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名古屋地方裁判所 平成5年(わ)1697号 判決 1994年11月21日

裁判所書記官

岡本裕美

被告人

落合進

年齢

昭和一七年一〇月三日生(五二歳)

本籍

名古屋市守山区鳥羽見三丁目四〇九番地

住居

同市東区砂田橋三丁目二番 大幸東団地一〇七棟四〇二号

職業

無職(元代議士秘書)

検察官

大橋弘文

弁護人

高山光雄、増田聖子

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、昭和五四年四月三〇日から平成五年七月四日まで愛知県議会議員であり、現在衆議院議員である大谷忠雄を推薦し、支持することを名目として設立された政治団体「東海政経研究会」、「未来中部政経文化研究会」、「昭和会」、「大谷忠雄後援会」及び「大谷忠雄を励ます会」並びに現名古屋市議会議員である小木曽康巳を推薦し、支持することを名目とする政治団体「康友会」の六団体(以下各団体を総称して「六団体」という。)に関し、「未来中部政経文化研究会」においては代表者兼会計責任者として、「東海政経研究会」、「大谷忠雄後援会」、「昭和会」においては会計責任者の職務代行者(但し、昭和会については平成五年三月一日から代表者兼会計責任者)として、その余の二団体については実質上の会計責任者として、右各団体に対する寄附金の受入れ等を含めた金銭出納業務の一切を事実上取り仕切っていたものであるが、第五、三別表か番号11の岡田逸夫に関する事実を除く各事実につき、右大谷忠雄と共謀の上

第一  名古屋市中区三の丸三丁目一番二号所在の愛知県選挙管理委員会に提出する「東海政経研究会」の収支報告書に虚偽の記載をしようと企て

一  平成三年二月二六日、同選挙管理委員会に「東海政経研究会」の平成二年分の収支報告書を提出したが、右収支報告書を作成するにあたり、同年二月下旬ころ、同市昭和区北山町三丁目一一番地所在の大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表ア「寄附名義人」欄に記載されている柴田弘ほか二二名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計二三回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

二  平成四年二月二六日、同選挙管理委員会に「東海政経研究会」の平成三年分の収支報告書を提出したが、右収支報告書を作成するにあたり、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表イ「寄附名義人」欄に記載されている村瀬鉦敏ほか二〇名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計二一回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

三  平成五年三月一日、同選挙管理委員会に「東海政経研究会」の平成四年分の収支報告書を提出したが、右収支報告書を作成するにあたり、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表ウ「寄附名義人」欄に記載されている神山峰司ほか一八名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計一九回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし、さらに、右収支報告書の支出項目政治活動費の内訳欄に、実際にはそのような支出をした事実がないのに、平成四年九月二五日、名古屋市西区城西四丁目二八番一三号名和トラベル株式会社に対し、役員懇親会旅費として四九万一七〇〇円の支出がなされた旨虚偽の記入をし

第二  前記愛知県選挙管理委員会に提出する前記六政治団体のうち、「東海政経研究会」を除く五団体の収支報告書に虚偽の記載をしようと企て

一  同選挙管理委員会に提出する平成二年分の「未来中部政経文化研究会」、「康友会」、「昭和会」の各収支報告書を作成するにあたり

1 平成三年二月二六日、同選挙管理委員会に「未来中部政経文化研究会」の平成二年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表エ「寄附名義人」欄に記載されている瀬戸勝治ほか三名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計四回にわたって同表「寄附名目額」の欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

2 同年二月二二日、同選挙管理委員会に「康友会」の平成二年分の収支報告書を提出したが、同月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表オ「寄附名義人」欄に記載されている森田佳穂ほか六名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計七回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

3 同年二月二二日、同選挙管理委員会の「昭和会」に平成二年分の収支報告書を提出したが、同月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表カ「寄附名義人」欄に記載されている瀬戸勝治ほか一五名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計一八回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

二  同選挙管理委員会に提出する平成三年分の「未来中部政経文化研究会」、「康友会」、「昭和会」、「大谷忠雄後援会」、「大谷忠雄を励ます会」の各収支報告書を作成するにあたり

