たる訴外日本特機から「株式会社アイホー工業」に債権譲渡された旨抗争するけれども、右「株式会社アイホー工業」が、結局当時設立準備中の会社であつて、その後設立しないままとなつて結局右債権譲渡契約はその譲受人の関係で原告松村の無権代理として効力を生じないものであること前項第一で説示したとおりであるから、被告の右抗弁は理由がない。

そうすると、被告は原告マルイに対し同原告の請求する被転付債権の内金七七万九、二五一円とこれに対する本件訴状送達の翌日たることが記録上明らかな昭和五二年五月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第三(結論)

以上により昭和五二年(ワ)第一、〇六二号事件の原告松村の請求は理由がないからこれを棄却し、昭和五二年(ワ)第一、六六号事件の原告マルイの本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用については、民訴法八九条により、前者の事件に関して生じた分は原告松村の負担とし、後者の事件に関して生じた分は被告の負担とすることとし、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(深田源次)

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