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名古屋地方裁判所 昭和47年(ワ)135号 判決 1973年6月28日

原告

丸紅株式会社

右代表者

山廣

右代理人支配人

久保房吉

右訴訟代理人

水谷省三

被告

東晃産業有限会社

右代表者

中山正一

右訴訟代理人

山本秀師

外二名

主文

別紙目録記載の機械は原告の所有であることを確認する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は次のとおり請求の趣旨、請求の原因、被告の主張に対する反論を陳述した。

(請求の趣旨)

別紙目録記載の機械は原告の所有であることを確認する。

被告は原告に対し同目録記載の機械を引渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の原因)

一  原告会社は別紙目録記載の機械(以下本件機械という)を所有するものである。

二  しかるに、被告会社は本件機械の所有者であると称し、本件機械の占有を維持しようとしている。

三  被告会社が本件機械を占有するに至つた経緯はつぎのとおりである。

1  本件機械の所有権留保割賦販売

原告会社名古屋支店は訴外株式会社丸石建材に対し昭和四六年七月二日本件機械を「代理は金八、三九二、六二〇円とし、これを二四回に分割して昭和四六年八月三一日から昭和四八年七月三一日まで毎月末日に支払う。代金完済までは本件機械の所有権を原告会社に留保し、代金完済のとき正規の譲渡証明書を交付することにより所有権を移転する。」との契約で販売し、その頃本件機械を引渡し、その後同訴外会社が本件機械を占有使用していた。

2  本件機械の盗難

訴外会社は昭和四六年八月三日頃本件機械を窃取されたので盗難届を提出しておいたところ、同年一〇月一九日頃被告会社が本件機械を占有していることが判明した。被告会社は同日頃本件機械を岐阜中警察署に任意提出し、同署はこれを領置のうえ、右訴外会社代表者石原孝市に保管させた。右窃盗被疑事件は岐阜区検察庁において捜査中である。

3  盗品の買受け

被告会社は盗品である本件機械を買受けながら、その買受引渡により所有権を取得したと称しているが、被告会社が本件機械につき所有権を取得するいわれはなく、その所有権は原告にある。

四  よつて被告会社に対し本件機械の所有権が原告会社にあることの確認とその引渡を求める。

(被告の主張に対する反論)

五 被告代理人の主張事実中、訴外朝日リース株式会社(代表取締役石川こと李元八以下訴外朝日リースという)が従前より建設機械等の販売及び賃貸を業としているとの点は不知。訴外梁川五郎が本件機械を訴外朝日リースより盗品と知らず無過失で買受けたとの点は否認する。訴外梁川五郎が本件機械が盗品であることを知つていたことは次の事実よりみるも十分に窺われる。

1  訴外李元八は本件機械についての賍物罪で起訴され、一審において有罪判決を受けた者であるが、訴外梁川五郎は捜査当局から訴外李元八と同一グループに属する人物と疑われていること

2  本件機械の窃盗本犯訴外梁川誠と訴外李元八との間の本件機械売却依頼の関係は明らかでなく、単に売却を依頼したというにとどまること

3  本件機械は訴外李元八が訴外梁川誠から売却を依頼されたものであるが、訴外梁川五郎は本件機械につき訴外朝日リースからは工事代金債権の未回収代金の代りに引揚げたものとの説明をうけたといい、被告会社代表取締役中山正一(以下中山という)には訴外朝日リースが下請としてやらせていた会社に買い与えていた機械だがその会社がつぶれてしまつたので、その会社から訴外朝日リースが引揚げたものと説明していること

4  訴外朝日リースは本件機械は他より売却依頼をうけたものであるのに、自己の資金繰りの窮迫を理由に現金なら安くするといつていること、そして初めは金四、五〇〇、〇〇〇円といつたものの直ちに一、〇〇〇、〇〇〇円も下げて金三、五〇〇、〇〇〇円で取引していること

5  本件機械は新品とあまり変らず、当時の価額としては現金で金七、〇〇〇、〇〇〇円位が相当であり、訴外梁川五郎も金五、〇〇〇、〇〇〇円位と思つたというのに、金三、五〇〇、〇〇〇円で取引したのはきわめて不自然であり、通常の取引とはみられないこと

6  訴外梁川五郎は本件機械はメーカー(小松製作所製品の取扱店売主)と買主との間の月賦残金が未だ残つており売主の所有であることを知りながら、敢えて取引したこと

7  訴外梁川五郎は本件機械を代金授受以前に訴外朝日リースから引渡をうけ、被告会社との代金援受一週間位前に中山に引渡しており、通常の取引では考えられない引渡をしていること

