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名古屋地方裁判所 昭和49年(ワ)1941号 判決

原告 佐々木硝子株式会社

右代表者代表取締役 佐々木秀一

右訴訟代理人弁護士 原増司

同 高井吉夫

同 花水征一

右輔佐人 今井庄亮

被告 曾我ガラス株式会社

右代表者代表取締役 曾我義郎

右訴訟代理人弁護士 吉井参也

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、別紙(一)記載の「硝子容器製造方法」を用いてステムウェア「チャム」と称する硝子容器およびその他のステムウェアを製造し、または販売してはならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の特許権

原告は次の特許権を株式会社亀井硝子店、東京美術硝子工業株式会社とともにそれぞれ持分三分の一の割合で共有している。

(1) 特許番号   第三一八三〇一号

(2) 発明の名称  硝子容器製造方法

(3) 出願の日   昭和三四年八月二〇日

(4) 出願公告の日 昭和三七年六月一八日(特公 昭和三七―五〇二六)

(5) 登録の日   昭和四一年五月一七日

2  特許請求の範囲

本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項の記載は次のとおりである。

「ステムウェアなる硝子容器を製造するに際し、吹管先端に附着せしめた熔解硝子素地を第一割金形内にて吹製して容器主体を形成し、第一割金形と同形の容器嵌入部及びその底部に続く脚部形成用凹所を有する第二割金形内に第一割金形にて吹製した容器主体を嵌着し、第二割金形を倒回して脚部形成用凹所を上方とし、この上向きとなった脚部形成用凹所に熔解硝子素地を充填して、容器と一体に連接した脚部を形成したるのち金形より取出し、爾後は公知の方法等適宜方法によって台部を連成し、容器主体を仕上成形せしむることを特徴とする硝子容器製造方法」

3  本件特許方法の構成要件および作用効果

(一) 本件特許方法の構成要件は次のとおりである。

(イ) 吹管先端に附着せしめた熔解硝子素地を第一割金型内で吹製して容器主体を形成すること。

(ロ) 第一割金型と同形の容器嵌入部およびその底部に続く脚部形成用凹所を有する第二割金型内に第一割金型で吹製した容器主体を嵌着すること。

(ハ) 前記第二割金型を倒回して脚部形成用凹所に熔解硝子素地を充填して、容器と一体に連接した脚部を形成すること。

(ニ) 前記容器と脚部とが一体に形成された容器を金型から取出し、その後は公知の方法等適宜の方法によって台部を連成して容器主体を仕上げること。

(二) 本件特許方法の作用効果は次のとおりである。

脚付ガラス容器(以下ステムウェアという)の従来の製造方法は、容器主体と脚部とをそれぞれ別個に形成した後、両者を接合部分において再加熱して熔接する方法であった。

本件特許方法は、まず容器主体を形成することにおいては従来の方法と変りないが、この容器主体と脚部を接合するに際し、容器主体を形成した第一割金型と同形の容器嵌入部およびその底部に続く脚部形成用凹所を有する第二割金型内に、第一割金型で形成した容器主体を嵌着して、この第二割金型を倒回して脚部形成用凹所を上方にしてこの上向きとなった脚部形成用凹所に熔解硝子素地を充填して脚部形成と同時に容器主体と脚部を接合せしめる点が従来の方法と異なる。この方法をとることによって従来の容器主体と脚部とを接合する際の再加熱を省略することができるうえ、容器主体と脚部との接合部分が従来の製造方法によるものと比べて強固であると同時に不良品を生じる恐れが少ないという効果がある。

(三) 本件特許方法の特徴については次のように考えられる。本件特許方法は次の二点に特徴がある。

(1) 第一割金型および第二割金型の二個の割金型を使用していること。

(2) 右の第一および第二割金型の各構造に関連を持たせ、その関連構造に基づいて、第二割金型の使用について特殊の操作と作動を行わせるようにしていること。

右の関連構造に関して、その特徴を裏づける技術的事項としては、次の諸点が挙げられる。

(a) 第一割金型と同形の容器嵌入部およびその底部に続く脚部形成用凹所を第二割金型に設けたこと。

(b) 第二割金型内に第一割金型で吹製した容器主体を嵌着すること。

(c) 前記(b)のように容器主体を嵌着した後第二割金型を倒回して脚部形成用凹所を上方とし、その上向きとなった脚部形成用凹所に熔解硝子素地を充填して容器主体と一帯に脚部を連接形成すること。

