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名古屋地方裁判所 昭和47年(ワ)1174号 判決 1974年10月30日

原告

花井章

被告

屋城昌弘

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し金一一七万八二五九円および内金一〇七万八二五九円に対する昭和四八年五月一一日から、内金一〇万円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その四を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決主文第一項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告(請求の趣旨)

1  被告らは各自原告に対し金一九七万八二一九円および右金員に対する昭和四八年五月一日付請求の趣旨および原因訂正申立書送達の日の翌日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  被告ら(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一  原告(請求の原因)

1  交通事故の発生

原告は左の交通事故により損害を蒙つた。

(1) 日時 昭和四六年一〇月一日午後七時ごろ

(2) 場所 山梨県富士吉田市上吉田五五九七番地先(国道一三九号線)

(3) 加害車 被告屋城昌弘(以下単に被告屋城という)運転の乗用車(横浜五み六三四一)

(4) 態様 原告は右加害車に同乗してドライブ中、被告屋城が前記場所で道順を誤つたことに気付いて急ブレーキをかけたところ折から降雨中で、そのためスリツプして、道路端のガードレールを突き破つて約二メートル下へ転落したもの。

2  責任原因

(1) 被告屋城は運転免許取得後二日目であつたにもかかわらず、時速約八〇キロメートルの速度を出し、しかも前記悪条件下で無用の急ブレーキをかけて本件事故を惹起したもので、同被告は民法七〇九条により原告の後記損害を賠償する義務がある。

(2) 被告斎田ゆり(以下単に被告斎田という)は本件加害車両の所有者であるから、自賠法三条により原告の後記損害を賠償する義務がある。

3  損害

(1) 治療費

本件事故のため原告は車外に放り出され左大腿骨々折等の傷害を負い、事故当日から昭和四六年一一月一八日まで富士吉田市新倉所在の赤坂外科医院に入院し、同日転医し、同日から昭和四七年七月八日までと昭和四七年九月二一日から同年一一月一六日までの二回にわたり国立名古屋病院に入院して治療をうけ、赤城外科医院における治療費の金五〇万七七二六円は被告屋城において支払済である(自賠責保険金で五〇万円を被告屋城において回収済)が、国立名古屋病院における治療費合計三三万二三一九円(一部国民健康保険負担)は原告において支払い、原告は同額の損害を蒙つた。

(2) 附添看護費用

前記と同様赤坂外科における入院期間中の附添看護費用一一万四三二〇円は被告屋城において支払済であるが、国立名古屋病院における昭和四六年一一月一九日より同年一二月三〇日までの附添看護費用金八万九九〇〇円は原告において支払い、原告は同額の損害を蒙つた。

(3) 重複する学費の支出に基く損害

原告は、本件事故当時昭和大学生(一年在学)であつたところ、本件事故による負傷とその治療による休学のため二年間の留年を余儀なくされた。従つて昭和四七年度前期の授業料一〇万円、九月納期の後期授業料一〇万円、同年度の父兄会費一万円、学生会費三〇〇〇円、昭和四八年度前期授業料一一万五〇〇〇円、後期授業料一一万五〇〇〇円、同年度の父兄会費一万円、学生会費三〇〇〇円の合計金四五万六〇〇〇円の学費の重複出費を余儀なくされ、同額の損害を蒙つた。

(4) 慰謝料

原告は本件事故がなければ昭和五〇年三月には同大学を卒業し薬剤師の資格を得るはずであつたところ二年間の遅れを余儀なくされ、後遺症のおそれもあり運動好きの原告としての精神的苦痛は大きい。その他の諸事情をも考慮すると慰謝料として金一〇〇万円が相当である。

(5) 弁護士費用

被告らの誠意がないため、原告はやむなく原告代理人に委任して本訴提起を依頼し、その費用(着手金、報酬)と合わせて少くとも金一〇万円を支払うことを約した。

(6) 結論

よつて原告は被告らに対し各自金一九七万八二一九円および昭和四八年五月一日付請求の趣旨および原因の訂正申立書送達の日の翌日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告ら(請求の原因に対する答弁および被告らの主張)

1  被告屋城

(1) 請求原因第一項(1)ないし(3)は認め、(4)は争う。

(2) 同第二項(1)は争う(但し免許取得直後であることは認める)。

(3) 同第三項(1)(2)のうち入院の場所、期間の点、被告屋城の支払額を認めその余は不知、(3)ないし(5)は不知。被告屋城は原告を毎日のように見舞、看護もして誠意を尽している。

(4) 被告屋城の主張

(イ) 因果関係の不存在

原告の治療のうち国立病院の治療は赤坂外科において手術に失敗したため(医療過誤)、国立名古屋病院で再手術の必要を生じたものであり、原告はそのことを知悉しており、国立名古屋病院の治療関係費およびその長期療養による学費の重複支払の分の各損害は被告らの責任となし得ない。

