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名古屋地方裁判所 昭和44年(行ウ)53号 決定 1971年7月30日

愛知県稲沢市稲沢町藤塚九〇五番地

原告

加藤睦郎

右訴訟代理人弁護士

石原金三

同右

小栗厚紀

右石原金三訴訟復代理人弁護士

美和勇夫

愛知県一宮市明治通二丁目四番地

被告

一宮税務署長

右指定代理人

中村盛雄

同右

内山正信

同右

浦谷暲

同右

鈴木茂

主文

原告の訴の変更の申立を許さない。

申立費用は原告の負担とする。

理由

原告は訴状に基づき、被告が原告に対して昭和四三年七月五日なした昭和三八年分贈与税金九五五万二、六〇〇円および同加算税金九五万五、二〇〇円の賦課決定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、原告の親加藤清逸郎、同きぬは昭和四三年六月二七日一宮税務署長より呼出を受け出頭したところ、同税務署係官後藤永雄はあらかじめ一方的に調査した資料に基づき自ら昭和三八年分贈与税申告書に記入し、これに署名捺印することを強制的に求めてきたので同人らは右記載事項に反論する余地なくやむなくこれに応じた。被告は昭和四三年七月五日右申告に基づき昭和三八年分贈与税金九五五万二、六〇〇円(以下本税という)および同加算税金九五万五、二〇〇円(以下加算税という)を賦課決定処分し、原告にこれを通知してきた。原告は被告に対し同月二五日本税について更正請求、同年八月五日加算税について異議申立をなしたが被告は同年一一月二日それぞれ却下、棄却した。そこで原告は同年一二月二日被告に対し本税の右却下決定について異議申立、名古屋国税局長に対し加算税の右棄却決定について審査請求をなした。被告は同月二七日右異議申立を棄却したので原告は昭和四四年一月二七日名古屋国税局長に対し右棄却決定について審査請求をなしたが、同年七月一〇日前記加算税についての審査請求とともに棄却され、翌一一日裁決書が原告に送達された。しかし原告は昭和三八年中加藤清逸郎らから資産をその二分の一を超す価額にて買受けたことはあるが贈与を受けたことはなく、前記申告書の内容は明らかに事実と相違しており、被告の賦課決定処分は誤りであるから右違法な原行政処分の取消を求める。と述べると共に昭和四五年四月二一日付訴の変更申立書と題する書面により国を被告に追加し、さらに請求の趣旨第三項として原告は被告国に対し昭和三八年分贈与税金九五五万二、六〇〇円、同加算税金九五万五、二〇〇円、同利子税金六二万六、六〇〇円および同延滞税金三〇一万七、八〇〇円の各納税義務が存在しないことを確認する。第四項として被告国は原告に対し金六七九万一、八〇〇円およびこれに対する昭和四五年一月二三日より右完済に至るまで百円につき金二銭の割合による金員を支払え。と各追加し、請求の原因として、しかし本件贈与税の課税対象とされている加藤清逸郎と原告間の株式贈与は加藤きぬが原告と加藤清逸郎の全く知らぬまに原告名義に移転したものであり、右贈与契約そのものは原告および加藤清逸郎の意思にもとづかない無効なものである。よつて右株券贈与を対象とする贈与税その他の納税義務は原告に存しないものである。ところが右加藤清逸郎、同きぬは前記した如く何らの権限もなくまた原告の知なぬまに一宮税務署長に対して原告名義の贈与税の申告をなし、昭和四五年一月二二日現在贈与税として金五二〇万七、四〇〇円、同無申告加算税として金九五万五、二〇〇円、同利子税として金六二万六、六〇〇円、同延滞税として金二、六〇〇円を納付した。しかし右納付金は前記理由により過誤納であるので右金員の還付および右金員に対する国税通則法第五八条第一項所定の金員の支払を求める。と追加し、被告国の追加的変更は行政事件訴訟法第二一条によりその訴の同一性ある納税義務不存在確認および不当利得返還請求への訴の変更にもとづく当事者の交替的変更である。と述べた。

被告は本案前の答弁として、被告が原告に対して昭和四三年七五日なした昭和三八年度贈与税金九五五万二、六〇〇円の賦課決定処分の取消を求める訴を却下する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、理由として原告は被告の昭和三八年分贈与税金九五五万二、六〇〇円の賦課決定処分の取消を請求するも右の賦課決定処分は存在しない。即ち右贈与税債務の確定は昭和四三年六月二七日原告からの申告によるものであつて被告の処分によるものではない。と述べ、本案につき、被告が原告に対して昭和四三年七月五日なした昭和三八年分贈与税にかかる加算税金九五万五、二〇〇円の賦課決定処分の取消を求める請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として原告の昭和三八年分贈与税債務金九五五万二、六〇〇円は昭和四三年六月二七日提出にかかる期限後申告に基づいて確定されたもので、被告が国税通則法第六六条第一項の規定に基づき無申告加算税を賦課決定したことにはなんらの違法はない。と述べ、原告の行政訴訟事件法第二一条に基づく訴の変更について、賦課処分が初めから不存在であるにもかかわらず存在しない行政処分の取消を求める請求と金員の返還請求とは請求の基礎に同一性がない(行政処分が無効または取消された結果、金員の返還を求める場合とは全く異なる)から民事訴訟法の適用はもちろん、行政事情訴訟法第二一条の適用もない。と異議を述べた。

案ずると行政事件訴訟法第二一条第一項は裁判所は、取消訴訟の目的たる請求を当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体に対する損害賠償その他の請求に変更することが相当であると認めるときは、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、原告の申立により、決定をもつて、訴の変更を許すことができる。と規定している。而して贈与税及び加算税の賦課決定処分の事務が国に帰属することは明らかであるところ原告は被告一宮税務署長に対する右各処分の取消請求を国に対する右贈与税等の納税義務のないことの確認と既に過誤納した贈与税等の還付等の請求訴訟に変更することを申立てているのであるが、右各課税の基本たる贈与税は、原告の主張自体に徴するも、被告所説の通り、被告の処分により発生せるものでないことが明らかであるので原告の主張する右取消訴訟はその対象を欠き、これを国に対する損害賠償その他の請求に変更することは不可能であると共に、両者の請求の基礎は同一ではなく、従つて、請求の基礎に変更のないものともなし難く、更には原告は昭和四四年一〇月九日本件訴状を提出しながら漸く昭和四六年四月一六日午前一〇時の第九回口頭弁論の期日に右昭和四五年四月二一日付訴の変更申立書と同時にその陳述をなしたものでその外には何等弁論の行なわれていないことは記録上明らかであり、よつて同法同条同項が右訴の変更の便法を規定した所以が訴の変更により変更前の従前の訴訟手続によつて生じた法的効果を維持し、またそこに顕現された訴訟資料の利用を可能ならしめるという当事者の利益の保護と訴訟の経済を図らんとする配慮に出たものであることに鑑みると叙上認定説示せる如き場合に於ては本件請求を右のごとく変更することが相当であるものとは到底認められないのでいずれの点よりするも右訴の変更の申立を失当として許さないと解するのが相当である。

よつて民事訴訟法第八九条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小沢三郎 裁判官 日高乙彦 裁判官 長島孝太郎)

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