大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)23号 判決

主文

被告らは、各自、原告矢野千枝子に対し、金六五二万〇、一九五円および内金六一〇万〇、一九五円に対する昭和四八年一二月二六日から、内金四二万円に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告矢野力、同矢野エミ子に対し、各金三一二万〇、二三九円および内金二九一万〇、二三九円に対する昭和四八年一二月二六日から、内金二一万円に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告らの負担とし、その六を被告らの負担とする。

この判決は原告らの勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは、各自、原告矢野千枝子に対し、一、〇六三万四、四六九円、原告矢野力、同矢野エミ子に対し、各五一三万三四〇一円および右各金員に対する昭和四八年一二月二六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの各負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  原告らの身分関係

原告矢野千枝子は訴外亡矢野泰近の妻、原告矢野力、同矢野エミ子は同訴外人の父母であつて、原告らは相続人である。

二  事故の発生

1  日時 昭和四八年一二月二六日午後五時二五分頃

2  場所 名古屋市港区空見町三二番地宇部興産株式会社空見セメントセンター構内

3  加害車 被告高津敬和運転の自動車

4  被害者 訴外亡泰近

5  態様 後進中の加害車が佇立していた訴外亡泰近に衝突

6  結果 訴外亡泰近は即死

三  責任原因

1  被告大石株式会社(以下、被告会社という。)(自賠法三条)

被告会社は加害車の保有者であつた。

2  被告高津(民法七〇九条)

被告高津には後方不確認の過失があつた。

四  訴外亡泰近の損害

1  逸失利益 一、九六〇万五、〇六二円

(一) 月収 一二万一、六六六円

訴外亡泰近は被告会社に勤務し、昭和四八年一〇月一日から事故日までに、三六万五、〇〇〇円の収入を得ていた。

(二) 就労可能年数 三三年間

訴外亡泰近は昭和一八年九月一五日生れである。

(三) 生活費 三割

2  慰藉料 九〇〇万円

五  相続

訴外亡泰近の前記合計二、八六〇万五、〇六二円の損害賠償請求権は、相続により、原告千枝子が一、四三〇万二、五三一円、原告力、同エミ子が各七一五万一、二六五円を承継した。

六  損害の填補

自賠責保険から、原告千枝子が四七一万六、三四二円、原告力、同エミ子が各二五四万二、〇〇四円を受領した。

七  弁護士費用

弁護士費用として、原告千枝子は一〇四万八、二八〇円、原告力、同エミ子は各五二万四、一四〇円を要する。

八  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載の各損害金およびこれに対する本件不法行為の日である昭和四八年一二月二六日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一は認める。

二の1ないし4および6は認めるが、5は争う。

三は認める。

四の1は認めるが、2は争う。

五は争う。

六は認める。

七は争う。

第四被告らの主張

一  過失相殺

訴外亡泰近にも、運搬車の動静に注意しない過失があつた。

二  損害の填補

1  葬儀費 三五万一、八〇〇円

被告会社は、原告千枝子に対し、葬儀費三五万一、八〇〇円を支払つた。

2  労災保険法による遺族補償年金 九六四万九、三一一円

被告会社は、本件事故について、運行供用者責任を負うとともに、訴外亡泰近の使用者として災害補償責任をも負うものであるが、原告千枝子は、遺族補償年金として昭和五一年二月中旬から、一年につき四三万九、二〇四円の給付を受けることが確定しているところ、同原告は昭和一七年四月二八日生で、右支給開始の時点から四一年間生存するものと推定され、その間の給付額は、ホフマン式計算法により現価に換算された九六四万九、三一一円(439,204×21.97=9,649,311)となるので、これを同原告相続の逸失利益額より控除すべきである。

第五被告らの主張に対する原告らの答弁

一  過失相続

争う。

二  損害の填補(原告千枝子)

1は認める。

2は争う。即ち、遺族が将来受給すべき遺族補償年金は、損害賠償額から控除すべきではない。

第六証拠〔略〕

理由

一  原告らの身分関係

請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  事故の発生

請求原因二の1ないし4および6の事実は当事者間に争いがなく、同5の事実は成立に争いのない乙第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証の一、二、第七号証の一ないし四、被告高津敬和本人尋問の結果により認められている。

三  責任原因

請求原因三の事実は当事者間に争いがない。

四  損害(損害額の計算については円未満を切り捨てる。)