1 平成四年三月四日、同選挙管理委員会に「未来中部政経文化研究会」の平成三年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表キ「寄附名義人」欄に記載されている各川忠男ほか一六名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計一七回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

2 同年三月四日、同選挙管理委員会に「康友会」の平成三年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表ク「寄附名義人」欄に記載されている大谷忠雄ほか八名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計九回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記載をし

3 同年三月四日、同選挙管理委員会に「昭和会」の平成三年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表ケ「寄附名義人」欄に記載されている吉田君江ほか八名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計一一回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

4 同年三月四日、同選挙管理委員会に「大谷忠雄後援会」の平成三年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収支項目寄附の内訳欄に、村瀬鉦敏から実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、平成三年一一月三〇日、同人から一五〇万円の寄附がなされた旨虚偽の記入をし

5 同年三月九日、同選挙管理委員会に「大谷忠雄を励ます会」の平成三年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、村瀬鉦敏から実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、平成三年五月三一日、同人から一五〇万円の寄附がなされた旨虚偽の記入をし

三  同選挙管理委員会に提出する平成四年分の「未来中部政経文化研究会」、「昭和会」、「康友会」の各収支報告書を作成するにあたり

1 平成五年三月五日、同選挙管理委員会に「未来中部政経文化研究会」の平成四年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表コ「寄附名義人」欄に記載されている村瀬鉦敏ほか五名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計六回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

2 同年三月五日、同選挙管理委員会に「昭和会」の平成四年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表サ「寄附名義人」欄に記載されている村瀬鉦敏ほか一二名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計一五回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

3 同年三月九日、同選挙管理委員会に「康友会」の平成四年分の収支報告書を提出したが、同年二月下旬ころ、前記大谷忠雄事務所において、その収入項目寄附の内訳欄に、別表シ「寄附名義人」欄に記載されている久保田浩一ほか一名から、実際にはそのような寄附を受けた事実がないのに、同表「寄附年月日」欄記載のとおりの各年月日において、同人らから合計四回にわたって同表「寄附名目額」欄記載のとおりの金額の各寄附がなされた旨虚偽の記入をし

第三  前記大谷忠雄の所得税を免れようと企て、平成二年分及び同三年分の前記「康友会」の収支報告書中に記載されているとおり、同人が寄附金を支出したものとして、前記愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人が政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上

一  右大谷忠雄の平成二年分の実際に課税されるべき所得金額は一二七三万九〇〇〇円、これに対する所得税額は三一九万五六〇〇円、うち、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額は三九万六九〇〇円であったのにかかわらず、平成三年三月一五日、名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地の四所在の昭和税務署において、同税務署長に対し、前記のとおり、架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額は一一二三万九〇〇〇円、これに対する所得税額は二五九万五六〇〇円、確定申告に基づく申告納税額はマイナス二〇万三〇〇六円である旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右の不正の行為により同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額五九万九九〇〇円を免れ

二  右大谷忠雄の平成三年分の実際に課税されるべき所得金額は一二八五万二〇〇〇円、これに対する所得税額は三二四万八〇〇円、うち、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額は二三万三〇〇〇円であったのにかかわらず、平成四年三月一六日、右昭和税務署において、同税務署長に対し、前記のとおり架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額が一一三五万二〇〇〇円、これに対する所得税額は二六四万八〇〇円、確定申告に基づく申告納税額はマイナス三六万六九八八円である旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額五九万九九〇〇円を免れ

第四  一 別表あ「納税義務者」欄記載の日下守ほか二一名と更に各共謀の上、同人らの平成二年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記「東海政経研究会」の収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、前記愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び実際納税額は、それぞれ同表「正当税額等「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計二二回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、同表「所得税確定申告状況「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計一八一一万七二〇〇円)を免れ