(ロ) 好意同乗

原告と被告屋城は学友であり、本件事故当日被告屋城が訴外韓京子らとドライブに出かけようとしたところ、原告が訴外豊島裕子(当時の原告のガールフレンド)と共に同乗を強く希望したため、被告屋城が他の一名の同乗予定者を断わつて原告らを同乗させたもので、しかも被告屋城の運転未熟を原告らは知悉しながら同乗を求めたもので、責任の一半は原告にも存する。

2  被告斎田

(1) 請求原因第一項の事実は不知。

(2) 同第二項の(2)の事実は所有名義人であることのみ認める。

(3) 同第三項(1)(2)の各事実のうち被告屋城の各支払分のみ認めその余は不知。(3)ないし(5)は争う。

(4) 運行供用者性の否認又は喪失

(イ) 被告斎田は家庭の主婦でとりたてて収入はなく、同人の夫訴外斎田剛彦が本件自動車を購入するに際して車庫証明の対策上、妻である被告斎田の名義を借用したにすぎない。本件自動車の購入資金はもとより各種保険料、税金、その他の管理費用は右訴外斎田剛彦が負担し、更に日常の使用人も斎田剛彦である。従つて被告斎田は本件加害車両の保有者ではない。

(ロ) 仮に被告斎田が保有者であるとしても、運行供用者となるか否かは運行支配と利益の帰属によつて決定さるべきで、右帰属の決定に際しては被害者が同乗者である場合には主観的事情をも加味して考慮すべきであるところ、本件加害車両は被告斎田が息子である訴外斎田豊彦(以下単に訴外豊彦という)の帰省のため(山梨県富士吉田市から横浜市の自宅まで)に使用させる目的で本件事故の六日前に貸し与えたもので、その間被告斎田の支配管理下にないばかりか、訴外豊彦は右目的を逸脱しないよう他人への貸与を断つていたところ、本件事故当日学友の被告屋城が強く貸与を要望したためやむなく同人に貸与した。しかし訴外豊彦はその後、原告および女友達らが訴外屋城に強く同乗を懇請した事実をまつたく知らなかつたし、まして被告斎田が知るはずもない。被告斎田は少くとも同乗者である原告に対する関係においては事故当時、本件自動車の運行支配、運行利益を失なつており運行供用者の地位を離脱している。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  交通事故の発生

〔証拠略〕によれば原告主張の日時、場所において被告屋城運転、原告同乗の普通乗用車がゆるやかな左カーブを進行するに際し、激しい雨で路面が濡れているにもかかわらず、右地点にさしかかるまで時速約七〇キロメートルないし八〇キロメートル(制限速度六〇キロメートル)の高速で進行し、かつ被告屋城の運転の不慣れからカーブ直前での減速のためのブレーキペダルを踏みすぎ急制動の状態となつたためスリツプし、そのまま対向車線を越えて踏外に転落し、原告は車外に放り出されて傷害を負つた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

二  責任原因

(1)  前記一認定の事実によれば、被告屋城は悪天候下での高速運転中に適切なブレーキ操作を行なわなかつた過失によつて本件事故を惹起したものであることが明らかであり、民法七〇九条により原告の後記損害を賠償する義務がある。

(2)(イ)  本件事故車両が被告斎田の所有名義となつていることは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、被告斎田の夫は医師で、夫名義の車を一台所有し、その他に本件事故車両を購入し、主婦で特に収入のない妻の被告斎田名義にしていたものであることが認められる。同居している夫婦間では一方の名義の車がある場合に、特段の事情ない限り、現実の出捐者が夫である場合でも、贈与あるいは妻の家事労働の寄与分のなかからの出捐を夫が立替払していること等が予想されるので、特に妻がまつたくの形式上の名義人であることが明らかである場合を除き、妻が実質的にも保有者であること(場合によつては夫も保有であることと並んで)を推認するのが正当である。特に本件の如く夫名義の他車がある場合には、右推認は十分理由がある。なるほど〔証拠略〕中には、被告斎田の名義となつたのはセールスマンが車庫証明の関係ですすめたとの事情があつたかの如き供述があるが、夫である訴外斎田剛彦名義の他車がある事実に照らして極めて不合理な内容であり措信し難い。従つて本件事故車両は被告斎田の所有にかかるものであることが推認され、その他右推認を覆すに足りる証拠はない。

(ロ)  〔証拠略〕によれば右被告斎田所有車に原告らが乗車するに至つた事情は次のようなものであることが認められる。

原告、被告屋城、訴外韓京子、訴外豊島裕子はいずれも本件事故当時、昭和大学薬学部一年生の同級生で、訴外豊彦は同大学医学部の学生でいずれも山梨県富士吉田市所在の同大学教養学部に通学中で、訴外豊彦と被告屋城は同じ寮で普通程度の交際があり、右訴外人と原告は単に顔を知つている程度のつきあいであつた。