殊に右の(a)における第二割金型の容器嵌入部が第一割金型のそれと同形であることと、(b)における第二割金型内への容器主体の嵌着とは、本件特許方法の前記作用効果をもたらすために特に重要な役割を果す。

すなわち、第二割金型の容器嵌入部が第一割金型のそれと同形であることは、容器主体が第二割金型内において正しい位置(芯があった位置)に保持されることを保証するためのものであり、また(b)の容器主体の第二割金型内への嵌着は、右の同形であることと相俟って容器主体の芯合せと共に容器主体の同金型に対する確実な保持ならびに脚部と容器主体の連接部分において硝子溶液がはみ出さずに熔着することを実現するためのものであるからである。

第二割金型は倒立した状態においてもなお容器主体をその割金型内に確実に保持しなければならず、しかも脚部形成用凹所に熔解硝子が上方から注入されかつ充填されるために熔解硝子に下向きの押圧力が加えられることは技術上の常識として明らかであるから、「嵌着」とは単に容器主体を同形凹所に嵌入することに止まらず、その嵌入した位置に少くとも熔解硝子の充填圧力に耐えるための別の保持手段が講じられることも意味する。

また、右の「嵌着」の意味するところと関連して、前記の第二割金型の容器嵌入部が第一割金型のそれと同形であることの意味は、文字どおり容器嵌入部全体が同形である場合はもとより、その同形であることの目的が芯合せのため、そして附随的には充填された硝子溶液のはみ出しを防止するためであることから、両割金型の容器嵌入部の底部分のみの同一の場合も含むと解される。

4  被告の製造方法

(一) 被告はステムウェア「チャム」と称する硝子容器を製造販売しているが、右製品を製造するために別紙(一)記載の硝子容器製造方法を用いている。

(二) 被告方法は次の各工程に特徴がある。

(イ) 容器主体形成用第一割金型内に熔解硝子素地を供給して予備形成、吹製により容器主体を形成した後、同容器主体開口端部を切断用刃物で切断して容器主体を切り離す工程

(ロ) 閉じられた状態における前記第一割金型底部内面、すなわち前記容器主体の底部の外周面と同形の下向きの凹部および該凹部の中心でこれに連設する脚部形成用凹所を有する第二割金型が閉じられる直前に、前記容器主体((イ)によって形成されたもの)を載置台上に逆さまに載せ、次いで同金型の閉鎖により容器主体は倒立状態でその底部が同割金型の前記下向き凹所に嵌入保持される工程

(ハ) 脚部形成用の熔解硝子素地が第二割金型の脚部形成用凹所に供給され、プランジャーで押し込み充填されて脚部形成と同時に容器主体へ融着される工程

(ニ) 次いで第二割金型が開いて容器主体と脚部が一体となった容器製品が取り出され、次の工程に送られて完成される工程

5  本件特許方法と被告方法との比較

(一) 被告方法(イ)と本件特許方法の要件(イ)とを対比すると、被告方法では容器主体吹製後、容器主体開口端部を切断して切り離すことが附加されている点が異なるだけである。右切り離しは次の工程(ロ)において容器主体を載置台に逆さまに載せるためのものであり、その載置は容器主体を第二割金型内に確固に保持するための一手段である。

(二) 被告方法(ロ)と本件特許方法の要件(ロ)とを対比すると、第二割金型の容器嵌入部が第一割金型のそれと同形であることの意味は、第3項(三)に記したように、全く同形であることは要しないので、被告方法(ロ)と本件特許方法の要件(ロ)との相異は、第二割金型が閉じられる直前に容器主体を載置台上に逆さまに載せることが附加されただけである。

本件特許方法の要件(ロ)における第二割金型内への容器主体の嵌着は、前記第3項(三)に記したように、その第二割金型内の嵌入位置における熔解硝子の脚部形成用凹所への充填圧力に充分耐え得る容器主体の確固たる保持と附随的には充填された硝子溶液のはみ出しを防ぐことを意味するものであるから、被告方法における右相異点は右と同じことを目的とする容器主体の保持の一手段にすぎない。

