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名古屋地方裁判所 昭和33年(わ)308号 判決 1958年6月26日

被告人 桜井洋吉

主文

被告人を無期懲役に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、桜井健治郎、くわの養子として成長し、昭和二十九年二月頃佐口利枝と内縁の夫婦関係を結び、同棲生活に入つたものの、利枝と養父との間にいざこざが絶えず、昭和三十年一月頃同女が実家へ戻るとそのまま同女との内縁関係を解消した。利枝と別れると、同女と夫婦関係を結ぶ以前に、いんぎんを通じていた松井礼子(昭和九年五月十六日生)と、その縒をもどし、情交を重ね、昭和三十二年一月三十日頃復縁話がまとまつて、利枝とふたたび同棲するようになつたが、暫くすると、礼子と関係を続けるようになつた。しかし被告人は、利枝と離別して礼子と結婚する気持はなく、それまで何回か礼子と手を切ろうとしたが、礼子が自殺あるいは被告人の殺害を図ろうとする思い詰めた行動に出るので、同女と結婚する意思があるかのような態度を示していたところ、同年夏頃になると、同女より駈落して世帯をもつよう迫まられ、一時凌ぎに駈落する日を約しては口実を構え、日を先へと送つていた。このように被告人に逆上せていた礼子の処置に苦慮していた被告人は、昭和三十三年一月十一日頃になるとこれ以上日を延ばすことはできないと追詰められた気持を懐き、このうえは同女を殺害して三角関係を清算するとともに、他に対する借金の返済も迫られていることとて、礼子が世帯をもつため用意してある金員を奪取しようと考えるに及び、同月二十日午後十一時半頃関市内津保川河原に礼子を誘い出し、礼子の死体を埋めるため堀つていた穴附近で、絞殺しようとしたが果たさなかつたので、翌二十一日打合せどおり同女と相携えて、同市を出奔し、豊橋、熱海と旅行宿泊し、同月二十三日熱海市内の旅館にて同女の所持金額を確認したうえ、翌日同市内において同女が自殺するよう仕向けたが、これも失敗し、さらに就職口を探す様子を装つて岐阜、名古屋、刈谷等を転々として殺害の機会を窺い、同月二十六日夜刈谷市内の旅館において、犯跡隠蔽に役立たせるため、甘言を用いて同女をして、同女の父親宛に、同女が被告人を毒殺した旨の手紙を書かせ翌二十七日刈谷より岐阜へ向う途中、汽車より眺め、愛知県知多郡大府町大字共和字砂原十九番地通称一の谷山林を前記企てを決行する恰好の場所と見定め、食事にかこつけて、国鉄東海道本線共和駅にて下車し、同駅附近の飲食店で飲食したのち、同女を右山林地内に連れ込み、同日午後三時半頃同所において礼子に対し、前記自己の真意を秘して、将来の見込がないから右山林内でこのまま自殺する旨虚言を弄し、同女をして、被告人が同死してくれるものと信じさせ、同女が被告人の手によつて殺ろして貰いたい旨申出たのを幸いに、この機を逸せず所期の目的を遂げんと決意し、先ず殺害後奪取するのに便利なようにと、同女をして着用していた冬オーバー、皮靴を脱がせ、腕時計、ネツクレスを取り外させたあと、直に自己のマフラーを二つに裂き、その半片を同女の頸部に巻いて絞扼し、因て同女を窒息真死させて、殺害の目的を遂げたうえ、同女所有の現金四万一千二百円位在中の財布、右冬オーバー一着、女持腕時計一個外、身廻品等在中の風呂敷包一箇(価格合計一万八千二百九十五円位相当)を強取したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法第二百四十条後段に該当するから、所定刑のうち無期懲役刑を選択し、被告人を無期懲役に処し、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用して、これを負担させないこととする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 赤間鎮雄 高山政一 豊島利夫)

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