8  訴外梁川五郎の訴外朝日リースからの買契約と被告会社への売契約とは同一日に成立し、これらの間の代金授受も同一日に行われていること

9  訴外梁川五郎は自分の商売ではないといい、礼金として金二〇〇、〇〇〇円を受取つていること

仮りに、訴外梁川五郎は本件機械が盗品であることを知らなかつたとしても、同人は訴外朝日リースが本件機械につき無権利者ないし無権限者でないと信じたとはいえない。同人がこれを誤信したとしても、その誤信は同人の過失によるものである。

よつて、訴外梁川五郎が本件機械につき所有権を取得するいわれはなく、従つて同人は民法一九四条の善意取得者でもない。

六 被告代理人は被告会社において本件機械を善意取得者である訴外梁川五郎から善意転得したものであるから、原告会社は被告会社からは本件機械を回復することはできないと主張する。しかしながら、訴外梁川五郎が本件機械の善意取得者でないことは前記のとおりであり、被告会社が善意の転得者でないこともつぎの諸事実より明らかである。

1  中山は捜査当局より訴外李元八、同梁川五郎と同一のグループに属するものと疑われていたこと

2  中山は本件機械につき訴外梁川五郎からは、訴外朝日リースが下請としてやらせていた会社に買い与えていた機械だが、その会社がつぶれてしまつたので、その会社から訴外朝日リースが引揚げたものとの説明をうけながら、信頼関係が厚い筈の本件機械の代金の貸主である訴外野田英男に対しては引揚車だ月賦流れの中古車で値打だといつていたこと

3  中山は引揚車だから安いと思い、訴外野田英男は頭金を打つた車だから安いと思つたこと

4  中山は一方では訴外野田英男に本件機械を訴外梁川五郎の紹介で訴外朝日リースから買うといい、訴外梁川五郎に仲介の礼金として金二〇〇、〇〇〇円を出しているのに、他方では訴外梁川五郎から買つた訴外朝日リースにはなんの問合せもしなかつたといつていること

5  訴外野田英男は現金授受のあつた昭和四六年一〇月四日の一週間か一〇日前に訴外梁川五郎、中山、野田のいるところで本件機械の引渡をうけたといい、中山は訴外梁川五郎に金三、七〇〇、〇〇〇円を渡してから、訴外朝日リースの置場に行き、本件機械を引取つたといつていること

6  中山は以前にも中古建設機械を買つたが、その代金支払は月賦であり、月賦が終つたとき名義変更をしてもらつており、月賦の終らないうちは機械の所有権は売主にあること、この種機械の売買は通常この方法で行われることを十分に知つていたこと、また譲渡証明書の交付をうける等名義変更の手続をとつていないこと

7  中山は訴外梁川五郎に大丈夫かと念を押したところ、訴外梁川五郎は「変なものではない。俺が責任をもつ。月賦の点は大丈夫だ」といつたといい、中山が右のように念を押したのは機械の性能の点についてであるというけれども、訴外梁川五郎の答からみて中山は本件機械が正当な取引の目的物であるかどうかについて疑念を持つたものと認められるのに、その疑念を解くために必要な相当の措置を講じていないこと

8  中山は代金について訴外梁川五郎が初め金四、五〇〇、〇〇〇円といいながら、たやすく金三、五〇〇、〇〇〇円にしたのに、礼金として金二〇〇、〇〇〇円を出していること

9  中山は本件機械は二、三か月位使用した時間が出ており、新品に近いものであることを知つていたのであるから、代金が不自然に安いことを十分承知していた者であること

要するに、中山は本件機械が盗品であることは知つていたというべく、仮りにこれを知らなかつたとしても、訴外梁川五郎が本件機械についての無権利者ないし無権限者でないと信じたとは到底考えられず、さらに仮りにこれを誤信したとしても、それは中山が本件機械についての訴外梁川五郎の権利権限について正しい認識を得るために、必要相当な措置をとらなかつた過失によるものである。

よつて、被告会社は本件機械の善意、無過失の転得者でない。従つて被告会社が本件機械の所有権を取得するいわれはなく、被告会社には民法一九四条の代価弁償請求権もない。

(立証)<略>

被告訴訟代理人らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、次のとおり答弁、抗弁、原告の主張に対する反論を陳述した。

(答弁)