(三) 被告方法(ハ)および(ニ)と本件特許方法の要件(ハ)および(ニ)とはそれぞれ実質上の相異はない。

(四) 以上を総合すれば、被告方法は本件特許方法の技術的範囲に属することは明らかである。

6  差止請求

以上のとおり、被告方法は原告の特許権を侵害しているから、右侵害行為の差止を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因事実1は認める。

2  同2は冒頭の「ステムウェアなる硝子容器を製造するに際し」とある部分を除き認める。右除外部分に該当する部分は「本文に詳記し且実施例示図に示す通り」となっている。

3  同3は、本件特許方法の構成要件のうち「第一割金型と同形の容器嵌入部およびその底部に続く脚部形成用凹所を有する第二割金型内に第一割金型にて吹製した容器主体を嵌着すること」が特に重要であること、本件特許方法においては、第二割金型に脚部形成用凹所のみならず第一割金型と同形の容器嵌入部を設け、これに第一割金型によって吹製した容器主体を嵌着することによって、脚部形成用の金型が容器主体の脚部が接合されるべき部分に正確に位置づけられること、および、脚部の形成と脚部の容器主体への接合の作業中右の位置づけが正確に保持されることの各作用を果していることは認める。その余は争う。

4  請求原因事実4の(一)は、被告がステムウェアを製造販売していることは認める。被告のステムウェア製造方法については左記の点を除き認める。

(一) 別紙(一)添付の第四図(G、H、I、J、K)によると、被告方法の第二割金型の容器嵌入部の深さは、容器主体の三分の一以上が挿入できる深さであるように図示されている。しかし、被告が現実に実施している方法においては、第二割金型の容器嵌入部の深さは容器主体の約四分の一が挿入できる深さにすぎない。

(二) 同図(I、J)によると、容器主体のうち第二割金型に挿入されている部分は第二割金型の容器嵌入部に全く間隙を設けないで当接しているように図示されている。しかしながら、被告が現実に実施している方法においては、容器主体が第二割金型の容器嵌入部に当接している部分は容器主体の底部のうち脚部形成用凹所に近接する個所のみであり、それ以外の容器主体底部と第二割金型の容器嵌入部との間には間隙がある。すなわち、前記のように容器主体は約四分の一の深さにわたり第二割金型の容器嵌入部の中に挿入されているが、容器主体底部が第二割金型の容器嵌入部に当接しているのは極めて浅い部分(脚部形成用凹所に近接する部分)であって、その余の部分には約〇・五ミリメートル(一方の側において約〇・五ミリメートル、両側では約一ミリメートル)の間隙が存している。

(三) 同図(G、H、I、J、K)によると載置台34の上部の突出円盤35の周縁35'と容器主体の開口部の先端36との間には間隙が設けられているが、被告が現実に実施している方法においては、別紙(三)記載のように、右の周縁35'と先端36とは密接している。

(四) 原告は第二割金型9および載置台が一体となって熔解硝子素地供給位置12に来る旨主張するが、被告が現実に実施している方法においては、第二割金型9と載置台34の両者は一体となっていない。

5  請求原因事実4の(二)は争う。

6  同5は争う。

本件特許方法と被告が現実に実施している方法とでは、脚部を容器主体に強固かつ正確に接合するための手段は全く相異している。

被告の実施している方法においては、その第二割金型には第一割金型と同形の容器嵌入部は存在しない。

被告が現実に実施している方法においては、脚部を形成するために上方に脚部形成用の第二割金型を備え、下方には容器主体を載置する載置台を備えた脚形成用機械を用いるが、第二割金型も載置台も共に移動を続ける機械部品であるから載置台に載せた容器主体に脚部を接合する時点において第二割金型と載置台(従って容器主体)とが所望の関係位置に来るように、脚形成用機械にはそのための関連動作を可能にする機械的仕組みが設けられている。また、載置台に載せた容器主体が載置台の上で位置を変えないように、前記第4項(三)に記載したように、載置台34には突出円盤35が設けられていて、容器主体の開口部の先端36がピッタリとはめ込まれるようになっている。右の手段等によって接合位置の位置決めがなされる。

