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名古屋地方裁判所 昭和52年(モ甲)9号 判決 1977年6月17日

当事者

別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  当裁判所が当庁昭和五一年(ヨ)第一一〇二号ガス供給施設建設工事差止の仮処分申請事件について、昭五一年一二月二一日になした仮処分決定はこれを取り消す。

2  申請人らの本件仮処分申請を却下する。

3  訴訟費用は申請人らの負担とする。

4  この判決の第1項は、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一当事者

1  申請人自治会が本件予定地の近隣に存する殖産住宅相互株式会社および殖産土地相互株式会社の共同開発にかかる東山東芦廻分譲地内に居住する世帯主によつて組織された自治会であること並びに被申請人がガスの製造、供給、販売等を目的とする株式会社であることは、当事者間に争いがない。

2  <証拠>によれば、被申請人は名古屋市を中心として二三市二〇町一村の広い地域に都市ガスの供給をしており、現在都市ガスの製造所として港明工場、空見工場、上野工場を有し、ガス供給所として桜田(熱田区)、鶴里(南区)、守山(守山区)、日比津(中村区)の四か所にガスホルダーステーシヨンを有し、右各ステーシヨン並びに港明、上野工場所在のガンホルダーから右供給地域全般に都市ガスを供給していることが認められ、他にこれに反する疎明はない

3(一)  <証拠>によれば、申請人自治会は昭和四八年一一月一日発足したものであるが、前記1認定のように組織され、会員相互の親睦と福祉の向上をはかることを目的とし、この目的達成に必要な事業を行うもので、現在、会員数一七〇余名、その組織として役員会、組長会、組(一九組)を置き、組は自治会の下部組織としての事務を分担するものであること、会長は各組が会員のうちから推せんした候補者について、組長は会員の意見を尊重し組長会がこれを選出するものであること、会長は自治会を代表し、関係機関との連絡協議にあたり、自治会の業務を統括処理することが認められ、他に、これを左右するに足る疎明はない。

右事実によれば、申請人自治会は、一定の居住者を会員とし、一定の目的をもつて組織せられ、かつ、会員中より選出された会長を常置し、社会生活上独立体として存在する団体であると認められるから、民訴法第四六条により当事者能力を有するものというべきである。

(二)  <証拠>に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。

(1) 東山東芦廻間分譲地は、前記二社がその計画戸数を二一〇戸として、昭和四二年六月に用地を取得し、同四五年四月宅地造成工事の認可を得て工事に着工し、その完成をまつて、清浄で閑静、調和のとれた理想的住宅環境と銘打つて、同四七年七月に分譲を開始したものであること。

(2) 申請人高木信次を除くその余の申請住民らは右分譲地内に居住する住民で、右申請人自治会の構成員またはその家族であり、申請人高木信次は、右分譲地北部から西へ道一つ隔てた芦廻間地内に居住している者であること。

(3) 右申請人らは、申請人武田文子が昭和四七年九月二五日に入居したのを最初とし、同五一年九月二日申請人若杉昭治を最後として入居を終えていること

右申請人らのうち、佐野光雄、武藤文明、宇野成明、山口多恵子、与田和詔、坪井宏祐、平柳克彦、松井勝義、石川保英、高塚アサエの一〇名は、昭和四九年七月一四日(後叙確認書成立の日)以前に、それぞれ、各分譲地につき所有権移転登記を了したが(一部は世帯主などの名義の登記)、同日以降に入居したものであり、野本久夫、久野昭子、相羽宜夫、蜷川興三、中根猪三造、鈴木摩耶、山田田鶴子、三宅克哉、林和宏、中村政郎、野田幸子、橘至朗、湯倉勇、若杉昭治ら一四名は、いずれも昭和四九年七月一四日以降に、当該土地につき所有権移転登記を了し(一部は世帯主などの名義の登記)かつ、同日以降に入居した者であること。

二本件予定地と申請住民ら居住地域の位置関係

1  <証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、他にこれを左右するに足る疎明はない。

(一)  愛知県愛知郡日進町は、同郡三好町、東郷町、長久手町、豊田市、名古屋市天白区、名東区と環を接する行政区画で、昭和五一年三月現在、世帯数八九四三戸、人口三万二三二八人を擁しているところ、同町には古くから、区(大字)と称する下部組織が一五あり、申請住民らが居住する東山東芦廻間分譲地は、そのうちの「岩崎区」に属しているが、同区の右時点における世帯数は一七八一戸、人口は六三六九人であり、そのうち、右分譲地は一七四戸、人口は約六四〇人であること。

(二)  本件予定地は、標高約八五メートルの丘陵地に位置し、その南側に右東山東芦廻間分譲地があり、本件予定地内のガスホルダー設置部分から北方約二〇〇メートルには、愛知郡長久手町大字長湫字片平所在の片平住宅(昭和五一年一〇月一五日現在、旧住民戸数一一戸、造成戸数四〇戸)、北西約五〇〇メートルには、長久手町大字長湫字丁子田所在のふじみが丘住宅(同五一年七月現在二三戸、九四人居住)と東山団地、東方約六〇〇メートルには、南北に主要地方道瀬戸大府東海線が存在していること。

2  申請住民らの居住する東山東芦廻間分譲地が本件予定地の南側に位置することは前認定のとおりであり、乙第七六号証の一、二によると本件予定地と分譲地との位置関係は別紙図面に示すとおりであることが認められるが、本件予定地に建設されるガスホルダー本体の外周と申請人ら居住地と位置関係につき要約すれば次のとおりである。

(一)  北村元伸、上田和裕は、ガスホルダー外周からほぼ一〇〇メートルの位置に居住している。

(二)  高木信次、平柳克彦、水野孝子、橘至朗、羽場毅、吉川良一、横井英夫、加藤宰夫、渡辺経之、鈴木力、武部宏、湯倉一男は、ガスホルダー外周から一〇〇ないし二〇〇メートル内に居住している。

(三)  小栗田鶴枝、竹岡房枝、渡辺睦子、鈴木君江、沢野迪子、川村ひさ子、松井勝美、大岡晶子、清水好郎、山田正夫、福永豊明、田中一郎、三浦喜和子、牧野正忠、今村博数、高木延寿、服部正之、川本元幸、堀一彦、橋本郁子、森幸江、三沢英彦、深田金正、林和宏、坪井宏祐、高野紀代子、今村富子、字野成明、佐藤好二、野田幸子、蜷川興三、山田田鶴子は、ガスホルダー外周から二〇〇ないし三〇〇メートル内に居住している。

(四)  山口多恵子、根来洋、高塚アサエ、野垣敬、与田和詔、幸村隆夫、中村政郎、夏目利章、佐野光雄、菊井穣、三宅克哉、若杉昭治、吉沢孝夫、石川保英、竹内等、岡崎昭、小林正治、大塚勲、湊貞子、中根猪三造、鈴木摩耶、久野昭子、野本久夫、植月道安、内藤友治、竹内尋利は、ガスホルダー外周から三〇〇ないし四〇〇メートル内に居住している。

(五)  本多清子、一上カツ子、日下部淳二、上川恵治、林政男、相羽宣夫、佐藤寛、浅野彪、武藤文明、森下はるみ、山田三七子、武田文子、竹内幸仁は、ガスホルダー外周から四〇〇ないし五〇〇メートル内に居住ている。

三ガスホルダー建設の着工

被申請人が本件予定地に左記のようなガスホルダー等のガス供給施設を計画し(この点についての詳細は後叙四2(一)のとおりである)、昭和五一年八月七日ころ右土地に立入禁止の立札を立て、右土地の測量および樹木の伐採等を開始し、同年一〇月ころからガスホルダーの建設に着工したことは当事者間に争いがない。

(一)敷地面積 約二万七八五七平方メートル

(二)造成面積 約九四二〇平方メートル

(三)ガスホルダーの基数 当面は一基

(四)容量 二〇万立方メートル

(五)型状 球形

(六)直径 約四〇メートル

(七)工事期間 約一年四月

なお、<証拠>と弁論の全趣旨を総合すれば、右工事の工程は、(一)調査準備工事、(二)土地造成工事(樹木の伐採搬出、切盛土、法面仕上などの敷地造成工事、(三)基礎工事(基礎堀削工事および杭打、型枠、鉄筋、コンクリート等の基礎本体工事)、(四)ガスホルダー工事(ホルダー本体の組立、溶接工事および付属工事)、(五)配管工事等であることが認められる。

四確認書の作成とその経緯

1  昭和四九年七月一四日前記分譲地内において開催されたガスホルダーに関する説明会において、被申請人の当時の常務取締役大角信男が、「今回の説明会の結果、申請人自治会の同意を得られるまでは、ガスホルダー建設工事の着工は絶対に致しませんことを確認します。」と記載された本件確認書に署名したことは、当事者間に争いがない。

2  そこで右確認書が作成されるに至つた経緯につき検討するに、<証拠>を総合すると、次のとおり認められる。

(一)  被申請人の都市ガス供給区域のなかにあつて、名古屋東部地域とりわけ日進町における世帯数は昭和四四年度末においては四五八一戸に過ぎなかつたところ、昭和四九年度末の見込みではこれが八二三八戸と五年間に1.8倍、年平均12.5パーセントの伸びを示し、この増加傾向は昭和五〇年度以後も持続するものと予測され、それに伴い同地区の都市ガス需要家数も、昭和四四年度末では五三九戸であつたが、昭和四九年度末には三二〇八戸と五年間に六倍に急増し、さらに昭和五〇年度以後五年間に二倍以上に達するものと見込まれたが、このように年々、需要が急増する傾向は、ひとり日進町のみでなく名古屋東部地域一帯に共通する現象であつたため、被申請人は、右状態がこのまま推移するときは、将来都市ガスの安定供給が確保できなくなる事態に立ち至る可能性のあることを予想するに至つた。ところで、被申請人は既に、昭和四四年一〇月から、名古屋東部地域で、将来都市ガスの供給所の建設および社員の厚生施設をも併設するための適切な用地取得のための調査を開始し、その結果、需要の伸びが著しい地域で、その需要の中心にできるだけ近く、かつ、既設の守山、鶴里両供給所のほぼ中間地点で、既設のガス輸送管の配置状況が新ガスホルダー建設に適するというガスホルダーステーシヨンの立地条件を満たすものとしては、本件予定地が適当であるとして、昭和四五年一月から用地取得のため交渉を始め、同年四月本件予定地の買収を終えた。

(二)  被申請人は、用地買収をするかたわら、ガスホーダー建設の具体的構想を練り、昭和四五年七月には本件予定地内の排水について、殖産住宅相互株式会社に分譲地内の排水計画への合流を申し入れたが、別途計画により行つてほしい旨拒否された。ところで、日進町においては、同町区長設置条例により、町行政の運営を円滑ならしめ、住民の声を行政に反映するため、前記一五の区に、町長が依嘱した区長が置かれ、また、明治以降の慣行により区議会が存する。岩崎区においても、任期一年の区長が置かれ、また、区内の各地区より一定の住民資格により選出された各地区代表の議員一九名および区長、会計の二一名により構成される区議会が設置されていた。そこで、被申請人は同四七年五月に至つて日進町岩崎地区の松岡仁美区長に対し、本件予定地におけるガスホルダーの建設計画について説明し、その承認方を申し入れたところ、同区長から岩崎区議会で審議し、検討する旨の回答があり、同月二七日岩崎区議会が開催され、その結果、隣接地主、田郷(田を所有しているものの仲間)の承認を得る事を条件として、後日再び審議することとなり、同月下旬前記松岡区長より右結果の報告を受け、建設用地の隣接地主の同意をとるよう指示を受け、以後隣接地主の同意を得るため奔走し、ようやく昭和四八年七月二三日になつて、同年度の岩崎区長牧則彦に対し、右隣接地主の同意を得られる見通しが立つたとして、区議会の審議方を申し入れた。同年八月一六日右牧区長から被申請人に対し、岩崎区議会で審議するにあたりガスホルダー建設計画についての資料を提供して区議会議員に説明するよう申し入れがあり、提供資料について打ち合せたが、建設用地の農地転用手続については、別途岩崎区農業委員から同意を得るようにとの指示により、被申請人は同月二一日岩崎区牧義春農業委員に対してガスホルダーの建設計画について説明し、同月九日牧区長、松岡前区長に岩崎区議会提出の資料について説明し、同年九月一四日開催された区議会において、ガスホルダーの建設計画について、その安全性、環境保全等について詳細に説明した。右区議会においては、被申請人に隣接地主の承諾書の写しを提出させ、また、芦ケ廻間土地区画整理組合および田郷の同意書が提出された後再度審議することになつた。

被申請人は、同年一〇月二日堀ノ内信義右土地区画整理組合発起人代表から、「土地造成に伴う排水願書」に対する同意を得、区議会からの指示である田郷の排水路改修と建設用地からの排水について、田郷の代表者に対し田郷の了解を得るため説明し、同年一一月二日に開かれた区議会において隣接地主の承諾書と右区画整理組合の同意書とを提出した。右区議会においては田郷の一部反対意見に対し、区長が後日話し合いをし、その意見を聞いた後再審議することに決定された。同年一二月八日開催された区議会で、岩崎区としてはガスホルダー建設に同意するが、細部にわたる諸条件の取り決めについては、後日岩崎区、被申請人、土地区画整理組合発起人の三者間で協議することに決まり、その後数回にわたつて、右三者間で取り交わす協定書について協議が行われ、昭和四九年一月一九日、ガスホルダー建設計画について岩崎区長、芦廻間土地区画整理組合設立発起人代表と被申請人との間で、概略次のような内容のガスホルダー建設協定書を作成した。

(1) ガスホルダー建設に要する面積九四二〇平方メートルに関し、被申請人は岩崎区に対し3.3平方メートル当り二〇〇円の協力金を支払う。

(2) 被申請人は、ガスホルダー建設に関し(建設申請は一基)、隣接の同意書(写)並びに図面を作成して岩崎区に提出する。

(3) ガスホルダー建設により附近の地価が著しく低下し、隣接者に損害を与えた時は、協議によりその補償に応ずる。

(4) 附近の土地および田郷(排水路流域の田の所有者)の所有地に対し水害が起きた場合は、直ちに現況に復する。

(5) 被申請人は、右組合の設立後、右組合の事業施行に関し、被申請人の所有地の一部が緑地または公園として利用できるよう右組合と協議する。

(6) 協定事項以外の事項が発生した場合には、三者間で協議し解決する。

(三)  右経過を経て、被申請人は昭和四九年一月二三日岩崎区長から、岩崎区地内における土地造成工事について同意を得、次に同月二五日農地転用について牧義春岩崎区農業委員から同意を得るとともに、同年二月一二日日進町役場に対し宅地造成に関する工事許可申請、農地法五条の規定による許可申請、砂防指定地内行為許可申請、大規模行為届出の各関係書類一式を提出したのをはじめ、以後名古屋通産局に対する工事計画認可申請等の各種法的手続をとり、同年四月三〇日までにガスホルダー建設に必要な法的諸手続をすべて終えた。

(四)  被申請人が本件ガスホルダーの建設計画に関し岩崎区その他の関係機関と折衝し、必要な法的手続を終了するまでの経緯は前記(三)に述べたとおりであるが、この間における前記分譲地の入居状況をみるに、被申請人が始めて岩崎区との折衝を開始した昭和四七年五月ころは、勿論、分譲住宅は建築されていなかつたが、前記一3(二)認定の如く同年七月ころ分譲が開始され同年中に一名が入居し、昭和四九年一月ころまでには九七世帯が入居し、前記一3(一)で触れた如く昭和四八年一一月には申請人自治会も発足していた。

