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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)38号 判決

原告 清水志保子

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 原山剛三

同 水野幹男

同 水野弘章

被告 名西鉄構建設株式会社

右代表者代表取締役 木村信二

右訴訟代理人弁護士 芦苅直巳

右訴訟復代理人弁護士 久保恭孝

同 芦苅伸幸

同 星川勇二

主文

一、被告は、原告清水志保子、同岩崎吉宏、同岩崎正明に対し、各金四、二三五、〇八〇円、及び、内各金三、八三五、〇八〇円に対する昭和四七年二月二一日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員、内各金四〇〇、〇〇〇円に対する昭和四八年一月一九日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

四、この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  原告ら

(一)  被告は原告清水志保子、同岩崎吉宏、同岩崎正明に対し各金六、七七四、一三六円、及び、内各金六、二七四、一三六円に対する昭和四七年二月二一日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員、内各金五〇〇、〇〇〇円に対する昭和四八年一月一九日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  被告

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求の原因

一  原告清水志保子、同岩崎吉宏、同岩崎正明はそれぞれ訴外亡岩崎正和(以下正和という)の姉、兄、弟である。被告は橋梁及び建設用構築材の製造を業とする株式会社である。

正和は、昭和四七年二月一四日被告会社に雇われ被告会社の工場内において橋梁製作作業に従事していたものである。

二  正和は、昭和四七年二月二一日午後一時二五分頃名古屋市西区山田町上小田井字西半野一七七一番地被告会社工場内において、橋桁製作作業中インパクトレンヂでジョイント(継手)部のボルトを締めていたところ突然重さ約四・八六トン、長さ約二四・一三メートルの橋桁が倒れ、下に置いてあったチャンネル(U形鋼)との間にはさまれ、胸部挫創、胸壁穿孔(三ヶ所)、左第五ないし第九肋骨骨折及び心臓損傷の傷害を受け、同日午後一時五五分死亡した。

三  被告の責任

(一)  不法行為責任(その一)

訴外木村信二は、本件事故当時被告会社の代表取締役であったものである。同人が、その職務執行として、従業員である正和をして横板上下巾各三〇センチメートル・厚さ二・二センチメートル、縦板高さ八九センチメートル・厚さ一・四センチメートルのH形鋼をI形に立てて橋桁の組立仮締め作業を行なわせる場合に、本件作業場ではクレーンを使用して橋桁の積卸作業をなし、また、クレーンを使用して橋桁を移動させるなどの作業をするのであるから、いつH形鋼に外力が加わりH形鋼が横倒れさせられるか知れない状況にあったのであるから、事故防止のため次のような注意義務があった。

1 H形鋼が倒れるのを防止するために、仮締め作業を行うにあたっては、作業者に左の指示をして徹底すること。

a H形鋼を立てないで横にして仮締め作業をすること。

b H形鋼を立てる場合でも、補強のためのアングルなどの支柱を両側に設置したり、チェーンで固定した後作業すること。

c H形鋼は、滑り易いレール(巾五センチメートル、高さ九・五センチメートル)の上に置かないで、平らな木板あるいは鉄板の上に置いて作業すること。

d レールを下に敷く場合でもレールの巾をもっと広いものにし、レール相互の間隔をもっと狭くすること。

e 仮締め作業を行う場合には必ず看視要員を配置すること。

2 H形鋼が倒れた場合でも危害を受けないために、

a 作業者の身体が入れる程度の高さにH形鋼を設置して作業をなすこと。

b チャンネルをH形綱の附近に積んでおかないこと。

しかるに、同人は、右注意義務を怠り、安全な作業方法の採用、安全設備の設置等の措置を講じなかった違法な行為によって、本件事故を発生せしめ正和を死亡させた。

(二)  不法行為責任(その二)

訴外小山康夫は、本件事故当時被告会社の被用者であり、被告会社の指揮監督のもとに本件工場内において、橋桁組立作業を指揮監督していた安全管理者であった。同人は、被告会社の事業の執行としての本件作業をすすめるにつき、これに従事する者の災害防止のため、前記(一)、1、a、b、c、d、e、2、a、bのごとき安全な作業方法の採用、安全設備の設置その他必要な措置を講じ、もって災害の発生を未然に防止すべき注意義務があるにかかわらず、これを怠った。この過失により本件事故が発生し正和が死亡したのである。