また、被告の実施している方法においては、脚部の形成と脚部の容器主体への接合の作業中の接合位置の保持は、載置台の上昇に伴う圧力によって容器主体の底部の一部を一定の圧力で第二割金型の脚部形成用凹所に向けて押圧することによってなされている。

右のとおりであるから、被告が現実に実施している方法においては、第二割金型に設けられた第一割金型と同形の容器嵌入部内に容器主体を嵌着することによって接合位置の位置決めと保持をなしているのではない。従って、被告方法は原告主張の本件特許方法の技術的特徴点を全く用いていない。

また、被告が現実に実施している方法においては第二割金型を倒回するという本件特許方法に必須の工程を採っていない。

三  被告の主張

1  本件特許の審査の経過等

(一) 本件特許方法は、昭和三四年八月二〇日に株式会社亀井硝子店(以下単に亀井硝子店という。)が出願した特許出願に係るものであるが、同硝子店は、右出願の審査の過程において、昭和三六年七月二一日ころ審査官から拒絶理由通知を受け、そのため同年八月八日願書に添付した明細書の訂正書を差出して特許請求の範囲の項の記載を別紙(二)記載のとおりに訂正した。そして右出願は昭和三七年六月一八日に出願公告された。

(二) 右出願公告に対し、昭和三七年八月一六日に、東京美術硝子工業株式会社(以下単に東京美術硝子という。)が特許異議の申立をした。その異議事由の要旨および証拠方法は次のとおりである。

(1) 本件特許出願の製造方法では脚付コップの形成は極めて困難であるかあるいは実施不能である。

(2) 東京美術硝子は、本件特許出願の出願日以前に、右出願の硝子容器製造方法を公然実施していた。すなわち、東京美術硝子は昭和二三年七月中旬頃根立製作所こと根立定雄から納入を受けた硝子容器形成用割金型によって硝子容器を製造したが、その製造方法は次のようなものであった。すなわち第一の割金型で容器主体を形成し、第一の割金型の容器主体形成部と同形同大の容器主体の嵌め込部とこれに続く脚部および種溜部を有する第二の割金型の容器主体嵌め込部に前記第一の割金型によって形成された容器主体を装着して、第二の割金型を逆倒し、その種溜部に溶融種を入れ、杵で型の脚部内に圧下し容器の脚を形成すると共にその脚を容器主体と一体的に接続し、これを第二の割金型から取り出した後、手加工により脚の下端に台を形成するという製造方法である。右の製造方法は本件特許出願の製造方法と均等の製造方法である。東京美術硝子は右の製造方法によって脚付きコップを製造し、昭和二三年一一月ころから昭和二四年四月ころまで継続的に原告に約三五〇ダースを納品した。

(3) 特許第一二二一三六号(特公昭一二―二二二一号)の硝子容器製造方法は、第一工程として上型と台型との間に中型を装置し、上型の透孔より熔解硝子素地を切り込み、杵で押圧して脚と台とを形成し、第二工程として中型を解かずにそのまま中型を転倒して台盤上に定置せしめ、中型の上に胴型を組立て、その上に冠せ盤を冠し、熔解硝子素地を切り込み、杵で押圧して容器主体を形成すると共に脚と容器主体とを接続する方法であって、本件特許出願の製造方法とは製作上の順序すなわち本件特許出願においては容器主体を先に形成して第二の型で脚を形成するに対し、特許第一二二一三六号においては脚を先に形成して後容器主体を形成接続する工程上の相違はあるが、この程度の差異は当業者が最も普通に行われているところであり当業者である限り引用例から本件特許出願の方法は極めて容易に実施できる程度であるから新規性を有しない。

(4) 東京美術硝子は、証拠方法として、甲第一ないし第三号証を各提出し、証人工藤正義の尋問を求めた。右甲第一号証は、東京美術硝子の特許異議申立の代理人であった弁理士奥田作太郎が、東京美術硝子の実施していた製造方法は前記(2)に記載のごときものであったことを詳細に記載した説明書と図面であり、甲第二号証は、原告が東京美術硝子から同号証に図示の細脚付コップを購入したことを原告会社社長佐々木秀一が証明した証明書である。右甲第三号証は、東京美術硝子の発注によって割金型を製作した根立製作所こと根立定雄が製作した割金型は前記(2)に記載のごときものであったことを証明した証明書である。そして、東京美術硝子が証人工藤正義(同社の当時の専務取締役)の尋問を求めた理由は東京美術硝子が前記(2)に記載の製造方法を公然実施していたことを立証することにあった。