そこで、前記ガスホルダー建設協定の締結にあたり、岩崎区は被申請人に対し、右建設については分譲地の住民の同意を得るよう口頭で指導し、また、日進町も前記手続を進めるなかにおいて、同様の指示を口頭でしていた。被申請人は工事着工を同四九年七月と予定していたのであるが、これを円滑に推進するためには地域住民の理解と協力が必要であると考え、同年六月二六日、当時の申請人自治会の会長であつた三浦旌男に面接し、ガスホルダー建設の必要性、安全性、工事上の問題点などについて説明するとともに、同人の了解のもとに、同日から三日間にわたり申請人らを含む本件予定地近隣の各戸を訪問説明し、「みどりのなかのガスホルダー・ガス供給所建設のおねがい」と題するパンフレツトを配布したところ一部住民から、自治会を構成する各組の組長を集めて説明をしたらどうかという声があつたため、その開催方を右三浦自治会長に申し入れ、同人と日時について打ち合せた結果、同年七月四日午後一時から三浦自治会長宅で組長会を開くことになり、同日、右一九組の全組長が集まつた席上、「ガスホルダーの必要性」、「安全性」、「工事上の問題点に対する処置、「環境保全」などについて説明を行い、若干の質疑応答がされた結果、一部組長の中には絶対反対をとなえる者もあつたが、結局、右席上、組長会から、「自分達が各組に戻り、組員に説明するよりも、被申請人から住民全員が一堂に集まつたところで直接説明してもらつた方がよいから、できるだけ早くそうした機会を作つてほしい。」旨の要望がなされ、被申請人もこれを了承し、双方話合つた結果、同月七日被申請人の星ケ丘営業所でこれを開催することとなつた。

その後、三浦自治会長から被申請人に対し、七月七日の説明会を同月一四日午前九時に延期し、場所も自治会内空地に変更してほしいとの申し入れがあり、さらに、同月一三日になつて同自治会長から午前九時を午前一〇時にしてもらいたい旨の申し出があり、結局七月一四日午前一〇時に説明会を開催するはこびとなつた。

(五)  当日右会場には、住民側から申請人自治会会長ほか自治会の構成員あるいはその家族の者約一一〇名が、被申請人側から当時の常務取締役大角信男、同じく当時の取締役都築五九男をはじめ工務部長、総務部次長、供給計画課長、用地課長、区域担当の星ケ丘営業課長など各部門の責任者一〇数名がそれぞれ出席し、被申請人の従業員の司会のもとに右説明会が開始された(双方とも、その経過を録音した)。

(六)  右説明会は、大角取締役の挨拶のあと都築取締役からガスホルダーの必要性、安全性、環境保全の順序で一般的説明が始められたが、ガスホルダーの必要性についての説明が終わらないうちに、住民から、「安定供給は東邦ガスの義務である。」、「ガスタンクがどこにいくつあるかくらいは知つている。そういうことを聞きにきたのではない。」、「我々に事前に説明もなく隠してやつてきた事情を説明してもらいたい。」といつた発言が一斉になされ、その後は住民の質問に被申請人が答えるといつた形式で説明会は進行し、彼申請人のした用地購入時期とその目的、建設許可申請の時期、建設計画について二、三の質疑応答があつた後、住民から、「なぜ住民を無視してやつてきたか。」、「建設の許認可を受けた際に地区住民の同意を得なければならないといつた条件はなかつたか。」といつた質問が出された。これに対して被申請人側の丹羽総務部次長から、「住民らの居住地も岩崎区に属しており、岩崎区会で承認を得たことで地元に対する説明、了解は得られたものと考えていたが、認可を受ける際、日進町役場の方から殖産住宅の住民からもとくに了解を得るように口頭で言われたので、それではいけないと急拠遅ればせながら住民の了解を得るため説明会をもつた。」旨の返答があつたので、住民から、「日進町からの付近住民らの了解を得るようにとの口頭の指示を着工の条件と考えているのか、あるいは一応説明すればよいと考えているのか。」という趣旨の質問がされ、これに対し右丹羽総務部次長が「皆さま方の同意を得てそのうえで着工したい。」と答え、これをうけて住民の一人が、「同意を得られない限りは着工しない考えであるということですね。」と質問し、右丹羽総務部次長は、「基本的にはそういう考え方をしています。」と答えた。次いで、住民の一人が、「我々が同意をしない限りは着工はしないんだというふうに理解してよろしいか。」と念をおしたのに対し、右総務次長は、「はい、私どもは皆さま方のご同意を得たうえで工事にかかりたいと、したがつて……」と答え、住民らが、「間違いないですね、その発言間違いないですか。」と確認した。その直後都築取締役が、「最後のご質問なんですが、同意がなかつたら絶対に着工しないというご質問の趣旨だと思いますけれども、私どもとしましては、そういうことは考えたこともないということが実体でございます。」と答えたため、住民側は、被申請人の答弁は首尾一貫せず、不明確であるとして、再びこの点についての質疑応答がされ、住民の右同旨の質問に対して都築取締役は、「現時点では、どのような手段を講じてでも住民らの同意を得ることに誠意を尽くし最善の努力をする。」という趣旨の返答を繰り返した。次いで、他の場所における建設計画の有無、本件予定地購入の際の目的、殖産住宅相互株式会社との話合いの有無(これについては被申請人は昭和四九年七月始めまで話合つたことがない旨答えた。)などについて質疑応答があつた後、住民から、「同意を得られるまでは着工しないという明確な約束をしてほしい。」という要望が出され、これに対し都築取締役が、「同意を得られなかつたら着工はしないという約束をしろという点については、一方でガスの安定供給という公益的な責務を果たす責任があるので軽々にそうした約束はできない。」と答えたところ、重ねて、住民から「我々がガスタンクの問題を聞いたのは一週間程前で、いろいろ研究する問題があるわけで、その辺の時間的な問題もあるところから、取りあえずは同意がなければ着工しないということに焦点を絞つて答えてほしい。」旨要請したので、都築取締役は、「現在、これですぐに着工することは毛頭考えておりません。皆さんに不意に着工するとは絶対に申しあげません。これだけは、はつきりとお約束いたします。」と答えた。その後代替地での建設の可能性について若干のやりとりがあつて、住民らは、「ガスホルダー建設計画について各種法的手続を始めた昭和四九年二月から説明会開催まで五か月間住民に相談もしなかつた責任をどのようにとるか。」という質問をなし、会社を代表する権限のある者が回答するよう要求したので、前記大角取締役は、「これから一生懸命皆さんにお願いして同意をいただくつもりでございますけれども、同意がないと着工しないということで、ご理解を得まして、今後ともご理解をお願いしたいと思うわけでございます。」と答えたところ、住民から、「それは間違いないですか。」と念をおされ、同人は、「はい、同意を得られるまでは着工はしないと、私としてはそういうふうに考えております。」と答えたのであるが、さらに住民から念をおされ、同人は、「皆さんにこれからあくまで一生懸命同意を得るようにいたしますが、その同意が得られぬうちは着工しません。」と答えた。引き続き、住民から工事の方法、着工予定日、ガスホルダーの最終的個数について若干のやりとりがなされている途中、住民から右取締役が確認した右事項を文書にしたらどうかという提案がなされ、出席住民が一枚の罫紙に、「『確認書』、『東山東芦廻間自治会殿、』今回の説明会の結果、貴自治会の同意を得られる迄はガスホルダー建設工事の着工は絶対に致しませんことを確認致します。『昭和四九年七月一四日』、『東邦ガス株式会社常務取締役大角』」と記載した書面を作成し、大角取締役に署名捺印を要求した。そこで同人は印鑑を持合わせない旨述べたが、署名だけでよいからするようにとの要求に屈し、右書面の「大角」の次に、「信男」と署名した。しかし、同人は、一旦は署名したものの、果して同人にそのようなことを約束する権限があるかどうかに疑いを持ち、右「大角信男」の記載を抹消したが、再び、強く署名を求められ、止むなく、「大角信男」と署名するに至つた。その直後、申請人自治会は被申請人に対する「私達は今回、東邦ガス株式会社のガスホルダー建設に対して、隣接住民の生命、財産並びに生活環境を守る立場から、絶対反対の決意を表明し、貴社に対し建設計画の撤回を強く要望するものであります」との要望書を読上げ、同日の説明会は散会となつた。

以上の事実が認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。

3  前記2で認定した本件確認書が作成されるまでの経緯に照らすと、被申請人は申請人自治会に対し、その同意が得られるまでは、本件ガスホルダーの建設工事に着工しないことを約したものと認めることができる。被申請人は、本件確認書の趣旨は、ガスホルダー建設に着工するまで十分話合い、申請人らの同意を得るように努力する旨を被申請人において約したにすぎないと主張し、<証拠>はこれにそう部分も存するものであるが、本件確認書の文言およびその作成に至る経緯に照らすと、これらは、にわかに採用し難い。

ところで、本件確認書には、その相手方として「東山東芦廻間自治会殿」と記載されているにすぎないが、前記説明会が開かれるに至つた経緯および説明会の参加者、席上における話し合いの経過に照らすと、右確認書に基づく合意の効力は、申請人自治会はもとより前記会場に参集した東山東芦廻間分譲地内の住民、その場に居合せなかつた申請人自治会の会員もしくはそれらの家族のものすべてに及ぶものと認めるのが相当である。尤も、前記一3(二)(3)記載の申請人ら二四名は、右同日以降に分譲地に入居し、申請人自治会の会員(もしくはその家族)となつたものであるが、これら申請人らも、ひとしく、右合意の効果を享受し得るものと解すべきである。けだし、申請人自治会は一定の居住者を会員とし一定の目的を有する権利能力なき社団であるが、会員の異動を当然の前提としている組織体であること、当時、右分譲地については、相当多くの空家があり、本件確認書作成の日以降に転入し、新たに申請人自治会に入会する相当数の会員があるであろうことは容易に予期し得たこと、これら新会員も本件ガスホルダーの建設に同意するとはとうてい期待し得ないこと等の事実に、前記説明会が開催されるに至つた経緯、説明会の参加者、席上における話合いおよび本件確認書作成の経過、状況等の事実関係を総合すると、被申請人と申請人自治会は、当時、申請人自治会を構成していた会員のためのみでなく、今後、新たに、分譲地の住民になり申請人自治会の会員資格を取得する者に対しても、直後、前記合意に基づく権利を取得させる趣旨で、右合意を成立させたものと認めるのを相当とするところ、右二四名の申請人らは、その後申請人自治会の会員(もしくは家族)となり、被申請人に対し右合意に基づく利益を享受する意思を表明していることが明らかであるからである(ただ、申請人高木信次については、同人が果して、申請人自治会の会員であるかどうかの点は、前記一1、3(二)(3)に認定したところからすると、疑念の余地なしとしないのであるが、同申請人の主張する本件合意に基づく被保全権利は結局肯認し難く、本件仮処分申請は却下を免れないこと後叙のとりであるから、この点は実益なきものとして別論とする)。

五そこで被申請人の抗弁について判断する。

1  ガスホルダー建設計画の概要

<証拠>を総合すれば、被申請人の本件ガスホルダー建設計画の概要は次のとおりであることが認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。

(一)  右建設計画は第一期工事として容量二〇万立方メートルのガスホルダー一基の建設を予定し、その造成面積は九四二〇平方メートル、右建設に要する工事期間は昭和四九年七月一日から昭和五〇年八月一五日まで約一四か月、その工程は、前記三認定のとおりであり、当初は、容量二〇万立方メートルのガスホルダー三基の建設とそれに必要な土地造成等諸工事を予定していた。その後昭和五〇年六月七日計画を修正し、最終的な基数を三基から二基に減じた。

(二)  本件土地造成工事は、ガスホルダー一基の建設に必要な面積九四二〇平方メートルを造成するものとし、将来二基目を建設する時には地元(住民)の同意を得て計画を実施する。

(三)  球形ガスホルダー

(1) 本件ガスホルダーは、中圧球形のガスホルダーで標進状態において二〇万立方メートルの能力を有し、最高使用圧力は6.14キログラム毎平方センチメートル(ゲージ圧力)である。

(2) その主要寸法は、幾何容積が三万三四一〇立方メートル、球内径が39.960メートル、球赤道の高さが地面上一五メートル(後に12.5メートルに修正された。)、球板厚が二八ミリメートルで、その材料はWES・HW七〇(日本溶接協会規格八〇キロ級、高張力鋼)を使用し、支柱形状は六〇〇ミリメートル(外径)×八ミリメートル(板厚)で鋼管を使用し、支柱本数は一四本、ガス出入口管の口径は四〇〇ミリメートル×二(球底部)である。

(3) ガスホルダーの頂部に、入口側口径が一五〇ミリメートル、出口側口径が二〇〇ミリメートル、のど部口径が一一五ミリメートルの単式バネ全揚程式安全弁を三個設置する。

(4) ガスホルダー本体のガス遮断装置として、出入口(共通)側に四〇〇ミリメートルの電動弁(緊急遮断弁)一個、予備口側に四〇〇ミリメートルの手動弁一個を備える。

(5) 本件ガスホルダーは、敷地境界線からガスホルダーまでの離隔距離を五〇メートルとし(後に一〇〇メートルに修正された。)、ガスホルダーの高さをできる限り低くするため、現在の地盤を約五メートル堀削して整地しガスホルダーを一部半地下式とすることによつて、高さを約6.5メートル下げる(後にさらに五メートル下げることに修正された。)。

(6) ガスホルダー建設における各種検査、試験として、まず材料については、化学分析検査、機械試験、超音波探傷試験、寸法検査を、加工上の検査については、寸法検査、曲げ検査、開先検査、外観検査を、溶接については、溶接士技倆検査、溶接棒検査、開先検査、予熱検査、外観検査を、非破壊検査(溶接部)として放射線透過検査(本体突合せ溶接部全線)、磁粉傷検査(本体溶接部全線、耐圧試験前後二回)を各行い、最後に完成の際の検査として、球本体直径検査、外観検査、耐圧および気密試験(官庁立合い)を行うことになつている。

2  ガスホルダーの安全性について本件ガスホルダーの安全性について以下検討する。

(一)  ガスホルダーの使用材料と製作面について

(1) 本件ガスホルダー本体に使用される胴板は、WES・HW七〇なる材質の高張力鋼であることは前示のとおりであるが(五1(三)(2))、<証拠>によれば、右は製作会社(新日本製鉄株式会社)において、厳重なる品質管理と高度の技術によつて製造され、鋼板一枚一枚について、化学成分、強度試験を含む鋼材検査を行つたもので、検査証明書つきものを使用し、WEL―TEN八〇C、板厚二八ミリメートル、引張り強度八〇ないし九〇キログラム毎平方ミリメートル(普通鋼材の引張り強度は四〇キログラム毎平方ミリメートル)、降伏点七〇キログラム毎平方ミリメートル以上のものであり、かかる高張力鋼は、他の普通鋼材より靱性、耐衝撃性、耐熱性においてすぐれた特性をもつており、常時(長期胴板強度)における内圧、自重、腐触、異常時(短期胴板強度)については、空気圧試験時(7.7キログラム毎平方センチメートル)、地震時(水平震度K=0.5として検討)、風速時(地震力の四分の一として検討)、火災(ホルダー周辺の火災における場合)等においてガスホルダーに作用すると予測される力により発生するであろう応力に耐え得るものと認めることができ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。

