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名古屋地方裁判所 昭和49年(行ウ)13号 判決

原告 鈴木庄助

被告 愛知県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が昭和四六年九月二〇日になした蒲郡西田川土地区画整理組合の設立認可は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の裁判) 原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(本案の裁判)

主文同旨。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  被告は昭和四六年九月二〇日、蒲郡西田川土地区画整理組合(以下、本件組合という)の設立を認可した(以下、本件設立認可という)。

二  原告は本件組合の事業施行区域内に宅地を所有するものであるが、原告の右所有土地は本件組合の事業計画によると都市計画街路である都計三・五・五七号五井線の道路敷に該当することになるところ、原告の右土地には建物ならびに湧水井戸があり、この水源は原告が代表者である訴外鈴庄染工株式会社の染色用の水として使用されており、この場所を除いては同一水質、同一水量の水源を求めることが不可能に近いため、本件組合の事業計画通り事業が施行されると、原告の蒙る損害は多大となり、かつ井戸の除去移転のために莫大な事業費を要する結果となるから他の組合員に与える損害も大きいといわなければならない。

三  そこで、原告は昭和四六年九月五日、土地区画整理法二〇条二項にもとづき、宛名を被告とし、「蒲郡西田川土地区画整理組合の事業計画についての意見書」と題する意見書(以下、本件意見書という)を、被告を代理する蒲郡市区画整理事務所長に対し郵送して提出した。

四  しかるに、被告は本件意見書について何ら審査することなくして本件組合の設立認可をなした。

従つて、本件設立認可は、その手続に土地区画整理法二〇条三項に違反する瑕疵があるものであり、その瑕疵は重大かつ明白であるから、無効である。

(本案前の抗弁)

原告は本件設立認可の無効確認を求める法律上の利益を有しないから、本件訴は不適法であつて却下されるべきである。

すなわち、都道府県知事による土地区画整理組合の設立認可は、組合を成立せしめるだけであつて、組合員の具体的な権利義務に変動を生ぜしめるものではない。組合設立認可の際に審理される事業計画は、土地区画整理事業の基礎的事項について一般的、抽象的に定められたものであつて、いわば建築工事における青写真的な役割を果すものであり、個々の組合員の地区内の土地所有権等に直接具体的な変動を生ずる効果があるものではない。個々の組合員の具体的な権利義務は、組合の総会の決議にもとづいて、仮換地の指定、賦課金の徴収等個々の行為がなされることによつて始めて生ずるものである。してみれば、本件組合の設立認可があつただけでは、原告は未だ具体的な権利義務の変動を受けていないから、本件設立認可の無効確認を求める法律上の利益を有しないものである。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実のうち、原告が本件組合の事業施行地区に宅地を所有するものであること、原告所有土地の一部が都市計画街路五井線の道路敷に該当すること、原告所有土地に建物および井戸があることは認めるが、その余は否認する。

三  同第三項の事実のうち、本件意見書が蒲郡市区画整理事務所長宛に郵送提出されたことは認めるが、その余は否認する。

四  同第四項の事実のうち、被告が本件意見書を審査することなくして本件設立認可をなしたことは認めるが、その余は否認する。

(被告の主張)

一  被告は原告名義の意見書を受理していないから、それを審査することなく本件組合の設立認可をなしたことをもつて無効原因とする原告の主張は失当である。

原告は本件意見書を蒲郡市区画整理事務所長に対して郵送提出しているが、蒲郡市区画整理事務所は蒲郡市の一部局であつて被告または愛知県とは無関係のものであり、同所長は被告の代理人でないのみならず、土地区画整理法二〇条二項所定の意見書を被告に代つて受理する権限を有するものではない。そして、本件意見書は右所長のもとにそのまま保管され、被告に回付されることはなかつたのである。従つて、被告は右事実を知らないまま本件設立認可をなしたものであり、被告の措置に何ら瑕疵は存しない。

しかも、本件意見書は、原告が提出したものではなく、訴外鈴庄染工株式会社が提出したものであるから、原告が意見書を提出したことを前提とする原告の本訴請求はこの点においても失当である。

二  また、本件意見書は都市計画街路五井線の計画変更を唯一の内容とするものであるところ、かかる事項は土地区画整理法二〇条二項但書の「都市計画において定められた事項」に該当し、本来意見書を提出することができない事項である。従つて、仮に本件意見書が被告に提出されたとしても、採択されないことは明白であるから、これを審査せずに本件組合の設立認可をしたとしても、右認可を無効ならしめるような重大かつ明白な瑕疵とはなりえない。それゆえ、本件意見書を審理することなくなされた本件設立認可には無効原因となるべき瑕疵は存しない。

(本案前の抗弁に対する原告の反論)