二 別表い「納税義務者」欄記載の谷澤光治ほか二〇名と更に各共謀の上(但し、宮下幸二郎については、「東海政経研究会」に対する架空の寄附金一五〇万円の限度で共謀)、同人らの平成三年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記「東海政経研究会」の収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、前記愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び実際納税額は、それぞれ同表「正当税額等「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計二一回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、同表「所得税確定申告状況「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」、各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計一九一四万一七〇〇円)を免れ

三 別表う「納税義務者」欄記載の祖父江義弘ら一八名と更に各共謀の上、同人らの平成四年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記「東海政経研究会」の収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、前記愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により、所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び実際納税額はそれぞれ同表「正当税額等「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計一九回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、同表「所得税確定申告状況「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計一五二四万二四〇〇円)を免れ

第五  一 別表え「納税義務者」欄記載の酒井清ほか一二名と更に各共謀の上(但し、酒井清については「昭和会」、「康友会」の各政治団体に対する架空の寄附金計三〇〇万円の限度で、瀬戸勝治については「東海政経研究会」、「昭和会」、「未来中部政経文化研究会」、「康友会」の各政治団体に対する架空の寄附金計六〇〇万円の限度で共謀)、同人らの平成二年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記六団体の収支報告書に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、前記愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、各政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び実際納税額は、それぞれ同表「正当税額等「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計一三回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、同表「所得税確定申告状況「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計一四三五万円)を免れ

二 別表お「納税義務者」欄記載の渡辺義達ほか二一名と更に各共謀の上、同人らの平成三年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記六団体の収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、前記愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、各政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び実際納税額はそれぞれ同表「正当税額等「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計二二回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、同表「所得税確定申告状況「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計一五一三万八八〇〇円)を免れ

三 別表か「納税義務者」欄記載の柴田弘ほか一一名と更に各共謀の上、同人らの平成四年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記六団体の収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、前記愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、各政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び実際納税額はそれぞれ同表「正当税額等「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計一二回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、同表「所得税確定申告状況「課税される所得金額」、「所得税額」、「納付税額」」各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計七六二万五七〇〇円)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(括弧内の甲乙の番号は記録中の証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。)

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(乙1ないし3、8ないし10、13ないし16)

一  丹羽孝爾(謄本)、森田佳穂(謄本)、村瀬鉦敏(謄本)、山下恭男(謄本)、瀬戸勝治、神山峰司、大谷忠雄(三通、いずれも謄本)の検察官に対する各供述調書(甲38、56、63、101、116、131、143、146、149)

一  愛知県選挙管理委員会事務局長作成の各「捜査関係事項について(回答)」と題する書面(甲2、4)

判示第一及び第四の各事実について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(乙4ないし7)

一  吉川弘春(四通)、西野隆夫、祖父江義弘、成田稔男、木下良介、日下守(三通)、河合敏秀、児玉章、柴田弘、河合邦明、長谷川嘉和、谷澤光治、八神弘雄、森田元夫、水野勤、今枝隆夫(二通)、宮下幸二郎、川村敏雄、鎌倉武男(二通)、中川信男、河村富正、長谷川士郎、今枝とし、大谷忠雄の検察官に対する各供述調書謄本(甲31ないし37、39ないし55、57ないし62、144)

判示第二、第五の各事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙11)

一  若林祐治(謄本)、岩田太郎(謄本)、上村園生(謄本)、増田利明(二通、うち一通は謄本)、小木曽康巳(謄本)、酒井清、渡辺義達、杉本嘉範、各川忠男(二通)、所仁司、柴田峯好(二通、いずれも謄本)、倉知俊彦(二通、いずれも謄本)、夏目誠一郎(謄本)、山内満、夏目稔(三通、いずれも謄本)、荒川勘五郎(謄本)、吉田君江(二通)、福井達雄(謄本)、柴田昌憲(謄本)、竹山重行(二通、いずれも謄本)、中尾豪介、小川一郎、吉田収蔵(三通、いずれも謄本)、宗宮仁、柴田弘、鎌倉武男、上野隆、久保田浩一(謄本)の検察官に対する各供述調書(甲102ないし115、117ないし130、132ないし141)