1  逸失利益 二、一〇七万八、六三四円

(一)  月収 一二万一、六六六円

当事者間に争いがない。

(二)  就労可能年数 三七年間

訴外亡泰近は昭和一八年九月一五日生(事故当時三〇歳)であることは当事者間に争いがない。そこで、事故時より六七歳までの三七年間とするのが相当であると認められる。

(三)  生活費 三割

(四)  ホフマン式計算法

〈省略〉

2  慰藉料 八〇〇万円

本件事故の態様、訴外亡泰近の年齢、親族関係、その他諸般の事情を考慮。

3  葬儀費 三五万一、八〇〇円

原告千枝子が葬儀費として三五万一、八〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。

以上のうち、1、2の合計二、九〇七万八、六三四円は訴外亡泰近の損害であるが、同損害賠償請求権は相続により、法定相続分に従い、原告千枝子がその二分の一の一、四五三万九、三一七円、原告力、同エミ子が各々四分の一の七二六万九、六五八円を承継したものと認められるので、結局、原告らの損害額は、原告千枝子が一、四八九万一、一一七円、原告力、同エミ子が各々七二六万九、六五八円となる。

五  過失相殺

成立に争いのない乙第三号証の一、二、第二号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証の一、二、第七号証の一、ないし四、被告高津敬和本人尋問の結果によれば、本件事故現場の宇部興産株式会社空見センター構内は、セメントサイロが設置され、その北側約三〇メートルの敷地には、セメント運搬車が車頭を北に向けて待機し、積込順番に従つて、後退し、積込が行われているところで、運搬車の出入りが多い場所であること、事故当時も同所付近には、六、七台の運搬車が待機していたこと、訴外亡泰近は運搬車を運転して同構内に入り、サイロの北側敷地に同車を待機させ、降車して、やはり待機中の他の運搬車のところへ行つてその運転手と雑談をしたのち、サイロの十数メートル北側付近を歩いていたこと、折柄、被告高津が加害車(運搬車)を運転して同構内に入り、一旦北側敷地へ進入した後、後方安全の確認が不十分のまま、サイロに向つて、時速約五ないし一〇キロメートルで後退したこと、そのため、訴外亡泰近は加害車の左後輪に轢かれたことが認められ、以上の事実によれば、本件事故の発生について被告高津に過失があることは明らかであるが、訴外亡泰近も、事故現場が運搬車の後退してくる進路上であることを熟知していたはずであり、しかも、事故当時、数台の運搬車が付近に待機していたのであるから、とくにサイロ付近を歩行する際には他車の動静に注意すべきであつたのにこれを怠つた過失が認められ、その過失割合は被告高津七五に対し、訴外亡泰近二五とするのが相当と認められるので、本件事故による原告らの損害の二五パーセントを減ずるべきである。

そうすると、原告らの損害額は、原告千枝子が一、一一六万八、三三七円、原告力、同エミ子が各々五四五万二、二四三円となる。

六  損害の填補

1  請求原因六の事実(自賠責保険金の受領)および被告らの主張二の1の事実(被告会社からの葬儀費の受領)は当事者間に争いがない。

2  被告らの主張二の2(遺族補償年金の控除)について

およそ使用者は、労災保険法による遺族補償給付が行われた場合は、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる(労基法八四条二項参照)が、この給付が行われた場合とは現実に給付がなされ、損害の填補がなされた場合に限定されるのであつて、将来にわたり年金の形式で給付がなされる場合は、たとえそれが確定していても該当しないと解すべきである。何故なら、文理的には、将来の給付では未だ給付が行われたとはいえないし、また実質的にも、将来給付すべき年金の現価を、損害賠償額から減ずるとすれば、遺族はその限度で損害賠償債権の分割弁済を強いられる結果になり、労災保険の故をもつていわれのない不利益を受けることになり、不当であるからである。

もつとも、使用者は、労災保険に加入し、保険料を支払つているのに、保険金が将来給付される場合には、その給付分についてなお損害賠償義務を免れないことになるが、労災保険は専ら被災労働者やその遺族の救済を目的とする制度であるから、同人らに不利益を強いてまで使用者の損害賠償義務の軽減を図ることはやはり不当というべきである。そうすると、原告千枝子につき将来遺族補償年金が給付されることが確定したことをもつて、その現価を、使用者である被告会社に対する損害賠償債権から控除すべきであるとする被告らの主張は、それ自体失当であるので採用できない。

3  そこで、原告らの前記損害額から、原告千枝子につき、自賠責保険受領分四七一万六、三四二円、葬儀費受領分三五万一、八〇〇円、原告力、同エミ子につき、各々自賠責保険受領分二五四万二、〇〇四円を差引くと、残損害額は原告千枝子が六一〇万〇、一九五円、原告力、同エミ子が各々二九一万〇、二三九円となる。

七  弁護士費用

1  原告千枝子 四二万円

2  原告力、同エミ子 各々二一万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮。

八  結論

よつて、被告らは各自、原告千枝子に対し六五二万〇、一九五円および内弁護士費用を除く六一〇万〇、一九五円に対する本件不法行為の日である昭和四八年一二月二六日から、内弁護士費用四二万円に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、原告力、同エミ子に対し、各三一二万〇、二三九円および内弁護士費用を除く二九一万〇、二三九円に対する本件不法行為の日である昭和四八年一二月二六日から、内弁護士費用二一万円に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容しその余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊田士朗)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例