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名古屋地方裁判所 平成4年(ヲ)3196号 決定 1993年3月17日

申立人

山本廷利

申立人代理人弁護人

高木修

相手方

有限会社ソニア

代表者代表取締役

高田教則

相手方

高田教則

主文

1  相手方らは、申立人に対し、別紙物件目録記載の不動産を引き渡せ。

2  申立費用は相手方らの負担とする。

理由

1  申立人は、基本事件において、別紙物件目録記載の不動産(本件不動産、なお、(2)を本件建物)を買い受け、代金を納付した上、引渡命令を申立てた。

2  相手方らは、本件不動産を占有し、その占有権原として、次のとおり述べたから、3及び4において、検討する。

(1)  本件不動産の競落前の所有者であった日比文子(日比)は、平成四年一月一〇日、大川三雄(大川)に対し、本件建物につき短期賃借権を設定した。相手方有限会社ソニア(相手方ソニア)は、同日大川から本件建物を転貸し、引渡しを受け、占有を継続している。相手方ソニアの代表者である相手方高田教則(相手方高田)及び相手方高田の家族が、平成四年二月中旬以降、本件建物に居住している。

(2)  相手方ソニアは、日比の承諾を得て、平成四年一月中旬から二月中旬ころまでに、本件建物につき改築及び造作工事(本件工事)を行い、金二二七万七三八円を支出した。相手方ソニアは、本件工事による造作買取請求権を有するから、この支払がなされるまで本件建物を留置する。

3  短期賃借権について

(1) 本件不動産の登記簿謄本によれば、本件不動産につき、平成三年一二月一七日近藤年子の仮差押え(基本事件につき平成四年三月三一日債権届出ずみ)の、平成四年一月二七日名古屋市の差押えの、平成四年二月一五日基本事件競売開始決定に基づく仮差押えの、各登記がそれぞれ経由されたことが認められる。ところが、大川の占有は、近藤年子の仮差押えの登記後である平成四年一月一〇日に成立した契約に基づいて開始されたと相手方らは主張する。仮差押えの執行の効力は執行手続上「差押え」の効力に準ずべきであるから、大川の占有は、「差押えの効力発生」後の占有というべきである。

(2) また、大矢武夫の審尋の結果によれば、大川の短期賃借権は、大川の日比に対する債権を回収する目的で設定されたことが認められ、用益を目的とするものではないから、民法三九五条の保護を受けず、民事執行法八三条一項本文所定の占有権原に当たらないというべきである。

(3) 以上から、大川は、その短期賃借権をもって引渡命令を拒むことはできず、大川から本件建物を更に転借したに過ぎない相手方ソニアも、その転借権をもって引渡命令を拒むことはできない。相手方ソニアの転借権に依拠する相手方高田も同様である。

4  留置権について

3の認定のとおり、相手方らの本件不動産の占有は、抵当権者や申立人に対する関係では占有権限あるものとは認められないから、これらの者との関係では不法占有にあたる。

相手方ソニアの代表者兼相手方高田の審尋の結果によれば、相手方ソニアは、日比の経済状態が悪く、本件建物が競売に付される可能性を十分認識していたことが認められる。加えて、3(1)の認定のとおり、本件不動産につき、平成三年一二月一七日近藤年子の仮差押えの登記が経由されていたことを考慮すれば、相手方ソニアは、本件建物の占有が競落人に対抗できないことを知り、又はこれを知ることができたというべきであり、本件建物の占有権限がないことにつき少なくとも過失があると認められる。

したがって、相手方ソニアが多額の内装工事費を支出していたとしても、これらの支出は、占有権限がないことにつき過失のある相手方ソニアが、競落人の出現を予想しながら、敢えて、行ったものというべきであるから、民法二九五条二項を類推適用し、相手方ソニアは留置権を主張することはできないと解すべきである。

5  以上から、申立人の引渡命令の申立ては相当と認め、主文のとおり決定する。

(裁判官本間健裕)

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