(三)  不法行為責任(その三)

本件事故の発生した工場は、橋桁を製作する作業を中心とするもので、その取り扱うH形鋼が転倒した場合、作業者の身体に甚大な危害を及ぼすものであるから、土地の工作物たる被告会社所有の作業用レールに左の設備を設置保存すべきである。

1 H形鋼の転倒を防止するための設備、たとえば、H形鋼を固定するアングル、チェーンなど。

2 H形鋼が倒れた場合でも危害を及ぼさないための設備、たとえば、作業者の身体が入れる程度の高さのレールに代る作業台。

しかるに、右のような設備がなされなかったことは、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があったといえる。このため本件事故が発生し、正和が死亡したのである。

(四)  債務不履行責任

正和は、被告会社に雇傭され、使用されていた労働者であって、本件事故発生当時被告会社工場内において、橋桁組立作業に従事していたものである。被告会社は、正和をして本件のごとき危険な作業に従事せしめる場合、法令の定める各種の災害防止措置を講ずるはもちろん、最も安全な作業方法を採用し、かつ、必要な措置を講じて、安全な作業状態の中で労働させるべき雇傭契約上の債務を、正和に対して負っていたものである。しかるに、被告は右債務を履行せずそのため本件事故が発生し正和が死亡したものである。

(五)  監督義務違反と安全教育の欠如

被告会社の安全管理担当者は、訴外設楽秀次、小山康夫であった。しかし同人らは、現場を回る程度で、常時現場において指揮監督をしているものではない。単に、林班長に一般的な安全作業の指示をしていたにとどまる。

労働安全衛生法五九条、労働安全衛生規則三五条等は雇入時等に、特別に安全衛生教育をなすよう使用者に義務づけているのであるから、本件橋桁工事についても十分右教育をなすべきであるのに、被告会社はこれをしていない。

四  損害

(一)  正和の損害

1 慰藉料 四、七〇〇、〇〇〇円

2 逸失利益

正和は、昭和一五年九月二五日生れの健康な男子であり、本件事故当時満三一才で、平均賃金は日収三、五〇〇円であった。したがって、年収は年間三〇〇日働くものとすると一、〇五〇、〇〇〇円であり、それから正和の生活費として三割を控除した七三五、〇〇〇円が年間純益である。ところで、正和は、本件事故がなかったならば満六三才までなお三二年間は稼働し右同様の純益を得ることができたものと推定されるので、ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して、同人の死亡時における一時払額を算出すると、その額は一三、八二二、四一〇円となる。

3 したがって、正和は被告に対し合計一八、五二二、四一〇円の損害賠償請求権を有していたものであるところ、昭和四七年二月二一日同人の死亡によって、同人の相続人たる原告三名が各三分の一の相続分(六、一七四、一三六円)をもって右損害賠償請求権を相続した。

(二)  原告ら個有の損害

1 慰藉料   各自 一、一〇〇、〇〇〇円

2 葬儀費用       一五〇、〇〇〇円

3 弁護士費用 各自   五〇〇、〇〇〇円

(三)  原告らは、労働者災害補償保険より、遺族補償一時金として三、〇〇〇、〇〇〇円、葬祭料として一五〇、〇〇〇円を受領したので、右金員のうち三、〇〇〇、〇〇〇円については原告三名が各自の慰藉料に均等の割合で充当し、葬祭料については、前記葬儀費用に全部充当した。

五  よって、原告三名は被告に対し、各六、七七四、一三六円、及び、内各六、二七四、一三六円に対する不法行為時である昭和四七年二月二一日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、内各五〇〇、〇〇〇円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年一月一九日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求の原因に対する認否

一  請求の原因一項の事実は認める。

二  同二項の事実は、倒れた橋桁の重量及び長さを除き、認める。橋桁の重量は約四・五トン、長さは二〇・九四メートルである。

三  同三項の事実中正和が被告会社の被用者であったこと、及び、同人の労務内容が原告ら主張のごときものであったことは認めるが、その余の事実は否認し、主張はすべて争う。

