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名古屋地方裁判所 昭和32年(行)3号 判決 1958年3月29日

名古屋市中村区下中村町一丁目百十八番地

原告

上田平八郎

右訴訟代理人弁護士

永井正恒

名古屋市中村区牧野町

被告

名古屋西税務署長

岩田勝治

同市中区南外堀町

被告

名古屋国税局長

白石正雄

右両名指定代理人

名古屋法務局訟務部長

宇佐美初男

法務事務官

加藤利一

大蔵事務官

服部操

松下貞男

太田誠一

右当事者間の昭和三十二年(行)第三号所得税決定並びに審査決定取消請求事件につき当裁判所は左の通り判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、原告に対し昭和二十八年度分並びに昭和二十九年度分所得税につき名古屋西税務署長がなしたる所得税決定並びに右決定につき名古屋国税局長が昭和三十一年十月三十日なしたる審査請求を夫々棄却した決定を取消す。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

原告はその住居地において菓子(カステラ)製造業を営んでいたが胆石病のため昭和二十五年初右事業を閉鎖した。又原告には不動産所得がない。しかるに被告名古屋西税務署長は原告に対し昭和二十八年度分及び昭和二十九年度分所得税(事業所得及び不動産所得)及びその加算税等として合計金百四十五万九千六百九十円を決定し、原告に納付を求めてきた。そこで原告は被告名古屋国税局長に対し之が審査の請求をなしたところ昭和三十年十月三十日棄却の決定がなされた。

之等の決定はもとより不当であつて、被告等は中国人訴外泰子新の菓子製造業を原告の事業と誤判しているものである。原告は泰子新の使用人に過ぎない。即ち、

原告は、前示事業閉鎖後昭和二十七年に至つて恩義を受けていた泰子新から同人が原告所有の工場等一切を借受けて菓子製造業を営みたいと申入れがあつたので之を承諾した。そして同人の依頼により原告がかねて準備しておいた建築用材をもつて原告名義の工場建物を新築したが右工事に際し、原告は泰から工事費用金四十万円を無利子、無担保にて借受ける一方、原告は同人に新築工場、建物を無償で貸与することを約し、右融資を受けた。泰は金十万円を投資して同年中に菓子製造業を開始したが原告はそれの知識、経験をもつているところから同人に雇われ、その使用人として経営一切の衝に当ることになり、泰から昭和二十八年度は月額一万五千円の給料を得、昭和二十九年度からは月額金一万八千円の給料を得ている。

このように被告等の対象とする菓子製造業は泰子新の事業であつて原告の事業でないから原告は被告等の右各決定の取消を求めるため本訴に及ぶと陳述し、

立証として、甲第一号証の一乃至三十五、第二号証を提出し、証人泰子新、斎藤房治、原告本人の各尋問を求め、乙第一、第二、第四、第五号証は不知、同第三号証中原告の署名拇印、同第五号証中原告の拇印を認めていずれもその余は否認、同第七号証の一、二、三、は成立を認めた。

被告等指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中原告は住居地において菓子製造業を営んでいたこと、従つてその知識、経験があること、及び原告主張のように所得税及び加算税等の決定並びに審査請求に対する決定がなされたことは認めるが、泰子新が菓子製造業を営んでいて原告がその使用人であることは否認、その余の事実は不知である。

原告が泰子新の営業であると主張する菓子製造業は原告の営業である。

原告は昭和二十八年分昭和二十九年分の所得税の確定申告書を被告税務署長に提出しなかつたので、同署係官が昭和三十一年九月一日から原告及び原告の取引先等関係者を調査し始めたところ原告は右営業は泰子新の営業であると主張していたが泰は之を否定しており、更に取引先も調査した結果原告の営業たることを確かめるに至つた。そこで係官は重ねて同月十五日原告に面接し、原告よりも自己の営業であるとの言を得、翌十六日原告宅に臨み本件製菓事業の収入、支出の状況、取引先、菓子製造工程等、その他家族の状況、従業員等について詳細に調査し昭和二十八、二十九年分の所得算定の基礎資料を作成した。しかるに原告は右調査におうじていながらその後に至つて更に前言をひるがえすに至つたが、被告税務署長は右基礎資料によつて昭和二十八、二十九年分の事業所得税を計上し、又原告所有の名古屋市港区大手町二丁目四十番地所在家屋番号第六五番、木造瓦葺平屋建坪五十三坪(原告主張の工場、建物とは別の建物)の賃貸に依る不動産所得をも計上して課税標準に依る決定をなしたものである。

従つて被告等のなした本件処分は何等の違法はなく、原告の本訴請求は失当であると述べ、

立証として乙第一乃至第六号証第七号証の一、二、三、を提出し、証人松岡昭一の尋問を求め、甲号右証は不知と答えた。

理由

被告名古屋西税務署長が原告主張のように原告の昭和二十八、二十九年分の事業及び不動産の所得税及び加算税等につき課税決定をなしたこと、右決定に対し原告が被告名古屋国税局長に審査の請求をなしたところ昭和三十年十月三十日之が棄却の決定がなされたことは当事者間に争がない。

原告は被告税務署長が右事業所得の対象とした菓子製造業は自己の事業でなく、訴外泰子新の事業であつて原告はその使用人に過ぎず、又原告はその住居地の工場、建物を右泰に無償で貸与しているものであるから不動産所得はないと主張するが証人松岡昭一の証言に依り成立を認める乙第一乃至第六号証第七号証の一、二、三に、右証人の証言及び原告本人尋問の結果(一部)を綜合すれば、原告は病気にて一時菓子製造業を中止していたが昭和二十七年頃から再び菓子製造業を始め昭和二十八、二十九年と右営業を継続していたこと、原告は名古屋市港区大手町二丁目四十番地に建坪五十三坪の家屋を所有していて昭和十六年頃から引続き賃料収入を挙げていることが認められ右認定に反する甲第一号証の一乃至三十五の記載、証人泰子新、斎藤房治の各証言及び原告本人尋問の結果は措信せず他に右認定を左右するに足る証拠がない。しからば昭和二十八、二十九年中に事業をなしていないこと又不動産所得がないことを前提とする原告の本訴請求はいずれも失当であるから之を棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条に則つて主文の通り判決する。

(裁判官 西川力一)

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