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名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)2024号 判決 1970年2月25日

原告

柴田好金

ほか二名

被告

佐藤洋

主文

一、被告は原告柴田好金に対し五〇万円、同菊間啓子に対し二〇万円とこれらに対する昭和四三年七月一一日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、被告は原告水野きみ代に対し四三〇万円とこれに対する昭和四四年一一月一六日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、原告らのその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は二分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

五、この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、求める裁判

一、原告ら

「被告は原告柴田好金(以下原告好金という。)に対し一八九万六六円、同菊間啓子(以下原告啓子という。)に対し五〇万円、同水野きみ代(以下原告水野という。)に対し六八七万二、〇〇〇円とこれらに対する訴状送達の日の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言。

二、被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二、請求原因

一、事故の発生

訴外亡柴田春代(以下春代という。)と原告啓子は、昭和四三年一月一三日午後一〇時四〇分頃、愛知県春日井市中新町交差点を東より西に向つて、道路のセンターラインに立ちどまつて、前方を通過する自動車を待つていたところ、被告は、小型乗用車(ニツサン・サニー、以下加害車という。)を運転して暗闇の中を北より南に向つて超速度にて進行して、春代と原告啓子に激突せしめ、よつて春代をその場で死亡せしめ、原告啓子に一四日間の入院治療を受ける傷害を負わせた。

二、被告の責任

被告は加害車を保有して自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条に基づく運行供用者責任がある。

三、損害

(一)  春代の逸失利益 九二七万四、五三五円

(1) 春代は、昭和三二年五月三一日原告好金と婚姻し、原告好金の肩書地において共同して柴田縫製所を経営し、同縫製所の固定した得意先は昭和四二年度約一〇軒でその収入は合計金二〇〇万七、〇九三円となり、又右の固定収入の外に店買いの仕事客が月間一〇人程度(一人一、〇〇〇円)あり、それが年間一二万円ほどの収入となつていた。そして右収入合計は二一二万七、〇九三円となるが、同縫製所の昭和四二年度における内職仕事の人件費三二万円と生活費および経費の合計六〇万一八〇円とを控除すれば差引金一二〇万六、九一三円の利益となり右利益金を原告好金と春代の二人にて分割すれば一人宛六〇万三、四五六円となる。

(2) さらに、春代は近所のユキ美容室を経営する意図があつたので、多大の助勢をなし、一ケ年に少なくとも一二回は手伝いその謝礼として一五万円を受取つていた。

(3) 以上(1)(2)の金額を合算すると、春代の昭和四二年度の収入は合計金七五万三、四五六円となり、春代の将来余命を三二年としてホフマン式計算により中間利息を控除して算出すると九二七万二、〇〇〇円となり同人は右同額の損害を受けた。

(4) そして原告水野は春代の実子として右金員の三分の二の六一八万一、三〇〇円の、又同好金は春代の夫として右金員の三分の一の三〇九万六六円の各賠償請求権を相続により取得した。

(二)  春代の慰藉料 九〇万円

原告水野が右金員の三分の二の六〇万円を、同好金はその三分の一の三〇万円を各相続により取得した。

(三)  以上相続により取得した(一)、(二)の損害金の合計

原告水野 六八七万二、〇〇〇円

同好金 三三九万六六円

(四)  原告好金の損害

(1) 葬儀費用 三〇万円

(2) 慰藉料 一二〇万円

(五)  原告啓子の慰藉料 五〇万円

原告啓子は春代の実子ではなかつたが、昭和三二年五月に父原告好金と結婚以来今日まで一一年間実母同様として仕えたものでその慰藉料として三〇万円が相当であり、さらに、本件交通事故によつて原告啓子自身も相当の傷害をうけて、一四日間入院を余儀なくされたのでその慰藉料としては二〇万円を相当とする。

四、よつて、被告に対し原告水野は六八七万二、〇〇〇円、原告好金は(三)(四)の合計四八九万六六円から自賠責保険より受領した三〇〇万円を控除した残額一八九万六六円、原告啓子は五〇万円および、いずれもこれに対する訴状送達の翌日から右各金員完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、被告の請求原因に対する答弁ならびに主張