(2) 前掲<証拠>によれば、現地組立工事に際しては、各種施工要領書、検査基準に基づいて、厳重な管理のもとに施工され、各胴板は各段ごとに一回りずつ仮組立し、隙間寸法、板の目違い、角変形等を修正したうえ、本溶接に入り、各段ごとに規定寸法通りであることを確認して次の段に移ること、溶接においては、溶接部の脆化を防ぐため、水素の放出、残留応力の除去を目的とする処置として、①溶接作業を行うにあたつては常に天候状況を監視し、雨の場合はもとより、湿度八〇パーセント以上のときおよび風速七メートル毎秒以上のときは作業を中止する、②溶接棒は低水素系のものを使用し、使用前四〇〇度Cにて乾燥を行い、常時一五〇度Cにて貯蔵したうえ、作業にあたつては、溶接棒の携行には防湿筒を用い、二時間分以上は所持せず、二時間を経過した場合、残余の溶接棒を返却し、新規に二時間分を受取つて作業することにし、取りかえた溶接棒は、異常のないことを確認し、再乾燥、貯蔵を行うが、再乾燥は三回までとし、それ以上のものは使用を禁止する、③溶接に先立ち、溶接面を中心に両側一〇〇ミリメートルの間をガスバーナーによつて一五〇ないし一八〇度Cに予熱し、溶接中も同温度に保持するほか、溶接後も一定時間二〇〇ないし三〇〇度Cで後熱を行い、水素放出および残留応力の除去を行う、④溶接時の入熱が過大になると、溶着金属部および熱影響部の靱性が低下するため、規定入熱量を超えないよう、溶接速度、電圧、電流などを常時チエツクすることとしていること、以上の管理を行うため、メーカー側において、主任、監督者一名のもとに、組立作業管理者一名、溶接作業管理者二名、溶接棒管理者一名、入熱管理者一名、予熱等の温度管一理者二名、検査管理者二名、安全管理者一名を常駐させて、現場作業の管理を行い、被申請人側も二名以上の管理者をおいて、メーカー側との連絡調整および管理体制のチエツク、検査の立合などに従事すること、以上の事実が認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。

(3) 以上の事実からすれば、ガスホルダーの使用材料および製作面からの安全性には十分な配慮がされていると認めることができ、<証拠>中これに反する記載部分は、前掲各疎明に照らしこれをにわかに措信することができない。

(二)  次にガスホルダーの保安対策としては、<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。

(1) ガスホルダー内の異常圧力上昇による設備の破損を防止するため、ガスホルダー頂部に安全弁が三個設置(ガス工作物の技術上の基準を定める告示第一七条では、二個以上の設置を定めている。)されること。

(2) 異常事態が発生した際、ガスを遮断することによりその影響を最少限にとどめるため、ガス遮断装置が設置され、右のうち、ガスの出入口側に取付けられる遮断装置は、ガスホルダー圧力(上限・下限)で自動的に操作される電動式緊急遮断弁であり、停電時には直ちに非常用予備電源に自動切換えがあるうえ、本社中央制御室からの遠隔操作または現地計器室からのいずれからの操作でも開閉でき、このうち遠隔操作は、地震時などにおける電線の被害をも考慮して、無線により作動させる装置となつていること(もつとも、甲第六六号証の添付資料七によれば、右緊急遮断弁の開閉時間は約五二秒であることが疎明される)、右のほか緊急時以外は常時閉止状態にする手動式遮断弁が、予備口側に設置されること。

(3) ガスホルダーには圧力警報器が設置され、ホルダー内のガス圧の異常な上昇または低下に対処し、また本件ガスホルダーには地震計を取付け、大地震の場合には、緊急遮断弁と連動し、自動的に遮断弁を閉止する機構とすること。

(4) 本社中央制御室に操作員が常時勤務し、ガスホルダーの圧力、受人量、送出量、各種機器の作動状況を監視し、現地には保守管理人を常駐させて保守管理にあたること。

(三)  なおガスホルダーの建設における各種検査については、前示五1(三)(6)にふれたように厳重に行うこと。

(四)  <証拠>を総合すれば、ガス事業法に基づくガス工作物の技術上の基準を定める省令(昭和四五年一〇月九日通産省令第九八号)では、ガスホルダーは、最高使用圧力が中圧のものにあつては、その外面から事業場の境界線まで一〇メートル以上の離隔距離を有しなければならない旨定められている(第八条)ところ、本件ガスホルダーは、当初の計画では離隔距離を五〇メートルとつていたこと前示のとおりであるが、その後、昭和五〇年六月七日の修正計画案(この点は後叙のとおり)において一〇〇メートルを確保したことが認められ、他にこれに反する疎明はない。

(五)  次に、自然的、社会的な事故原因に対するガスホルダーの安全性について検討を加える。

(1) 耐震性については、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(イ) ガス工作物の技術上の基準を定める省令に基づくガス工作物の技術上の基準の細目を定める告示では、ガスホルダーおよびその支柱は、高さ一六メートルを超える場合にあつては、水平震度(地震係数)の値を0.3とする旨規定されている(第六六条)こと。

(ロ) 被申請人は、本件ガスホルダーを設計するにあたつて、右地震係数をさらに上のせして0.5をとつた。ところで、右は静的設計法(従来の耐震設計に際し用いられている方法であつて、「地震に際し構造物にある大きさの応力が作用する」と考えて構造計算を行なうものである。一般に応力は構造物の自重に比例したものとしている。建築基準法の根本にある考え方で、固有周期の短期構造物については正しく、また動的設計を行う際にも、予備設計に際し用いることは何等差支えない。ただ「構造物が地震時にどのような挙動を示し、どのような加速度が構造物上で発生する」かとは一般に無関係であるとされている。)に基づいて設計されたものであるが、特殊構造物や重要構造物においては、さらに動的解析として、ある地震波を構造物に入力し、地震時の構造物の変形と応力を求め、静的設計と比較して安全性の検討を行うのが通常であるため、静的設計法に基づく基準(地震係数)によつて設計された本件ガスホルダーにつきさらに動的解析を行い、基礎およびタンクの安全性が検討されたこと。

(ハ) 右動的解析においては、入力地震波として、エル・セントロ(一九四〇年、最大加速度341.46ガル)、八戸(十勝沖地震、一九六八年、最大加速度222.57ガル)、名古屋(越前岬沖地震、一九六三年、最大加速度10.0ガル)の三波を選び、ホルダー建設地の地盤のモデルで、加速度波形の最大値を同じにし、応答解析を行い、その結果加速度および変位からみて最も大きい応答値となるエル・セントロ地震波を用いて解析を行つた。加速度の大きさは、名古屋地方では地表加速度で三〇〇ガルと考えれば妥当とされているので、これを用いることにし、重複反射理論により、地表より三〇メートル戻した基盤に一七〇ガルの加速度を入力したところ、応答値は、変形について地表で約一センチメートル、基礎部で0.6センチメートル、ホルダー本体で4.2センチメートル生じ、応答加速度は地表で三二三〇ガル、ホルダー中央で五六九ガルそれぞれ発生することが確められ、基礎の設計に関しては、ホルダー本体に対する基礎の地震度の割合および基礎に加わる水平力ともに静的設計法に基づく設計で十分安全であることが確められた。またホルダー本体の設計に関しては、地表加速度二〇〇ガル(エル・セントロ波形を、地表から三〇メートル戻した基盤に一一四ガルの加速度を入力)における弾性設計および地表加速度三〇〇ガル(同じく一七〇ガルの加速度を入力)における弾塑性設計を行つた結果、前者の場合におけるガスホルダーの支持構造の強度は、タイロツド(柱と柱の間の斜材)、脚柱とも許容応力度以内で安全であることが確認され、後者の場合は、タイロツド数二八本のうち二本が、四五八五キログラム毎平方センチメートルの引張り応力を生じ、弾性限界応力(四五〇〇キログラム毎平方センチメートル)を超過したが、それとても、わずかに八五キログラム毎平方センチメートル超えたのみであり、材料のもつ引張り強度(七〇〇〇キログラム毎平方センチメートル)にはまだ相当の余裕があり、伸び量は約26.8ミリメートルで、塑性率は1.038であり、脚柱組合せ応力度も1.0以下で、弾性範囲内であるので破壊に至らず、十分安全度を見込んだ設計がされていること。

(ニ) また、ガスホルダーとガス配管との連結部分に取付ける伸縮継手の目的は、①内部圧力の変化によつて生ずる球体と配管との相対変位を吸収すること、②地震によつて生ずるガスホルダーと配管(地盤)との相対変位を吸収することであるところ、乙第八五号証の二の動的解析法による検討書では、モード一〇にねじれがでているが、ねじれ角は0.0005度であつて、この時の変位は球中心下端において0.184ミリメートルであり、これに対し、地震時の応答加速度五六九ガルに対する伸縮継手の軸方向変位量は45.4ミリメートル(熱膨張による配管軸方向変位量四ミリメートルを含む。)でかつ、その許容量六〇ミリートルの値と比較すれば、増加分変位0.184ミリメートルは極めて微少な変位量であり、伸縮継手の強度に影響せず、また伸縮継手の最大変位量は、軸方向一一〇ミリメートル、軸横直角方向八四ミリメートル、垂直方向一四七ミリメートルであり、加速度五六九ガルの応答変位量45.4ミリメートルに対し十分余裕ある設計であること。

以上の事実が認められ、右事実からすれば、被申請人において、ガスホルダーの耐震性については、相当の配慮をしているとみるべきであり、本件ガスホルダーは通常起ると考えられる地震に対して安全性を有し、地震による具体的危険発生の蓋然性は、ほとんどないことが疎明されたものというべきである

(2) ところで<証拠>中には、「神奈川県商工部の定めた『高圧ガス製造施設耐震設計基準』および高圧ガス保安協会作成の昭和四九年九月の『コンビナート保安・防災技術指針』(サブタイトル・化学工場における地震対策)によれば、設計水平震度(地震係数)は0.6以上とるべきことを要求しており、したがつて、本件ガスホルダー設計において被申請人がとつた前記0.5の値では不十分で安全設計とは言えない」旨の記載および同旨供述部分がある。なるほど<証拠>によれば、神奈川県商工部の定めた「除圧ガス製造施設耐震設計基準」では、高圧ガス製造施設等の耐震設計は、クラスⅠ(その機能喪失が事業所外の広範囲に潰滅的損害を与える恐れのあるもの)に該当する高圧ガス製造施設等においては、原則として動的解析によつて耐震設計を行うが、動的地震力は建築基準法に規定されている震度を重要度(クラスⅠからクラスⅣに分類)により割増しして定めた静的震度に基づく地震力を下まわつてはならないとされ、重要度により割増した静的震度は、クラスⅠにあたるものにあつてはこれを0.6とするとされていること、高圧ガス保安協会の作成した前記指針にしたがつて、同指針でいうクラスⅠ(その機能喪失が人命、財産、施設、環境に潰滅的な公衆災害をもたらすもの)に該当するコンビナート施設の安全防災施設を仮に本件予定地に設置するとしてその設計水平震度を算定すると、0.66ないし0.96の間の値をとるべきことになることが認められるが、他方<証拠>を総合すれば、本件ガスホルダーは内圧6.14キログラム毎平方センチメートルの中圧であり、これに対する法の規制はガス事業法であること、神奈川県商工部の「高圧ガス製造施設耐震設計基準」は大地震時の災害の発生を防止することを目的として定められたものであるが、その適用範囲は、高圧ガス製造施設等についてであること(高圧ガスに対する法規則は高圧ガス取締法である)、しかも、同基準によつても動的地震力を求めるための設計地震の入力地震加速度は、当該高圧ガス製造施設等の直下の基礎に、クラスⅠについては一五〇ガルの入力があるものとされているが、本件ガスホルダーの場合は、前記のとおりこれを上まわる一七〇ガルを入力して解析を行つていること、高圧ガス保安協会作成の「コンビナート保安・防災技術指針」は、石油精製・石油化学コンビナート(指針によれば、コンビナートとは、エチレンプラントを中心とする石油化学工場に対応し、原材料を配管によつて送受する石油精製工場、各種誘導品工場等が地域的に相関連して存在する企業集団をいうが、必ずしも原材料を配管にて送受していない大規模な化学工場や高圧ガス・危険部を取扱う工場が密集している場合でも、コンビナートに準ずるものとしている。)の健全な繁栄に資する目的で、コンビナート防災システム開発調査を企画し、その調査結果をコンビナート保安・防災技術指針としてまとめたものであること、同指針においても、通常起ると考えられる最大級の地震として大正一二年の関東大地震と同程度のものを考えており、右地震時の最大加速度を推定した研究で地震基盤面の加速度を求めると、川崎市で一二五ガル、東京で九〇ガルとなることから、地震基盤面における設計地震動の基準加速度として一五〇ガルをとるものとされているが、本件動的解析では前記のとおり一七〇ガルを入力していること、また同指針においてクラスⅠに該当するコンビナート施設自体を本件予定地に設置するものと仮定して設計水平震度を試算すると右値は0.48となることが認められる(設計水平震度Ks=β1β2β3β4KoKo。基準設計震度0.15.β1。重要度係数1.β2。地域係数1.β3。表層地盤増幅係数1.6.β4。構造物の静的応答倍率2)(指針65頁以下)。そこで以上の認定事実に前認定事実(五2(五)(1))を総合して検討すると、前記甲第六六号証および申請人三宅克哉本人尋問中の結果中、本件ガスホルダーの耐震設計が不十分であることを指弾する部分は、これをそのまま採用することは困難である。

(3) <証拠>を総合すれば、本件のような球形ガスホルダーは、その形状から風の力による影響は小さく、強度的にも全く問題はなく、設計においては風力係数を0.4にとり、風速一三〇メートル毎秒(因みに、我が国における過去最大瞬間風速は八五メートル毎秒であり、名古屋地方のそれは伊勢湾台風時の四六メートル毎秒)の風圧に十分耐えられるものであることが認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。

(4) <証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(イ) 本件予定地付近には亜炭鉱が存し、明治時代の後期から採掘され、その廃坑が一部残つていること。

(ロ) 被申請人は、本件ガスホルダーの当初の建設予定地(本件予定地のうちの南部分)について、昭和四八年六月から七月にかけてボーリングを行い地質調査をし、右地質調査においては四か所をボーリングし、その結果二か所において地下5.5メートルから六メートル付近に亜炭を採掘したと思われる空洞があることが認められたが、地盤そのものについては良好な調査結果が得られたこと。

その後本件ガスホルダーの設置場所を当初の右予定地点からさらに北に五〇メートル移動することにし、申請人らの居住する住宅からの離隔距離を一〇〇メートルとることにしたので、右建設地点について昭和五一年八月から九月にわたつて、標準貫入試験併用ロータリーボーリングによる地質および地盤の調査を行つたこと。その結果調査地の地質は第三紀鮮新世代の瀬戸層群矢田川累層で形成されており、大別して、第一層が第一粘性土層(層厚約11.4メートル)、第二層が第一砂質土層(層厚約7.3メートル)、第三層が第二粘性土層(層厚約10.3メートル)、第四層が第二砂質土層(平均地下二九メートル以深に分布)という四層に分類でき、各層の特徴、相対強度、相当密度を検討し、ガスホルダー基礎の支持地盤としてはN値(標準貫入試験により地耐力、杭支持力を求める数値)および層厚から判断して、第三層の第二粘性土層とすることが望ましいとの結論を得たこと。

(ハ) ところで右調査の結果、第一層の下層(地下約八メートルから一〇メートルの間)に亜炭層が薄く分布しており、右調査時における五か所の調査地点のうち一か所で亜炭廃坑跡らしい空洞が認められ、第三層にも地下二五メートル前後に亜炭層が分布しているが、この亜炭層は長年月の間によく圧縮され、加圧密状態でほぼ岩状に固結しており、N値も大きく、この地点では亜炭層を採掘した跡は全く認められなかつたこと。

(ニ) そこで被申請人は、第三層の第二粘性土層に達し十分な支持力を得られるまで鋼管杭を打込み基礎を支持し、杭の先端は造成面下21.5メートル(この杭先端下の地盤はよく圧縮されたシルト岩が分布し、年代的にも古い。)まで打込む予定にしていること。

さらに、被申請人の計画では、ガスホルダーの基礎を建設する際には造成面より13.7メートル掘り下げることになつているので、上部亜炭層あるいは亜炭廃坑はすべて削り取る範囲内であつて影響がないこと。

以上の事実が認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。右認定の事実によれば、被申請人は亜炭層あるいは亜炭廃坑の存在およびその対策について十分考慮しているのであり、不等地盤沈下等に起因して危険の発生する蓋然性は低いことが疎明されているとみるべきである。