(三) 原告は昭和三七年八月一八日本件出願公告に対し特許異議の申立をなした。その異議事由の要旨および証拠方法は次のとおりである。

昭和三一年一二月四日特許庁資料館に受入れられた米国特許第二二八九九九九号の明細書に本件特許出願の要旨とするところが記載されているから本件特許出願は新規な発明を構成しない。

そして原告は右米国特許明細書を甲第一号証として提出した。

(四) ところが亀井硝子店、東京美術硝子、原告の三社は、昭和四〇年一二月一五日に、本件特許出願にかかる特許を受ける権利を持分各三分の一の共有とする旨の同月一一日付共有契約書を添付して特許出願人名義変更届を各社の代表取締役の名で提出した。

ついで、東京美術硝子は昭和四一年三月二日に原告は同月三日に、それぞれ前記特許異議の申立を取り下げた。そして、翌同月四日付で特許査定がなされた。

2  本件特許が無効の瑕疵を包蔵すること

本件特許は次の三つの理由により無効の瑕疵を有する。

(一) 東京美術硝子が特許異議の申立において主張したように、本件特許出願日の前である昭和二三年七月以降東京美術硝子は本件特許の製造方法を公然実施した。すなわち、東京美術硝子は、根立定雄に硝子容器形成用割金型の製作を依頼したが、その割金型は、別紙(四)の第一ないし第三図に示すように、第一の割金型は容器主体の形成用割金型であり、第二の割金型は第一の割金型の容器主体形成部と同形同大の容器主体の嵌め込部とこれに続く脚部形成用凹所と種溜部を有する割金型であった。東京美術硝子は、根立定雄からこの割金型の納入を受けて、これを用いて、吹管の先に巻取った熔解硝子素地を第一の割金型の容器主体形成部に吹き込んで容器主体を形成し、そのようにしてできあがった容器主体を、第二の割金型の容器主体嵌め込部に嵌め込み、その上で、第二の割金型を倒回して種溜部を上方とし、この上向きとなった種溜部に熔解硝子素地を充填して容器主体と一体に連接した脚部を形成し、これを第二の割金型から取出して、手加工により脚の下端に台を形成するという方法で硝子容器を公然と製造した。

(二) 本件特許発明は、東京美術硝子が特許異議の申立において引用した前記特許第一二二一三六号(特公昭一二―二二二一号)に開示されている硝子容器製造方法から当業者なら誰しも容易に推考することができた。

右特許の明細書に開示されている硝子容器製造方法は次のように分解される。

(1) 上型と台型との間に割型を構成した中型を装置し、上型の透孔より熔解硝子素地を切り込み、杵で押圧して脚部と台部とを形成する。

(2) 中型を解かずに形成した脚部ならびに台部を把持した中型をそのまま上型と台型からはずす。

(3) 中型をそのまま転倒させて台盤上に定置し、その中型の上に胴型を組立て、その上に冠せ盤を冠し、その透孔より胴型内に熔解硝子素地を切り込み、杵で押圧して容器主体を形成すると同時に容器主体と脚部とを熔着させる。

右の製造方法は、脚付硝子容器を製作するに際しまず台付脚部形成用の割金型を用いて台付脚部を製作し次いでその割金型を解かないでそのまま倒回し、その上部に容器主体形成用の割金型を同一中心線上に配置し、容器主体形成用割金型の上方から熔解硝子素地を充填して容器主体を形成すると同時に容器主体と脚部とを熔着させて硝子容器を製作する方法である。

(三) 本件特許方法は、原告が特許異議の申立において引用した前記米国特許第二二八九九九九号の明細書に記載されている次のような硝子容器製造方法から当業者なら誰しも容易に推考することができたものである。