一  愛知県選挙管理委員会事務局長作成の「捜査関係事項について(回答)」と題する各書面(甲65、67、69、71、73)

判示第二及び第三の各事実について

一  大谷忠雄の検察官に対する供述調書謄本(甲145)

判示第二及び第五の各事実について

一  大谷忠雄の検察官に対する各供述調書謄本(甲147、148)

判示第三の各事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙12)

一  名古屋国税局収税官吏大蔵事務官浅村孝司作成の査察官調査書(甲74)

判示第四の各事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲5、7、10ないし22、26)

判示第四、一及び二の各事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲9、23)

判示第四、二及び三の各事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲27、29)

判示第四、一事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲6、8、24、25)

判示第四、二事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲28)

判示第四、三事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲30)

判示第五の各事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲76、77、84、86、87)

判示第五、一及び二の各事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲78ないし80、82、83、85)

判示第五、二及び三の各事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲92、93、95ないし97)

判示第五、一事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲75、81)

判示第五、二事実について

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲88ないし91、94、98)

判示第五、三事実について

一  岡田逸夫の検察官に対する供述調書(甲142)

一  右浅村孝司作成の各査察官調査書(甲99、100)

(事実認定の補足説明)

一  弁護人は、判示第四及び第五の各事実に関し、各別表寄附名義人欄記載の各献金者が、被告人もしくは大谷忠雄に対して交付した金員は、前記六政治団体に対する寄附金であるから、実際に交付した金額の範囲においては政治資金規正法の規定するところの政治団体に対する正当な寄附として、平成五年法律第六八号による改正前の租税特別措置法四一条の一六の適用を受け、所得税法七八条一項(二項一号)によって、各人の課税されるべき総所得金額から控除されるべきである旨主張するので、この点につき判断する。

1  そもそも寄附をしたからといって、所得税法上常にそれが所得控除の対象とされるものでないことは言うまでもなく、その寄附が法律の定める要件を充たして初めて所得控除の対象となるのである。個人の政治献金については、右租税特別措置法四一条の一六第一項が「政治資金規正法四条四項に規定する政治活動に係る寄附をした場合には、当該寄附に係る支出金のうち、次に掲げる団体に対するもので、(同法)第十二条又は第十七条の規定による報告書により報告されたもの……は、所得税法第七十八条第二項に規定する特定寄附金とみなす」と規定し、選挙管理委員会に提出された収支報告書に記載して報告され、公開されたもので政治団体等に対するもののみを特定寄附金とみなして所得控除の特典を与えているところ、政治資金規正法一条が「政治資金の収支の公開及び授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。」と定め、同法二条二項が「政治団体は、……政治資金の収受に当っては、いやしくも国民の疑惑を招くことのないように、この法律に基づいて公明正大に行わなければならない。」と定めていること等に鑑みれば、同法一二条の収支報告書に、その同一性が分かる程度に客観的真実に合致して記載された寄附のみが特定寄附金とみなされ、租税特別措置法上の優遇措置を受けうるものと解される。判示各事例のように、虚偽記入罪が成立するほど極端に寄附年月日、寄附金額につき、客観的事実に反する虚偽事実が記載された収支報告書で報告された寄附のように、右のような法の趣旨、目的を全く無視したものを特定寄附金とみなすことは国民の健全な規範意識に反し、到底許されないものと言わざるをえない。

2(一)  拾亥志会会員らによる「東海政経研究会」への献金については、関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 「東海政経研究会」は、大谷忠雄(以下、「大谷」という。)が自己に対する政治献金を集めることを目的として、名古屋青年会議所の元会員のうち、昭和一〇年亥年生まれの者で結成されている「拾亥志会(といしかい)」(大谷自身も会員である。)の会員らに呼びかけ、昭和六一年一二月二四日に設立されたものであるが、同会設立に至る経緯は以下(2)ないし(4)のとおりであった。

