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名古屋地方裁判所 昭和43年(行ウ)52号 判決 1971年3月09日

名古屋市北区上飯田通一丁目三番地

原告

恵美龍雄

右訴訟代理人弁護士

小久保義昭

同市同区金作町四丁目一番地

被告

名古屋北税務署長

宮田勝吉

右指定代理人

中村盛雄

服部守

松井茂夫

内山正信

溝谷暲

右当事者間の審査請求に対する裁決取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告の求める裁判)

被告が、原告の昭和三九年分の所得税について、昭和四二年一一月二四日付でなした再々更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告の求める裁判)

主文同旨の判決。

第二、主張

(請求原因)

一、原告は、昭和三九年分の所得税につき、昭和四〇年三月一三日被告に対し別表(一)のとおり確定申告をなした。

二、ところが被告は昭和四一年一月八日別表(二)のとおり更正処分を、同年九月一七日別表(三)のとおり再更正処分を、更に昭和四二年一月二四日別表(四)のとおり再々更正処分(以下「本件処分」という。)をなした。

三、そこで原告は昭和四二年一二月一一日、本件処分につき被告に対し異議の申立をしたが、昭和四三年一月二三日被告は右申立を棄却する決定をなした。

四、原告はこれを不服として、昭和四三年二月八日訴外名古屋国税局長に対し審査請求をなしたが、同年六月二四日同局長は右請求を棄却する裁決をなした。

五、原告を名目上の主催者として昭和二六年三月四日より一八日迄東京大相撲名古屋本場所興行(以下単に「本件興行」という。)が開催されたが、その入場税の滞納整理のため訴外愛知県東新県税事務所長(以下「訴外所長」という。)は昭和三九年一一月一八日原告所有の別紙目録記載の土地家屋(以下「本件土地家屋」という。)に対し公売処分をした。本件処分は右公売処分により本件土地家屋が譲渡されたものとして、その譲渡所得三〇二万九三九円を原告の昭和三九年所得に計上してなされたものである。

六、しかし本件処分には次のような違法がある。

(一) 本件処分は無効な公売処分に基づくものである。すなわち、原告は昭和二六年四月末まで愛知県議会の議員であつたがその在職中、当時の名古屋市長より名古屋市立金山体育館の利用方法を考えるよう依頼を受け、種々考えた結果、当時の愛知県教育長と相談のうえ、原告が前売券入場税特別徴収義務者となつて「学校施設拡充費寄附興行東京大相撲名古屋本場所」と銘打つて、本件興行を開催することにした。しかして本件興業は、その純利益を学校の施設費にあてるため開催されたものであり、その前売入場券は愛知県で印刷され、愛知県教育長より発売事務担当者である愛知県、名古屋市両教職員組合に直接交付され、各小中学校長によつて売捌かれた。そして前売券入場税該当分六八九万六、八〇〇円は、右小中学校長が入場税還付予定分として留置してしまつた。

かように、原告は前売券入場税特別徴収義務者となつてはいるものの、本件興業の名目的主催者にすぎず、その実質上の主催者すなわち本件興行の利益を享受したのは愛知県教育委員会であつた。従つて実質所得者課税の原則に従い、愛知県教育委員会が、前売券入場税の納税義務を負うべきものであり、原告が同税の納付義務を負うべき筋合はないのに拘らず、訴外所長は原告に納付義務があるものとして公売処分をなしたものであるから、右公売処分は無効である。従つて本件土地家屋の譲渡が有効であり、譲渡所得があるものとしてなされた本件処分も違法である。

(二) 仮に譲渡所得があるとしても本件興行の前売券発売事務担当者である愛知県、名古屋市両教職員組合の書記長であつた訴外永平一美、同安藤正三は、前売券売上額中に含まれていた入場税該当分六八九万六八〇〇円を預り保管中、原告に対し事前の了解を得ることなく、これを愛知県下の各小、中学校へ配分してしまい、原告に対し返還をせず、本件譲渡所得が発生した昭和三九年度にその回収不能が確定的となつた。而して右回収不能による損失を旧所得税法(昭和四〇年法第三三号により改正される以前の法律。以下単に「旧所得税法」という。)第一一条の西の雑損控除として本件総所得より控除すれば、原告の所得は皆無となるのである。よつて被告のなした本件処分は所得がないのになされた違法なものであるから、右処分は取消されるべきである。

(被告の答弁および主張)

一、請求原因第一項ないし第四項記載の事実は認める。同第五項のうち、原告が名目上の主催者であることは否認するがその余の事実は認める。同第六項のうち、原告がその主張の日まで愛知県議会議員であつたこと、その主張の如き名称で本件興行をなしたこと、前売入場券を愛知県が印刷したことは認めるがその余は争う。

二、本件処分には何らの違法もない。

原告は、本件興行の前売券入場税納付義務を負わないから、納付義務があることを前提としてなされた公売処分は無効であり、従つて右公売による所得を譲渡所得と認定した本件処分も違法であると主張するが、訴外所長がなした本件土地家屋の公売処分と右公売による所得を譲渡所得と認定してなされた本件処分はそれぞれ別個独立の行政処分であるから、仮りに公売処分に何らかの違法があつたとしてもそれが取消されずに存続している以上、本件処分には何等影響がない。

また原告は入場税相当額六八九万六、八〇〇円を旧所得税法第一一条の四により雑損控除として昭和三九年分所得税の総所得金額から控除すべきであると主張するが、右入場税相当額は訴外永平一美、同安藤正三により横領されたものではない。