一  原告の請求原因一は否認(但し過去に原告会社が本件機械を所有していたことは認める)、二は認める。三の1は不知、同2のうち本件機械が盗品であること、昭和四六年一〇月一九日被告会社が本件機械を岐阜中警察署に任意提出し、同署はこれを領置したうえ、訴外石原孝市に保管させたことは認めるが、その余は不知。同3のうち被告会社が本件機械を買受けたこと、その買受け引渡により所有権を取得したと主張していることは認めるが、その余は否認する。

二  被告会社が本件機械を取得するに至つた経緯は次のとおりである。

(一)  本件機械は昭和四六年八月頃訴外株式会社丸石建材が占有中(右訴外会社が占有するに至つた事情は知らない。)訴外梁川誠が窃取し、訴外朝日リースに本件機械の売却方を依頼して引渡した。訴外朝日リースは従前より建設機械等の販売及び賃貸を業としているものであるが、その後本件機械が盗品であることを知らない訴外梁川建設こと梁川五郎に代金三、五〇〇、〇〇〇円で売渡した。訴外梁川五郎は更に昭和四六年一〇月四日被告会社に対し本件機械を代金三、七〇〇、〇〇〇円(現金払)で売渡し、同日被告会社に引渡し、被告会社は以後これを使用していた。

(二)  ところが、同年一〇月一九日岐阜中警察署より被告会社に対し本件機械が盗品であるから任意提出を求めるとの申し入れがあり、被告会社ははじめて前記経緯及び右機械が盗品であることを知つたのである。

(抗弁)

三、(一)右のごとく訴外梁川五郎は同種の商品を販売する訴外朝日リースより盗品であることを全く知らず、平穏公然に買受けたものであり、また同訴外人が盗品でないと思つていたことについてもなんら責められるべき過失もない。従つて訴外梁川五郎は民法一九四条の占有者(善意取得者)であり、被告会社は訴外梁川五郎より盗品であることを知らずに買受けたものであるから善意の転得者である。

(二) 民法一九四条は善意取得者保護の政策的意図に出たものであるから、右規定の適用を受ける者から更に善意で転得した者に対しては、もはや被害者は全然回復を請求しえないものと解すべきであり、善意取得者はその物の所有権を取得するというべきである。

(三) 従つて本件機械の所有権は現在被告会社にあるから、原告会社にあることを前提とする本訴請求は失当である。

四 仮に右主張が認められず、原告会社が本件機械の回復を請求しうるとしても、被告会社は前記のごとく民法一九四条の適用を受ける訴外梁川五郎より本件機械を買受けたものであるから、被告会社も同人の地位を承継し、同条の適用を受ける地位にあるというべきである。

五 よつて、被告会社は本件機械の代価として被告会社が訴外梁川五郎に支払つた代金三、七〇〇、〇〇〇円を原告会社が支払うまで本件機械の引渡を拒絶する。

(原告の主張に対する反論)

六 原告代理人は、訴外朝日リースは本件機械と同種の商品を販売する業者ではなく、訴外梁川五郎は盗品であることを知つていたと主張するが、それらはいずれも事実にに反する。

(一)  訴外朝日リースは重機のリースをその主たる業となしているが、重機の販売も度々なしており、現に訴外梁川五郎は本件機械以外に以前重機の購入を、右訴外朝日リースよりしており、又本件機械の売買の契機は訴外梁川五郎が他の重機の注文をしたのが、その発端であつた。以上の諸事実から考えれば、訴外朝日リースが重機の販売を業となしていたことは明らかである。

(二)  訴外梁川五郎は本件機械は訴外朝日リースが未回収工事代金債権の代りに引揚げてきたものと聞かされており、盗品であることは全く知らなかつたのである。商取引上、未回収債権の代わりに相手方の物品を引揚げることは度々あることであつて、そのような性質のものであると信ずることは当然といわねばならない。

又代金が通常の場合に比し若干安いことは事実であるが、訴外朝日リースが経営に行き詰り、資金ぐりに苦慮していたことは承知しており、又本件機械が購入したものでなく、代物弁済として手に入れたものであれば、若干安くても現金化されるならば現金化し、当面の資金手当をなすのは商売上当然のことであり、若干安い理由を上記の事情に基づくものと訴外梁川五郎が考えたとしても、商売をなしているものとしては当然のことであるといわなければならない。

七 原告代理人は被告会社代表者中山は善意の転得者ではなく、又仮りに善意であつても無過失でないと主張する。

(一)  しかし、右中山は売主の訴外梁川五郎より本件機械が引揚車である旨の説明を受けており、又訴外朝日リースの方が現金がほしいので現金決済ならば若干安くとも売却する旨の説明を受け、中山も右説明を信用し、取引をなしたものであつて、盗品であることは本件機械を引揚げられるまで全く知らなかつたのである。