(2) 昭和五五年ころから、大谷は、当時秘書であった被告人と共謀して、献金者から実際に受け取った献金額よりも水増しした金額や実際には献金を受けていないにもかかわらず全く架空の金額を自分の関係する各政治団体の収支報告書に記載した上、右報告書に基づいて選挙管理委員会から発行される寄附金控除のための書類を利用して、各献金者に脱税による利益を得させ、その見返りとして、政治献金を受けるという方法により自己の政治資金を集めていた。

(3) 大谷は、前記「拾亥志会」の会員からも政治献金を得ようと考え、同六一年一一月に催された同会の旅行会帰路途中の列車内において、付近に同乗していた八神弘雄ほか拾亥志会会員数人に対し、「拾亥志会で少し資金的バックアップして欲しいんだがな。そのかわり、献金してくれれば、税の控除が受けられ、節税をするという方法があるんだ。一〇万円くらいでいいんだ。」などと話を持ちかけ、同月二八日ころ、八神及び右八神から右の件についての相談を受けた日下守(以下、「日下」という。)と三人で日下の経営する地上社に集まり、税の控除を受けるためには政治団体を設立する必要があること、政治団体の世話役を八神と日下にしてもらいたいことを話すとともに、これらのことを同年一二月に開催される拾亥志会忘年会の席上で他の会員に諮ること、そうした打ち合わせをするため近日中に被告人を日下方に寄越することなどを話し合った上で、その数日後に大谷に指示を受けた被告人が日下を訪れ、一〇万円の寄附をすれば、一五〇万円の領収証がもらえること、寄附金控除を受けるためには政治団体に対する寄附でなくてはならず、そのために政治団体の設立届けを出す必要があることなどの説明をした後、政治団体の名前を「東海政経研究会」とすること、世話人を日下と八神が引受け、日下の部下の吉川が事務的なことをすることなどを決めた。

(4) 次いで大谷と被告人は、同年一二月一九日に開かれた拾亥志会忘年会に出席し、その席上において、被告人は、「一〇万円を出してくれれば、一五〇万円の領収証を差し上げますから、一〇万円以上税金が少なくなったり、還付を受けたりできます。皆さんも税金が少なくなって得しますし、大谷さんも資金を得ることができるので、是非協力していただきたい。ただ、税金を少なくするためには政治団体の選管の確認のある領収証を確定申告に添付してもらわなければならないので、「東海政経研究会」という名前の政治団体を作ってそこに一五〇万円寄附したことにした領収証を渡しますから、それで確定申告してください。ただ税務署の調査があったときにはばれないように、本当に一五〇万円寄附したようにするため、年内に預金から一五〇万円引き出した形をとっておいて下さい。」などと拾亥志会会員に対して説明をし、会員らの同意を得た上で、同月二四日に「東海政経研究会」を政治団体として愛知県選挙管理委員会に届け出た。

(5) 「東海政経研究会」設立当初は、原則として拾亥志会会員のみに脱税させる予定であったものの、その後本件脱税の仕組みを利用しようとした拾亥志会会員がその親族や友人の献金を仲介するようになった。

(6) 「東海政経研究会」は設立以後、年一回開催される「拾亥志会」忘年会の席上で「税務講座」と称して拾亥志会の会員から各自一〇万円の献金を集めること以外、何ら活動を行っておらず、その他の大谷議員に対する支援活動などは一切行っていない。

以上の事実に照らせば、「東海政経研究会」は、大谷及び被告人が拾亥志会会員に水増し領収証の発行をするための受け皿として利用するためだけの目的、したがって脱税のための手段として設立した政治団体であり、「東海政経研究会」設立に当たり、拾亥志会会員は被告人から前記脱税の仕組みについての説明を受けていたこと、献金者たちは、この仕組みを積極的に利用し、水増し領収証(一〇万円の献金で一五〇万円の領収証)が発行されることを前提として献金をし、献金した金額よりも著しく高額の領収証を受領した上、これを利用して所得税確定申告を行い、不当な利益を得ていたことなどが明らかであるし、拾亥志会会員が仲介した献金者は、寄附金控除を受けて脱税する目的で献金に加わったことが明らかである。すなわち、拾亥志会会員及びその関係者の行った献金は、脱税に利用する水増し領収証をもらうための手段として行われたものであり、すなわち脱税という犯罪を目的としていたものであって、献金者もそのことを十分認識していたのであるから、かかる献金を、課税上の優遇措置の対象となる「政治活動に関する寄附」として課税所得額から控除される特定寄附金とみなすことはできないものというべきである。