土地区画整理組合の設立認可は、特定の土地区画整理組合の設立行為を補充し、法人たる組合を成立せしめ、これに土地区画整理事業を施行する権限を与えるものであるから、それは事業計画そのものとは異なり、特定の者に対する具体的な行政処分であると解すべきである。そして、組合設立認可により施行地区内の宅地の所有権者および借地権者は当然に組合員たる法律上の地位を取得するに至るのであり、また、右認可が公告されると、施行区域内の宅地については土地の形質の変更、建築物その他工作物の新築、改築等の行為につき制限を受ける等、施行地区内の宅地の所有権者らは右認可によりその法律上の地位ないし権利義務に直接影響を受けるに至るものである。さらに、組合設立認可は組合に事業施行権を与えるものであるから、被告主張の如く爾後具体的処分のなされた段階で始めて争訟の途を開くとするならば、その間に組合が行つた行為はすべて事業施行権を有さぬものが行つた行為として違法なものとなり、かえつて混乱を生ぜしめるものとなる。組合の設立認可自体が違法である場合、右認可に対する出訴を認めてこれを是正し、その後の無用な手続の進行を防止するようにすべきである。

従つて、本件設立認可は当然争訟の対象となるべき行政処分であり、その施行地区内の宅地所有者である原告は本件設立認可の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するというべきであるから、本件訴は適法である。

(被告の主張に対する原告の反論と主張)

一  本件意見書は、鈴庄染工株式会社取締役社長の肩書が付してあつたものではあるが、意見書の内容からみても明白なように、原告の提出したものである。本件組合の事業計画によつて訴外鈴庄染工株式会社の営業にも支障をきたす結果となるため、その利害関係を示す意味で肩書を付したにすぎない。

二  原告が被告宛の本件意見書を蒲郡市区画整理組合事務所長に郵送提出したのは、被告宛の意見書は蒲郡市を経由して提出する規定になつているとの同市の教示に従い、右事務所長を被告の代理として提出したものである。

仮に、蒲郡市区画整理事務所長が被告を代理して意見書を受領する権限を有していなかつたとしても、原告には右事務所長に意見書受領の権限ありと信ずべき相当な事由があつたものである。すなわち、土地区画整理法により、市町村長は土地区画整理組合設立の過程において、施行区域の公告、借地権の申告、事業計画の縦覧等重要部分に関与するのであり、特に事業計画の縦覧は都道府県知事に代つて行う代理行為というべきである。本件組合の設立認可に当つては、法によつて蒲郡市が行うべき事務のうち、借地権の申告、事業計画の縦覧は蒲郡市長の命を受けた蒲郡市区画整理事務所長によつて行われた。そして、右事務所長は、原告が被告に意見書を提出する際、右意見書は市長を経由して提出する定めになつている旨述べたので、原告は右教示に従い、本件意見書を同事務所長に提出したのである。従つて、右の事実関係のもとでは、原告が右事務所長に意見書受領の権限ありと信ずべき相当な事由があつたものというべきである。さらに、右事務所長が郵送された被告宛の本件意見書を原告に返還せず、そのまま保管していたことも、同所長に受領の権限ありと信ずべき相当の理由である。右事務所長が被告に本件意見書を回付しなかつたことは原告の関知しないところであるから、代理受領の成立を妨げる理由とはならない。

よつて、本件意見書は有効に被告に対して提出されたものである。

(原告の主張に対する被告の反論)

一  土地区画整理法二〇条所定の意見書は知事に対し直接提出すべきものであつて、市町村長にこれを代理受領する権限は認められていない。原告は、意見書を提出する際、蒲郡市区画整理事務所長が右意見書は市長を経由して提出する定めになつている旨述べたと主張しているが、そのような事実はない。

なお、原告は意見書の受領につき表見代理の法理が適用されると主張するが、行為の性質上右法理が適用される余地はない。仮に表見代理の適用があるとしても、本件の場合、前記事務所長に受領の権限ありと信ずべき相当の理由は全く認められない。

二  本件意見書が蒲郡市区画整理事務所長のもとに保管されたままになつていたのは次の事情によるものである。すなわち、訴外鈴庄染工株式会社代表取締役である原告は昭和四六年九月五日右事務所長と会い本件組合の事業計画について意見書を被告宛提出したい旨申し入れをしたが、意見書の内容が都市計画道路の変更に関するものであり、土地区画整理法二〇条二項但書により意見書を提出できない事項であつたので、同事務所長がその旨原告に説明したところ、原告はその説明を了解し、それでは自分が都市計画道路の変更を要請する意思表示をしたことを後日に残すため被告宛の意見書を郵送するから同事務所において保管しておいて欲しい旨述べ、意見書の被告への提出を見合わせたので、同事務所長は自己宛に郵送されてきた本件意見書を被告に回付することなく預つておくことを了承したのである。従つて、右事務所長が本件意見書をそのまま保管し、被告に回付しなかつたことについては原告の了解があつたのである。

第三証拠〈省略〉

理由

被告が昭和四六年九月二〇日本件蒲郡西田川土地区画整理組合の設立認可をなしたことおよび原告が右組合の事業施行区域内に宅地を所有するものであることは、当事者間に争いがない。