(5) ガスホルダー内部のガスの爆発とガスの放散による爆発の可能性については、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(イ) ガスホルダーに貯蔵するガスによる爆発の可能性については、都市ガスの組成は、安定した物質によつて構成されており、常温、常圧のもとでは、自ら分解、重合によつて爆発物を生成することはなく、酸素との適当な混合により、はじめて爆発性混合物を形成するものであり、被申請人の標準的なガス組成(現在の四五〇〇キロカロリーガス六Cと将来の一万一〇〇〇キロカロリーガス一三Aの場合)の爆発上限、爆発下限(可燃性ガスと空気との混合物が、着火により爆発を起し得るガスの最大混合割合と最小混合割合)は、四五〇〇キロカロリーガスの場合は爆発下限が5.4パーセント、爆発上限が35.3パーセント(ガス5.4パーセント、空気94.6パーセントを下限とし、ガス35.3パーセント、空気64.7パーセントを上限として、この範囲内にあるとき、この混合気体は着火により爆発し得る。)、一万一〇〇〇キロカロリーガスの場合のそれは4.3パーセント、14.5パーセントであるところ、形ガスホルダーは密閉容器であり、ガスホルダー内の圧力は常に大気圧より高い状態でガスが貯蔵されているので、空気が混入して爆発混合気体を形成することはなく、したがつて仮りに、ホルダー内に着火源をおいた場合でも爆発することはないこと。

(ロ) ガスの放射による爆発の可能性については、ガスホルダーの頂部には、ガスホルダー内部のガス圧力が設計最大使用圧力以上に上昇した場合に、ガスを放出して圧力を低下させるために安全弁が設置されているところ(その設置が義務付けられていることは前記五2(二)(1)記載のとおりである)、被申請人は、この安全弁からガスを放出した場合の爆発の可能性について解析をし、その結果、風速六メートル毎秒のときに、現行の四五〇〇キロカロリーガスの場合は風下1.63キロメートルの地点が最大着地濃度となるが、濃度は0.0119パーセントにすぎず、また、将来の一万一〇〇〇キロカロリーガスの場合は風下1.47キロメートルの地点が最大着地濃度となり、濃度は0.0129パーセントとなるが、これらの値は、いずれも前記爆発下限界を大きく下まわつており、放散されたガスが爆発することはないという結果を得、また風速一メートル毎秒の場合についても解析したが、同様の結論を得た。ところで、都市ガスの組成成分は放出後短時間にこれらの組成が分離することはなく、安全弁から大気中へ放出された大気の動きにつれて移動、拡散して希釈され、したがつて時間の経過とともに着地濃度が増加することはないこと。

(ハ) 被申請人は、仮にガスホルダーの球体に亀裂または破損が生じガスが噴出した場合に、これが爆発する可能性およびこれがガスホルダー内部への誘爆の可能性について高圧ガス保安協会で定めた「毒性ガスの取扱いにおける除害措置の基準(その一塩素)」の考え方を準用して検討し、直径六ミリメートル、九ミリメートル、一二ミリメートルの孔から四五〇〇キロカロリーのガスを大気中に噴出させ、これに着火源を与えて燃焼状態を実験したが、中圧ガスホルダー内のガス圧力は通常の稼動状態では二ないし六キログラム毎平方センチメートルの範囲であることから、いずれの場合も燃焼が継続できないという結論を得たこと。

次に噴出されたガスがどのような濃度分布を示すかについて解析し、その結果、一〇ミリメートルの孔径から内圧六キログラム毎平方センチメートルでガスを噴出した場合、噴出孔から1.6メートルの点で平均濃度が爆発下限界の五パーセントとなり、噴出孔から極めて近い地点でガス濃度が爆発範囲外になるものと考えられるとの結論を得たこと。

また、ガスホルダーの内部に誘爆する可能性については、ガスホルダーの内部はガス中に空気が混入せず爆発範囲に入らないため、誘爆するおそれはないこと。

以上の事実が認められ、右事実からすれば、ガスホルダー内部のガスの爆発と、ガスもれによる爆発は殆んどあり得ないことが疎明されたものというべきである。<証拠>中右認定に反する供述部分は、前掲各疎明に照らすと、これをにわかに措信することはできない。

(6) <証拠>によれば、本件予定地は、航空路から約三五〇〇メートル離れ、かつ進入区域からも外れているうえ、その高度は二〇〇〇メートルと定められていることが認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。右事実からすれば、航空機がガスホルダーに接触する事故の発生は極めて低い確率であるものと考えられる。しかも、仮に、右事故によつてガスホルダーに亀裂が生ずることがあつても、前認定の保安距離、ガスホルダーの構造上の強度、ガスの性質等に照すと、爆発事故発生の蓋然性は著しく低いといわざるを得ない。<証拠>中右認定に反する記載部分は措信できない。

(7) ガスホルダーの周辺火災に対する安全性については、<証拠>によれば、次の事実が認められる。ガスホルダー外縁と火災物件との距離が二〇メートルおよび三〇メートルの場合、ガスホルダーの鋼板の温度は最高時で、それぞれ二四二度C、一五〇度Cとなるが、これらの温度は使用鋼板の高温特性からみて、強度低下などの問題を生ずる温度ではなく、またガスホルダー内のガス温の上昇による圧力上昇を吸収するための必要放出量は、安全弁の能力に比し小さな値であり、十分対応することができ、かつ、本件ガスホルダーに最も近接する建物は計器室であるが、その間の距離は六〇メートルであるうえ、右建物はコンクリートブロツク造の不燃建築物であり、一番近い民家までは約一〇〇メートル離れていることから、周辺の火災に対して十分安全である。以上によれば、本件ガスホルダーの周辺の火災による危険発生の蓋然性はないというべきである。

(六)  昭和二〇年五月二五日、東京都芝浦においてガスタンクが空襲で被害を受けたこと、昭和三九年新潟地震の際、石油ガスタンクが発火したこと、昭和四四年六月二六日、未明の強風で立川市に建設中のガスタンクが倒壊したこと、昭和五〇年八月三一日犬山市において大山瓦斯株式会社の圧送機が配線ミスのため逆転し、ガス管に空気と水が逆流するという事故があつたこと、昭和五〇年一一月二六日、東京都板橋区において、東京瓦斯株式会社のガスホルダーの安全弁が故障しガスが漏洩する事故のあつたこと、昭四八年二月一〇日、ニユーヨーク市においてLNGタンクが大爆発を起したこと、石油タンカーが航行中折損事故があつたことなどは、当事者間に争いがない。

ところで<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は、とうてい、措信し難く、他に、これを左右するに足る疎明はない。

(1) 「東京瓦斯七〇年史」に記載されている空襲の被害記録によると、「昭和二〇年五月二五日の空襲により、芝供給所二万八〇〇〇立方メートルガス溜頂板六か所および二段フオーム破損、同所八万五〇〇〇立方メートルガス溜頂板四か所、側板第一層、第二層に各一か所、シールカツプ上面二か所各破損、ブラツトホーム数か所破損」と記載されているが、爆撃により、直接被害を受けたガスホルダーの炎上、爆発の記録はなく、また「隣接の爆撃を受けなかつたガスホルダーが余熱で爆発した」との記録もないこと。右ガスホルダーは低圧の有水式であり、中圧の球形式とは構造が異なり、また本件ガスホルダーに用いる高張力鋼の厚さが二八ミリメートルであるのに比し、破損した頂板は普通鋼で約三ミリメートルと薄いものであること。

(2) 昭和三九年、新潟地震における石油タンク、LPガスタンクおよびガスホルダーの被害については、消防庁資料によると、石油タンクの火災、誘爆の記録はあるが、LPガスタンクについては爆発の記録はないこと。石油タンクの火災が発生した昭和石油新潟製油所には、当時五基の球形式のLPガスタンクがあつたが、これらのタンクのうち四基は、火災による被災区域内にあつたものの、タンク本体は破壊もしなければ変形も起こさず、被災後も直立の状況を保つていたと記録されていること。都市ガスのガスホルダーは、北陸瓦斯株式会社の新潟営業所内に、低圧有水式ガスホルダーが一二基あり、いずれも出入管が破損し、そのうち一〇基が傾斜するという被害を受け、傾斜角度は二度未満が八基、最も大きいもので四度一七分であつたが、いずれも火災は起こしておらず、都市ガスについては、その漏洩による二次災害は皆無であつたこと。

石油類を貯蔵するタンクには固定屋根式と浮屋根式があり、一般には揮発性の高いガソリンとか、原油を大量に貯蔵する場合は、浮屋根式のものを使用し、これは頂板が液面に浮いており、液面の高さに応じて上下に移動できる構造のものであるが、新潟地震の場合は、液面が大きく共振し、頂板外周のシールを破つて石油がタンク上部にあふれ出し、液面の振動につれて動いている頂板とタンク側板との衝撃によつて、あふれ出した石油に着火、炎上したものと推測されていること。球形ガスホルダーには摺動部分はなく、石油タンクと全く構造を異にしていること。基礎構造については、球形式のガスホルダーは石油タンクの場合に比し、堅固な基盤まで打ち込まれた鋼管杭によつて支持されており、その安全性については格段の差異があること。

(3) 東京瓦斯株式会社立川営業所構内に建設中の一一万立方メートルの球形ガスホルダーが、赤道部胴板の仮組立が終了した時点で、昭和四四年六月二六日突風のため倒壊した原因は、①組立工事の最初の段階であり、組立作業のうちで最も不安定な状態のときであつたこと、②未明に風速三五メートル毎秒をこえる突風が吹いたもので、それに対する注意がされていなかつたこと、③作業用地が狭く、仮組立中のガスホルダー胴板の外部トラワイヤーを張ることが困難であつたので、これを怠つていたことなど補強対策が十分でなかつたことがあげられるが、現在ではガスホルダー組立時の補強および安全について作業方法の再検討が行われ、安全を最重点として組立作業を行つており、立川市におけるような事故は十分防ぎ得ること。

(4) 昭和四四年七月一七日一九時四六分ころ、日本石油新潟製油所の第一石油類を貯蔵する容量八〇〇キロリツトルの直立円筒型固定屋根式のタンクが、注油管の溶接修理中に引火爆発して、タンクの一部が焼失破損した事故があつたが、その原因は、当日の最高気温が摂氏32.5度であり、タンク内には残油五五キロリツトルが残つていて、空間部には石油の蒸気が充満していたところ、夕方の気温の低下とともにタンク内の圧力が下り、開口部から空気を吸引し、爆発混合気を形成したためと推定されていること。

右タンクは古い形式の鋲接合のもので、溶接接合による球形式ガスホルダーとは構造材質とも異なり、内容物もガスと異なり気化しやすい液体であり、しかも修理作業中において石油蒸気に対する配慮を欠くといつた特殊な事故例であること(なお、四分後に鎮火し、人身被害はなく、被害額は金五万円である)。

(5) 犬山瓦斯株式会社における前記事故のため、約四時間半にわたりガスの供給が停止したが、これは圧送機の事故であり、圧送機を設置しない本件供給所とは無関係な事故であること。

(6) 東京瓦斯株式会社板橋製圧所の一号ガスホルダーからガスが放出した原因は、安全弁がひとりでにゆるんだのではなく、弁(要部材質はテフロン)に安全弁の最終検査時のエヤーコンプレツサーからのさびがかみ、運搬時、取付け時および使用時の振動などで、弁のテフロン部分に疵がついたものと推定されていること、東京瓦斯株式会社では右対策として、弁のテフロンの取替え、検査時にさびが進入しないようエヤーコンプレツサーと安全弁との間にフイルターを取付けるなど、事故防止に万全を期していること。

なお、当日の気象は微風で噴出量は毎秒0.15ないし0.20立方メートル程度、風下二五〇メートル地点が最大着地濃度となり、風速毎秒0.1メートルで約0.05パーセント、風速毎秒一メートルで、0.005パーセントと推認され、前記五2(五)(5)(イ)で述べた爆発下限界の一〇〇分の一ないし一〇〇〇分の一の濃度にすぎないこと。

(7) ニユーヨーク市におけるLNGタンク事故については、通商産業省、神奈川県、千葉県および瓦斯事業者などからなる調査団が昭和四八年四月現地に派遺され、視察、事故原因の調査を行つており、その報告によると、事故の状況および原因は、(イ)タンクの構造は鉄筋コンクリート製であり、保冷剤としてポリウレタン、シール材としてタクロン、マイラー、アルミ箔などで形成された薄膜を用いており、(ロ)完成後シール材の剥離による漏洩が発見され、事故当時内部を空にして修理作業中であり、(ハ)着火源は不明であるが、何らかの原因によつて内部火災が発生し、タンク内部に取付けていたポリウレタンフオーム、シール材が急速に燃焼し、急激な温度上昇およびそれに伴う圧力上昇が起こり、ドームが落ち保冷剤であるポリウレタンも落下し、長時間黒煙をあげ続けたとされている。このLNGタンクと球形ガスホルダーとは、その構造、材質などが全く異なり、LNGタンクの内部火災で燃焼した右のポリウレタンフオームなどの可燃物は球形ガスホルダーでは一切使用していないこと。

(8) 石油タンカーの航行中の折損事故については、船舶は一般に波浪、暴風などの自然の苛酷な状況に対応できるよう設計されているが、右の石油タンカーは、積荷の状態、海洋における自然環境下において、波浪などにより特殊なねじれ、曲げ、その他複合された不可抗力的な力の作用を受けて破壊し、沈没したものといわれていること。しかし、ガスホルダーは船舶と異なつて地上に定置しており、その受ける自然環境の影響は比較にならない程小さく、その構造も単純で、そのため構造上の基準は内部圧力、地震、暴風雨に対する安全性の確認が主体となつていること。

(9) 昭和五〇年三月二六日、東京都世田谷区の東京瓦斯株式会社世田谷製圧所に隣接した木工所が全焼したが、同製圧所には、二万七〇〇〇平方メートルの敷地内に、一〇万立方メートル、最高使用圧力五キログラム毎平方センチメートル(直径三五メートル)の球形ガスホルダーが六基設置されており、このうち、火災家屋に最も近隣しているガスホルダーは一九メートルの距離にあり、かつ、風下であつたが、ガスホルダーやその他の設備の被害は全くなかつたこと。

(10) 球形ガスホルダーは昭和三一年三月東京都内において始めて建設されて以来、今日まで、全国に三〇〇基以上建設されているが、爆発、倒壊事故のような重大事故はもとより、ガス漏洩等により近隣住民に不安を生ぜしめた事故は前記(6)の事例を除いては一件も発生していないこと。

3  環境保全対策等について

<証拠>を総合すれば、被申請人はガスホルダー周辺の環境保全につき次のような配慮をしていることが認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。

(一)  被申請人は、ガスホルダーの建設にあたつては、できるだけ周辺の自然を残すよう緑化計画をたて、そのため敷地面積(二万七八五七平方メートル)の66.2パーセント(一万八四三七平方メートル)を保全緑化地とし、6.2パーセント(一七四〇平方メートル)を回復緑地として残し、昭和四九年一一月一三日に愛知県農林部緑化指導室の指導を受け、本件予定地の北側部分には現在竹が繁茂しているので、その成長をよくするため密集している部分を間引きし、自然歩道を作るようにし、西側部分は現在雑木林で木の種類が多いので、下草、下枝を整理する程度でそのまま残し、北側と同様自然歩道を作り、南側部分は、道路側をもみじや桜の並木道とし、内側は高木を残し、遊園地とするようにし、東側部分は、既設道路より南側は現在杉が繁茂しているので、これを利用して杉林とし、内側は雑木林であるので、これも下草、下枝をはらい自然歩道とし、既設道路より北側は松を植樹することとし、昭和五二年二月には東海園株式会社に対し、緑化計画の内容について具体的仕様、設計をさせていること。