(二)  献金者とされているものの中には、実際は献金をしていないにもかかわらず、空の領収証の交付を受け、所得税確定申告の際にこれを利用して脱税をしたのち、その利益の一部を謝礼として被告人らに支払った者がいるが、これは正に脱税の手段である架空の領収証に対する謝礼を支払ったもので、政治団体に対し寄附をしたものでないことは言うまでもないし、収支報告書で報告された年度には何らの金員も出捐していないのである。

(三)  更に、献金者とされているものの中には、以前から寄附を行っていたが、その後、水増し領収証による脱税が行われていることを知って、自らも水増し領収証の交付を受けて脱税するようになり、献金を継続したという者がいる。かかる献金者といえども本件起訴にかかる献金時においては、水増し領収証を利用して脱税する意思で献金しており、両者が対価的関係にあることを十二分に認識認容の上で献金していたのであるから、脱税の手段として献金したことは拾亥志会会員らと同様であり、社会公共のために個人の政治献金を奨励し、国民の積極的な政治参加を促す趣旨で課税上の優遇措置を認めた政治資金規正法、租税特別措置法の目的に反するものであり、かかる優遇措置の対象とすることはできない。

3  以上の理由により、弁護人の前記主張には理由がない。

二  なお、前記関係証拠によれば、判示第四、二別表いの番号15の宮下幸二郎及び判示第五、一別表えの番号1と番号7の酒井清と瀬戸勝治については、他の政治団体(宮下幸二郎については「愛港会」に八〇万円、「港政経調査会」に七〇万円、酒井清については「吉田収三後援会よつば会」「桃陵会」の二団体に各一〇〇万円、瀬戸勝治については右二団体に各一五〇万円)に対する献金を名目として控除を受けたことによる脱税分が含まれているが、右部分については被告人との共謀があったと認められる証拠はないから、これを除いた金額の範囲で被告人との共謀を認める。判示第五、三別表か番号11の岡田逸夫については、関係各証拠によれば、右岡田がコンピューター売買契約の仲介謝礼金として被告人に支払い、被告人が私した金員に対して、被告人が間に立った佐藤修からの要請に応じ、脱税のための水増し領収証を発行したものであり、岡田も右佐藤からそのことの説明を受け、右領収証を用いて脱税したことが認められるので、被告人と右岡田の間の脱税の共謀は認められるが、大谷忠雄と何の関係もなく行われたものであるから、同人との共謀は認められない。

(法令の適用)

被告人の判示第一及び第二の各所為は各政治団体、各年度ごとに、いずれも刑法六〇条、平成六年法律第四号による改正前の政治資金規正法二五条一項三号(一二条一項)に、判示第三ないし第五の各所為は各納税義務者、各年度ごとに、いずれも刑法六五条一項、同法六〇条、所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するところ、各所定刑中判示第一及び第二の各罪については禁錮刑を、判示第三ないし第五の各罪については懲役刑をそれぞれ選択し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第三、一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中六〇日を右刑に算入することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

一  本件は、当時愛知県議会議員であった大谷忠雄の秘書であった被告人が、右大谷と共謀の上、政治団体に対する寄附が、平成五年法律第六八号による改正前の租税特別措置法四一条の一六により所得税法七八条二項の特定寄附金とみなされ、所得金額から控除されることに目を付け、献金をすれば献金額を超える金額を献金したことを証明する書類を渡すから、それを利用して確定申告すれば節税になり、献金者にも利益になるなどといって政治献金を要請して、献金の見返りに右書類を渡したり、一銭も献金を受けないのに右書類を渡して、献金を装う者らとその者らの脱税を共謀し、あるいは大谷の所得税について、他の市議会議員の政治団体に献金した事実がないのにしたように装い、虚偽の所得税確定申告をし、脱税し、しかも、それらの脱税の手段として政治団体の収支報告書に虚偽の寄附を記入していたという事案であるが、その方法、期間、ほ脱税額及び犯行における被告人の役割などに鑑みると犯情極めて悪質である。