(本案前の抗弁についての判断)

被告は、本件組合の設立認可があつただけでは、原告は未だ具体的な権利義務の変動を受けていないから、本件設立認可の無効確認を求める法律上の利益を有しないと主張する。

そこで判断するに、土地区画整理法一四条一項による知事の認可は、特定の土地区画整理組合の設立行為を補充して法人たる組合の設立を完成せしめる形成的な行政処分であり、しかも、組合設立の認可がなされ土地区画整理組合が成立すると、施行地区内の宅地の所有権者および借地権者はすべて当然にその組合員たる法律上の地位を取得し(同法二五条)、組合員は土地区画整理法に規定する各種の権利義務を有するに至るのであり、殊に事業計画が公告されると、施行地区内において宅地、建物を所有する者は土地の形質の変更、建築物その他の工作物の新築、改築等につき制限を受ける(同法七六条一項、四項、一四〇条参照)地位におかれるものである。従つて、施行地区内の宅地の所有権者等は土地区画整理組合の設立認可により、その法律上の地位ないし権利義務に直接影響を受けるものであるということができる。而して、一連の手続をもつて行われる土地区画整理事業において、当該土地区画整理組合設立の認可自体にこれを無効とすべき瑕疵がある場合、右所有権者等は出訴によりその無効を確認し、その後の無用の手続の進行を防止することが許されるものと解すべきである。

してみれば、本件組合の事業施行地区内に宅地を所有する原告は、被告のなした本件設立認可処分の無効確認を求める法律上の利益を有すると解するのが相当である。よつて、被告の本案前の抗弁は理由がない。

(本案についての判断)

原告は、本件組合の事業計画について土地区画整理法二〇条二項にもとづく意見書を被告に提出したのにかかわらず、被告は右意見書を何ら審査することなく本件設立認可をなした違法があると主張する。そして、原告が昭和四六年九月五日被告あての「蒲郡西田川土地区画整理組合の事業計画についての意見書」なる書面を蒲郡市区画整理事務所長に対して郵送提出したことおよび被告が右意見書を審理しないで本件組合の設立認可をなしたことは、当事者間に争いがない。

被告は、本件意見書は原告が提出したものでなく、訴外鈴庄染工株式会社が提出したものである旨主張するが、〈証拠省略〉によれば、本件意見書は原告が作成提出したものと認めることができる。

そこで、蒲郡市区画整理事務所長が土地区画整理法二〇条二項所定の意見書を受領する権限を有するものであるか否かについて検討するに、〈証拠省略〉によれば、蒲郡市区画整理事務所は蒲郡市の一部局であつて、同事務所長は、蒲郡市長の命を受けて同事務所の事務を掌理するものであり、被告または愛知県とは直接関係がなく、また土地区画整理法二〇条二項所定の意見書を直接または被告に代つて受領する権限を有しないものであることが認められる。そして〈証拠省略〉によれば、本件意見書は右事務所長の下に保管されたままで、ついに、被告に送付されなかつたものであることが認められる。されば、本件意見書は被告において受理されなかつたものといわざるを得ない。

原告は、右事務所長に被告を代理して意見書を受領する権限ありと信ずべき相当な理由があつたと主張する。しかし、右認定事実の下で民法上の表見代理の法理を被告行政庁に対する意見書の提出、受理について論ずるのは適切でない。また、原告は蒲郡市の教示に従つて本件意見書を右事務所長に提出した旨主張するが、行政不服審査法一八条に規定する誤つた教示をした場合の救済制度は法令にもとづく不服申立についての制度であつて、本件の如き意見書の提出の場合にまで適用されるものではなく、しかも、仮に右規定の準用があるとしても、同法一八条四項によれば、申立庁につき誤つた教示がなされ、それにもとづき提出された申立書等が権限ある行政庁に送付されたときに、はじめから権限ある行政庁に不服申立がされたものとみなされるものであつて、意見書が被告に全く送付されなかつた本件においては、本件意見書が被告に提出されたとみなすことはできないものである。

してみれば、本件設立認可にあたり、被告において原告主張の意見書を審査しえなかつたのは当然のことであり、このことを把え右認可を無効とすべき瑕疵があるとの原告の主張は失当であるといわざるをえない。

また、本件意見書の内容が都市計画街路五井線の計画変更を求めることを唯一の内容とするものであることは、〈証拠省略〉により明らかである。土地区画整理法二〇条二項但書によれば「都市計画において定められた事項」については意見を述べることができない旨規定されているのであるから、本件意見書は本来意見を述べることができない事項にかかるものであるといわざるをえない。従つて、仮に本件意見書が被告に提出されたとしても、採択の余地のないことが明らかであるから、被告がこれを審査せずに本件設立認可をなしたことに瑕疵ありということはできない。原告の本件設立認可処分無効の主張はこの点においても理由がないものである。

以上の次第であつて、原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 窪田季夫 辻川昭)

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