大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)2584号 判決 1997年2月26日

原告

石原敏男

被告

田中美穂

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自三五一万三三七〇円及びこれに対する平成五年七月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、平成七年(ワ)第二五八四号事件について生じた分はこれを五分し、その一を同事件被告の負担とし、その余を原告の負担とし、平成八年(ワ)第二〇八〇号事件について生じた分はこれを四分し、その一を同事件被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告田中美穂は、原告に対し、金一八六七万四〇〇〇円及びこれに対する平成五年七月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告金田昌彦は、原告に対し、金一三〇〇万円及びこれに対する平成五年七月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通乗用自動車を運転中、交差点において他の普通乗用自動車と衝突して負傷した被害者が、加害車両の運転者に対し民法七〇九条により、同車両の所有者に対し自賠法三条により、損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実等(証拠を示した部分以外は争いがない。)

1  原告は、平成五年七月一二日午後零時四〇分ころ、普通乗用自動車(以下「原告車」という。)を運転して、愛知県春日井市東野町八丁目七番地の一九先の東西道路と南西道路との交差点(以下「本件交差点」という。)を南進中、折から東進して同交差点に進入してきた被告田中運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が原告車の右側面に衝突した。

2  本件交差点の東西道路入口には、一旦停止の標識が設けられているが、被告田中は、同交差点に進入する際、一旦停止義務を怠つたために本件事故を惹起させたものであり、同被告は、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

3  被告金田は、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条により損害賠償責任を負う。

4  原告は、本件事故による損害につき自賠責保険から七三六万円、被告らから六〇万円の支払を受けた(自賠責保険金のうち一二〇万円につき、乙三の1、2)

二  争点

1  過失相殺

被告らは、原告には、左右の安全を確認する義務を怠り、かつ、制限速度(時速四〇キロメートル)を超える速度(時速約五〇キロメートル)で本件交差点に進入した過失があるから、三割の過失相殺をすべき旨主張し、原告は、右主張を争う。

2  原告の損害額

原告は、本件事故による損害として、治療費二八四万六七五八円、入院付添費一八万円、入院雑費一二万円、通院交通費一九万円、代車費用一四万円、休業損害六一〇万八〇〇〇円、逸失利益三九八万五〇〇〇円、慰謝料一〇〇〇万円、弁護士費用二〇〇万円を主張し、

被告らは、右損害額につき、治療費の全額、入院付添費のうち三万円、入院雑費のうち一〇万八〇〇〇円、通院交通費のうち三万九二〇〇円、休業損害のうち九八万六三〇一円、慰謝料のうち六〇〇万円を認め、その余の損害額を争う。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(乙一)によれば、本件事故当時、被告田中は、道順のことを考えながら被告車を運転していたため、前方に対する注意がおろそかになり、一時停止の標識を見落として、一時停止をすることなく時速約二〇キロメートルで本件交差点に進入したこと、原告も、シートベルトを着用せずに走行し、また、右方の安全の確認が不十分なまま、制限速度の時速四〇キロメートルを一〇キロメートル上回る時速五〇キロメートルで本件交差点に進入したことが認められる。

2  右によれば、本件事故の発生については、原告にも過失があつたものというべきであり、双方の過失の割合は、被告田中が七割、原告が三割と認めるのが相当である。

二  争点2について

1  証拠(甲二、九、原告)によれば、原告は、本件事故により、右上腕骨開放性骨折、右肘関節解放性脱臼の傷害を負い、平成五年七月一二日から同年九月七日までと平成六年一月一九日から同年二月一九日までの合計九〇日間、春日井市民病院に入院して治療を受け、症状固定の診断を受けた同年九月五日までの間に、同病院に合計実日数七〇日の通院をし、右肘関節機能障害及び右肩関節の著しい機能障害の後遺障害が残り、前者は自倍法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級六号に、後者は同表一〇級一〇号にそれぞれ該当することが認められる。

2  治療費 二八四万六七五八円

原告が治療費として二八四万六七五八円を要したことは、当事者間に争いがない。

3  付添費 三万〇〇〇〇円

証拠(原告)によれば、春日井市民病院の医師は、原告は、入院中、三日間は付添を要するとの判断をしていたことが認められるから、原告が要した付添費は三万円を超えるものではないというべきである。

4  入院雑費 一〇万八〇〇〇円

前記のとおり、原告は九〇日間の入院をしたものであり、一日当たりの入院雑費は一二〇〇円認めるのが相当であるから、その合計は一〇万八〇〇〇円となる。

5  交通費 三万九二〇〇円

前記のとおり、原告は合計七〇日の通院をしたものであるが、弁論の全趣旨によれば、原告が通院に要した交通費は一日当たり五六〇円であつたことが認められるから、通院交通費の合計は三万九二〇〇円となる。

6  代車費用

原告本人尋問の結果によつては未だ代車料の支出及びその金額を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

7  休業損害 五三四万八〇〇〇円

証拠(甲七、八の1、2、原告)によれば、原告は、従業員数一四名の石原石材株式会社の代表取締役であり、本件事故当時月額一四〇万円の給与の支給を受けていたが、本件事故による傷害の治療を受けた前記期間中、給与につき、平成五年七月は四四万八〇〇〇円を減額され、同年八月、九月及び平成六年二月は全額を支給されず、同年三月は七〇万円を減額されたことが認められ、右減額は、前記入通院の経過に照らしやむを得ないものというべきであるから、その合計五三四万八〇〇〇円を原告の休業損害と認めるべきである。

8  逸失利益

原告に自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級六号及び一〇級一〇号に該当する後遺障害が残つたことは、前記のとおりである。

しかし、証拠(甲六、八の2、一一、一二、原告)によれば、原告は、昭和九年六月二二日生まれで、症状固定時は六〇歳であり、症状固定後、本件事故当時の給与を上回る給与を支給されており、しかもその額は逐年増加傾向にあることが窺われる上、原告が経営する石原石材株式会社の業績は順調に推移していることが認められるから、原告の稼働可能年齢の間に右後遺障害のために原告に逸失利益の損害が発生する蓋然性が高いものということはできず、したがつて、原告の前記後遺障害にもかかわらず、原告には逸失利益の損害は発生していないものといわなければならない。

もつとも、原告が本件事故前を上回る収入を確保するについては、原告において後遺障害による不都合を克服するための努力を迫られ、そのことが原告に精神的苦痛を与えているであろうことは想像に難くなく、この点は後遺障害による慰謝料の金額を算定するに際し考慮すべきものである。

9  慰謝料 七五九万〇〇〇〇円

原告の傷害の程度、入通院の経過に照らせば、原告の傷害慰謝料の額は一八九万円と認めるのが相当である。

また、原告の後遺傷害慰謝料の額は、前記後遺障害の程度及び右8の事情に照らし、五七〇万円と認めるのが相当である。

三  過失相殺及び損害の填補

右二によれば、原告の損害額の合計は一五九六万一九五八円となり、右金額について前記割合に従い過失相殺をすると、被告らが賠償すべき原告の損害額は一一一七万三三七〇円となり、右金額から原告が既に支払を受けた七九六万円を控除すると、その残額は三二一万三三七〇円となる。

四  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、三〇万円と認めるのが相当である。

(裁判官 大谷禎男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例