一、請求原因第一項の事実中、春代が死亡し原告啓子が負傷した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

本件事故は被告の運転する加害車により惹起されたものではない。即ち本件事故現場は国道にして交通量の多いところであり、近くに横断歩道が特設されているに拘らず、春代らは横断歩道を通らず事故現場の横断を試み、センターライン附近まで進行しながら、反対側の車に気をとられて佇立した。被告は、一三メートル手前で春代らの姿を認め、直ちにブレーキを踏んだが、降雨中のため、八メートル位スリツプし、佇立している春代らの右側を通過せんとしたが、このとき春代らが立場所より引返したため原告啓子に加害車の右ヘツドライト附近が接触したので慌てて、ハンドルを右にきつた丁度その折、後続車が加害車の右側に出て加害車の右外側を擦つてセンターライン上を走り、春代を押倒して、本件事故に至つたもので、加害車は春代らに衝突していない。

仮りに、被告が春代らに加害車を衝突せしめたとしても春代の死亡は、他の車輛の轢殺によるものか、さもなくとも加害の責任の割合が不明である。のみならず春代らにも重大な過失がある。即ち、交通量の多い国道を横断歩道以外のところで横断し、センターライン上に佇立して、右コ左ベンする態度は本件事故発生につきその過失は免れず、過失相殺されるべきである。

二、同第三項の事実中、原告好金と春代の婚姻の事実、原告好金が自賠責保険より三〇〇万円を受領していることは認めるが、その余の事実は不知。

柴田縫製所は原告好金の家業で、春代はこれを手伝つていたに過ぎず両者の共同経営ではない。又春代の死亡による原告啓子の慰藉料請求は法律上の根拠がない。

第四、証拠〔略〕

理由

第一、本件事故の発生とその状況

一、〔証拠略〕を総合すると、本件事故現場は愛知県春日井市味中新町四五六六の二番地先の路上(国道四一号線)で、みとおしのよい直線舗装道路、巾員約一一米で交通はひんぱん、現場附近両側は住宅地帯であるが、外灯のない暗い場所であること、そして事故現場より北方約一〇〇米の地点に横断歩道があること、被告は昭和四三年一月一三日午後一〇時四五分頃、北より南に向け加害車を時速約五〇キロメートルで運転し、前照灯を減光して走行中、春代及び原告啓子が道路のセンターライン附近で東から西に横断しようとしていたのを前方約八米に至り発見し、急制動の措置を講じたが間に合わず、加害車右前部を右両名に衝突させて、同人らを転倒させ、春代をその場で脳挫傷により死亡させ、原告啓子に腰等に二週間入院(竹本外科病院)治療を要した傷害を負わせたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。すると被告の前方不注視の過失は免れえないところといわねばならない。被告は他の後続車輛が春代を押倒し死の結果をもたらしたものである旨強く主張し、〔証拠略〕によれば、被告の主張のような車輛を認められないわけではないが、更に進んで、その車輛が春代を押倒し、そして死に到らせた事実を認めるに足りる証拠はないので結局右主張は採用しえない。

最も本件事故現場が前記認定のような状況下で暗くその上当日は雨上りでもあるので車輛の十分とぎれるのを待ち左右の安全を確認して横断すべき注意義務があるものというべきところ、春代らはこれを怠り、漫然横断歩道でないところで横断を開始して本件事故に至つたことが認められるので春代らの過失も事故発生の一基因となつているものといわざるをえない。

第二、被告の責任

請求原因第二項の事実は、被告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものと看倣すべく、右事実によれば、被告は自賠法三条により、後記損害を賠償するべき義務がある。

第三、そこで本件事故によつて生じた損害について検討する。

(原告好金、同水野関係分)