(二)  ガスホルダーの高さを押えるため一部半地下式とし、地下部分は当初計画の五メートルを一〇メートルにしたうえ、既に認定したように申請人ら居住地域との離隔距離を約一〇〇メートルとし、その間(ガスホルダーの中心から南に七〇メートルの付近)に盛土(現地盤標高約八五メートルを約八九メートルになるよう盛土)をして、その上に植樹(植栽時の樹高五ないし六メートル)をし、ガスホルダーを見えにくくするようにしたうえ、ガスホルダーの塗色も薄緑色にする計画であること。そして右盛土と植樹により、当初植栽時において、申請人ら居住地域のうち、約五〇〇メートルの地点からは、ガスホルダーの上部が約一二メートル見えるものの、約一三〇メートルの範囲内ではガスホルダーが樹木の影に隠れるように計画されていること。

(三)  その他工事期間中および完成後における配慮として、作業期間の短縮に努力し、作業時間は原則として平日の八時から一八時以内とし、土地造成工事等にかかわる土砂運搬車両等は申請人ら居住地域内の道路を使用せず、工事用迂回道路を建設して通行し、また必要に応じて監視人を配置し、交通事故、工事災害の発生防止に努め、基礎工事に使用する杭は、無振動工法により騒音、振動の発生を防止し、敷地内に建設工事に従事する作業員等の宿舎は建設せず、ガスホルダー組立工事については、関係法規の遵守はもとより、騒音、振動の低減に努めるうえ、工事中および完成後において、テレビ等の電波障害が発生した場合はすみやかに共同アンテナの施設等障害防止対策を施し、その施設の保守管理を行う計画を有していること。

(四)  以上の環境保全対策とは別に、被申請人は、本件ガスホルダーの建設によつて、万一近隣土地の地価が低下した場合には不動産鑑定士等第三者の意見を参考にして協議し、その補償にあたる計画を有し、その旨、申請人らに通知していること。

4  ガスホルダー建設の必要性

(一)  ガスは電気、水道と並んで、人の日常生活に必要不可欠な役割を果しており、そのほか、あらゆる産業活動に欠くことのできない基礎的エネルギーであることはいうまでもなく、特に都市化した地域において都市ガスの普及度が高いことは公知の事実である。これを本件についてみると、被申請人は、ガスの製造、供給、販売等を目的として設立された一般ガス事業を営む会社であり、名古屋市を中心として二三市二〇町一村の広範囲の地域に都市ガスの供給をしていることは前示のとおりで、その他後記のようにその需要家戸数は昭和五二年二月時点で約九三万戸に達しているほか、乙第一号証によれば、ガスを販売する相手方は、家庭用、商工業用など広範囲にわたつていること、その販売量は、昭和五〇年八月一日から同五一年三月三一日までの間で七億一四一七万二〇〇〇立方メートルに達しており、販売量構成比は、同期間において、家庭用が62.8パーセント、商工業用が24.7パーセント、その他が12.5パーセントとなつていることが認められる。

そして、人口の増加、消費水準の向上に伴い、その需要増加の傾向は衰えることがないものと予測されるが、被申請人のような一般ガス事業者には、私企業と異なる法律上の制約が課されている。たとえば、一般ガス事業を営もうとする者は、通商産業大臣の許可を受けねばならず(ガス事業法第三条)、この許可を受けるめには供給区域を設定することを要し(同法第四条)、一般ガス事業者において供給区域を変更し、一般ガス事業の全部または一部を休廃止するには通商産業大臣の許可を要し(同法第八条、第一三条)、また、一般ガス事業者は正当な事由がなければ、何人に対してもその供給区域または供給地点におけるガスの供給を拒んではならない供給義務が課され、(同法第一六条)、またガス料金その他供給条件については供給規定を定め、通商産業大臣の認可を受けなければならず、またこれを変更しようとするときも同様とされ、(同法第一七条)右供給規定以外の供給条件によるガスの供給を禁止され(同法第二〇条)、さらに、毎年度、当該年度以降の通商産業省令で定める期間についてガスの供給計画を作成し、当該年度の開始前に通商産業大臣に届出ることが義務付けられているが、通商産業大臣は公共の利益を図るため必要であると認めるときは、一般ガス事業者に対し、その供給計画を変更すべきことを勧告することができ、かつ、一般ガス事業者が供給計画を実施していないため、公共の利益の増進に支障を生じていると認めるときは、一般ガス事業者に対し、供給計画を確実に実施すべきことを勧告することができるとされ(同法第二五条の二)、第一六条の規定に違反してガスの供給を拒んだ者、第二〇条の規定に違反してガスを供給した者、第二五条の二の規定によるガス供給計画の届出をしなかつた者に対しては罰則をもつてこれを強制しているのである(同法第五六条二号、第五七条三号、第五九条一号)。

このように一般ガス事業者は、ガス事業法の定めるところにより、供給地点または供給区域内にガスの安定した供給をすべき一般的責務を負わされているものといわねばならず、また、このためにこそ、一般ガス事業者としては将来の需要変動等に対処し、常に安定した供給を維持できるガス供給設備を保有することが要請されるのであり、ガスホルダーの建設もこの設備を含めた供給施設の確保の一環として把握されねばならないのである。

(二)  <証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 都市ガス事業の特性は、工場で生産したガスを導管により直接、需要家に対して供給することにあり、この際常に燃焼に適した安定した圧力(この許容範囲は通常最高0.013キログラム毎平方センチメートルから最低0.005キログラム毎平方センチメートル)で供給することが重要であること。

一方ガスを輸送する場合、輸送途中で圧力損失(圧力降下)を生じるのであるが、被申請人の場合は、ガス製造工場を名古屋港周辺の港明、空見、上野、知多の四工場に統合し、集中的に生産しているので、輸送ガス量も最も多く、また輸送距離も長くなり、それだけ輸送導管にかかる負担が大きいため、輸送導管網を最高使用圧力9.9キログラム毎平方センチメートルの中圧A導管網と、同じく一キログラム毎平方センチメートルの中圧B導管網とに分割し、これに貯蔵設備であるガスホルダーと圧力調整器(整圧器)とを有機的に組合せ、さらに最末端の導管である低圧導管網を経て需要家に供給していること。

整圧器は、中圧A導管、中圧B導管、低圧導管のそれぞれの分界点に設置され、ガスの圧力を減圧調整して、中圧B導管網や低圧導管網への供給源となる設備で、自動的に調整機能を発揮するが、この自動調整機能を保持するためには、中圧A用整圧器の場合少くとも出圧よりも一キログラム毎平方センチメートル高いことが必要であるところ、中圧B導管網の圧力は、一キログラム毎平方センチメートルであるから、中圧A導管網末端においては、最低二キログラム毎平方センチメートルの圧力が必要であり、この圧力を下まわると中圧A用整圧器の圧力自動調整機能が失なわれ、整圧器はひとりでに閉止し、ガスの供給が停止してしまうこと。

(2) 都市ガスの需要は、季節により、また一日のうちでも時間帯により変化し、特に夕方の三ないし四時間に集中的に使用され、深夜はほとんど使用されないのに反し、ガスの製造は設備能力、効率および操業の関係上ガス需要の変動に拘らず一定していることが望ましいため、ガス需要の時間的変動に対して、製造が順応し得ないガス量を補給し、供給を確保するためにガスホルダーを活用し、製造設備や輸送導管の稼動率を向上させ、設備費負担ひいてはガス原価の低減を図つていること、即ち、製造量が需要量よりも多い時間帯特に深夜の余つたガスをガスホルダーに貯蔵しておき、夕方の最需要時間帯(製造量が需要量に対し不足する。)にここから供給することによつて時間的負荷変動を吸収し、製造設備を一日中一定操業させることによつて稼動率を向上させる機能がガスホルダーにあり、またガスホルダーを需要地の中心に適切に配置することによつて、輸送導管の稼動率をも向上させることが可能であること。その他、ガスホルダーには、停電等不測の事故におけるガスの供給確保のための保安設備としての機能があること。

(3) 被申請人が、当該年度の最需要期(最高需要期とは一月から三月までをいう。)における最大日送量(一日当りガス送出量の最も多い日の送出量)の予測をするにあたつては、最大日送出量は過去の実績から二月の一日当りの平均送出量と極めて高い関係があることに着目し、まず営業部で民間の住宅投資、地域からのガス導入の引合状況、具体的区画整理などの計画、公共住宅の計画を勘案して需要家数の伸びを予測し、さらに個人消費水準の向上、鉱工業生産指数の向上、民間の設備投資を勘案し、需要家一戸当りの消費量の伸びを予測して、右両者の検討を合わせて、当該年度の一年間の需要量の伸びを予測し、次いで総合企画室において、右需要量の伸びから年間の送出量を予測し、これと過去の実績に基づき二月の月間送出量予測を出し、さらに二月の一日当りの平均送出量(平均日送出量)を算定し、次に最大日基準送出量の予測をするが、これは気温が摂氏マイナス1.1度と仮定して算定したものであり、実際にはこれよりも寒い日があることは明らかであることから、昭和四〇年以降の実績をもとに計算した標準的なばらつきの範囲(標準偏差)として最大日基準送出量の4.2パーセントを上積みして最大日送出量を予測していること。

(4) 輸送導管の使用効率を向上させ、中圧A導管網の末端圧力維持に寄与するというガスホルダーの機能を最大限に発揮させるためには、ガスホルダーの立地条件が重要な意味を有する。ガスホルダーの立地条件としては、第一に、需要の中心にできるだけ近く、かつ、さらに今後も需要増の著しい地域の中心であることを要する。即ち、中圧A導管網の末端圧力の維持が困難な場合とは、導管内におけるガス圧低下という面からして、工場からその末端に至る途中で需要の多い地点を経過し、輸送導管に過大な負担をかけている場合であるから、この地点にガスホルダーを建設すれば、その地点での需要に応ずるガスを工場から送る必要なく、ガスホルダーに貯蔵してあるガスを供給すれば、それだけ、途中の輸送導管の負担が軽減され、導管網の末端圧力の維持に寄与できるわけである。第二に既設のガスホルダーから遠く、その谷間ともいうべき場所であり、かつ、既設のガスホルダーの間のできるだけ中間の位置であることを要する。即ち既設のガス供給所には、既に、それぞれの地域の需要に見合つたガスホルダーが建設されており、その地域の需要増大が特に激しく、さらに、ガスホルダーの増設を必要とする場合以外は、さらに、ガスホルダーを建設することは設備の重複となるため、新たなガスホルダーは、将来の需要増加をも勘案して、既設の供給所間の中間地点が望ましいのである。第三に、既設のガス輸送管網の配置状況が新ホルダーの建設に適していることを要する。即ちガスホルダーは、中圧A導管からガスを受入れ、中圧B導管により需要家に供給するのが役割であるため、これら受入れ、送出の導管網の近傍にあることが、導管埋設費を軽減する意味からも、またガスホルダーを有効に使用する面からも必要な要件となること。

(5) 被申請人における年度末需要家戸数の推移と今後の予測は、昭和四九年時点の検討では、昭和四七年三月、同四八年三月、同四九年三月の実績はそれぞれ、七〇万六七五二戸、七五万四一六一戸、八一万一一六七戸(対前年伸び率は、それぞれ、7.2、6.7、7.6パーセント)、昭和五〇年三月、同五一年三月、同五二年三月、同五三年三月、同五四年三月の予測ははそれぞれ、八六万二三三七戸、九一万二五二五戸、九六万六四二五戸、一〇二万三一二五戸、一〇八万一八二五戸であり、昭和五一年時点で検討した昭和五二年以降同五五年までの各三月時点の需要家数の予測では、それぞれ九三万〇二〇〇戸、九七万一〇〇〇戸、一〇一万六六〇〇戸、一〇六万四九〇〇戸であること。そして昭和五二年一月末現在で九二万八〇九八戸二月末現在で既に九三万一〇〇〇戸を越える実績を示していること。

(6) 被申請人は昭和五〇年度末(昭和五一年三月)における都市ガス需要家数は前記の如く九一万二五二五戸、また同年度の冬期最需要期(昭和五一年一月から三月まで)における最大日送出量は四九九万四〇〇〇立方メートルに達するものと予測していた。ところで、ガスは右送出量と同量だけ一日一定の割合で製造されるが、この一定の割合で製造されるガスの量より多くのガスを使用する時間帯は、過去五年間の実績より、午前七時から午後一〇時までの一五時間であつて、この時間内に送出されるガス量(最大日昼間送出量)は、前記実績から一日の全送出量の85.8パーセントであり、したがつて最大日昼間送出量は、前記最大日送量のうち85.5パーセントである四二八万四〇〇〇立方メートル必要となるが、一方右時間帯に製造できるガス量は、四九九万四〇〇〇立方メートルの二四分の一五である三一二万一〇〇〇立方メートルであり、したがつてその差である一一六万四〇〇〇立方メートルのガスをガスホルダーに貯蔵することが必要となる。ところでガスホルダーは、その構造上、貯蔵容量全部を吐き出しえず、また操作上一定の安全率を見込むことが必要であり、その有効稼動率は通常七〇パーセントとされているから、右貯蔵を要するガス量のためには一六六万三〇〇〇立方メートル(1,164,000÷0.7≒1,663,000)の容量を有するガスホルダーが必要となる。そして被申請人は一三九万六〇〇〇立方メートルのガスホルダーを保有していたから、その差二六万七〇〇〇立方メートルが不足することになるが、既設の鶴里供給所に一〇万立方メートルのガスホルダーの増設が可能であつたので、結局、残りの一六万七〇〇〇立方メートルのガスを貯蔵すべきガスホルダー、即ち二〇万立方メートルのガスホルダーを必要としていた。

ところで、需要家に安定した供給を確保するためには、前示のように輸送導管の圧力維持(中圧A輸送導管網の末端で最低二キログラム毎平方センチメートル)が重要であるが、昭和五〇年度最需要期の最需要時間帯における中圧A導管網の圧力状況を検討すると、新たに前記ガスホルダーを建設しなかつた場合、空見工場から送出する送出圧力を最高制限圧力の9.5キログラム毎平方センチメートルとしても、末端圧力は高蔵寺で0.7キログラム毎平方センチメートル、菱野(瀬戸市)で1.1キログラム毎平方センチメートル、豊田で1.9キログラム毎平方センチメートル、小針で0.8キログラム毎平方センチメートルとなり、最低圧力2.0キログラム毎平方センチメートルを保持することができず、名古屋東部一帯に供給不良をもたらすことが懸念された。そこで被申請人は、右圧力不足を回避するため、本件ガスホルダーの建設を計画したものであること。

しかし、昭和五〇年度冬期最需要期は、右計画立案以後の需要動向が若干緩慢に転じたうえ、製造設備負荷をできるだけ需要動向に合わせるように操業して、ホルダー貯蔵容量の不足を補うことにより、現有ホルダーのままで乗り切ることができたこと。

(7) 昭和五一年度最需要期(昭和五二年一月から三月まで)の最大日送出量の予測値は、昭和五〇年当初の予測では、五三八万一〇〇〇立方メートルであつた(昭和五一年初めになつて五一五万六〇〇〇立方メートルと見直しがなされた)。ところで被申請人は、昭和五〇年度最需要期は前記(6)記載のように乗り切り可能と予測したが、右昭和五一年度最需要期は、ガスホルダーの不足により中圧A導管網末端の圧力維持が困難となり、ために同年度最需要期までに容量二〇万立方メートルの中圧球形ガスホルダーの設置を必要としたが、申請人らとの間に本件ガスホルダー設置についての話し合いが進展せず、建設の見込みは立たなかつた。ところで、昭和五〇年後半は前半に引続き、不況の長期化と消費節約ムードの浸透によつて、ガス需要の伸びも鈍化していたため、当初予測した昭和五一年度最大日送出量五三八万一〇〇〇立方メートルは、三、四パーセント下まわるものと推測された。そこで、被申請人は、本件ホルダーを建設することなしに昭和五一年度最需要期を乗り切ることも不可能ではないと判断し、その対策を検討した結果、次のような非常措置をとつた。即ち、被申請人は、上野工場内に容量二〇万立方メートルのガスホルダー一基を建設することによつて被申請人の保有する全ホルダー設備容量を一五九万六〇〇〇立方メートルになるようにし、それでも充足できないガスホルダー容量の不足分は、ガスホルダーの活動率を上げることによつてこれを補足するため、最需要期間中(一月から三月まで)各供給拠点に要員を特別配備し、供給操作上の特別措置を実施し、さらに、同工場に一時間当りの送出能力一万立方メートルのガス圧送機を二基設置し、その他最需要期における需要抑制のための諸措置を講じたのであるが、このような措置をとることによつて、ようやく同年度の最需要期に対処し、これを乗り切ることができたこと。

