大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)19号 判決

原告 田島健昭

被告 名古屋中税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告が原告の昭和四〇年度分所得税につき同四二年二月二六日付でした総所得金額を七九二万七、九二六円とする更正処分および過少申告加算税額一二万九、五〇〇円の賦課決定(但し昭和四五年一月二二日付の裁決で一部取消された後のもの)は取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  原告は、昭和四一年三月一日、被告に対し、同四〇年度分の所得税につき、次のとおり確定申告した。

総所得金額 二〇六万四、七一九円

(内訳) 給与所得     五四万八、五五八円

雑所得     一五一万六、一六一円

(二)  被告は、次のとおり、更正処分および過少申告加算税の賦課決定をし、昭和四三年二月二六日付で、その旨原告に通知した。

総所得金額 一、〇七〇万一、三八八円

(内訳) 給与所得     五四万八、五五八円

雑所得   一、〇一五万二、八三〇円

過少申告加算税額        二〇万一〇〇円

(三)  原告は、同年三月二五日、被告に対し、前記更正処分および過少申告加算税の賦課決定につき異議申立をしたところ、被告は、次のとおり、同処分の一部を取消す決定をし、昭和四三年六月二五日付で、その旨原告に通知した。

総所得金額 九九七万七、八七八円

(内訳) 給与所得     五四万八、五五八円

雑所得     九四二万九、三二〇円

過少申告加算税額        一八万七〇〇円

(四)  原告は、更に、昭和四三年七月一〇日、名古屋国税局長に対し、審査請求をしたところ、同国税局長は、次のとおり前記更正処分および過少申告加算税の賦課決定の一部を取消す裁決をし、昭和四五年一月二二日付でその旨原告に通知した。

総所得金額 七九二万七、九二六円

(内訳) 給与所得     五四万八、五五八円

譲渡所得    七三七万九、三六八円

過少申告加算税       一二万九、五〇〇円

(五)  そこで、原告は、前記更正処分および過少申告加算税の賦課決定(但し昭和四五年一月二二日付の裁決により一部取消された後のもの、以下本件処分という)の取消を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因事実は認める。

三、抗弁

1、給与所得金額五四万八、五五八円は、原告の確定申告のとおりである。

2、譲渡所得金額七三七万九三六八円の認定について。

(一) 原告は、

(イ) 昭和三八年三月二八日、訴外吉川マサ外二名から取得し、所有した別紙目録記載(A)の土地(以下本件土地(A)という)を、昭和四〇年三月一日、訴外神谷重吉に対し、二、五七八万八、〇〇〇円で譲渡し、

(ロ) 昭和三八年四月二五日、訴外鈴木弘外五名から取得し所有した別紙目録記載(B)の土地(以下本件土地(B)という)を、昭和四〇年五月六日、訴外山下睦に対し、二四二万三、五〇〇円で譲渡した。

(二) ところで、所得税法第三三条第二項にいう「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」とは、その者の既往における資産の売買の回数、数量または金額、売買の相手方、売買のための資金繰り、売買を行うための施設、売買に当つての広告、宣伝等の方法、当該譲渡にかかる資産の取得および保有の状況等を綜合的に勘案して判定すべきである(昭和四〇年二月二日付国税庁長官通達)。

これを本件について検討するに、

〈1〉 譲渡回数、昭和四〇年までに三回(昭和三九年に一回と昭和四〇年に本件譲渡二回)。

〈2〉 原告は、地方公務員であつて、不動産売買につき業とする者に準ずる程度の継続的取引をしているとも認められないこと。

〈3〉 本件土地取得後、造成等の加工をすることなく、譲渡していること。

等を勘案すると、本件土地(A)(B)の譲渡は、営利を目的として継続的に行われたものとは言えず、譲渡所得の基因となる行為にほかならない。

なお、原告は、昭和三九年の土地の譲渡につき、その譲渡による所得は、被告より雑所得として認められていると主張するが、右は昭和四五年一月三一日付(一月二二日付の誤記と認む)の裁決により雑所得を譲渡所得として更正され確定している。

