大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和47年(ヨ)858号 判決

申請人

野田吉章

右訴訟代理人

山本卓也

被申請人

豊田自動織機労働組合

右代表者

生川俊夫

主文

申請人が被申請人の組合員としての権利を行使し得る地位にあることを仮に定める。

申請費用は、被申請人の負担とする。

理由

一、申請の趣旨および申請の理由は、別紙記載のとおりである。

二、よつて按ずるに、疎明資料によれば次の事実が一応認められる。

(一)  被申請人は、会社の従業員をもつて構成している労働組合であり、申請人は右会社に昭和四一年四月入社し、同年七月被申請人に加入し、それ以来現在まで組合員であること。

被申請人と会社との間には、ユニオンショップ協定が結ばれており、組合規約第八条は、組合員が会社の従業員でなくなつたときは、その日から組合員でなくなること、但し、会社に解雇された場合、組合がその解雇を承認しないときは、いぜんとしてその者は組合員とする旨規定していること。

(二)  申請人は、昭和四五年一〇月一〇日会社より、同年九月三〇日会社を退職した旨の意思表示を受けたが、これに対し同年一一月一三日会社を相手取り地位保全の仮処分を名古屋地方裁判所に対し申請したところ、同裁判所は、昭和四六年一一月二九日申請人の従業員としての地位を仮に定める旨の仮処分判決をなしたこと。

(三)  被申請人は、会社が申請人に対しなした前記退職の意思表示につき、協約ないし従来の労使慣行に照らし、疑義が存するとなし、これを承認しない方針をとつたが当時被申請人の執行委員であつた申請人の組合員としての権利行使について昭和四五年一〇月一九日執行委員会を開催し、「法廷で一定の結論が出るまでは野田執行委員の身分を現状のまま凍結し、組合員としての権利、義務の行使を留保する形で裁定をまち、従業員としての地位が保障されれば当然、正常な姿に戻すこととする。」旨の原案を決定し、同月二三日の第四回代議員会において右原案を承認した(以下「本件処分」という)が、前記仮処分判決がなされた後である昭和四七年七月一四日執行委員会を開催し「本件処分にいう法廷での一定の結論とは、本案訴訟の判決を意味するから本訴の判決がおりるまで、本件処分のとおり申請人の組合員としての権利、義務を凍結状態にしておく。」旨の原案を決定し、同月一七日の代議員会において右原案を承認したこと。

三以上の事実によれば、本件処分は、要するに申請人の組合員としての権利、義務を暫定的に凍結状態におくというものであつて、その内実は事実上の権利停止処分に外ならないことは明らかである(疎明資料によれば、被申請人規約第八〇条は「組合員にして次の各号の一に該当するものは譴責、解職、権利の停止又は除名の処分をする、除名処分については代議員会において十分調査し、総会又は大会に詳細な説明をし、全員投票によつて決定する。1組合の規約及び決議に違反したもの、2組合の統制を紊したもの、3故なく組合費を3カ月以上滞納したもの、4その他組合の目的に違反したもの」旨規定されていることが一応認められ、本件処分は、直接には右第八〇条に規定する各懲戒処分のいずれにも該当しないがその効果は権利停止処分と同一であることは明らかである。)。

従つて、このような組合員としての重大な権利制限を伴う処分を組合員に対しなすについては、組合規約上同条所定の1ないし4の事由ないしこれに準ずるような事由の存することを要するものと解するのが相当である。

ところが、申請人に右のような事由が存することを認めるに足りる疎明は何ら存しない。

思うに、被申請人が、本件処分をなすに至つた主たる理由は被申請人としては会社の申請人に対する前記退職の意思表示に疑義が存するとして、これを承認しなかつたものの、申請人と会社との間には従業員の地位の存否をめぐつて現に訴訟が係属中であり、右訴訟の成行いかんによつては申請人は従業員の地位を喪失し、組合員の地位をも失う可能性が絶無とは言えず、かかる不安定な地位にある申請人に対し組合員としての権利を行使させることは適当ではないから暫定的に本件処分によりその権利行使を凍結状態におくのが妥当であるというにあることが疎明資料により推認できる。

しかしながら、従業員としての地位が申請人と会社との間で係争中であるという一事のみを以つて直ちに申請人の組合員としての権利行使が組合の統制をみだし、又はみだすおそれがあるとは即断できないのであるから、いかに申請人が会社との間係において不安定な地位にあるからとて、それだけの理由で団結権によつて保障されている組合員の組合活動上の権利を全面的に制約する本件のような処分をなすことは許されないこと多言を要しない。

従つて、本件処分は、事由を欠き無効というべく、申請人は本件処分以後においても被申請人の組合員としての権利を行使しうる地位にあるものというべきである。

(付言するに、労働組合の懲戒権、統制権行使の適否は、原則的には組合内部における自律的な審査、修正に委ねらるべきではあるが、他方組合員の組合活動に参加しうる地位も団結権によつて保障されているのであるから、かかる地位は私権として保護されなければならない。この見地からすれば、労働組合の懲戒権、統制権の行使もそれが前記のような組合員の有する団結権を侵害したと認められるに至つたときは内部自律権の範囲をこえたものとして違法となり、司法審査の対象となると解すべきである。

従つて、本件処分は、司法審査の対象となることは明らかである。

被申請人は、本件において提出した答弁書において、本件処分は司法審査の対象とならない旨主張しているが、右主張は、以上の理由により採用できない。)

四つぎに、疎明資料によれば、被申請人は、昭和四七年七月一八日から八月一八日にかけて各種の組合役員の定期改選を行う予定であることが一応認められ、申請人の提起する組合員としての地位確認等の本案判決の確定をまつていては、申請人は右組合役員への立候補や選挙権の行使を妨げられ、回復し難い損害を蒙ることは明白である。

五、よつて本件仮処分申請は理由があるから、申請人が被申請人の組合員として権利を行使し得る地位にあることを仮に定めることとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(松本武 渕上勤 植村立郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例