被告斎田は訴外斎田豊彦の母であり、横浜市に居住しているところ、本件事故当事前記の昭和大学教養部の寮に入つていた訴外豊彦のために本件事故車両を貸与していた。本件事故当日、授業の終了後被告屋城は訴外韓京子とのデートのためドライブを考え、運転免許証は二・三日前に交付され、当日被告屋城のもとに届いたばかりでまつたくの初心者であつたが、友人である訴外豊彦に本件事故車両の貸与を頼み、いつたん訴外豊彦は事故をおそれ貸与を断わつたものの、被告屋城の強い懇請に断わりきれず、被告屋城に本件事故車両を貸与した。被告屋城はドライブに出発前に、原告に会い、原告は被告屋城が運転初心者であることを知つていたが、同乗を希望し、被告屋城も同意したところ、原告は友人の訴外豊島裕子を同行して計四人で出発し、女子寮の門限である午後九時ごろまでに帰る予定で精進湖、本栖湖方面をドライブして帰る途中本件事故が発生したものである。

原告は前記の如く被告屋城が免許取得直後であることを知悉して同乗し、前記高速運転にも特に異議を申し述べなかつた。他方被告斎田ゆりは息子の友人らとの面識はまつたくなかつた。

以上の認定を覆すに足りる証拠はない。

被告斎田が遠隔地の寮に入つている息子訴外豊彦に本件事故車両を貸与した場合には、特にその用途の限定もなく仮に限定があつてもその遵守を指導することが事実上不可能な状況であるから、右認定の如き友人への貸与(一時断わつたにせよ、威圧等の事情はうかがえない)、本件事故車両への他の友人の同乗(本件の如き友人間の短時間の観光ドライブにおいては、いずれが先に頼んで同乗したかの点はさして重要な意味をもたないと考えられる。)は十分予想し得るものであつて、右の如き同乗形態においてはいまだ被告斎田の運行利益が喪失または運行支配を脱していると評価することはできず、客観的に自己のため運行の用に供していると認めるのが相当である。従つて被告斎田は自賠法三条により原告の後記損害を賠償する義務がある。

三  損害

(1)  治療経過および治療費 金三三万二三一九円

〔証拠略〕によれば、原告の負傷と治療経過は次のとおりである。原告は本件事故により右大腿骨々折の傷害を負い、ただちに富士吉田市所在の赤坂外科医院に入院し、同病院に昭和四六年一一月中旬まで入院し、骨折部の手術を受けたが、骨の癒合が十分でなく、かつ同病院が両親の住所地(名古屋市)から遠いため、昭和四六年一一月一八日国立名古屋病院に転入院したが、すでに右大腿骨々髄炎を併発していたため、同年一二月一五日再手術を行ない、昭和四七年七月八日まで二三四日間同病院に入院して、同年七月一〇日から同年九月二〇日まで実日数五四日通院し、その後手術部の金属を取り除くため同年九月二一日から同年一一月一六日まで五七日間入院し、さらに同年一月一七日から翌昭和四八年三月八日まで実日数六六日通院したものである。右治療期間中の治療費は、赤坂外科医院分は被告屋城において支払済であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば国立名古屋病院における入通院治療費は合計金三三万二三一九円であることが認められる。

被告屋城は右国立病院における再手術は赤坂病院における医療過誤によると主張するが、右主張を科学的に裏づけるに足る証拠はなく、かえつて〔証拠略〕の内容に照らせば、赤坂外科医院において医療過誤と評価すべきものは有しないことが明らかで、右主張は採用できない。

(2)  附添看護費用 金八万九九四〇円

大腿骨々折の手術の際には患者に附添看護が必要であることは当裁判所に顕著な事実であるところ、〔証拠略〕によれば原告は前記の昭和四六年一一月一九日より同年一二月三〇日までの国立名古屋病院における入院期間中の職業附添人の附添看護費用金八万九九四〇円を支出したことが認められる。

(3)  重複する学費の支出に基く損害 金四五万六〇〇〇円

〔証拠略〕によれば原告は前記のとおり本件事故当時昭和大学薬学部一年生であつたところ、本件事故による負傷のため昭和四八年三月まで通学ができずそのため二年間留年し、かつ昭和四七年度、昭和四八年度の学費等通学していなくても最小限支払わなければ退学とみなされる費用合計金四五万六〇〇〇円の支出を余儀なくされたものであることが認められる。右支出は本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

(4)  慰謝料 金二〇万円

以上認定の事故の態様、原告の傷害の部位程度、〔証拠略〕により認められる原告の後遺症の程度(正座が困難、階段の昇り降りが困難等の障害が残存するが、他方スポーツマンの原告が卓球の試合ができるといつた面もあり、その程度は必ずしも高度ではない。)を総合し、かつ前記の同乗の経過(無理に乗りこんだとの事情は特にうかがえないものの、被告屋城の未熟な運転を知りつつ同乗し、かつ雨天下の高速運転も特に阻止していないこと等)を考慮して慰謝料として金二〇万円を認容するのが相当である。

(5)  弁護士費用 金一〇万円

本件訴訟の経過、難易、認容額等を総合すると本件事故と相当因果関係ある弁護士費用として金一〇万円を認容するのが相当である。

四  結論

よつて、原告の本訴請求のうち被告らに対し各自金一一七万八二五九円および内金一〇七万八二五九円に対する昭和四八年五月一日付請求の趣旨および訂正申立書送達の日の翌日である昭和四八年五月一一日から、内金一〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言については同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

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