(8) 昭和五二年冬期最需要期の最大日送出量予測は五五三万立方メートルで、同時点における一日当りのガス製造能力は、昭和五一年完成し稼動を開始した知多工場の分を含めて五六一万九〇〇〇立方メートルであり、最大日昼間送出量(前記(6)で認定した午前七時から午後一〇時までの一五時間の送出量)は、(6)で述べたように五五三万立方メートルの85.8パーセントである四七四万五〇〇〇立方メートルであるが、一方右時間帯に製造できるガス量は、五六一万九〇〇〇立方メートルの二四分の一五である三五一万二〇〇〇立方メートルであり、したがつて必要ガス貯蔵量は、その差にあたる一二三万三〇〇〇立方メートルで、ガスホルダーの有効稼動率七〇パーセントを考慮すると、右需要期の必要ガスホルダーの容量は一七六万一〇〇〇立方メートルであるところ、現在の保有ガスホルダーの容量は、上野工場に新設した二〇万立方メートルのガスホルダーを含めて一五九万六〇〇〇立方メートルであり、この差一六万五〇〇〇立方メートルが不足するため、新たに二〇万立方メートルのガスホルダーの設置が必要であること。

昭和五二年度最需要期における最大日送出量予測が五五三万立方メートルであることは前記のとおりであるが、このときの最大日ピーク時(ピーク時送出量は一時間あたり五四万一〇〇〇立方メートル)における名古屋東部地区中圧A導管網末端の圧力状況は、本件ガスホルダーが建設されない場合、高蔵寺で0.2キログラム毎平方センチメートル、菱野で0.7キログラム毎平方センチメートル、豊田で1.4キログラム毎平方センチメートル、小針で1.2キログラム毎平方センチメートルとなり、最低必要圧力2.0グラム毎平方センチメートルに達しないが、本件予定地にガスホルダーを設置した場合は、それぞれ4.9、5.2、4.1、3.8キログラム毎平方センチメートルとなること。

(9) 末端到達圧力を上げる方策として理論上可能な方法は、(イ)導管の直径を大きくする、(ロ)新らたに、いま一本輸送導管を埋設して、一本当りの輸送量を小さくする、(ハ)初圧(工場からの送出力)を高くして許容圧力降下量を大きくするという三つの方法が考えられるが、(イ)の方策は結局、現在ある導管網を入替えることを意味し、(ロ)の方策と同様新規にいま一本導管を埋設することになり、これには莫大な設備投資を要し、(ハ)の方法も工場の圧送機、輸送導管を取替えることが必要となり、(イ)、(ロ)の方策に比し、さらに、莫大な設備費を要することになること。

前記のように昭和五一年度最需要期乗り切りのため上野工場にガスホルダー一基と圧送機二基を設置した非常措置は、上野工場からの吐出輸送導管の能力に若干の余力があつたればこそ、これをとり得たのであり、いわば前記(ハ)の初圧を高めることによつて輸送量を増加させる方式に該当する。即ち、上野工場には一時間あたり三万八〇〇〇立方メートルの圧送設備があつて、右の量を市中に送り出すに要する圧力(初圧)は八キログラム毎平方センチメートル程度であるため、なお、初圧を上げ得る余裕があつたのである(換言すれば輸送導管の能力に余裕があつた)。しかるに、同所に前記圧送機二基(合計毎時二万立方メートル)を増設して、右工場から毎時五万八〇〇〇立方メートルを送り出すことにより、工場からの送出圧力(初圧)は、ほぼ九キログラム毎平方センチメートルとなり、工場からの吐出輸送導管の能力はほぼ限界に達するに至つた。しかも、複数の供給源のうち一か所の供給源からの送出圧力が限界に達している場合は他の供給源の送出圧力をさらにあげて末端圧力を上昇させるためには、既に限界に達している供給源の送出圧力を限界値以上の送出圧力にしなければならないため右方法は結局採用不可能であるうえ、他の工場には、もともと右のような余力がなく、したがつて昭和五一年度最需要期の対策として採つた前記非常措置も右年度限りで、この種の方策を昭和五二年度最需要期対策として採用することは極めて困難であること。

(10) ところで被申請人は、昭和五一年度最需要期を前記非常手段を講じて乗り切つたわけであるが、右最需要期における最大日送出量の実績をみると、昭和五二年二月一七日に最大日送量を記録し、その値は五〇三万八〇〇〇立方メートルであり、その時の知多工場の送出圧力は9.9キログラム毎平方センチメートルで最高使用圧力となつており、中圧A導管網の末端である高蔵寺の圧力は4.1キログラム毎平方センチメートルであつたが、この際の一八時から一九時のピーク時間送出量は、四六万三〇〇〇立方メートルであつたこと。一方昭和五二年一月から三月までの最大日送出量予測値は前記のとおり五一五万六〇〇〇立方メートルで、工場の送出圧力は同じく知多で9.9キログラム毎平方センチメートルとなつており、これに対するピーク時間の送出量はピーク率9.74パーセント(過去一〇年間の実績より算出したもの)として五〇万二〇〇〇立方メートル毎平方センチメートルであるから、その際の高蔵寺の到達圧力を前記実績と単純比例で想定すると、ほぼ二キログラム毎平方センチメートルに近い圧力となつてしまうこと。

以上の事実が認められ、右事実によれば、被申請人が昭和五二年度最需要期および同五三年以降の最需要期を乗り切るためにはガスホルダーの設置が不可欠であるものと認められ、その必要性は十分首肯できる。

(11) ところで、申請人らは、ガス製造能力を需要の増加に合わせて増加させれば、ガスホルダーを建設しなくても十分昭和五二年度冬期最需要期を乗り切ることができる旨主張し、<証拠>中にはこれにそう部分もあるが、<証拠>によれば、製造設備を空見工場と上野工場で増強したとしても、圧力状況の解析から、導管網末端の所要圧力が保持できないこと、ガス事業はガスホルダーによつて時間的負荷変動を吸収して、製造設備能力を最大日送出量に見合つたものとし、またガスホルダーを適所に配置することによつて輸送導管の稼動率をできるだけ向上させ、もつて製造および供給設備投資の負担をできるだけ低率に抑制しているものであり、いわば、製造設備を含めたガス供給制度は、ガスホルダーの存在を前提として整備されているため、製造設備の増強は、それのみでは有効な対策とはいえないことが認められ、これに前認定の事実(なお昭和五二年度最需要期におけるガスホルダー不足容量を算定するにあたつては、製造能力一杯の製造量を前提としている。)を総合して比較検討すると、右主張およびこれにそう前記疎明はこれをにわかに採用しがたい。

また、<証拠>には「昭和五三年一月から三月までの最大日送出量五五三万立方メートルは、昭和五二年一月から三月までの最大日送出量予測値五三八万一〇〇〇立方メートルに比しわずか2.8パーセント増に過ぎないところ、被申請人は右昭和五二年一月から三月までの最需要期については非常措置により乗り切れるとしている以上、昭和五三年一月から三月までの最需要期も同様にして乗り切れる筈である」旨の記載があり、<証拠>にも同旨の供述部分があるが、右の五三八万一〇〇〇立方メートルは昭和五一年度の当初の予測値であり、その後四一五万六〇〇〇立方メートルと見直されたこと前記(7)認定のとおりであるから、同申請人の立論はその前提を欠くうえ、これら疎明は乙第六六号証の二に照らしたやすく措信することはできず、同じく<証拠>中、「昭和五三年一月から三月までの最大日における一八時から二〇時および一六時から二二時のピーク需要時間帯の送出量の伸びの予測が過大である」旨の記載部分も、<証拠>に比照すればにわかに措信できない。

次に申請人らは、昭和五二年度最需要期の最大日送出量予測五五三万立方メートルは過大評価である旨主張し、<証拠>を総合すれば、昭和四九年度最需要期の最大日送出量の実績は四五五万六〇〇〇立方メートルで前年予測値四五万六〇〇〇立方メートルとの誤差が0.43パーセント、昭和五〇年度最需要期の実績は四八二万一〇〇〇立方メートルで前年予測値は四八九万四〇〇〇立方メートルから四八四万四〇〇〇立方メートルでその誤差は約0.47パーセントであり、昭和五一年度の実績は五〇三万八〇〇〇立方メートルで前年予測値五一五万六〇〇〇立方メートルとの誤差は2.28パーセントであり、昭和五二年最大日送出量の予測値は五五三万立方メートルで、これは昭和五一年度最大日実績五〇三万八〇〇〇立方メートルの9.76パーセント増にあたる数値であることが認められる。右事実によれば、昭和五一年度の予測値と実績との誤差が過去二年に比して大きく、また、昭和五一年度実績と対比した同五二年度予測値の増加率は、前年までの比率に比し、若干、高いことが明らかであるので、この点に疑義があることを指摘する申請人らの見解にうなづけないこともないが、<証拠>によれば、昭和五二年度需要家戸数が実績は同年三月の予測約九三万戸を同年二月末時点で既に一〇〇〇戸程越えており、また一戸当りの消費量実績は予測を若干上まわつていることから、昭和五二年度冬期最需要期の最大日送出量予測五五三万立方メートルはこれを見直す必要はないことが疎明される。

さらに、申請人らは、被申請人主張のガス圧低下は疑問である旨主張し、その理由を種々云為するが、この主張の採用できないことは<証拠>と、前記(6)、(8)ないし(10)で述べたところにより、自ら明らかであろう。

(12) 申請人らは、被申請人において液化天然ガス(LNG)転換計画を有し、これが実行されれば、ガスホルダー新設の必要性はない旨主張し、<証拠>には右主張にそう部分があるので、この点について検討する。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(イ) 被申請人は、昭和五三年六月より現在の一立方メートル当りの発熱量が四五〇〇キロカロリーの製造ガスから一万一〇〇〇キロカロリーの天燃ガスへと逐次転換する計画を有していること。

(ロ) 転換の方式としては、地域分割方式をとり、需要家を約七〇〇戸から最高一三〇〇戸のブロツクに細分化し、この一ブロツクを三日間のサイクルで逐次調整、転換し、転換作業は最高需要期の一、二月を避けるのが好ましいため、一年のうち三月から一二月までの一〇か月間を予定しており、年間約八万戸転換できること。したがつて、現在の需要家数約九三万戸を転換するだけでも一一年以上かかるため、右転換計画は一〇数年を要する長期計画にならざるを得ないこと。

(ハ) 転換順序は、新規需要の増加が著しい外周部を優先的に転換することにより、需要増加に伴つて必要となる既設供給設備の補強を極力抑えるとともに、最終的な調整件数を少なくするため、液化天然ガスの受入基地で天然ガス工場を設置する知多市を起点に、名古屋市の外周部各市町村を南から東に反時計まわりに逐次転換し、最後に名古屋市を転換する計画であり、現在、確定している転換時期および区域は昭和五五年度までに知多、半田、刈谷、大府、知立、豊田等名古屋東部周辺市町村を転換する計画になつており、とりあえず昭和五三年六月から知多市二万戸分をはじめとして、次いで同五四年には五万件、同五五年に八万件、以後毎年八万件ないし一〇万件ずつ転換し、三好、東郷、日進町等名古屋東部地区の転換時期は、昭和五六年から五七年に実施する予定になつていること。

(ニ) 名古屋東部地区の場合は、現在知多工場から横須賀、大府、東郷を経て、名東区猪高町にいたる新しい輸送導管の埋設工事を実施中であり(この路線は、将来、名古屋東部地区の転換主要幹線として使用するものである)、昭和五三年秋までに大府まで、昭和五四年秋までに東郷町まで完成の予定であるが、この路線を日進町まで延長し、名古古屋南部地区に先行して昭和五三年中に日進町を転換することは、転換に必要な諸種の準備手続工事期間の点から不可能であること。

(ホ) 前示(5)の昭和五三年以後の都市ガス需要家数の予測は、天然ガス転換による都市ガス需要家の減少分を差引いた上での予想であること。

以上の事実が認められ他にこれを覆えすに足る疎明はない。右事実によれば天然ガス転換は昭和五二年度最需要期における製造ガスの需要の減少に役立つとはいい得ないし、転換が進んでもなお本件ガスホルダーの必要性を左右するものではないと解せられる。そうだとすれば、前記申請人らの主張を採用することは困難である。

5  本件予定地の適地性

(一)  ガスホルダーの立地条件としては、第一に、需要の中心にできるだけ近く、かつ、今後も需要増加の激しい地域の中心であること、第二に、既設のガスホルダーの間のできるだけ中間の位置であること、第三、既設のガス輸送導管網の配置状況が新ホルダー建設に適していることが必要であることは前記4(二)(4)で認定したとおりであるが、<証拠>を綜合すれば、次の事実が認められる。

(1) 本件予定地に建設されるガスホルダーの供給区域は愛知郡日進町、東郷町、長久手町、三好町と名古屋市名東区、同天白区であるが、そのうち日進町、東郷町、長久手町、三好町の需要家戸数の推移をみると、昭和四五年三月から同五〇年三月までの毎年三月の実績は、日進町でそれぞれ、五三九戸、八七〇戸、一三〇五戸、一九三五戸、二六四九戸、三二〇八戸で、年平均伸び率は42.9パーセント増であり、東郷町のそれは、八一〇戸、九一二戸、一〇五五戸、一一〇七戸、一二五一戸、一三九〇戸で、年平均伸び率は11.4パーセント増であり、長久手町のそれは、〇戸、一戸、六戸、五一戸、七一戸、一一五戸で、年平均伸び率(但し昭和四七年三月から同五〇年三月まで)は167.6パーセント増であり、三好町のそれは、七〇四戸、九六四戸、一一四八戸、一二六八戸、一三三七戸、一三八四戸で、年平均伸び率は14.6パーセントで、いずれも被申請人の全供給区域の同期間の需要家戸数の年平均伸び率7.0パーセントに比し、需要家戸数増加の傾向が顕著であり、また今後の予測値においても、昭和五〇年三月時点の右四町の需要家戸数合計の実績は六〇九七戸であるのに、昭和五四年三月時点における合計戸数は一万一八二七戸と予測され、今後さらに増加するものと予想される。そして本件ガスホルダーの供給区域は右四町と天白区、名東区であるが、昭和五四年三月末には、本件ガスホルダーから供給される戸数は、右四町で右供給区域の五九パーセントを占めると予想される。

(2) 本件予定地は、被申請人の守山供給所(守山区)と鶴里供給所(南区)のほぼ中間地点に位置し、近傍に鶴里から瀬戸、高蔵寺方面への中圧A輸送導管があり、また、同じく西一社整圧所からの中圧B輸送導管が通つている。

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前掲各疎明に照らすとたやすく措信することができない。右の事実からすれば、本件予定地はガスホルダーの立地条件を充足するものというべきである。