(三) 別紙抗弁2の(三)記載のとおり

なお、原告主張の支払利息は、取得費、譲渡に要した費用或いは必要経費に該当しない。即ち、本件土地は、不動産業者等が取得するたな卸資産でなく、また不動産所得や事業所得を生ずる目的でもなく、原告が右土地の値上り益を得るための単なる投資であることから考え、自己使用の資産である。ところで、固定資産取得のために要した借入金の利息については、当該固定資産を取得するまでの金額は取得価額を構成するが、取得後継続的に支払われた借入金利息は、当該固定資産の維持管理費となり、譲渡所得計算上の取得費、譲渡に要した費用、或いは各種所得計算上の必要経費には該当せず、単に自己の居住用土地・家屋の固定資産税等と同様、その資産を維持するための家計費支出にあたるものである。原告主張の支払利息は、いずれも、本件土地(A)および(B)の各取得後、それぞれ支払われたものであり、取得費、譲渡に要した費用或いは必要経費に該当しない。

よつて、原告の譲渡所得金額は七八三万九、六七八円となり、被告が行なつた本件処分による譲渡所得金額七三七万九、三六八円は、右金額の範囲内であるから、結局、本件処分は適法である。

四、抗弁の認否

(一)  抗弁1および2の(一)の事実は認める。

(二)  抗弁2の(二)の事実中、原告の譲渡回数及びその年度、原告が地方公務員であることは認め、その余は争う。

原告の土地の譲渡回数は、昭和四〇年においては二回であつて、その回数は少ないが、右譲渡は継続的な意思で営利を目的として行われた。また、本件土地(B)の取得後、同土地を整理し、商品化させている。また、原告の昭和三九年の土地の譲渡につき、その譲渡による所得は、被告より雑所得として認められている。

以上の事実により明らかなように、本件土地の譲渡による所得は雑所得であり、譲渡所得ではない。

(三)  別紙抗弁2の(三)の認否記載のとおり。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因、抗弁1、抗弁2の(一)、抗弁2の(二)中、原告の土地の譲渡回数が、昭和三九年に一回と昭和四〇年に二回の合計三回であり、原告が地方公務員であること、抗弁2の(三)中、b、e、f、i、k、l、o、q、uの各事実は当事者間に争いがない。

二、本件所得の種類について

本件所得が本件土地(A)(B)の譲渡により生じたことは当事者間に争いがない。従つて、所得税法第三三条第一項に該当するので、以下、同条第二項に言う除外事由の有無につき検討する。

本件土地の譲渡がたな卸資産の譲渡でないことは明らかである。そこで、本件所得が、同項に所謂「営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得」に該当するかにつき考えるに、その判断基準は、(一)譲渡人の既往における資産の売買回数、数量または金額および売買の相手方、(二)売買のための資金繰り、(三)売買を行うための施設、売買に当つての広告、宣伝等の方法、(四)当該譲渡にかゝる資産の取得および保有の状況等を綜合して判断するのが妥当である。

そこで、右の観点より本件を検討するに、

(一)  原告の譲渡回数が、昭和三九年に一回、同四〇年に二回の合計三回に過ぎないこと、本件土地(A)(B)の合計面積が六二一・〇三平方米であり、その売却合計価額が二、八二一万一、五〇〇円であること、本件土地(A)(B)の買主は各一人であることは当事者間に争いがない。

(二)  資金繰りの点は、本件土地(A)(B)購入の際については後記認定のとおりであり、とくに定期的または大量の資金の借入と言つた営利目的の継続的資産の譲渡を窺わせる資金繰りは認められない。

(三)  原告が地方公務員であることは当事者間に争いがなく、また、本件全証拠に照らすも、原告が仲介人に本件土地(A)(B)の売却を依頼する以外に、何か特別に売却のための施設、売却に当つての広告、宣伝等をなしたこと、原告が不動産売買を業とする者に準ずる程度の継続的取引をしていたこと、を認めるに足らない。