(二)  原告代理人は盗品であることを知らなかつたのは過失によるものである旨主張するが、売主である訴外梁川五郎とは仕事上での知り合いであつて、以前において仕事の上での取引においてもなんら間違いはなかつたのであり、本人の言を信用して本件機械の取引をなし、前所有者である訴外朝日リースに問い合わせをしなかつたとしても、それをもつて被告会社代表者中山に過失があつたとは到底いえないのである。又仮りに訴外朝日リースに照会しても、売主の訴外梁川五郎と同様の回答が得られただけであることは明白であつて、かかる問合わせは全く無意味であるといえよう。その意味からも訴外朝日リースに問い合わせをしなかつたことを過失であるとする主張は意味がないといわざるを得ない。その他原告代理人は被告会社代表者中山の悪意ならびに過失を推測せしめる事実として種々の事実を主張しているが、それらの事実は論ずるまでもなく、被告会社代表者中山の悪意ならびに過失を推測せしめる事実とはならない。

(立証)<略>

理由

本件機械がもと原告会社の所有であつたこと、被告会社が本件機械の所有者であると称して本件機械の占有を維持しようとしていること、本件機械が盗品であること、昭和四六年一〇月一九日被告会社が本件機械を岐阜中警察署に任意提出し、同署はこれを領置したうえ、訴外石原孝市に保管させたこと、被告会社は本件機械を買受け引渡をうけたことにより所有権を取得したと主張していることは当事者間に争のないところである。

<証拠>を綜合すると、次の事実が認められる。

一原告会社名古屋支店は訴外株式会社丸石建材に対し、昭和四六年七月二日本件機械を「代金は金八、三九二、六二〇円とし、これを二四回に分割して昭和四六年八月三一日から昭和四八年七月三一日まで毎月末日に支払う。代金完済までは本件機械の所有権を原告会社に留保し、代金完済のとき正規の譲渡証明書を交付することにより所有権を移転する。」との契約で販売し、その頃本件機械を引渡し、その後同訴外会社か本件機械を占有使用していたこと

二訴外会社は昭和四六年八月五日頃本件機械を窃取され、盗難届を提出したこと

三本件機械を窃取した訴外梁川誠は訴外朝日リース(代表者季元八)に本件機械の売却方を依頼して引渡し、訴外朝日リースは訴外李川五郎に金三、五〇〇、〇〇〇円で売渡し、同訴外人より被告会社に金三、七〇〇、〇〇〇円(訴外梁川五郎に対する謝礼の意味で金二〇〇、〇〇〇円を加算)で売渡され、被告会社において前記のごとく岐阜中警察署に任意提出するまでこれを占有使用していたこと

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

原告代理人は本件機械の所有権は依然として原告会社にある旨主張するに対し、被告代理人は訴外梁川五郎は民法一九四条の占有者であり、本件機械の善意取得者であるから、同訴外人より善意で転得した被告会社に対しては全然所有権の回復を主張し得ない旨抗争するから、まずこの点について考察する。

前記認定のとおり、本件機械は原告会社に所有権が留保されたまま、訴外丸石建材において保管中窃取され、窃盗本犯たる訴外梁川誠より訴外朝日リース、同訴外会社より訴外梁川五郎、同訴外人より被告会社に転売され、被告会社が占有していたものであり、反証のない本件においては訴外梁川五郎及び被告会社の占有は平穏公然になされたものと推定される。

原告代理人は訴外梁川五郎には悪意又は少くとも過失がある旨主張し、その根拠として前記原告の主張欄掲記の五の1ないし9の事実を主張し、且つ同訴外人より本件機械を転得した被告会社代表者の悪意又は過失を推認する事情として原告の主張欄掲記の六の1ないし9の事実を主張するけれども、右各事実をもつては訴外梁川五郎や被告会社代表者の悪意又は過失を推認することは困難である。右のうち原告の主張欄掲記の五の4、5の事実すなわち見積価格金七、〇〇〇、〇〇〇円もの本件機械を半額にすぎない金三、五〇〇、〇〇〇円で取引がなされている点は疑問なしとしないが、<証拠>によれば、同人は訴外朝日リースから本件機械を工事代金債権の未回収代金の代物弁済として引き揚げたものであるときかされ、右訴外朝日リースは資金繰りが苦しく現金取引でなければ応ぜられないということで、金三、五〇〇、〇〇〇円で取引が成立した次第で、同人としては本件機械の元所有者は販売店に対し売買代金の月賦残金が残つているかもしれないと考えたものの、その点については訴外朝日リースが責任をもつというので右金額での取引に応じたことが認められる。一方、被告会社も前記のとおり訴外梁川五郎に対する謝礼の意味で金二〇〇、〇〇〇円を加算した金三、七〇〇、〇〇〇円で買受けているのであるが、<証拠>によれば、被告会社代表者中山正一は、訴外梁川五郎より「下請会社の倒産による引揚車だが程度のよいものがある」ときかされ、訴外梁川五郎の「変なものではない。俺が責任をもつ。」との言を信じて現金取引で金三、七〇〇、〇〇〇円ならば値打ちの品であると考えて買受けた次第が認められる。

