大判例

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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)980号 判決 1997年3月26日

原告

大平宗生

ほか一名

被告

佐野健一

主文

一  被告は、原告ら各自に対し、各金一八二〇万六八一五円及びこれに対する平成四年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用については、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告ら各自に対し、各金二二五〇万円及びこれに対する平成四年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、左記一1の交通事故の発生を理由として、これにより死亡した訴外小林實(以下「被害者」という。)の相続人である原告らが、被告に対し、自賠法三条又は不法行為に基づき損害賠償を求めるものである。

一  争いのない事実等

1  本件事故(争いがない。)

(一) 日時 平成四年三月二八日午前七時〇八分ころ

(二) 場所 新潟県見附市下関町地内 北陸自動車道下り路線上

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 被害者運転の普通乗用自動車

(五) 態様 加害車両が被害車両に追突した。

2  被害者の受傷及び死亡並びに相続

(一) 被害者は、本件事故により脳挫傷、右橈骨骨折の傷害を負い、平成四年三月二八日から症状固定となつた同年一〇月五日までの一九二日間、新潟県三条市所在の三之町病院に入院して治療を受けたが、著明な知能低下・健忘症候群の精神障害を残し、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表二級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)に該当する後遺障害を負つた。被害者は、右後遺障害に対する薬物療法と日常生活上の介護を受けるために、同年一〇月五日から同年一二月五日まで同市所在の大島病院に転院して治療を受けた(争いがない。)。

被害者は、右大島病院において胃潰瘍を併発し、同年一二月五日に再び三之町病院に転院し、さらに、平成五年七月一日から東京都八王子市所在の恩方病院に転院し、頭部外傷後遺性精神障害、頭部外傷後出血性胃潰瘍の診断により、右後遺障害及び胃潰瘍に対する治療と日常生活上の介護を受けていたが、同年九月一九日、心不全により死亡した(乙七、八、九号証の各一)。

そして、被害者の右死亡と本件事故との間には因果関係がある(争いがない。)。

(二) 原告らは、いずれも被害者の実子であり、被害者に生じた損害賠償請求権について、法定相続分に従つて各二分の一の割合で相続した(争いがない。)。

3  責任原因(争いがない。)

被告は、加害車両を自己のために運行の用に供するものであり、かつ、前方注視義務を怠つた。

二  争点

1  損害額

2  過失相殺(シートベルト着用の有無)

第三争点に対する判断

一  争点1(損害額)について

1  治療費(請求額九七二万九〇三〇円) 九七二万九〇三〇円

甲三号証、甲四、五号証の各一、二、乙二ないし五号証の各二と弁論の全趣旨によれば、被害者は、本件事故による傷害の症状が固定した平成四年一〇月五日までの治療のために右金額の費用を要したことが認められる。

2  看護料(請求額三五七万八五一〇円) 三七七万四五一〇円

甲三号証、甲四、五号証の各一、二、乙二、三、五号証の各一と弁論の全趣旨によれば、被害者は、右入院中に付添看護を必要とし、その実費として二三七万八五一〇円を要したことが認められる。

また、前記の争いのない事実のとおり、被害者は、著明な知能低下・健忘症候群の精神障害によつて随時介護を要する後遺障害を負つたものであるから、右の症状固定後から、本件事故による傷害に起因して死亡する平成五年九月一九日までの三四九日間、被害者には介護が必要であつたものというべきであり、右介護に要する費用は一日当たり少なくとも四〇〇〇円であると認めるのが相当であるから、右介護費用は一三九万六〇〇〇円となる。

したがつて、看護料の合計は三七七万四五一〇円となる。

3  雑費(請求額八九万二二〇〇円) 八五万三八〇〇円

前記のとおり、被害者は一九二日間の入院を余儀なくされたところ、入院雑費は一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当であり、したがつて、入院雑費の額は二三万〇四〇〇円となる。

また、甲三号証、甲四、五号証の各一、二と弁論の全趣旨によれば、肩書地に住所を有する原告らが、被害者への付添などのため、新潟県所在の前記三之町病院にまで赴くために、六二万三四〇〇円の費用を要したことが認められ、これも本件事故と相当因果関係のある損害になるというべきである。

そうすると、右の入院雑費等の合計は八五万三八〇〇円となる。

4  休業損害(請求額八四万七八七二円)八四万七八七二円

被害者が、症状固定となつた平成四年一〇月五日まで就業することができず、右休業により、日額四四一六円の一九二日分である右金額の損害を被つたことは当事者間に争いがない。

5  逸失利益(請求額二六〇一万六六二八円) 一五三九万四一七六円

甲一号証、甲六、七号証の各一、二、原告小林智之本人によれば、被害者は、昭和六年一月二日生まれで本件事故当時六一歳であり、有限会社伸興に勤務して中古車の陸送の業務に従事し、右会社から昭和六三年に一九八万〇二三〇円、平成元年に一八一万〇五五九円、平成二年に一六一万一八九六円、平成三年に一三三万二八〇五円の給与の支給を受けていたこと、被害者は、右のほか、デイスカウントシヨツプに対して小物を卸売販売する個人営業を行つていたこと、被害者は、事業の失敗によつて負債を抱えたことから、妻と離婚し、東京都武蔵野市内にアパートを借りて一人暮らしをしていたが、前妻や原告小林智之とは交流があり、時には前妻らに対して生活費の援助をするようなこともあつたことが認められる。