(四)  本件土地(B)につき、原告は、山林整地を行つたと主張するけれども、証人蒲谷章の証言及び弁論の全趣旨によりその成立の認められる乙第八ないし第一〇号証、第一一号証の一、二によれば、原告が訴外山下睦に本件土地(B)を譲渡した当時、右土地は、山の傾斜地で、雑木がはえたまゝであり、何等造成等加工されていないことが認められ、右認定に反する前記乙第一一号証の一、二によりその成立の認められる甲第七号証は採用出来ず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

なお、原告は、昭和三九年の土地の譲渡につき、その譲渡による所得は、被告より雑所得として認められていると主張するが、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告主張の処分は、昭和四五年一月二二日付の、名古屋国税局長の裁決により、譲渡所得と更正されていることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実を綜合すると、本件土地(A)(B)の譲渡が営利を目的として継続的に行われたものであるとは到底認め難く、従つて、所得税法第三三条第二項の所謂除外事由は、本件所得においては認められない。

よつて、本件所得は譲渡所得と認めるのを相当とする。

三、抗弁2の(三)の事実について

1、dの事実について

証人安井一夫の証言によりその成立の認められる乙第二号証の一ないし三および同証言を綜合すれば、本件土地(A)の買入価額が一、五八四万六、八〇〇円であることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

2、gについて

原告は、支払利子は取得費或いは譲渡に要した費用として、控除すべきであると主張するが、所得税法第三八条第一項によれば、「譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。」とされている。

そこで、借入金の利息については当該不動産を取得するまでに発生したものは、資産の取得に要した金額として取得費を構成するものと解するのを相当とするが、取得後継続的に発生して来る借入金利息については、もはや、資産の取得による利益を受けている以上、取得に要した金額とは言えず、当該不動産の維持管理費とみるべきものであり、また、設備費及び改良費に該当しないものである以上、何等取得費を構成しないものと解するのを相当とする。

右の観点より、gにつき検討するに、原告主張の金二、〇〇〇万円の借入期日は、昭和三八年三月二九日であり、それは原告が本件土地(A)を購入した昭和三八年三月二八日より明らかに後のことである。従つて、その余の事実を判断するまでもなく、原告の右主張は主張自体失当である。

以上の事実により、cの取得費が、一、六八八万九、〇二五円であることが認められる。

3、jについて

原告は、仲介手数料として丸山土地株式会社に金三六万円、東亜不動産株式会社に金八〇万円、桜商事に金一四万二、〇〇〇円、合計一三〇万二、〇〇〇円支払つたと主張し、成立に争いのない甲第一号証の四ないし六、証人島崎英三、同田島儀兵衛(一回目)の各証言によりその成立の認められる甲第一号証の七および右各証言には被告の右主張に副う部分があるけれども、右各証拠は、いずれも証人伊藤義雄、同山下富廣、同安井一夫、同蒲谷章の各証言により、その成立の認められる乙第四、第五号証、第八号証、第一二、第一三号証および右各証言に照らしてにわかに採用し難く、むしろ、右各証拠を綜合すると、〈1〉桜商事に支払われた金一四万二、〇〇〇円は、原告から丸山土地株式会社に支払われた金三七万円のうちから右丸山土地の山下が桜商事の伊藤に支払つたものであつて、原告が丸山土地への支払のほかに桜商事に支払つたものではないこと、〈2〉東亜不動産は、仮に原告の父訴外田島儀兵衛より本件土地の売買につき仲介を依頼されたとしても、同不動産による仲介は、結局不調に終つたものである以上、原告は、同不動産に対し、何等仲介手数料を支払うべき義務を負わないものであり、従つて、仮に原告が同不動産に仲介手数料を支払つたところで、それは何等取得費を構成すべき仲介手数料とは認められないことが窺われ、他に被告の右主張を認めるに足る証拠はない。