右米国特許明細書は、脚付硝子容器の連続製作機械を示すものであるが、その製造方法の工程は次のとおりである。

(1) 起立状態にあるスピンドル1の上端にあるコップ3に熔解硝子素地6を入れる。そのとき、スピンドル内部のプランジャ4は後退位置にある(別紙(五)第1図)。

(2) スピンドルの口部材2を閉じて熔解硝子素地6をスピンドル上に取りつける。そのときプランジャは上方に突出して硝子素地に吹孔を作る(同第2図)。

(3) スピンドルを下方に転倒しつつ、プランジャ内の通気孔5を通る圧縮空気によって硝子素地を除々に膨張させる(同第3図)。

(4) スピンドルを下方の懸垂位置まで回動し硝子素地が自重と圧縮空気によって大きく膨張したところを容器主体形成用割金型7によって包囲する(同第4図)。

(5) 容器主体形成用割金型の中で圧縮空気によって容器主体を吹製する(同第5図)。

(6) 容器主体形成用割金型を開放して容器主体8をスピンドルの先端に取りつけたままスピンドルを上方に回動して起立させる(同第6図)。

(7) スピンドルの先端に取りつけられている容器主体の上部に脚部形成用割金型9をスピンドルと同一中心線上に配置し、上方のタンクから熔解硝子素地10を滴下する。そのときは、押込みプランジャ11は側方に寄せられている(同第7図)。

(8) 脚部形成用割金型9と同一中心線上に押込プランジャ11を配置し、押込プランジャで硝子素地を押込んで台付脚部12を形成すると同時にこれを容器主体の底部に熔着する(同第8図)。

(9) 脚部形成用割金型を開放する。そのとき、スピンドルの先端に脚付容器主体が逆さに取りつけられている(同第9図)。

(10) スピンドルを回動して水平位置に保ち台部くせ取り機14で台部13を加工する(同第10図)。

(11) スピンドルを再び下方に回動して懸垂状態に位置させ、スピンドルの口部材2を開いて硝子容器を起立状態に開放する(同第11図)。

以上によれば、本件特許は大正一〇年法律第九六号特許法(いわゆる旧特許法)第一条に定める特許を受けるための要件を欠くものである。

3  本件特許権に基づいて差止を請求できないこと

以上によれば、原告は、本件特許出願が特許を受けるための要件を欠いていることについて有力な証拠のあることを知っており、その一部を特許異議申立の証拠として提出し、さらに提出することができたにもかかわらず、当初の出願人であった亀井硝子店から持分の譲渡を受けて特許を受ける権利を共有とし、次いで特許異議の申立を取下げて特許査定を得たのである。原告の右のような特許の取得は欺罔によって取得したと言うべく、このようにして取得した特許権は差止請求を求める効力を有しないといわなければならない。仮りにそうでないとしても、右のように欺罔によって取得した特許権に基づいて被告に差止を求めるのは権利の濫用であって許されない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張事実1は認める。

2  同2および3は争う。

なお米国特許二二八九九九九号について述べると、右特許における製造方法は、容器主体形成用割金型で吹製された容器主体は保持器として役立つスピンドル1によって当初から常に確実に保持されており、これと脚部形成用割金型との関係位置も機械の設計上予め定められた定位置にある。そして、脚部形成用割金型として作用するモールド9の下部は、脚部形成時にはみ出しの防止のためのみの作用をする部分であって、本件特許方法の嵌入部と同一の作用効果を果すものではない。すなわち、右米国特許においては脚部と容器主体との芯合せは、機械自体が行っているのであって、脚部形成用割金型の容器主体嵌入部(モールド9がこれに相当する)がガイドの役割をすることによって行っているのではない。従って、本件特許方法と右米国特許方法とは本質的に異るのである。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因事実1は当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫によれば、本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項の記載は別紙(二)記載のとおりであると認めることができる(冒頭の「本文に詳記し且つ実施例示図に示す通り」との部分を除き当事者間に争いがない。)。