(二)  ところで<証拠>中には、「ガスホルダーの立地条件としては、圧力不足を生ずる高蔵寺、菱野、豊田の方がより適していること、あるいは、長久手町、前熊、三ケ峰の方がより適当である」旨の記載部分があるので、これらの地点並びに申請人自治会から指示された鳴海町水広下地区の適否について検討する。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 前記4(二)(4)において、ガスホルダーの立地条件の第一として説示した需要の中心であるということは、右三地点(高蔵寺、菱野、豊田)で圧力不足を生ずる最大の原因となるところを指称するのである。換言すれば、そこにガスホルダーを建設すれば、これらの三地点に著しい好結果をもたらす地点であることを意味するもので、この点から、名古屋東部地域(日進、東郷、長久手、三好、名東、天白、尾張旭、瀬戸、春日井、豊田)の需要の中心とは、この方面の導管負荷の最も大きい区間の末端即ち、中圧A整圧器から中圧B導管への送出量が最も多い西一社整圧器からの需要をカバーし、今後大幅に需要の伸びが見込まれる地域の中心を指すものであり、この点から右三地点は不適当であること。

(2) 申請人自治会から提示された(この点は後記する。)鳴海町水広下地区は鳴海町の東部にあり、鶴里供給所の南東約五キロメートルに位置し、鶴里供給所に片寄り過ぎており、ここにガスホルダーを新設しても鶴里供給所の貯蔵能力増強程度の意味しかなく、名古屋東部地域一帯の供給確保の機能は果し得ず、全く不適地であること。

(3) 長久手町前熊地区および三ケ峰地区はいずれも長久手町の東端部に位置し、各工場から鶴里供給所を経て西一社―猪子石―守山供給所に至る中圧A輸送導管からの距離も遠く、また需要の中心からも遠く離れているため、第一に、余分の導管埋設が必要になる。たとえば前熊の場合はガスホルダーへの受入管として新たに口径四〇〇ミリメートルの鋼管九二〇〇メートルおよび吐出管として口径六〇〇ミリメートルの鋼管九二〇〇メートル合計約一八キロメートルの導管埋設が必要であるが、その費用として約一八億円を出費しなければらず(本件ガスホルダーの建設費は約一一億円である)、三ケ峰の場合は前熊よりさらに二〇〇〇メートル離れているので合計約二三キロメートルの導管埋設が必要で、約二三億円を要するのである。第二に輸送導管や需要地から遠距離の地点にガスホルダーを建設すると、そこに至る途中の導管での圧力降下分だけガスホルダーの有効稼働率が低下することとなるが、このような有効貯蔵量の面からみると、前熊の場合、受入導管で0.9キログラム毎平方センチメートル、吐出導管で0.55キログラム毎平方センチメートル計1.45キログラム毎平方センチメートルの圧力が損失し、この結果有効貯蔵量で四万八〇〇〇立方メートル減少し、本件予定地上のガスホルダーの有効貯蔵量一四万立方メートルに比し、三四パーセント減の九万二〇〇〇立方メートルしか利用できず、三ケ峰の場合は、両導管で合計1.75キログラム毎平方センチメートルの圧力損失があり、有効貯蔵量で五万八〇〇〇立方メートル減少し、本件予定地に比し四一パーセント減の八万二〇〇〇立方メートルしか利用できないことになる。第三に、ガスホルダーに貯蔵されたガスは中圧B導管を経てそれぞれの需要地点に送られるが、本件予定地の場合は名古屋東部地区の需要の中心であるので、ガスホルダーからのガスは直接日進町を中心とした既設の中圧B導管網に送られ、その圧力は有効に利用されるのに反し、右代替地はガスホルダーから需要地の中心である日進町の本件予定地まで新規中圧B導管によりガスを送ったうえ、既設の中圧B導管に接続しなければならず、このため既設中圧B導管に接続するまでに、前熊の場合は0.55キログラム毎平方センチメートル、三ケ峰の場合は0.65キログラム毎平方センチメートルの圧力が失われ、この分だけ、日進町周辺の既設の中圧B輸送導管の輸送効率が前熊の場合四七パーセント、三ケ峰の場合五四パーセント減殺されることになること。

以上の事実が認められ、他にこれを覆えすに足る疎明はない。そうだとすれば、前記各地点がガスホルダーを新設する場合の適地であるとはいい難い。

6  確認書作成後の経緯

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、他にこれを動かすべき疎明は存しない。

(一)  被申請人は昭和四九年七月一四日の説明会で、申請人ら住民から、本件予定地を付近の町有地と交換してはどうかとの意見が出されたため、その後代替地として公有地、民有地につき調査したが、ガスホルダーを建設できるような公有地はない旨日進町役場から回答があり、民有地についても適地を見い出せなかつた。ところで、前記四2(六)認定のとおり、右説明会終了後その席上において申請人ら住民からガスホルダーの建設について絶対反対、計画撤回を要望する旨の要望書が出されていたため、被申請人は昭和四九年八月中旬これに対する回答として、ガスホルダーの役割、本件予定地選定の理由、地元との折衝経緯、ガスホルダーの安全性、その他環境保全等を説明した文書を提示して申請人らに協力を求め、その中で右代替地が確保できない旨報告した。これに対し、同年九月九日申請人自治会住民五六名が被申請人を訪れ、右回答書について補足説明を求めるとともに、不誠意な内容であるとして、ガスホルダーの危険性、環境破壊、住民無視の計画、土地価格の下落、工事中の公害等を理由に重ねて建設計画の撤回を求める要請書を提出し、同月末日までに回答するよう求めた。さらに同月二〇日には東邦ガス日進ガスタンク建設反対委員会調査部員である申請人住民ら六名が被申請人を訪れ、「日進供給所を中心にした供給範囲と需要家数の推移、供給所用地の地質調査の結果」につき質問し、被申請人は資料を示して説明した。被申請人は同月下旬、先の要請書に対し、これにかかげられた反対理由に説明を加えて回答し、さらに同年一〇月一日申請人自治会幹部会の席上において、地質調査資料を提示して話合つた。同月一六日申請人住民ら三七名が被申請人を訪れ、右第二回目の回答書について話合つたが、住民側はこれを聞き入れず「環境破壊、ひたかくしにされた建設計画」を理由に、再び白紙撤回の要請書を提出した。同年一二月四日申請人住民ら四六名が被申請人を訪れ、被申請人は右要請書に対し、説明を加えて建設に協力を求める旨の第三回目の回答書を示して話合い、建設を今しばらく延期することを説明し、さらに話合いを重ねたい旨申入れたが、住民側は再度白紙撤回の申し入れを行つた。

(二)  申請人らは昭和四九年一二月七日日進町議会に対し、署名者一万一三七五名の署名を添えて、本件予定地はガスホルダー建設に不適であること、住民無視の計画であることを理由として、「被申請人に対し建設計画を白紙に戻し、改めて計画を練り直すよう議決を求める」旨の陳情書を提出し、これに対し、日進町議会は全員協議会で協議した結果、同月二五日右陳情書に対する協議結果を申請人自治会に通知するとともに、被申請人に対し、「被申請人は関係地域住民と十分話合つて解決に努力するように」との要望書を交付し、被申請人もこれに対し、「今後話合いを重ね早期解決に努力する。」旨の回答書を日進町議会議長宛に提出するとともに、申請人自治会の当時の会長であつた三浦旌雄に対し、口頭で話合いを申し入れた。

(三)  被申請人は昭和五〇年一月一三日申請人自治会より、同月一四日に加藤委員宅で話合いに応ずる旨の連絡をうけ、同日話合いが行われたが、双方の意見が一致せず、申請人自治会は、「昭和四九年一月一九日の岩崎区との建設協定締結の時点に戻し、関係諸官庁の許認可を取下げたうえでの話合い」を主張し、物別れに終つた。被申請人は昭和五〇年一月二四日以降再三、話合いの申し入れをし、同年二月一七日申請人自治会の加藤委員より、二月一八日同人宅で話合いを行う旨連絡を受け、同日、申請人自治会側六名、被申請人側四名で話合いがされたが、建設計画を昭和四九年一月一九日の時点に戻すことに関して議論が終始し、被申請人は、建設を前提とした条件面の話合いができるよう自治会の機関に諮つて検討して欲しい旨要望して右話合いは終つた。

(四)  被申請人は、昭和五〇年三月一一日小池日進町議会議長より、同月一七日日進町商工会館で申請人自治会側と被申請人との話合いの結果について報告会を開く旨の招集通知を受け、同日折衝経過を報告し話合つたが、自治会側は依然として、昭和四九年一月一九日の岩崎区との協定時点に戻すことを主張して譲らず、話合いは平行状態を辿つたが、最後に牧副議長から、「建設を前提にした話合いは駄目なのか。」という申し出があり、自治会側は持ち帰つて検討し、後日議会に対しその結果を表明することになつた。

被申請人は昭和五〇年五月二七日日進町の町役場、町議会、岩崎区会に対し、建設計画の概要、日進供給所の必要性と将来のガス導入計画の説明を含め、行詰つた交渉における被申請人の窮状を訴えて町当局に本格的な斡旋を依頼し、同月二八日牧日進町議会議長から、ガスホルダー建設の位置と高さを確認させるため、標柱を設置してはどうかとの示唆を受けたので、同月二九日申請人自治会委員長の了解を得て標柱設置工事に入つたが、途中で申請人幸村隆夫からの異議に接したので、高さ三メートルを残して中止した。

(五)  被申請人は、昭和五一年度最需要期も迫り、工事期間の関係もあつて、前記のように推移して来た膠着状態を打開し、話合いによる早急の解決を見出すため、昭和五〇年六月七日、日進町岩崎区公民館で開催された日進町当局、同町議会議員、岩崎区、申請人自治会に対する説明会において、当初の建設計画に検討を加えた次のような修正計画案を提示して建設についての了解を求めた。

(1) ガスホルダーの位置を約五〇メートル北へ移動する(南側の道路から一〇〇メートルの位置)。

(2) 半地下式のピツトを更に五メートル深くし、造成面からホルダーの底部まで地下一〇メートルとする。

(3) 南側グリーンゾーンは、盛土した上に植樹し、住宅側からガスホルダーが見えにくくする。

(4) ガスホルダーの最終的な基数を三基から二基に減らす(なお当面は一基とし、将来二基目を建設する時には、地元の同意を得て計画を実施する)。

(六)  被申請人は右修正計画案につき、昭和五〇年六月一八日申請人自治会側と非公式の会談を行つたが、解決の緒に至らず、さらに同月二一日修正計画案を中心に話合つたが進展せず、同年七月一一日の被申請人会社における話合いでは、自治会側は、「修正計画案は根本的な解決になつていない危険な案であり、誠意のない挑戦的なものだ。」との理由で反対し、本件予定地での建設には絶対反対である旨強調した。被申請人はその後同月二一日から同年八月中旬まで、修正計画案、ガスホルダーの安全性、必要性等を説明したチラシ「クリーンパイプ」を、申請人ら住民に配布して理解を得ようとしたが、同月一三日、申請人野垣敬ら一八名から被申請人のチラシの配布に対し抗議を受けた。

(七)  申請人自治会は名古屋通産局にも出向き、被申請人の本件ガスホルダーの建設計画に反対する旨陳情していたところ、同局から、自治会側において代替地を探してはどうかとの示唆を受け、代替地の検討をしていたが、昭和五〇年八月二二日被申請人に対し、内容証明郵便をもつて「代替地の紹介と同地点へ移転勧告」と称し、「(イ)名古屋市緑区鳴海町水広下地内、地目山林等約一万六〇〇〇坪、(ロ)愛知郡長久手町字岩作前熊地内、地目山林等約一万二〇〇〇坪、(ハ)同町字岩作三ケ峰地内、地目山林等約二万二〇〇〇坪の三か所を紹介し、そこに移転するように」との通知を発した。しかし、右三か所の土地は前示5(二)(2)、(3)のような理由により適格地でないため、被申請人は同年九月八日申請人自治会に対し、その旨回答した。この間同年八月二八日には、日進町岩崎区に「都市ガス対策促進委員会」が設立され、日進供給所建設問題の仲介をすることになり、また同月二九日被申請人ら一〇名との間に代替地問題について話合い、同人らに対し、被申請人自身も昭和四九年七月以降周辺地域の公有地、民有地を調査してきたが適地がなかつたこと、代替地の主たる条件は、導管距離の問題と昭和五一年度冬期最需要期に間に合うかどうかのタイムリミツトの問題である旨説明した。そして、さらに同年九月一〇日、被申請人自治会の三浦会長以下一三名との間に、代替地問題に関する被申請人の九月八日の回答について話合つたが、全くすれ違いのまま終了した。

(八)  申請人自治会はその後名古屋通産局に対し、第二次代替地として、本件予定地から東北東へ約四五〇メートルの位置にある愛知郡日進町大字岩崎字竹ノ山地内を提示し、通産局より調査報告方の指示を受けた被申請人は、昭和五〇年九月二三日丹羽用地部長他二名が自治会の深田委員の案内で現地調査をしたが、現地は被申請人において既に独自に調査してきた場所であり、第一に、約三万平方メートルの用地買収交渉は難航が予想されること、第二に、隣接地主の同意が受けにくいこと、第三に、土砂流出防備保安林指定地域であり、指定の解除手続に相当期間を要することなどの難点があるため、不適地である旨右深田委員に伝えるとともに、代替地調査はこれをもつて打ち切りたい旨申し伝え、名古屋通産局に対しても同様の報告をした。

(九)  被申請人は昭和五〇年一一月二〇ころ申請人自治会から内容証明郵便でもつて、昭和五一年度最需要期の資料、都市ガスの需要分布と今夜の見通し、LNG導入計画と本件ガスホルダーの役割を説明するようにとの要望書の送付を受け、同年五一年一月二二日資料を添付し説明を加えた回答書を申請人自治会に対し送付した。

(一〇)  被申請人は昭和五〇年九月二五日牧正夫都市ガス対策促進委員会委員長から、同委員会と被申請人、申請人自治会の三者会談を開きたい旨の連絡を受け、同年一〇月四日被申請人の星ケ丘営業所において、(イ)岩崎区への都市ガス導入について、(ロ)代替地問題について、(ハ)昭和五一年度最需要期についての三項目に関し話合いを行つたが、全く進展しなかつた。同月一八日牧委員長は自治会との間に第二回目の話合いをもち、自治会に対し、条件付話合いか絶対反対か何れかの最終結論を明らかにするよう求め、自治会側は同月三〇日ガスホルダー建設予定地の移転以外に話合う余地はない旨の回答をした。被申請人は同年一一月一二日牧委員長および鹿島日進町議会議員より、「平和解決のためには移転以外に方途はないから、なんとか再検討して竹ノ山地内へ移転できないか。」との申し入れを受けた。

(一一)  被申請人は、既に昭和五〇年度最需要期に間に合わせる計画であつたものを、あえて一年延期し、申請人自治会側との話合いを継続してきたものであり、ここでさらに竹ノ山地内に移転することになると、工事期間の関係から、昭和五一年度最需要期にも間に合わなくなり、都市ガスの安定供給が阻害される事態に立ち至ることをおそれたが、地域住民との紛争を避け、円満に建設したいという目的のため、竹ノ山地内移転の可能性を再検討することとし、前記4(二)(7)で述べたように昭和五一年度最需要期における最大日送出量予測が三、四パーセント減ずる見通しであつたところから、前記非常手段を講ずることによつて同年度最需要期は乗り切ることができると判断し、昭和五二年度最需要期までにガスホルダーの建設を間に合わせることを前提に、移転計画を実現させるため社内体制を固め、同年一二月二日牧正夫、鹿島両町議会議員ら立合いのもとで、申請人自治会側に対して、次の五項目の条件をつけて竹ノ山代替地への移転計画を実施すきべことを提示した。

(1) 昭和五一年二月末日までに用地買収、隣接地主の同意、関係居住者の同意が得られること。

(2) 同年九月末日までに各種法的手続の許可が得られる目途がたつこと。

(3) 代替地は、自治会から提示された岩崎区竹ノ山地内のみとすること。

(4) 移転について岩崎区の了承が得られること。

(5) 被申請人が努力することはもちろんのことであるが、関係機関や自治会の協力にも拘らず、前記の諸要件が整わないときは、自治会側は本件予定地における建設に同意すること。