そうすると、右の小物の卸売販売業によつて被害者が得ていた収入額を認めるに足りる証拠はないものの、被害者は、これによつて一定の収入を得ていたものと推認することができるというべきであり、右認定の被害者の生活状況に照らしても、被害者が有限会社伸興からの右の給与所得だけで生活していたものとはいい難いところである。

したがつて、被害者が右の個人営業に基づく所得について申告していなかつたことが窺われることなどをも斟酌して、被害者は、本件事故当時、平成四年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計の六〇歳から六四歳までの収入額(四二六万八八〇〇円であることは公知の事実)の七割に相当する収入を得ていたものと推認するのが相当であるというべきである。

以上によれば、まず、被害者は、症状が固定してから死亡するまでの三四九日間は、次の計算式のとおり、二八五万七一七二円の得べかりし利益を失つたものというべきである。

4,268,800×0.7×349/365=2,857,172

次に、被害者は、本件事故がなければ、なお一〇年間は就労することが可能であつたというべきであるのに、本件事故に起因して死亡したものであるから、右収入額に基づき、前記認定の生活状況に照らして生活費として四割を控除し、死亡後の被害者の逸失利益の本件事故当時の現価を計算すると、適用すべき新ホフマン係数は一〇年の係数から一年の係数を控除したものとなるから、次の計算式のとおり、一二五三万七〇〇四円となる。

4,268,800×0.7×(1-0.4)×(7.9449-0.9523)=12,537,004

以上のとおりであるから、結局、被害者の逸失利益の合計額は一五三九万四一七六円となる。

6  慰藉料(請求額三〇〇〇万円) 二五七〇万〇〇〇〇円

既に認定した被害者の受傷の部位・程度、後遺障害の内容・程度、被害者の生活状況等、本件における一切の事情を斟酌すると、被害者の入通院に対する慰藉料は二七〇万円、後遺障害及び死亡に対する慰藉料は二三〇〇万円と認めるのが相当である。

7  葬儀費用(請求額一三〇万円) 一〇〇万〇〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告らは被害者の葬儀のために相当額の費用を要したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用相当の損害額は右金額と認めるのが相当である。

二  争点2(過失相殺)について

1  乙一号証の三、四、九によれば、本件事故は、被告が、高速道路上を時速約一〇〇キロメートルで加害車両を走行させていた際、走行車線から追越車線に進路変更することに気を奪われて、加害車両の前を走行していた被害車両の動静に対する注意を欠き、走行中の被害車両に加害車両を追突させたものであること、右追突の結果、被害車両は逸走し、道路左側のガードロープ支柱にその左前部が衝突したため、被害者は被害車両から投げ出されて路上に転倒したこと、被害車両には二点式のシートベルトが備えられていたが、本件事故後の実況見分の際には、右シートベルトは後部座席のマツトの下に入つていたことが認められる。

そうすると、被害者は、本件事故当時、シートベルトを着用していなかつたものと推認せざるを得ないところであり、他に、右推認を覆して、被害者がシートベルトを着用していたことを認めるに足りる証拠はない。

2  被告は、被害者が死亡したのは本件事故による脳挫傷に起因するものであるところ、被害者は、シートベルトを着用していれば、被害車両から投げ出されて路面に転倒することはなく、したがつて、脳挫傷という傷害を負うこともなかつたと主張し、被害者のシートベルト不着用が右の重大な結果の発生に寄与しているとして、二割の過失相殺を主張する。

しかしながら、本件事故は、右のとおり、高速道路上において、被害車両も相当の高速で走行している際に発生しているものであり、被害車両がガードロープの支柱に衝突した際には、相当に激しい衝撃を受けたものと推認されるところであり、また、被害車両のシートベルトが二点式であつて、かつ、被害車両が斜めに衝突していることをも考慮すると、被害者が右のシートベルトを着用していたからといつて、右結果を回避することができたといい得るか否かについては相当の疑問を差し挟む余地があるものというべきである。

そして、他に、被害者のシートベルト不着用が右の重大な結果の発生に寄与していることを認めるに足りる証拠はない。

3  そうすると、被告の過失相殺の主張については、未だこれを採用するには足りないものというべきである。

三  損害の填補等

弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故に基づく損害の填補として、既に二二八八万五七五八円の支払を受けていることが認められる。

そこで、右一認定の損害額合計五七二九万九三八八円から、右既払額を控除すると、残額は三四四一万三六三〇円となる。

四  弁護士費用(請求額四九〇万円) 二〇〇万〇〇〇〇円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は右金額であると認めるのが相当である。

五  よつて、原告らの請求は、それぞれ一八二〇万六八一五円及びこれに対する不法行為の日である平成四年三月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 貝原信之)

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