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名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)783号 判決 1992年5月11日

原告

佐々木麿奈美

右訴訟代理人弁護士

木村静之

被告

木戸功一

被告

栗山達也

右両名訴訟代理人弁護士

楠田堯爾

加藤知明

田中穰

魚住直人

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金七八六九万四四九二円及びこれに対する平成元年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一億一五一四万七八二九円及びこれに対する平成元年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1記載の交通事故によって被った人身損害の賠償を、被告木戸に対し民法七〇九条を根拠に、被告栗山に対して自賠法三条を根拠に、それぞれ請求した事案である。

一争いのない事実

1  本件交通事故の発生

(一) 発生日時 平成元年一〇月五日午後七時三〇分ころ

(二) 事故現場 名古屋市熱田区三本松町二五―一先道路上

(三) 被害者  原告

(四) 加害者  被告木戸

(五) 加害車両 自動二輪車(名古屋る二二二九)

(六) 保有者  被告栗山

(七) 事故態様 後部座席に原告及び訴外上野幹代の両名が同乗し、被告木戸の運転する加害車両が、時速約六〇キロメートルで走行中、右事故現場付近において右カーブを曲りきれずに転倒し、原告が加害車両から道路上に投げ出された(<書証番号略>)。

2  被告らの責任原因

被告木戸は、加害車両の運転者として民法七〇九条の責任を、被告栗山は、加害車両の運行供用者として自賠法三条の責任をそれぞれ負担する。

3  原告の受傷及び後遺障害

原告は、本件事故によって、頭蓋骨骨折、脳挫傷、硬膜外下血腫等の傷害を負い、平成二年一〇月一一日に症状が固定したが、高次脳機能障害、右不全片麻痺、失語、右視力低下等の後遺障害が残存し、自賠法施行令二条別表後遺障害等級第一級(第三級八号と第八級一号の併合)と認定された。

4  損害の填補

原告は、本件事故による損害につき、自賠責保険から二四三三万二〇七〇円、被告木戸から四九万七九三〇円の支払を受けている。

二争点

1  損害の範囲(請求原因に対する積極否認)

被告らは、原告の主張する損害額の範囲を争い、特に、原告が被告木戸加入の搭乗者障害保険から五〇〇万円の保険金を受領していることを慰謝料算定において斟酌すべきであると主張し、これに対し、原告は右五〇〇万円の受領は認めるが、被告の右主張は争うと反論している。

2  好意同乗及び過失相殺による減額(抗弁)

被告らは、好意同乗やヘルメット不着用等を根拠として、原告の損害額の五割を減額すべきであると主張し、原告は、これを争っている。

第三争点に対する判断

(以下、成立に争いのない書証及び弁論の全趣旨により成立の認められる書証は、いずれもその旨の記載を省略する。)

一原告の損害

1  治療費(請求額一一八万四七四〇円)

一一四万九二四〇円

<書証番号略>、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により前示第二、一、3の傷害を負い、その治療のため、平成元年一〇月五日から翌二年八月八日まで三〇八日間名古屋掖済会病院に入院し、更に、同年八月九日から同病院に、同年九月六日からは名古屋市身体障害者総合リハビリセンターに、それぞれ症状固定の日まで一一回、一二回通院し、これらの治療費、文書料として国民保険負担分を除き合計右金額を要したものと認められる。

なお、原告は、その他に名古屋掖済会病院入院中に利用のテレビ代三万五五〇〇円も請求し、<書証番号略>にはこれに沿う記載があるが、直ちにその必要性を認めることができない。

2  入院付添費(請求額一六九万四〇〇〇円)

一三〇万五〇〇〇円

前示第二、一、3の争いのない事実に<書証番号略>、証人佐々木健治を総合すると、原告の受傷内容は相当重篤なものであり、原告が掖済会病院に入院した後の平成元年一〇月二三日から同病院を退院した平成二年八月八日までの二九〇日間にわたり付添看護を必要とし、実際に原告の両親らが付添看護したと認められるところ、一日当たりの付添費は四五〇〇円が相当とみるべきであるから、その合計は計算上一三〇万五〇〇〇円となる。

3  入院雑費(請求額四〇万〇四〇〇円)

三三万八〇〇〇円

原告の病状を考慮すると、当初の入院一〇〇日間は一日当たり一二〇〇円、それに続く入院一〇〇日間は一日当たり一一〇〇円、残りの入院一〇八日間は一日当たり一〇〇〇円の入院雑費が必要であったと認めるのが相当であり、その合計額は右金額となる。

4  介護費(請求額三二万円)

三三万三〇〇〇円

(一) 通院付添費及び交通費

原告は、平成二年八月九日から症状固定に至った同年一〇月一一日までの間に、掖済会病院に一一回、リハビリセンターに一二回通院しているが、<書証番号略>によると、そのうち、九月六日、一七日及び二七日の三日間は、双方の病院に通院しており、通院の日の通院付添費は二五〇〇円、交通費は二〇〇〇円を要したものと認めるのを相当とするので、通院付添費と交通費の合計額は、次のとおり九万円となる。

(計算)  (2,000+2,500)×20=90,000

(二) 自宅介護費

前示1認定の掖済会退院後症状固定に至るまでの六四日間における自宅での介護費用は、通院しない日は、一日当たり四五〇〇円、通院日はその半額とみるのが相当であると考えられるから、次のとおり、合計額は二四万三〇〇〇円となる。

(計算)

4,500×(64−20)+2,250×20=243,000

5  将来の介護費(請求額五一二五万二〇七六円)