そもそも、大谷と被告人が寄附金控除制度を悪用するようになったのは、昭和五五年ころであって、当初は県議会議員同士が互いに政治団体に政治献金をしたことにして空の領収証(選挙管理委員会の証明印のある「寄附金控除のための書類」)を発行し合い、所得税確定申告の際にこれを提出して寄附金控除を受けるという、いわゆる「回し献金」の方法により議員相互間で脱税を行っていたが、その後、一般の個人献金を集める際にもこうした手段を悪用するようになり、以後平成五年に至るまで、一〇年以上の長期間にわたり、継続的に脱税を行っていたものであって、今回起訴された事実に限ってみても、所得税法違反の共犯者は延べ一〇〇人を優に越え、ほ脱額は約九〇〇〇万円にも上る。

その上、自分を支援する政治団体に対し政治献金をしても寄附金控除は受けられないことから、大谷は被告人と諮り、当の市議会議員である小木曽康巳の了解を得ずに、脱税のための献金の受け皿として右小木曽議員を支援するという名目で全く実体のない政治団体「康友会」を設立することまでして、大谷自身を含めた本件関係者らのための水増しあるいは架空金額の領収証を発行していたのである。

また、被告人は「拾亥志会」会員に献金を要請するに際し、税務署からの調査があっても脱税の事実が発覚しないようにと、献金にあたっては領収証の金額である一五〇万円を各自の銀行口座から引き出した形を作るように指示した上、本件犯行が発覚するに至るや、直ちに本件関係者らに連絡をして、口裏を合わせ、大谷に責任が及ばないように、事実を隠蔽しようと画策するなど、犯行の前後を通じて、積極的に証拠隠滅工作を行っている事実も認められる。

そのほか、大谷に係わる六団体の金銭関係はすべて被告人が管理していたが、いずれの団体においても政治資金規正法上要求されている会計帳簿などを一切つけていないばかりか、各団体間の会計の区別もしていない。このような状態なので、各団体は全く実体がなく、政治資金規正法上の寄附金額の制限を免れることを主な目的に設立されたものと判断される。そればかりでなく、時折大谷個人の支出までもが政治献金の中から流用されており、政治資金規正法において提出を義務づけられている各年度ごとの収支報告書にはすべて内容虚偽の記載をしている。したがって、被告人は単に杜撰な会計管理をしたというだけでなく、政治資金規正法の規律を全く守る意思なく、これを無視してきたものであり、政治献金の厳密な管理を前提とした法の趣旨を全く没却するものといわねばならない。

しかも被告人は、大谷とともに本件犯行において極めて重要な役割を果たしてきているのに、こうした一連の行為によって脱税することに対し、ほとんど罪の意識を持っていないことは驚くべきことである。政治に携わる者のこうした道義心や規範意識の欠如は、国民の政治不信を招くとともに社会全体の道義心の低下を惹起するものである。

以上のような諸状況に照らすと、被告人は厳しく非難されなければならず、その刑事責任は極めて重いと言わなければならない。

二  他方、被告人は本件犯行につき、前記のとおり秘書として関与したものであり、直接には特別の利益を受けていないこと、これまでに罰金前科しかなく、本件犯行により一二〇日を越える身柄拘束を受けていること、大谷との共謀の点で一部曖昧な供述を繰り返すものの、事実関係については概ね認めており、反省の情も窺えること、本件により公設秘書としての地位を失った他、各種マスコミ報道などにより、社会的制裁も十分に受けていることなど、被告人には特に酌むべき諸情状も存するので、今回に限ってその刑の執行を猶予することにした。

よって、主文のとおり判決する(求刑 懲役二年六月)。

(裁判長裁判官 笹本忠男 裁判官 田邊三保子 裁判官 竹下雄)

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