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名古屋地方裁判所 昭和49年(ワ)1750号 判決

原告 吉田光彦(昭和四九年九月三〇日死亡)訴訟承継人 吉田幸子

右訴訟代理人弁護士 村瀬鎮雄

同 福永滋

同 内田安彦

同 岡島章

同 加藤義則

右訴訟復代理人弁護士 宮嵜良一

被告 小西安子

右訴訟代理人弁護士 猪崎武典

同 鶴見恒夫

右訴訟復代理人弁護士 鈴木秀幸

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

一、原告が被告に賃貸している別紙物件目録一の建物の賃料は(1)昭和四九年九月四日以降一か月金三〇万円、(2)昭和五二年五月一日以降一か月金三五万円、であることを確認する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文一、二項同旨

第二、当事者の主張

(原告)

一、原告の被承継人吉田光彦は、昭和四六年七月二七日被告に対し、賃料・月額金一五万円、賃料支払期・毎月末日限り、期間・昭和四九年七月三一日まで、との約定で、同人所有の別紙物件目録一の建物(以下、本件建物という)を被告の店舗兼居宅として使用させる目的で賃貸した。そして、右賃貸借契約は、その後賃料改定もなされることなく、更新されて現在に至っている。

二、ところで、右契約後諸物価はもとより土地建物の公租公課も高騰し、右賃料も比隣の賃料に比較して著しく不相当となっている。

三、そこで、(1)吉田光彦は被告に対し、昭和四九年九月三日被告に到達した本訴状をもって右賃料を月額金三〇万円に、(2)次いで原告は昭和五二年四月一六日被告に到達した内容証明郵便をもって右賃料を月額金三五万円に、それぞれ増額する旨意思表示をした。

四、よって、本件建物の賃料が、(1)昭和四九年九月四日以降月額金三〇万円であること、(2)昭和五二年五月一日以降月額金三五万円であること、の確認を求める。

五、被告主張二項は争う。

(被告)

一、原告主張一項の事実は認める。

同二項は争う。

二、原被告間の本件建物賃貸借契約は、昭和三六年に結ばれたものであるが、その適正賃料の算定にあたっては、左記事情を考慮すべきである。

1 被告は、右契約締結にあたって、約金一、二〇〇万円の費用を投じて建築した本件建物を吉田光彦に贈与したほか、保証金として金一、〇三〇万円を同人に交付していること(内金一、〇〇〇万円は被告が本件建物を明渡す際に返還される)。

2 賃料は、昭和三六年に月額金一〇万円であったものが、昭和四三年には月額金一三万円に、昭和四六年には月額金一五万円にそれぞれ増額されていること。

3 本件建物の敷地である別紙物件目録二の土地(以下、本件土地という)は、近時、周囲の土地利用の変化などにより、パチンコ店経営に適さなくなり、右営業によって収益をあげることが困難となっているところ、右契約によって被告が本件建物を改造するなどして右営業以外に利用することが禁止されており、現在においても、原告は被告の営業転換に同意しないため、被告において本件土地建物を有効に利用し充分な収益をあげることができないこと(すなわち、原告は本件土地建物を有効に利用して収益をあげることを望んでいない)。

以上の事情を総合すれば、原告の賃料増額の請求は理由がないものといわねばならない。

第三、証拠《省略》

理由

一、原告主張一項の事実は当事者間に争いがない。

二、原告主張三項(1)の意思表示がなされたことは、当裁判所に顕著な事実であり、同項(2)の意思表示がなされたことについては被告において明かに争わないから自白したものとみなす。

三、まず、原被告間の本件建物の賃貸借契約の成立経緯についてみるに、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

原告の被承継人吉田光彦は、被告から本件土地を遊技場(パチンコ店)経営用地として賃借したい旨の申し入れを受けたが土地を他に賃貸することを嫌い、被告において本件土地上に建物を建て、それを自己に贈与すれば、該建物を賃貸してもよい旨の意向を示し、右意向に応じた被告(但し、株式会社松屋なる名称を使用)との間で、昭和三八年四月一八日左記内容の契約を結んだ。

1  被告は、昭和三八年七月末日までに本件土地上に本件建物を吉田光彦名義で建築し、完成と同時にその所有権を同人に移転する。

2  本件建物の賃貸借期間は、昭和三八年八月一日から昭和四三年七月三一日までとする。

3  賃料は、月額金一〇万円に本件建物の固定資産税相当額を加えたものとする。

4  敷金は金一、〇三〇万円とし、吉田光彦は、賃貸借契約終了の際、右敷金のうち金一、〇〇〇万円を本件建物の明渡しを受けるのと引換に、利息を付することなく被告に返還する。

5  被告は、本件建物完成後、直ちに、明渡期日を昭和四三年七月三一日、損害金を3項の金額とする、などの条項をもつ和解調書の作成に協力するものとし、右作成に協力しないときは、本件建物の賃貸借契約を解除され、明渡しを求められても何ら異議を述べない。

