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名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)41号 判決 1972年2月08日

原告 カトウ建設株式会社

右代表者代表取締役 加藤幸男

右訴訟代理人弁護士 片山主水

被告 名古屋法務局田原出張所登記官 鹿内繁蔵

右指定代理人 服部勝彦

<ほか二名>

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告の請求の趣旨

1  名古屋法務局田原出張所昭和四五年五月七日受付第二七三四号先取特権更正登記申請事件につき、被告が昭和四五年五月一一日なした却下決定のうち所在更正部分の決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1  原告は訴外株式会社蔵王山観光ホテルより愛知県渥美郡田原町大字田原字蔵王一番地の一にホテル「蔵王山ホテル」の建築を依頼されたので、昭和四四年九月四日名古屋法務局田原出張所に対し、同年七月一〇日新築工事請負契約費用の不動産工事の先取特権の発生を登記原因として、将来建築されるべき右建物に対する不動産工事の先取特権の保存登記を申請したが、その際過誤により、登記申請書に将来建築せらるべき建物の所在地番を実在しない同所五一番地の一と記載した。よって同出張所は昭和四四年九月四日将来建築せらるべき建物の所在地番を「蔵王五一番地一」と表示して右登記を了した。

2  よって、原告は右誤りを是正すべく、昭和四五年五月七日右出張所に対して「蔵王五一番地一」を「蔵王一番地一」とする更正登記申請をなしたが、被告は同年同月一一日更正前後における建物の表示に同一性を欠くとの理由により右申請を却下した(以下「本件処分」という。)。

3  原告はこれを不服として昭和四五年六月一五日名古屋法務局長に対して本件処分の取消を求める審査請求をなしたが、昭和四五年八月三一日請求棄却の裁決がなされ、右決定は同年九月五日原告に送達された。

4  建物の表示の同一性に変更を来たすことはないのに、前記更正登記申請を却下した本件処分は違法であるから、その取消を求める。

二、請求原因に対する被告の答弁

1  請求原因1の事実中、昭和四四年九月四日原告の申請により、新築工事請負契約費用の不動産工事の先取特権の発生を登記原因とし、建物の所在地を渥美郡田原町大字田原字蔵王五一番地一として将来建築されるべき建物に不動産工事の先取特権の保存登記をなした事実は認めるが、その余は不知。

2  同2および3の事実はいずれも認める。

3  将来建築されるべき建物の所在地番「蔵王五一番地一」を「蔵王一番地一」に更正するときは、建物の表示の同一性を欠くことになるから、原告の更正登記申請は不適法である。よってこれを却下した本件処分は適法である。

第三、証拠関係≪省略≫

理由

一、原告が昭和四四年九月四日名古屋法務局田原出張所に対し、新築工事請負契約費用の不動産工事の先取特権の発生を登記原因とし、建物の所在地を愛知県渥美郡田原町大字田原字蔵王五一番地一として将来建築されるべき建物に不動産工事の先取特権の保存登記を申請し、同日その旨の登記(以下本件登記という)がなされたこと、原告が昭和四五年五月七日右出張所に対し、本件登記の建物の所在地番「蔵王五一番地一」を「蔵王一番地一」に更正する旨の更正登記申請をなしたが、被告がこれを却下したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によれば、将来建築せらるべき建物は蔵王一番地一に建築される予定であったことが認められる。そうすると本件登記には過誤により、原始的に建物の表示に錯誤があったものというべきであるが、表示の更正登記は、登記に錯誤又は脱漏があるすべての場合に許されるものではなく、更正前の登記と更正後の登記を比較して見て、表示された不動産の同一性に変更がないと認められる場合にのみ許されるものである。

然るところ「蔵王五一番地一」所在の建物と「蔵王一番地一」所在の建物とは、登記簿の記載だけを比較して見れば全く別個な建物であるから、建物の所在地番「蔵王五一番地一」を「蔵王一番地一」に更正すると、表示された不動産の同一性が変ることになる。よって原告の更正登記の申請は不適法であるから、これを却下した被告の本件処分は適法である。

三、以上の理由により原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本重美 裁判官 吉田宏 千葉勝郎)

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