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名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)1614号 判決

原告 加藤栄一

右訴訟代理人弁護士 南館金松

同 南館欣也

被告 林茂男

同 水野克秀

右両名訴訟代理人弁護士 高木修

主文

(一)被告らは原告に対し各自金三〇〇万円並之に対する昭和四五年一一月二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うこと。

(二)原告その余の請求を棄却する。

(三)訴訟費用は被告らの負担とする。

(四)原告が各被告に対し各金六〇万円宛の担保を供する時には本判決は主文第一項に限り当該被告に対し仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は

「(一)被告らは原告に対し各自金三〇〇万円並之に対する本件訴状送達の日の翌日以降完済迄年五分の割合による金員を支払うこと。

(二)訴訟費用は被告らの負担とする」

旨の判決並仮執行の宣言を求め請求の原因として

一、昭和三七年四月一日、原告は被告林より同人所有の別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という)を体育器具製造工場の敷地として期間の定なく賃料年額八万四〇〇〇円の約束で借受け右土地上に木造トタン葺平家建工場を建築所有して体育器具製造販売業をいとなんできた。

昭和四二年一月一一日原告は個人営業を会社組織に改め東洋体育工業株式会社を設立した。

その後は原告は右工場を右会社に使用させてきたが、会社といっても実質は個人営業とかわりはなかった。

二、原告と被告林との間の右借地契約の賃料は昭和四〇年以降年額一〇万円に増額され、又、昭和四一年二月一五日には被告の求めに応じて保証金五万円を差入れた。

三、被告水野は昭和四三年から原告を資金援助していた者であるが昭和四四年五月頃から訴外会社の経営面にタツチするようになり原告や原告の妻を右会社から放逐しようとしだしたので原告と不和になった。

四、右昭和四四年五月頃、被告水野は自己のかいらいである訴外長谷川好雄を同道して被告林方を訪問し、訴外会社は倒産するから本件土地についての原告との間の賃貸借契約を解約して右訴外人に賃貸してほしいと申述べ、被告林も之に応じて右同日原告に無断で本件土地を賃料月坪(三・三平方米)一〇〇円で右長谷川に賃貸した。

而して被告水野は本件土地上に鉄骨造スレート葺平家建工場を所有し、原告所有の地上家屋(請求原因一、記載の工場)を不法に取毀して本件土地を使用占有して居り原告が本件土地を使用するのを妨害して居る。

被告林も原告に対し賃貸借契約は解約したから本件土地を使用させないと言明している。

五、之を要するに被告林は賃貸借契約に基づき原告に本件土地を使用占有せしむべき義務があるのに昭和四四年五月頃右土地を訴外長谷川に二重に賃貸引渡したため原告に対する債務は履行不能となったから原告は右被告の履行不能を理由に本件訴状を以て同被告に対し契約解除の申入れをなし、右訴状は昭和四五年六月二九日に同被告に到達した。

仮りに右解除の通告が無効としても、原告は昭和四五年一〇月二二日に被告林に到達した内容証明郵便を以て同月三一日迄に本件土地を原告に使用せしめるよう催告し、かつ右期間を徒過した時は原告と同被告との間の本件土地賃貸借契約を解除する旨の(条件附解除の)意思表示をしたが同被告は右催告期間内に履行しなかったから原告と同被告との間の本件土地賃貸借契約は同年一一月一日を以て適法に解除された。

六、原告は被告林の前記債務不履行(履行不能又は履行遅滞)により本件土地の借地権の交換価額相当の損害を蒙ったからその賠償を求める。

本件土地の価格は現在三・三平方米当り金二万五〇〇〇円を下らず、したがって土地全体の価額は七一〇万円となるから賃借権の価格を更地価格の二分の一とみても三五五万円となる。よって原告は右損害の内金三〇〇万円の限度で賠償を求める。

七、又、被告水野が本件土地の賃借人は原告であり将来も本件土地を使用する必要あることを知りながら、被告林をそそのかして自己のかいらいである訴外長谷川との間に本件土地の賃貸借契約を締結させ自ら本件土地を使用占有するは原告の賃借権に対する権利侵害であり不法行為者として原告に対し前同額の賠償責任がある。よって原告は被告水野に対しても同額の損害金支払請求をなすものである。と述べ、抗弁事実を否認した。〈立証省略〉

被告両名訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として請求原因事実中、原告が昭和三七年中に被告林より同人所有の本件土地を賃借して体育器具製造販売業をいとなんでいたが、昭和四二年一月一一日に原告は個人営業を会社組織に改ため東洋体育工業株式会社を設立したこと、被告水野が昭和四三年から原告を資金援助したこと、昭和四四年五月頃被告水野が被告林と面談して本件土地に関する賃貸借契約を合意解約したこと、現在被告水野が本件土地上に鉄骨造スレート葺平家建工場を所有すること、原告主張の内容証明郵便が被告林方に到達したこと、は之を認めるがその他の点はすべて之を争う。と述べ、抗弁として

(イ)昭和四二年に東洋体育工業株式会社が設立されて以来、本件土地の賃借権は被告林承諾の下に原告より右会社に移転せられ、以後賃料も右会社が支払って来たものであるから原告の賃借権の存在を前提とする本訴請求は失当である。

と述べ

(ロ)仮りに原告に賃借権があったとしても原告は本件土地を訴外会社に転貸していたことになり、而もその転貸料は被告林に支払うべき賃料と同額であったから、原告が賃借権を有することにより得る利益は皆無である。よって右賃借権喪失により原告が蒙る損害はあり得ない。