被告は、昭和三八年七月までに本件建物を完成してこれを吉田光彦に贈与し、同年八月一日敷金一、〇三〇万円を同人に交付して本件建物を貸借し、同年一一月一四日同人との間で右5項に定める内容をもつ和解調書(名古屋簡易裁判所昭和三八年(イ)第六九四号)を作成するなど、右契約に従って本件建物を使用していたが、右和解調書に定める本件建物の明渡猶予期間の満了する昭和四三年七月末ごろ、同人との間で、賃料を月額金一三万円(但し、本件建物の固定資産税同人負担)、期間を三年とする本件建物の賃貸借契約を結び、更に昭和四六年七月二七日原告主張一項の賃貸借契約を結び、その後右契約が更新されて現在に至っている。

以上の事実が認められる。

次に、本件土地の価格および公租公課についてみるに、(1)鑑定の結果(第一、二回)に照らすと、昭和四九年当時における本件土地の更地価格は金四、七九〇万円から金四、九三〇万円程度であったことが認められ、この事実よりみると、最初に本件建物の賃貸借契約が結ばれた昭和三八年当時においてはその価格は金二、五〇〇万円を超えなかったものと推認するのが相当であり、(2)《証拠省略》によれば、本件土地の固定資産税は、昭和四六年度金一二万八、七〇六円、昭和五〇年度金二一万八、七四七円、昭和五二年度二六万六、三七九円で、都市計画税は、昭和四六年度金四万六、五七三円、昭和五〇年度金五万〇、三二一円、昭和五二年度金六万〇八八八円であることが認められる。

四、前三項認定の事実よりみると、原告の被承継人吉田光彦は、被告との本件建物賃貸借契約の締結にあたって、被告の費用をもって同人の所有となる本件建物を建築させ、それを賃貸するなど、借地法による規制を受けることを回避しようとしたのみならず、賃貸借契約成立後直ちに右契約を解除するなど、借家法による規制すら回避しようとしたことも明らかである。しかしこの点に関する当否はともかく、本件建物が被告の費用によって建築されていること、および、被告は賃貸借契約の締結にあたって当時の本件土地の価格のほぼ四割に相当する金員を敷金名下に交付していること(通常、建物の賃貸借において敷金などの名目で収授される金員は、賃料の三ヶ月分から一〇ヶ月分に相当する金員であること当裁判所に顕著な事実である)が明かであり、この事実に徴すると、原被告間の本件建物の賃貸借契約における賃料は、建物の賃貸借としてではなく、その敷地たる本件土地の賃貸借に準じて算定するのが相当であると解すべきである。そして、現在原告が被告から受領する賃料月額金一五万円および前記敷金一、〇三〇万円の運用によって原告の得る利益は、昭和四九年以降においても、原告の負担する本件土地の前記公租公課および本件建物のそれを充分補って未だ相当の剰余を出しているものと認められ、これに、鑑定の結果(第一ないし第三回)によれば、本件土地は、都市地域、市街化区域、商業地域、防火地域にあり、本件建物のような構造による遊技場(パチンコ店)の敷地としての利用は有効ではなく、中層耐火の店舗営業所敷地として利用することが最も有効であることが認められ、更に証人小西由晃の証言に徴すると、本件土地は、近時、周囲の土地利用の変化などによりパチンコ店経営に適さなくなり、右営業によって収益をあげることが困難となっていることが窺われるところ、《証拠省略》によれば、原告は、被告に対し、本件建物を他の営業に利用することはもちろん、その改造模様換なども禁止していることが認められ、また《証拠省略》に照らすと、原告は昭和五二年ごろ被告から、本件建物をマージャン業に利用したい旨の、更に本件土地上に高層の貸ビルを建築したい旨の要望を受けたが、それらを断るなど、現在においても、本件土地に賃貸して有効に利用しようとする意思のないこと(すなわち、被告が本件土地建物を有効に利用して収益をあげようとするのを阻害し、ひいては原告自身も本件土地から充分な収益を得ようとする意思のないこと)が窺われること、《証拠省略》によれば、被告は、本件建物の建築費(冷暖房、電気、衛生、ガス工事を含む)として、金七七七万円を下らない金員を出捐していることが認められること、を併せ考えると、原被告間の本件建物の賃貸借における賃料の算定にあたって、鑑定の結果(第一ないし第三回)に示された賃料に従うことは相当でなく、なお相当期間は従来の月額金一五万円の賃料を継続させることが、原被告間の公平に適うものと解される。

よって、原告およびその被承継人吉田光彦のなした前二項認定の各意思表示は、いずれも、その効力を生じなかったものというべきである。

五、以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口伸夫)

〈以下省略〉

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