右認定の事情を勘案すれば、見積額の半額程度で取引されたとの点を目して直ちに不自然であるとも解せられない。その他原告代理人主張の各事実はいずれも訴外梁川五郎ないし被告会社代表者中山正一の悪意又は過失を推認しうる事情と解することはできないし、右各事実を綜合しても、又その他原告の全立証を綜合しても、訴外梁川五郎や被告会社代表者中山正一の悪意又は過失を推認することは到底なし得ない。

従つて、被告会社は本件機械を平穏公然、善意無過失で占有を開始したものというべく、即時取得により本件機械の所有権を取得したものということができ、被害者である原告会社としては盗難のときより二年間に限り本件機械の回復請求権を有するにすぎないと解すべきである。本訴が前記認定の盗難時である昭和四六年八月五日頃より二年内である昭和四七年一月二四日に提起されたことは本件記録上明らかであるから、右回復請求が許されるか否かについて検討する。

<証拠>によれば、訴外朝日リースは二、三〇台の機械を所有しリース業を営むほか、本件機械と同種の重機を販売する商人であることが認められるから、訴外朝日リースより本件機械を買受けた訴外梁川五郎は民法一九四条の善意取得者ということができ、同訴外人より転売をうけた被告会社は民法一九四条の占有者よりの転得者というべきである。

ところで民法一九三条の回復請求権の相手方については占有者とのみ規定され、直接の買受人のみならず転得者も含むと解されているところより考察すれば、同条の特則ともいうべき同法一九四条の場合についても、占有者には転得者を含むと解するのが相当である。けだし、実質的にみても被害者が自らの意思によらず占有を失つた以上、いかなる流通経路を辿ろうと同じであるのに、掛売や商人から買受けた占有者に対しては代価弁償義務を負わせるという特則が設けられた趣旨は、被害者と特別に信頼すべき事情の下での買受人との利益衡量の考慮からにほかならないことを勘案すれば、転得者についても転得者自身の転得行為についての特別事情の有無により決すべきが至当と解せられるからである。

従つて善意の転得者である被告会社に対しては全然回復請求をなしえないとの被告代理人の主張は失当である。

次に被告代理人は被告会社は民法一九四条の適用をうける訴外梁川五郎の地位を承継したのであるから、被告会社が訴外梁川五郎に支払つた代金三、七〇〇、〇〇〇円を原告会社が支払うまで本件機械の引渡を拒絶する旨主張する。

被告会社につき民法一九四条が適用されるか否かは前記のとおり本件機械の転得者である被告会社の転得行為につき特別事情があるか否かによつて決すべきであると解されるところ、<証拠>によれば被告会社が本件機械を買受けた相手方である訴外梁川五郎は同種の機械を販売する商人でないこと明らかであるから、被告会社については民法一九四条を適用すべき限りでなく、被告代理人の同時履行の抗弁は理由がない。

以上の次第で、原告会社の回復請求権の行使により本件機械の所有権は原告会社に回復されたものと認められるから、所有権の確認を求める原告の請求は正当として認容すべきである。(もつとも、原告代理人は所有権を喪失しないことを前提として所有権確認の請求をしているのであるが、本件機械が盗品であることも自認しており、盗品に対する回復請求の主張も含まれるものと解する。)

しかしながら引渡請求については、もともと原告会社は本件機械の直接占有をしていたものでなく、訴外丸石建材に所有権留保付売買契約により引渡していたものであることは前記認定のとおりであり、回復請求による権利の取得は以前に有していた権利以上のものを取得できる筋合のものでないこというまでもない。のみならず、現在本件機械は訴外丸石建材が領置品の還付を受けて占有していることは前記のとおり当事者間に争いのないところであるから、本件機械の引渡を求める原告の請求は失当というべきである。

よつて原告の本訴請求は本件機械の所有権の確認を求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。(黒木美朝)

目録

一、株式会社小松製作所製

D六〇S―六型ドーザショベル

車体番号二一五七二号  一台

以上

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