仮に横領の事実があるとしても、それは本件譲渡所得の発生とは直接関係のないものであり、かつ、旧所得税法第一一条の四に規定される雑損控除は、同法条に規定する雑損失の事実があるからといつて無条件に適用されるものではなく、同法第二八条に規定する要件即ち当該雑損失が生じた年分の確定申告書若しくは損失申告書に右雑損控除に関する事項の記載がある場合においてのみ適用されるのであるが、原告は本件係争年分たる昭和三九年分所得税の確定申告書に同法条の雑損控除に関する事項の記載をしていない。従つて、同法第二八条により本件課税処分に雑損の規定を適用する余地は全くなく、右法条の適用を主張する原告の主張は失当というべきである。

なお譲渡所得金額の計算は左のとおりである。

<1> 総収入金額 七〇二万六、〇〇〇円(本件土地家屋の公売換価代金)

<2> 取得価額 八三万四、一二一円

<3> 譲渡所得金額 六一九万一、八七九円(<1>-<2>)

<4> 譲渡所得の特別控除 一五万円

<5> 特別控除後の譲渡所得金額三〇二万九三九円(<省略>)

(被告の主張に対する原告の認否および主張)

一、被告主張事実のうち、本件土地家屋が被告主張の価格で売却されたことは認める。また譲渡所得金額の計算は争わないが、その余の事実は争う。

二、旧所得税法第二八条は、雑損控除に関する事項を記載することなく確定申告書を提出した場合は絶対に雑損控除が認められない趣旨ではなく、納税者が雑損事実につき別にこれを証明すればその控除が認められると解すべきである。

ところで本件係争年度たる昭和三九年分の所得税の確定申告書を被告に対し提出したのは昭和四〇年三月一三日であるが、原告は本件興行の実質的主催者ではなく、従つて入場税支払の義務はないから右入場税の滞納を理由としてなされた本件土地家屋に対する公売処分も違法であると考え、右公売処分の取消を求める訴えを同年二月一八日名古屋地方裁判所に提起したほどであつて、右公売処分によつて何らの譲渡所得も発生せず、右前売券入場税該当分が訴外永平一美、同安藤正三により横領されたことによつても、直接に損害を蒙らないと考えていたので、確定申告書に雑損事項として右損失を記載しなかつたのである。

かかる事情がある限り、確定申告書に雑損事項として記載しなくても、前記二名の横領行為によつて前売券入場税該当部分につき原告が損害を蒙つた以上、右損失は雑損控除として旧所得税法第一一条の四により総所得金額より控除されるべきである。

第三、証拠

(原告)

甲第一ないし第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一ないし二四、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一、二、を提出し、乙第一号証の成立は認めると述べた。

(被告)

乙第一号証を提出し、甲第三号証、第七号証の一三、第七号証の一七ないし二〇の成立は知らない。第七号証の二四、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一、二の各管署作成部分の成立は認めるがその余は知らない。その余の甲各号証の成立は認めると述べた。

理由

一、請求原因第一項ないし第四項記載の経緯で確定申告更正処分再更正処分、本件処分、異議申立、棄却決定、審査請求、棄却の裁決が順次なされたこと、原告がその主張の日に本件興行を開催したこと、本件興行にかかる入場税の滞納整理のため訴外署長が本件土地家屋につき原告主張の日に公売処分をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、原告は訴外署長のなした本件土地家屋に対する公売処分は無効であると主張するが、原告が仮りに本件興行の名目上の主催者であつて、前売券入場税の納付義務がないとしても、表面上は納税義務者たる外観を有するから、これに対する滞納整理(本件公売処分)には明白且つ重大な瑕疵はないものというべきである。よつて右公売処分が当然無効である旨の原告の主張は採用できない。

してみれば右公売処分により本件土地家屋が譲渡されたものとして譲渡所得を計上した本件処分には何ら違法はない。

三、原告は本件興業の前売券入場税該当分六八九万六、八〇〇円が横領され回収不能になつたから、雑損控除せらるべきであると主張するが、原告が昭和三九年分所得税の確定申告において右損失を申告しなかつたことは当事者間に争いのないところである。してみれば被告が旧所得税法第二八条第一項本文により右損失を控除せずしてなした本件処分は何ら違法でない。所得税法施行規則(昭和二二年勅令第一一〇号)第二六条第二項第二二条は、税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合においては、確定申告において申告のされていない場合においても雑損控除を認めることができる旨規定しているが、本件の場合やむを得ない事情があるとは認められないから、被告が右規定を適用しなかつたことは相当である。

四、しかして本件土地家屋の公売代金が被告主張のとおりであること、これを基とする譲渡所得金額の計算方法、その数額が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、その他の原告の昭和三九年の所得が別表(四)のとおりであることは、原告が本件口頭弁論において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきものとする。そうすると昭和三九年における原告の所得金額、これに対する所得税額、過少申告加算税が別表(四)のとおりとなることは計算上明らかであるから、本件処分には何ら違法がない。

三、よつて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本重美 裁判官 上野精 裁判官 将債良子)

目録

名古屋市北区御成通二丁目八番

一、宅地 四一六・五二平方メートル(一二六坪)

同所六番地所在

家屋番号 二五番の四

一、木造瓦葺二階建工場兼居宅

床面積一階 一三八・八四平方メートル(四二坪)

二階 六九・四二平方メートル(二一坪)

同市同区上飯田南町一丁目一六番地所在

家屋番号 一丁目一六番地

一、木造スレート葺平家建居宅

床面積 五四・八七平方メートル(一六・六坪)

別表

<省略>

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