(ハ)加え、原告は既に一方的に賃貸借契約を解除して居り、被告林は原告との賃貸借契約の終了を望んでいるのだから、現在では原告の賃借権は消滅している。よってこのため原告が蒙った損害は皆無である。

と反駁した。〈立証省略〉

理由

被告林所有の別紙目録記載の土地を昭和三七年中に原告が賃借したことは当事者間に争いのないところである。

被告は右賃借権は被告林承諾の下に原告より訴外東洋体育工業株式会社に譲渡されたと主張するが右事実を認むべき証拠がない。

〈証拠〉によると被告水野が訴外会社破産管財人から本件土地上の家屋をとりこわし値段よりは高い二四〇万円で買取っていることは認められるが、そのことは必ずしも訴外会社が本件土地につき借地権を有して居り被告水野が借地権づきで訴外会社破産管財人より地上家屋を買受けたことを意味するものではなく、被告水野が右買受当時別途に被告林より本件土地を借受けて居て右買受家屋を継続利用できるためにかかる行動に出たものであることは右乙第一号証中他の部分の記載(「現在の賃借人は水野克秀である」)によっても明かである。又、右乙第一号証中「破産会社の工場敷地は賃借地であったが〈省略〉」なる記載は必ずしも、訴外会社が直接地主から賃借している趣旨に解さなければならぬ訳でもなく、原告から転借している趣旨に解しても何ら支障はない。成立に各争いない甲第二、第五号証は会社宛の賃料領収証になっているが〈証拠〉に照らすと、右は訴外会社の設立前に作成せられたものであることがわかるから、右は被告林の側で原告個人宛に記載すべき宛名を不正確に記載したものと解すべく、訴外会社賃借の証拠とすることはできない。而して他に被告主張事実を支持するに足る証拠はない。

然らば原告は本件土地につき賃借権を有していたと認むべきところ、原告本人、被告林茂男、同水野克秀の各供述の各一部によると、昭和四四年五月頃被告林は本件土地を訴外長谷川好雄に賃貸して同人に使用させ、続いて本件土地を被告水野に賃貸し、被告水野は之を占有使用して現在に至っていることを認め得て反証もない。

原告は第一次的に、被告林の二重賃貸により原告に対する賃貸土地を引渡すべき債務が履行不能になったと主張するが、二重賃貸の事実のみで賃貸人の債務の履行が社会的に不能となったとは認め難い(対抗要件の存否は明かでない。)から、原告の第一次的主張は之を排斥する。

しかしながら原告本人の供述、成立に争いない甲第九号証によると被告林は昭和四四年五月以後本件土地を長谷川好雄に、続いて被告水野に賃貸使用させて原告の使用を拒否していたので原告は昭和四五年一〇月二〇日附の内容証明郵便を以て被告林に対し同年同月三〇日迄に本件土地を原告に引渡し使用せしむべく催告し、かつ右期間内に履行なきことを停止条件とする条件附解除の意思表示をなし、右はその頃被告林方に到達したが同被告は期間内に履行しなかったことを認め得て反証もない。然らば本件賃貸借契約は被告林の履行遅滞により解除されたものであり、被告林は原告に対し右賃貸義務履行に代る損害の賠償をなすべき義務がある。

而して鑑定の結果によれば、本件解除が効力を生じた頃の昭和四五年一〇月三一日当時の本件土地の借地権の価額は三・三平方米当り一万五一六八円であると認められるから本件土地全体については計算上、金四〇一万二二一九円となり、被告林は原告に対しそのうち請求額の金三〇〇万円の損害金を支払うべき義務がある。

次に被告水野の責任につき考えるに同じく原告本人、被告水野克秀、同林茂男の各供述の各一部を綜合すると、被告水野は之より前原告の本件土地上における事業に協力して居り原告が本件土地の賃借権者であることは当然に知り又は知り得べかりしに拘わらず、昭和四四年五月頃、賃貸人である被告林をそそのかして訴外長谷川好雄に本件土地を二重に賃貸させ続いて自己において之を賃借して使用占有を続けた結果被告林をして原告に対する賃貸物引渡義務を怠らせ遂に原告をして本件土地の賃貸借契約を解消するの己むなきに至らせたことを認め得るものである。被告水野、同林の各供述中右認定に牴触する部分は措信しない。右被告水野の行為は原告の賃借権を違法に侵害するものというべく、被告水野は原告に対し本件賃借権の価額相当の損害金を支払うべき義務がある。

被告らは原告が賃借権を有したとしても之を同額の転貸料を以て訴外会社に転貸していたもので原告が本件賃借権を有することにより得る利益は皆無であったから右賃借権喪失により原告が被る損害はないと反駁するが、財産権である賃借権を喪失した以上その交換価値相当の損害を蒙ったとみるのが相当であり、右財産権により如何なる収益が挙げられていたかということは直接の関係がない。

また、原告が本件賃借権を喪失したのは直接には自ら申入れた契約解除によるものではあるけれども、原告が斯様に契約解除を申入れた理由は前示の如く被告水野の示唆により被告林が本件土地を訴外長谷川に続いて被告水野に二重貸しし、原告の使用を拒んでいるため己むなく解除に及んだものであるから、被告水野の加害行為により原告の賃借権が侵害され、被告林の債務不履行により原告が賃借権の価額相当の損害を蒙った、といって支障がない。

上記を綜合するに被告両名は各自原告に対し本件損害金三〇〇万円と之に対する昭和四五年一一月二日(解除の翌日)以降完済迄民事法定利率による遅延利息を支払うべき義務がある。よって原告の被告両名に対する本訴請求は、右記の限度につき正当として認容し他は失当として排斥し民事訴訟法第八九条第九二条但書第九三条第一項本文第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 夏目仲次)

〈以下省略〉

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