(一)  被告代表者の注意義務は、具体的には、作業員の安全管理等を担当する従業員に対し危険防止対策を十分徹底するよう指示することによって尽されるところである。本件工事に関しても、被告代表者は安全管理者である設楽秀次、小山康夫らに対し危険防止に万全を期するよう指示している。

(二)  H形鋼を横にして本件作業をすることは事実上非常に困難である。小山康夫は本件作業を実施するに際し、正和に対し事故防止のためアングル、チェーン等でH形鋼を固定したうえで作業を始めるよう指示している。

(三)  鋼材がレールのために滑るということは起り得ない。

(四)  本件作業は訴外林紘行をリーダーとする四人を一組として実施させており、相互にその作業を看視させる一方、被告会社の他の従業員が一日に数回作業方法等の看視のため現場を巡回している。

(五)  鋼材はこれを設置する位置が高くなるほど不安定となり危険が増すことになる。したがって、作業台を高くすることは適切ではない。

(六)  チャンネルをH形鋼の付近に積んで置くことは通常であり、このことと本件事故とは無関係である。

四  同四項の事実及び主張中正和の生年月日、同人が本件事故当時満三一才であったこと、原告らがその主張のごとき労災給付を受けたことは認めるが、その余は争う。

第四被告の主張

正和らは、小山康夫の指示に基づき、鉄製アングルで本件四本のH形鋼を各二本づつ固定して、それぞれ箱形状に安定させ、更に、ヒッパラと呼ばれるチェーンで四本のH形鋼を連結したうえで本件作業にとりかかっていた。たまたま右作業が完了し危険防止措置を撤去した後で、正和が作業未了個所を発見した。この場合、正和は安全管理者より指示指導された危険防止措置を再度講じたうえで作業を再開すべきであったのに、自己の判断でこれらの指示指導を無視し、勝手に右危険防止措置を講ずることなく右未了個所の作業にとりかかったためにH形鋼が倒れ本件事故が発生したものである。

第五被告の主張に対する原告らの反論

正和はけっして不用意にヒッパラを外したものではない。設楽秀次、小山康夫らの指示を受け現場で班長として指揮監督をしていたのは林紘行であり、同人自身正和がヒッパラを外したままインパクトレンヂによるボルト締めを行っていることは十分承知していた。右林はそれまでの経験で、ヒッパラがなくともインパクトレンヂでボルトを締めるのみであればH形鋼が倒れることはないと予測していたのである。そして、インパクトレンヂによるボルト締めあるいはインパクトレンヂの振動によってH形鋼が倒れたのではない。もしも、ヒッパラをつけないまま作業していたことがH形鋼の倒れた何らかの原因であるとするならば、その主たる責任は林紘行、及び、これを指揮する設楽、小山、更にはその使用者たる被告会社が負うべきものである。

第六証拠≪省略≫

理由

一  原告三名と正和との身分関係が原告ら主張のとおりであること、被告が原告ら主張のとおりの株式会社であること、正和が被告会社に雇傭され被告会社工場内で橋梁製作作業に従事していたことについては当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(一)  正和は、林紘行を班長とする林班に属し、班長以下五名で被告会社工場内において橋桁製作に従事していた。

本件の橋桁製作は、横板上下巾各三〇センチメートル・厚さ二・二センチメートル・縦板高さ八九センチメートル・厚さ一・四センチメートルのH形鋼を所定の寸法に合せて切断したものを三本接続し、長さ二四・一三メートル・重さ約四・八六トンの橋桁を作り、これを四本平行に並べ、それらをキャンバー作業で曲げるものである。H形鋼を三本接続する際継目にはプレート板をあてこれとH形鋼とをボルトで締める。この作業をジョイント作業という。ジョイント作業は、コンクリート床に五メートル間隔に敷かれたレール(床面から七~一〇センチメートルの高さ)に直角になるようH形鋼をI形に立てて四列に並べ、横倒れ防止のため、四列のH形鋼を各二列づつ鉄製アングルで箱形状に固定し、更にヒッパラーという鎖を主体にした道具で四本のH形鋼を固定させ、インパクトレンヂで前記ボルトを締め付けるのである。右横倒れ防止の措置を施すことを養生をするといっている。なお、H形鋼を三本接続した本件の橋桁がジョイント作業による振動あるいはボルトの穴合せの際に加えられる作業者の力によって倒れるということは力学上考えられない。