三  本件特許方法の構成要件

1  ≪証拠省略≫によれば本件特許方法の構成要件は次のように認めることができる。

(1)  吹管先端に附着せしめた熔解硝子素地を第一割金型内で吹製して容器主体を形成すること。

(2)  第一割金型と同形の容器嵌入部およびその底部に続く脚部形成用凹所を有する第二割金型内に第一割金型にて吹製した容器主体を嵌着すること。

(3)  右第二割金型を倒回して脚部形成用凹所を上方とすること。

(4)  右上向きとなった脚部形成用凹所に熔解硝子素地を充填して、容器と一体に連接した脚部を形成すること。

(5)  右容器主体と脚部とが一体に形成された容器を金型から取り出し、その後は公知の方法等適宜の方法によって台部を連成して容器主体を仕上形成すること。

2  右要件(2)によって、脚部形成用の金型が容器主体における脚部が接合されるべき部分に正確に位置づけられること(いわゆる芯合せ)、および、脚部の形成とその容器主体への接合の作業中右の位置づけが正確に保持されることの各作用を果すことは当事者間に争いがない。

原告は、さらに右要件から、脚部と容器主体との連接部分において硝子熔液がはみ出さずに熔着するとの効果を生じる旨主張する。しかし、弁論の全趣旨によれば、第一割金型で形成した容器主体は冷却するに従って縮小することを認めることができ、右事実に照らせば、右主張の効果が結果として生じるとしても、それを右要件による作用効果となすことは必ずしもできない。

四  本件特許の審査の経過等

1  次の各事実は当事者間に争いがない。

(一)  本件特許方法は、昭和三四年八月二〇日に、亀井硝子店が出願した特許出願に係るものである。

(二)  右出願が昭和三七年六月一八日に公告されると、東京美術硝子が同年八月一六日特許異議の申立をした。その異議の要旨には次の事項を含んでいた。すなわち、東京美術硝子は昭和二三年七月中旬ころ根立製作所こと根立定雄から納入を受けた硝子容器形成用割金型によって硝子容器を製造したが、その製造方法は本件特許方法と均等である。さらに、本件特許方法は特許第一二二一三六号硝子容器製造方法から容易に実施できるから新規性を有しない。そして、東京美術硝子は、右異議事由を立証するために、根立定雄作成の証明書、弁理士奥田作太郎作成の説明書を提出し、工藤正義の尋問を求めた。

(三)  次いで、原告は昭和三七年八月一八日本件特許出願に対し異議の申立をした。その異議事由は、昭和三一年一二月四日特許庁資料館に受け入れられた米国特許第二二八九九九九の明細書に本件特許出願の要旨とするところが記載されているから本件特許出願は新規な発明を構成しないというにある。そして、右異議事由を立証するために、右米国特許明細書を提出した。

(四)  亀井硝子店、東京美術硝子、原告の三社は、昭和四〇年一二月一五日に、本件特許出願にかかる特許を受ける権利を持分各三分の一の共有とする旨の同年一一月付共有契約書を添付して特許出願人名義変更届を提出した。

(五)  東京美術硝子は昭和四一年三月二日、原告は同年同月三日、それぞれ前記特許異議の申立を取り下げた。そして翌同月四日付で特許査定がなされた。

2  ≪証拠省略≫によれば、原告は昭和三九年六月一五日ころ原告の特許調査室に勤務の鈴木鑛太郎に本件特許出願の書類を閲覧させており、従って東京美術硝子の異議申立理由およびその証拠方法についても知っていたこと原告は昭和四〇年一一月ころ原告の有する脚付硝子容器製造機に関する特許権の実施権を亀井硝子店に与え、その代償として本件特許出願にかかる特許を受ける権利について原告の持分が三分の一の共有とする旨の契約をしたことを認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

五  本件特許方法が新規性を有しないこと

1  ≪証拠省略≫によれば次の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  昭和三一年一二月四日頃、特許庁の資料館に米国特許第二二八九九九九号の明細書が備えつけられたが、右は原告が本件特許出願に対する異議の書証として提出したものである。

(二)  右明細書記載の硝子容器製造方法は次のとおりである。

(1) 容器主体形成用割金型7の中で圧縮空気によって容器主体を吹製する(別紙(五)第5図)。

(2) 容器主体形成用割金型を開放して容器主体8をスピンドル1の先端に取りつけたままスピンドルを上方に回動して起立させる(同第6図)。

(3) スピンドルの先端に取りつけられている容器主体の上部に台付脚部形成割金型9をスピンドルと同一中心線上に配置し、上方のタンクから熔解硝子素地10を滴下する(同第7図)。