よつて、jの仲介手数料は、被告の認める三七万円である。

4、mの雑費について

原告は、雑費が六万三一五円であると主張し、証人田島儀兵衛(一回目)の証言により成立の認められる甲第二号証の一ないし八および右証言には右主張に副う部分があるけれども、前記甲第二号証の一ないし八によると右金六万三一五円は全て飲食代であり、何ら本件土地(A)の譲渡に必要不可欠なものとは言えないから、譲渡に要した費用とは解せられず、他に原告の主張を認めるに足る証拠はない。

よつて、mの雑費は〇円である。

以上の事実から、hの譲渡に要した費用は、一四九万九、二三五円であり、従つて、nの譲渡益は七三九万九、七四〇円であることが認められる。

5、rおよびsについて

証人安井一夫の証言により成立の認められる乙第五号証、第七号証の一、二および同証言によれば、仲介手数料は、本件土地(B)の買入れ価額(一七〇万三、〇〇〇円)の三パーセント、即ち五万一、〇九〇円であることおよび雑費が六、七七二円であることが認められ、右認定に反する甲第四号証はその成立を認めるに足らず、証人山下富廣および同田島儀兵衛(一回目)の各証言によりその成立の認められる甲第五号証および右の各証言は前記各証拠に照らし採用出来ず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

6、tの支払利息について

支払利息の取扱いについては前述したとおりである。

ところで、原告が本件土地(B)を取得したのは昭和三八年四月二五日であることは当事者間に争いがない。

原告は、昭和三八年四月五日、訴外田島儀兵衛より、金三三〇万円を、日歩二銭六厘で借用したと主張し、成立に争いのない乙第七号証の一、証人田島儀兵衛(一、二回目)の証言により成立の認められる甲第三号証の一、三、第六号証、第八号証および右各証言には原告の右主張に副う部分があるけれども、訴外田島儀兵衛の右貸金の借用方については、前記証拠自体一方では〈1〉東海銀行大須支店および大垣共立銀行大曾根支店から借入れたとあり、他方では〈2〉瀬戸信用金庫から株式会社田島商店が借用した金額のうちから借用したとあり相矛盾しており、また、成立に争いのない乙第一五、第一六号証および証人田島儀兵衛(一回目)の証言によれば右〈1〉の銀行からの各借入金は本件には関係のないことが認められ、右〈2〉の金庫からの借入金が原告の本件土地(B)の取得資金となつたことは前記各証拠のみをもつてしては未だ認めるに足らず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

とすれば、訴外田島儀兵衛が原告に貸与した金の借入先が認定できないうえ、右訴外人と原告が実の親子であることを考慮に入れると、仮に右両名の間に原告主張の如き金銭の貸借があつたとしても、直ちにこれのみで原告主張の如き利息の約定の付されていたものとは認め難い。

よつて、原告の右主張は理由がない。

以上の事実により、pの取得費が一七六万八六二円であることおよびvの譲渡益が五八万九九三八円であることが認められる。そうして、本件譲渡所得が金四五万円以上であることは明らかであり、従つて、所得税法(昭和四〇年三月三一日法三三号)第三三条第四項によりwの特別控除額は金一五万円である。

以上の事実より、aの譲渡所得金額は七八三万九、六七八円であることが認められる。

よつて、原告の総所得金額は、右譲渡所得金額に争いのない前記給与所得金額を合算した八三八万八、三三六円であるということになる。

四、従つて、原告が本件処分において認定した原告の総所得金額は七九二万七、九二六円であつて、右原告の総所得金額の範囲内であり、また、右七九二万七、九二六円を基準として算出される過少申告加算税額は一二万九、五〇〇円であり、八三八万八、二三六円を基準として算出されるそれは明らかに右一二万九、五〇〇円をこえるものであるから、結局、被告の本件処分は適法であり、従つて、原告の本件処分の取消を求める本訴請求は理由がないので、失当として棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 越川純吉 丸尾武良 植村立郎)

(別紙)抗弁2の(三)の主張とその認否〈省略〉

別紙目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例