(一)  春代の逸失利益

(1)  〔証拠略〕を総合すれば、本件事故当時春代は、昭和三二年結婚した夫の原告好金とともに、柴田縫製所を共同して経営し、原告ら主張のとおり昭和四二年度の固定した得意先収入ならびに店買いの仕事客の収入合わせて二一二万七、〇九三円ほどのものがあり、同年度の人件費その他の諸経費および生活費として原告ら主張のとおり合計九二万一八〇円が認められるのでこれを控除すると柴田縫製所の純収益は一二〇万六、九一三円となる。右縫製所は春代が内部での仕事一切をそして原告好金は外回り等の仕事を主にやつていたことが認められるので、右純収益を原告好金と二分して算出することとし、これが六〇万三、四五六円となるので右金員をもつて春代の昭和四二年度における純収益と認める。

(2)  〔証拠略〕によれば、春代は美容師の資格があり、近所のユキ美容室に手伝いに行つていたこと、右手伝いの報酬として年間一五万円の収入を得ていたことが認められる。

(3)  右(1)、(2)の純収入を合算すると昭和四二年度は七五万三四五六円となるところ、春代の家族構成職種等に徴して毎年右金員程度の収益を挙げうるものと推認しえて反証はない。春代は事故当時、四二歳(大正一四年生)であり、同人の健康状態、職種に徴すると、同人は平均余命の範囲内である六〇歳までの一八年間十分に稼動し得たものと認められる。そこでこれに民法所定年五分の割合によるホフマン式計算法を旋し、本件事故発生当時の一時払額に換算すると九四九万三、五四五円(円未満切捨)となる。

(4)  過失相殺

本件事故発生に対する前記春代の過失を斟酌すると右金員のうち被告の負担すべき金員は六〇〇万円をもつて相当と認める。

(5)  相続

原告好金が春代の夫であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると原告水野は春代の実子(昭和二四年六月養父水野昇、養母水野弘子と養子縁組して水野方に入籍する)であることが認められるので前項の金員のうち法定相続分に従い原告水野は三分の二の四〇〇万円、原告好金は三分の一の二〇〇万円の各請求権を相続により取得した。

二、慰藉料

本件事故の態様、被告と春代の過失の程度、原告好金、同水野との身分関係その他諸般の事情を考慮すると、春代本人の慰藉料として四五万円を相当と認め、原告好金が一五万円、同水野が三〇万円宛を各相続し、又春代死亡による原告好金固有の慰藉料として一二〇万円を認めるを相当とする。すると原告らの慰藉料は次のようになる。

原告好金 一三五万円

同水野 三〇万円

三、葬儀料

〔証拠略〕によれば、原告好金は葬儀費として、原告主張の三〇万円を支払つたことが認められるが、春代の社会的地位等に徴し右金員のうち二五万円をもつて被告に填補を求めうべきものとみるを相当とするところ、前記の春代の過失を斟酌すると結局一五万円をもつて相当と認める。

以上

原告好金一ないし三の合計三五〇万円

同水野一、二の合計 四三〇万円

四、受領関係

原告好金が自賠責保険から三〇〇万円を受取つていることは同原告の自認するところであるから、右金額を差し引くと結局、原告好金の損害額は五〇万円となる。

(原告啓子の慰藉料)

(1)  〔証拠略〕によると原告啓子は父好金が昭和三二年春代と結婚して以来一〇年余その生活を共にし、継親子関係ながら実の母子同様の愛情をもつて仕えていたことそして本件事故に春代と共に遭遇し多大の精神的苦痛を受けたことが認められるので、民法七一一条の「子」に準ずべきものとして原告啓子にも春代死亡による固有の慰藉料を認めうべく、そしてその額は一五万円を相当と認める。

(2)  又前認定の原告啓子の傷害の程度、治療経過本件事故の態様その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、同原告の受傷による慰藉料は五万円が相当である。以上を合計すると二〇万円となる。

第四、結論

以上の次第であるから原告らの被告に対する本訴請求は原告好金につき五〇万円、同啓子につき二〇万円、同水野につき四三〇万円およびこれらに対する各訴状送達の翌日であること本件記録上明白な原告好金、同啓子につき昭和四三年七月一一日から同水野につき昭和四四年一一月一六日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当としてこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋一之)

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