(4) 押込プランジャ11で熔解硝子素地を押込んで台付脚部12を形成すると同時にこれを容器主体の底部に熔着する(同第8図)。

(5) 台付脚部形成用割金型を開放し、台部13の加工をする(同第9図、第10図)。

2  前項に認定の米国特許における硝子容器の製造方法と本件特許方法とを比較してみると、まず容器主体形成用割金型により容器主体を形成し、この底部に脚部形成用割金型を配置し、この脚部形成用凹所に熔解硝子素地を充填して脚部を形成すると同時にこれを容器主体に容着する点は同一であるから、この点は本件特許出願時既に公知な技術であったと認めることができる。

但し、本件特許方法が第一割金型(容器主体形成用割金型)と同型の容器嵌入部を有する第二割金型(脚部形成用割金型)に第一割金型によって吹製した容器主体を嵌着する点は、右米国特許における製造方法には無い。そして、本件特許方法においては、右の点によっていわゆる芯合せおよび接合位置の保持の作用を果すことは既述のように当事者間に争いなく、また、≪証拠省略≫によれば、右米国特許における製造方法においては、いわゆる芯合せは容器主体を保持したスピンドルが一定の位置に来ることによってなされ、接合位置の保持もスピンドルによってなされていると認めることができる。従って本件特許方法は右米国特許とは異なった作用効果を有することを認めることができる。

3  ところで、≪証拠省略≫によれば次の事実を認めることができる。

根立定雄は昭和二三年七月ころ別紙(四)の第一ないし第三図のような割金型を東京美術硝子の発注により製作して納品した。右割金型を使用して脚付硝子容器を作るには、まず第一図の割金型により容器主体を吹製し、この容器主体を第二図の割金型に嵌着し、その脚部形成用凹所(第二図6)に種溜(同図9)から熔解硝子素地を流し込み押し込んで脚部を形成すると同時に容器主体と脚部を接合する。右第二図の割金型の容器主体嵌入部は容器主体の半分以上が嵌入する構造になっているから、右容器主体嵌入部はいわゆる芯合せおよび接合位置の保持の作用を果すことができる。東京美術硝子は右脚付硝子容器製造方法を公然と実施した。

以上のように認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

4  以上によれば、容器主体形成用割金型によって吹製した容器主体を容器主体嵌入部を有する脚部形成用割金型の右嵌入部に嵌着することによっていわゆる芯合せおよび接合位置の保持の作用を果すことも本件特許出願時既に公知の技術であったと認めることができる。

従って、本件特許方法はその出願時新規性を有していなかったといわなければならない。

六  差止請求について

出願当時既に公知であった技術は、何人もこれを行使することができるのであって、これにつき特許査定を受けることができないのである。従って、右技術について、特許出願がなされ偶々これに特許査定がなされたとしても、これによって特許権者以外の者は右技術を行使できないとするのは特許権者以外の者に不当な不利益を与えるのである。

しかも、本件においては、前記認定のように、原告は亀井硝子店の本件特許出願に異議申立をなし、本件特許出願の硝子容器製造方法が新規性を有しないことを知っていたにもかかわらず、亀井硝子店と右出願にかかる特許を受ける権利を共有とする旨の契約をなして右異議申立を取り下げて本件特許権を得たのである。

加えて、検証の結果によれば、被告の製造方法における第二割金型はそれ自体ではいわゆる芯合せおよび接合位置の保持の作用をする機能を有さず、右作用は載置台によってなされていることを認めることができるが、この点は原告が右異議申立の事由として主張した米国特許におけるスピンドルによって右作用を果す方法に類するものである。

以上によれば、被告方法が本件特許方法の技術範囲に属するかどうかについてさらに判断するまでもなく、原告の本件特許権に基づく差止請求権の行使は、不当であって権利の濫用というべく、許されない。

七  結論

よって、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤邦晴 裁判官 松本哲泓 裁判長裁判官越川純吉は退官のため署名押印することができない。裁判官 伊藤邦晴)

〈以下省略〉

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