(二)  訴外設楽秀次は、被告会社の製造部長として、製品製造工程の監督及び安全管理を統轄するものであり、安全指導は製作課長、課長補佐等を通じて行っていた。訴外小山康夫は、課長補佐として、鉄骨、橋脚製造の管理及び安全管理を担当し、安全管理の面においては、上司からの指示を受け部下を指導していた。本件橋桁製作についても、右小山は林班長に対しジョイント作業にはヒッパラーをつけるよう指導し、一日数回現場を廻って作業の指導、安全管理にあたっていた。

(三)  本件事故当日すなわち昭和四七年二月二一日、林班では午前中に橋桁四本のジョイント作業(本件では仮り締め)を一応終了し、右作業に従事していた五名全員でジョイント作業のためになされていた養生を外し、午後に予定されたキャンバー加工のため、四本の橋桁にそれぞれスリッパと呼ぶ板木を両端にはかせ午前の作業を終えた。昼休みに被告会社工場付近の喫茶店で右五名が話し合っている際、正和が北側の橋桁にボルトの締め忘れた個所のあることを思い出し、午後早速そのボルト締めを行う旨を林紘行に告げた。午後、正和は弟の原告岩崎正明と二人で当該個所のボルト締め作業を始めるにあたり、ジョイント部分のボルト穴を合せる必要から前記スリッパを外し、正和がインパクトレンヂを用い原告正明が反対側でスパナでボルトの頭を押え、ボルト締め作業を行った。林紘行は、正和らの傍でキャンバー作業の準備をしており、正和が養生を施さないままジョイント作業をしていることを知っていたが、長年の経験から橋桁が倒れることはないと思い、正和に対し養生を施すようにとの指示を与えなかった。同日午後一時二五分頃突然長さ二四・一三メートル・重さ約四・八六トンの橋桁が北側に倒れたため、正和は右橋桁と付近に置いてあったチャンネル(U形鋼)との間にはさまれ、胸部挫創、胸壁穿孔(三ヶ所)、左第五ないし第九肋骨骨折、及び、心臓損傷の傷害を受け、同日午後一時五五分死亡した。

(正和が昭和四七年二月二一日午後一時二五分頃被告会社工場内で橋桁製作作業中インパクトレンヂでジョイント部のボルトを締めていたところ、橋桁が倒れ負傷し同日死亡したことについては当事者間に争いがない)

三  右認定の事実にもとづいて被告の責任を検討する。

長さ二四・一三メートル・重さ四・八六トンの橋桁が作業者単独の力では倒れないことは前認定のとおりであり、右橋桁が何故倒れたかについては証拠上明らかにされていない。しかし、何らかの大きな外力が加ったため倒れたものであることは疑いえない事実である。ところで、ボルト締め作業をする場合橋桁に横倒れ防止措置すなわち養生を施していたならば、橋桁が倒れず本件事故が生じなかったであろうことは明らかである。すなわち、養生を施さなかったことが本件事故の第二次的原因であるといえる。

正和の直接の上司は林紘行であり、同人は、正和が養生を施さずボルト締め作業をしていたことを知っていたが、長年の経験から橋桁が倒れることはないと考え正和に対し何らの指示を与えなかったのであるが、前記のように、橋桁に何らかの大きな外力が加えられれば横倒れする危険があるのであるから、直接の上司として正和がジョイント作業をするにあたり同人に養生を施すよう指示し、もって事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったといえる。また、小山康夫にも、右林を通じて安全管理に関する指導をするにせよ、前記のような締め忘れ個所のボルト締め作業をする場合であってもジョイント作業には変りがないのであるから、例外なく必ず養生を施して行うよう指導を徹底し、もって事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったのである。そして、林紘行や小山康夫がこれらの注意義務を怠ったことにより本件事故が発生したものというべきである。正和が養生を施さずボルト締め作業を行ったことが結果的には本件事故の原因となっているが、ボルト締め作業のみでは橋桁が倒れることはないのであり、同人の作業を直接監督すべき立場にある林紘行もそれを看過していたほどであるから、これをもって正和に損害賠償の額を定めるにあたり斟酌すべき過失ありということはできない。