自治会側はこの五項目の条件のうち、第三項が「竹ノ山地内のみとする。」となつていること、および第五項の条件について反対するものもいたが、第三項は「竹ノ山地内にしぼる。」とすることで合意に達し、第五項については、今後の懸案事項ということにして、移転計画の推進をすることで意見が一致し、被申請人は昭和五一年一〇月には竹ノ山地内で着工できることをめざして、移転計画の実行に着手した。

右竹ノ山移転計画実現のための交渉の主たる経過は次のとおりである。

(イ) 通産局、日進町など関係官庁に対しては、ガスホルダーの建設予定地を竹ノ山に移転する変更計画について説明し、建設の目途がたつた時点で、既に許可認定を得ている本件予定地における建設計画は取り下げ、竹ノ山地内における建設計画を申請することについて予め了解を得た。

地元岩崎区に対しては、昭和五一年一月二一日「供給所建設予定地の変更について」の願い書を提出し、同区会の審議を要請したところ、同年一月二四日区会で審議され、その結果、本件予定地で計画した時と同じく、隣接地主の同意を得てから改めて区会に対し願い書を提出し、その審議によつて付近居住者、利水関係者の同意、排水路の改修など建設にともなう諸条件を被申請人に提示することになつた。

(ロ) 変更予定地は面積二万九六一七平方メートで、その所有者は三名であつたが、右土地の取得については本件予定地と等価交換をすることで折衝し、各所有者から交換に応ずる旨予め同意を得た。

(ハ) 変更予定地に隣接する土地は一二筆で、共有土地があることからその所有者は四〇名であつた。被申請人はこれら所有者から同意を取付けるべく交渉を開始したが、昭和五一年二月末日までに同意した者は一七名、交渉中が二三名であり、その後同年七月二〇日ころまでに九名の同意を得たものの、残る一四名(七筆)については、第三者に仲介、斡旋を依頼するなど、あらゆる手立てを尽して説得を重ねたが、同意を得るに至らなかつた。

(ニ) 近隣居住者の同意については(日進町議会議長は、同意を取りつけるべき近隣居住者は竹ノ山地区八組、九組の居住者である旨指示した)、昭和五〇年一二月一一日から昭和五一年七月一五日ころまでに、右二組の各住民に対し合わせて二〇数回の交渉をもつたが、居住者は、申請人自治会側が昭和四九年一二月竹ノ山住民に対し、本件予定地でのガスホルダー建設に反対する署名を得るため説得し、竹ノ山住民から反対署名を得ておきながら、本件予定地の代替地として竹ノ山地区を被申請人に提示し建設を認めたことに対して強く反撥し、終始、ガスホルダーの建設には絶対反対であるとの態度を崩さず、組全体としての話合いに進展させることは困難であつた。

(ホ) 被申請人は社内体制を強化して、昭和五〇年一二月三日から昭和五一年七月二〇日までの間竹ノ山移転の折衝を続けたのであるが、前記のように隣接所有者一四名および竹ノ山地区八組、九組の居住者の同意を得る目途がたたず、一方、昭和五二年度最需要期も迫り、工事期間を考慮に入れると、じんぜん、その時を待つわけにはいかず、遂に移転を断念せざるを得なくなつた。

(一二)  そこで、被申請人は昭和五一年七月二二日申請人自治会幸村新委員長以下一〇名と話合いの機会をもち、右結果を報告するとともに、同五〇年一二月二日の自治会との話合いにおいて提示した五項目条件の第五項に従つて、本件予定地において建設せざるを得ない旨申入れた。この間、被申請人は、昭和五〇年一二月一九日から同五一年六月一四日までの間八回にわたつて申請人自治会側と話合いを行い、右竹ノ山移転の交渉経過を説明した。

(一三)  被申請人は、右昭和五一年七月二二日の申請人自治会代表者一〇名との話合いにおいて、二時間以上にわたり竹ノ山移転計画の実行の経緯およびその実現が不可能であることを説明し、再び、本件予定地における建設に協力してくれるよう説得に努めたが、話合いは全く平行状態であつたので、自治会に対し、同年七月二九日までに本件予定地でのガスホルダーの建設に協力してもらえるかどうかの回答を重ねて申し入れ、同日話合いは終つた。そして被申請人は、右の趣旨を自治会住民に知らせるため、同年七月二四日自治会の各戸を訪問し、「ガスホルダー建設についてのお願い」と題する文書に説明書を添えて配布した。また、被申請人は同月二七日日進町全域に対し、これまでの簡単な経緯と建設協力を求める旨記載したチラシを配布した。

しかるところ、同月三〇日申請人自治会会長加藤宰夫は「新たな代替地でホルダーを建設し、需給ピーク時は被申請人自身の努力で乗り切るように」という内容の書面を被申請人に送付し、申請人自治会側に協力の意思は全くないことを明らかにした。被申請人は昭和五二年度最需要期に間に合わせるべく、同年八月に入つて準備作業に着手し、同月六日申請人自治会に対し、建設を前提とした話合いには積極的に応ずる旨明記したうえ、測量、地質調査などの準備作業に入る旨の書面を自治会および自治会員各戸に郵送し、同年八月九日右準備作業を開始した。

これに対し、申請人自治会から被申請人に対し、準備作業は確認書違反であることを指弾するとともに、昭和五二年度最大日時刻別送出量、製造量、ホルダー貯蔵量の予測を資料を示して明らかにせよとの同月一〇日付文書を郵送してきたので、被申請人は同年九月四日申請人自治会に対し、被申請人の見解を述べ、かつ、右資料を添付して回答した。

そして同月一六日に至り、被申請人は申請人自治会に対し、準備作業に引続き、本工事に着手する旨内容証明郵便で通知し、同月二一日本工事としての伐採作業に着手した。

(一四) 被申請人は本件仮処分異議の段階に至つてではあるが、申請人ら代理人が提出を希望した左記の資料を右代理人に交付し、さらに本件ガスホルダーの安全性、必要性、環境保全対策についての専門家の判定書、第三者作成の検討書、仕様書を書証として提出したことは、訴訟上明らかである。

(1) 昭和五二年度最需要期の導管網圧力解析のプログラムと入力データーと計算結果

(2) 昭和五一年一二月一日から現在までにおいて(イ)一日ごとのガス送出量、(ロ)ガス送出量最大日は昭和五二年二月一七日であり、同日の送出量は五〇三万八〇〇〇立方メートルであること、および時刻別(二時間ごと)需要実績についての資料

(3) 昭和五一年一二月二八日の時刻別(二時間ごと)需給実績についての資料

(4)(イ) 大口需要家への節約をした日は一月二四日、二五日であり、実際に供給規制を行つた日はないこと

(ロ) この日までのガス送出量最大日は同年一二月二八日であり、同日の時刻別(二時間ごと)需給実績についての資料

(5) 右各日の二時間ごとのガス圧の実績並びに、守山および鶴里のガスホルダーのガス貯蔵量の実績についての資料

(6) 昭和五二年二月一四日現在での、昭和五三年一月ないし三月の最大送出日の時刻別(二時間ごと)需給予測、ガス圧の予測並びに守山、鶴里のガス貯蔵量予測の明細表

7 以上に考察してきたところからすれば、本件ガスホルダーの本体に使用される高張力鋼は、製作会社において厳重な品質管理と高度の技術によつて製造され、靱性、耐衝撃性、耐熱性においてすぐれ、一枚一枚検査を経たものであり、現地組立工事に際しても厳重な管理のもとに施工され、特に胴板の溶接においては、溶接部の脆化を防ぐため、水素の放出、残留応力の除去を目的とし、細心の注意を払つて万全の作業方法および作業管理体制をとつていること、本件ガスホルダーの保安対策としては、頂部安全弁、緊急遮断弁、圧力警報器が設置され、被申請人本社中央制御室に操作員が常時勤務して、ガスホルダーの圧力、出入量、各種機器の作動状況を監視し、現地には管理人を常駐させて保守管理にあたる体制がとられることとなつていること、本件ガスホルダーの建設時における各種の検査については万全を期していること、中圧ガスホルダーと事業場の境界線との離隔距離は、法令上の制限としては一〇メートル以上であればよく、ために本件ガスホルダーの離隔距離は当初の計画では五〇メートルであつたが、修正計画案において一〇〇メートルを確保したこと、ガスホルダーの耐震性は、法令上の基準としては水平震度0.3に耐えがものであればよいが、本件ガスホルダーは水平震度0.5に耐え得るものとして設計する等相当の配慮をなし、これにより、動的解析を行つた結果でも耐震性が確認されており、通常起ると考えられる地震に対して十分安全性を有すること、本件ガスホルダーは風速一三〇メートル毎秒の風圧に耐えられるよう設計されていること、本件予定地の一部には地下約六メートル附近に亜炭廃坑が存するが、本件ガスホルダーの基礎工事の際には13.7メートル堀下げるため、亜炭廃坑はすべて削り取られるし、基礎坑は造成面下21.5メートルまで打込むので、亜炭廃坑による地盤の不等沈下のおそれはないこと、ガスホルダー内の圧力は常に大気圧より高い状態でガスが貯蔵されているため、空気が混入して爆発混合気体を形成することはなく、したがつて仮にガスホルダー内に着火源をおいた場合でも爆発することはないこと、頂部安全弁からガスを放出した場合、最大着地濃度の値は爆発下限界を大きく下まわつていること、なお、安全弁から大気中へ放出されたガスは、大気の動きにつれて移動、拡散して希釈され、したがつて、時間の経過とともに着地濃度が増加することはなく爆発の危険はないこと、ガスホルダーの球体に亀裂または破損が生じ、ガスが噴出した場合にも、噴出孔から極めて近い地点でガス濃度は爆発範囲外になるし、ガスホルダーの内部はガス中に空気が混入しないので、内部に誘爆するおそれはないこと、本件予定地は航空路から約三五〇〇メートル離れており、かつ進入区域からも離れていることなどから、航空機が本件ガスホルダーに接触する確率は極めて低いこと、本件ガスホルダーは、その外縁と火災物件との距離が二〇メートルの場合でも、鋼板の強度低下を来すことはなく、ガス温の上昇による圧力上昇は安全弁によつて十分対応することができるし、本件ガスホルダーに最も近接する計器室建物は六〇メートル、最も近い民家まで一〇〇メートルの距離にあり、周辺の火災による危険発生のおそれはないこと等の事実に、球形ガスホルダーは昭和三一年以来全国に三〇〇基以上建設されているが、これまでの二〇余年間、爆発、倒壊事故のような重大事故は勿論、ガス漏洩事故も、昭和五〇年一一月に発生した東京瓦斯株式会社板橋整圧所のガスホルダー安全弁故障に起因するガスもれ事故を除いては、一件も発生していない事実を総合すれば、本件ガスホルダーの安全性についての疎明は、被申請人によつてなされたものということができる。また、被申請人は、本件ガスホルダーの建設にあたつては、可能な限り現在の自然を残すよう緑化計画をたて、ガスホルダーの高さを抑えるため地下部分を当初計画の五メートルから一〇メートルに修正し、申請人らの居住地域からガスホルダーを見えにくくするため、本件予定地に盛土をし、その上に植樹をし、ガスホルダーの色も薄緑色にする計画を樹立する等、本件予定地の自然環境、近隣地の生活環境の保全に一応の配慮をしていること、なお、本件ガスホルダーの建設工事については、作業時間の短縮、工事用迂回道路の建設、無振動工法による杭打ちなどにより、騒音、振動の低減、交通事故の防止に努め、テレビ等の電波障害に対しては共同アンテナの設置その他の障害防止対策をたてていること、さらに、ガスは現下の都市生活における家庭用エネルギーとして不可欠の役割を果しつつあるが、被申請人がガスを供給している地域は名古屋市を中心として広範囲にわたり、需要家戸数は昭和五二年二月時点で約九三万戸に達し、その需要増加の傾向は将来においても衰えることがないものと予測されるところ、被申請人はガス事業法第一六条の規定により、正当な事由がなければ、何人に対してもその供給区域または供給地点におけるガスの供給を拒んではならない供給義務があり、かつ将来のガス需要を予測し、安定した供給をすべき責務を負わされていること、このため、被申請人は需要の変動があつても常に安定した供給を維持しうるガス供給設備の保有が必要であること、被申請人は昭和五二年度冬期最需要期(昭和五三年一月から三月まで)およびそれ以前において安定した供給を行うためには、二〇万立方メートルのガスホルダーの設置が必要であり、本件予定地は現時点における需要の中心に近く、かつ今後も需要増加の傾向が顕著な名古屋東部地域の中心に近く、被申請人の守山供給所と鶴里供給所とのほぼ中間地点に位置し、近傍に、鶴里から瀬戸、高蔵寺方面への中圧A輸送導管があり、かつ西一社整圧所からの中圧B輸送導管が通つているところから、本件予定地はガスホルダーの立地条件に適合していること、被申請人は確認書作成後昭和五一年七月二二日まで、申請人らとの間に二〇数回にわたつて話合いを重ね、その間昭和五〇年六月七日には修正計画案を示して同意を求めたが、最後まで申請人らの同意を得られなかつたこと、被申請人は昭和五〇年一一月ころから同五一年七月二〇日ころまでの間、ガスホルダーを竹ノ山代替地に建設するべく努力したが、隣接土地所有者の一部および近隣居住者の同意を得ることができなかつたことが認められる。さらに、被申請人は本件仮処分異議の段階に至つてではあるが、申請人ら代理人が提出を希望した圧力低下についてのプログラムとそのデータその他の資料を右代理人に交付し、さらに本件ガスホルダーの安全性、必要性、環境保全対策についての、専門家の判定書、第三者作成の検討書、仕様書を書証として提出したことが明らかであるところ、被申請人が従前提出していた書証に加うるに、これらの資料および書面をもつてすれば、本件ガスホルダーの安全性についてはこれを十分首肯することができるのである。しかも、前記四で詳細に認定した本件確認書作成の経緯、状況に照らすと、右確認書に基づく合意は、昭和四九年七月一四日の時点において、当事者間の紛争を将来にわたつて終局的に解決するものではなくして、当日の緊迫した状況を一時凍結することにより一応の暫定状態を作出したものであり、同日以降における当事者間の折衝、話合いを当然のこととし、むしろ、これを目的として、ことの最終的な決着を将来に委ねようとした過渡的、かつ、手段的な性格を有することは否み難いところと認められる。

本件で疎明された事実関係をこのように要約して把握してみると、本件においては、被申請人は申請人らの同意を得ることができなくとも、本件ガスホルダーの建設工事に着工し得べき特段の事情が存するものと認めるのが相当である。そうだとすれば、被申請人のこの点の抗弁は理由があるといわなければならない。

なお、被申請人らのその余の抗弁事由即ち錯誤による無効、詐欺、強迫による取消、権利の濫用の主張は、これを判断する要あるをみない。

六申請人らは予備的に、人格権および環境権に基づき、あるいは土地の所有権または占有権に基づく妨害予防請求として本件ガスホルダーの建設差止めを求め得る旨主張するが、前示五の1ないし7に認定、判断した諸事情のもとでは、著しい権利侵害の危険が切迫しているとは解し難いので、予め侵害行為の禁止を求めることはできないというべきである。

七結論

上来説示したとおりであるから、本件仮処分の申請は、結局被保全権利についての疎明を欠くこととなるのであるが、もとより、保証をもつてこれに代えることも相当とは認められないから、これを却下するほかはない。よつて、本件仮処分申請を認容してした主文第一項掲記の仮処分決定を取り消し、債権者らの本件申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第九三条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(可知鴻平 松原直幹 高野芳久)

書証の成立について<省略>

当事者目録

申請人 東山東芦廻間自治会

右代表者会長 加藤宰夫

申請人 幸村隆夫

外八四名

右申請人ら八六名代理人弁護士 花田啓一

外二名

同 長谷川正浩

同 野田弘明

被申請人 東邦瓦斯株式会社

右代表者代表取締役 薦田国雄

右代理人弁護士 吉川大二郎

外六名

物件目録<省略>

図面<省略>

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