右説示のように、被告会社の被用者である小山康夫、林紘行に注意義務の懈怠があり、その結果本件事故が生じたのであるから、同人らの使用者である被告会社に本件事故より生じた損害を賠償すべき義務のあることは明らかである。

四  進んで、本件事故により生じた損害を検討する。

(一)  正和の損害

1  慰藉料

正和は、本件事故によって重傷を受け、ほどなく死亡するに至ったのであるが、同人の受けた肉体的精神的苦痛は極めて大きいといえる。これを慰藉するには四、五〇〇、〇〇〇円が相当である。

2  逸失利益

正和が昭和一五年九月二五日生れの男子であり、本件事故当時満三一才であったことについては当事者間に争いがない。そして、同人が独身者であったことは原告らの主張自体により明らかである。≪証拠省略≫によれば、正和の本件事故当時における平均賃金が一日三、〇〇〇円であったことが認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。そうすると、正和の年収は年間三〇〇日稼働するものとして九〇〇、〇〇〇円であり、これから正和の生活費として四割を控除した五四〇、〇〇〇円が年間純益である。正和は、本件事故がなかったならば、満六三才までなお三二年間稼働し、毎年右同様の純益を得ることができたものと推定されるので、ホフマン式計算方法により中間利息を控除して、同人の死亡時における一時払額を算出するとその額は一〇、一五五、二四〇円になる。

(54000円×18.806=10,155,240円)

3  したがって、正和は被告に対し合計一四、六五五、二四〇円の損害賠償請求権を有していたものであるところ、前記のように、昭和四七年二月二一日死亡したので、同人の相続人である原告三名が各三分の一の相続分四、八八五、〇八〇円についてそれぞれ損害賠償請求権を相続したことは明らかである。

(二)  原告らの個有の損害

1  慰藉料

≪証拠省略≫によれば、原告三名が兄弟である正和の事故死によってかなりの精神的苦痛を受けたであろうことを窺い知ることができるが、原告らが正和の父母と実質的に同一視すべき立場にあり父母と同様の精神的苦痛を蒙ったものとは到底認められない。したがって、原告らが、民法七一一条を根拠に、被告会社に対し、正和の死亡により蒙った精神的損害について慰藉料を請求することはできないものといわなければならない。

2  葬儀費用

≪証拠省略≫によれば、正和の葬儀費用は被告会社において負担したことが認められる。したがって、更に葬儀費用を損害として被告会社に請求することはできない。

(三)  原告らが、労働者災害補償保険より、遺族補償一時金三、〇〇〇、〇〇〇円、葬祭料一五〇、〇〇〇円の給付を受けたことについては当事者間に争いがない。

そうすると、原告三名が相続した損害賠償請求権より右給付を受けた分を均等の割合で控除するのが衡平上相当である。

(四)  弁護士費用

≪証拠省略≫によれば、原告三名は、原告ら訴訟代理人との間で本件につき訴訟委任をなすにあたり、着手金等で一七〇、〇〇〇円を訴訟代理人に支払い、勝訴の場合勝訴額の一・五割ないし二割を支払うことを約したことが認められる。右事実と本件事案の難易、請求額、認容された額、その他諸般の事情を考慮し、本件不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用の金額としては各四〇〇、〇〇〇円が相当であると認める。

(五)  したがって、原告三名が有する損害賠償請求権の額は各四、二三五、〇八〇円となる。

五  よって、原告三名の本訴請求は、各四、二三五、〇八〇円、及び、内各三、八三五、〇八〇円に対する本件不法行為時である昭和四七年二月二一日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、内各四〇〇、〇〇〇円に対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四八年一月一九日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用について、民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小沢博)

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