四四九五万九〇〇二円

<書証番号略>、証人佐々木健治によれば、①原告は、前認定の後遺障害により、知能指数が三三程度に低下し、重度精神遅滞の状況にあり、右眼は、三〇センチメートルの距離で指が数えられる程度に視力が低下しているほか、右不全片麻痺のため歩行等が不安定であって、②日常生活上、用便、入浴等を独力でこなすことができない状態にあることが認められる。

そして、これらの後遺障害の諸症状は将来容易に改善される見込みもないとみられるから、原告は、生涯にわたって、両親等の付添が必要であるというべきところ、<書証番号略>によれば、原告は、昭和四六年七月一一日生まれの女性であり、症状が固定した平成二年一〇月一一日当時は一九歳であったことが認められるから、原告は、昭和六三年簡易生命表によると、なお約六三年間生きられ、その間、一日当たり四五〇〇円の介護費を要するものと認めるのが相当であり、新ホフマン係数を使用して、これを本件事故当時の原価に引き直すと、次のとおり四四九五万九〇〇二円となる。

(計算)

4,500×365×(28.3246−0.9523)=44,959,002

6  自宅改造費(請求額も同額)

三四三万七一七六円

右金額は当事者間で争いがない。

7  入通院慰謝料(請求額三五〇万円)

二四〇万円

原告の受傷内容・程度、入通院期間(入院一〇か月間、通院二か月間)等を考慮すると、二四〇万円をもって相当な入通院慰謝料であると認められる。

8  後遺障害逸失利益(請求額と同額)

五三四八万四一九七円

右金額は当事者間で争いがない。

9  後遺障害慰謝料(請求額二一〇〇万円)

一七〇〇万円

(一)  原告が加害車両の搭乗者傷害保険金として五〇〇万円を受領したことは、当事者間に争いがないが、これを慰謝料算定に当たり斟酌すべきかについて争いがあるので、以下この点について検討する。

搭乗者保険の目的は、これが対人賠償保険とは別個に、異なる保険料率のもとで自動車保険に付加され、定額の保険金が給付されること及び約款上保険代位がなされないことからして、運転者自身又は同乗者に十分な補償を得させることにあるのであって、対人損害賠償以外に搭乗者保険金が別途支払われることが予定されているというべきであり、したがって、搭乗者傷害保険は直接に損害填補の機能を有するものではないと考えるのが相当である。

しかし、加害車両の運転者が自ら保険契約者として保険料を支払っている場合、保険契約者としては、自己の運転を原因として発生した事故によって搭乗者が傷害を被ったときは、給付を受けた右保険金をもって見舞金とし、被害者の精神的苦痛を一部なりとも償おうという意思を有していたものと考えるべきであり、かつ、その見舞金の金額が社会通念上、一時的な見舞の意味以上の、事故自体に関する謝罪の趣旨をも含むものと評価することができる場合には、右に論じた搭乗者保険の趣旨・目的を考慮してもなお、右保険金を見舞金として給付することによって、被害者の精神的苦痛が一部なりとも慰謝され、実質的には損害の填補がなされたものと評価するのが相当であるから、右保険金の給付は慰謝料算定に当たって斟酌されるべきである。

このような見地から本件について検討すると、被告木戸は保険契約者として搭乗者保険特約付ドライバー保険に加入して(弁論の全趣旨)、保険料を支払い、前示五〇〇万円の保険金を原告に給付しており、自己の運転を原因として発生した事故によって搭乗者が傷害を被ったときは、給付を受けた右保険金をもって見舞金とし、被害者の精神的苦痛を一部なりとも償おうという意思を有していたものと評価することができ、かつ、五〇〇万円という金額は、社会通念上、一時的な見舞の意味以上の、事故自体に関する謝罪の趣旨をも含むものと評価することができるから、右五〇〇万円の支払を慰謝料の算定に当たって斟酌すべきである。

(二) したがって、原告の後遺障害の内容・程度等の諸般の事情(ただし、後記二判示の事情を除く。)と合わせて、右五〇〇万円の支払の事実をも斟酌し、後遺障害慰謝料は、一七〇〇万円をもって相当と認める。

10  弁護士費用(請求額五〇〇万円)

四〇〇万円

本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用は、四〇〇万円が相当であると認める。

11  総合計

一億二八四〇万五六一五円

(うち弁護士費用を除く部分は一億二四四〇万五六一五円)

二好意同乗及び過失相殺による減額

1  当事者間に争いのない事実、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告木戸は、本件事故当日、被告栗山から借りた加害車両を運転して自宅から本件事故現場付近の公園に向かった。この際、被告木戸は、自動二輪車の運転免許を有してはいなかったし、初めからヘルメットを着用していなかった。

(二) 原告と被告木戸は、事故当日にそれぞれの同級生五名ずつで初めて会い、右公園等で一時間くらい話をした後、原告とその友人の上野幹代らは帰宅のため駅へ向かったが、その途中、被告木戸から加害車両に同乗するよう誘われ、原告がこの誘いに応じて加害車両の後部座席に乗り、次に上野も同乗した。その後右三名は、いずれもヘルメットを着用しないまま被告木戸の運転で、事故現場付近を一周しようとしたが、同被告は、加害車両を時速約六〇キロメートルで走行させ、右カーブにさしかかった際、スピードの出し過ぎでハンドル操作を誤り、本件事故を発生させた。原告も上野も、被告木戸が無免許であることは知らなかった。

2  右認定事実によれば、無免許で自動二輪車を三人乗りし、速度超過から本件事故を発生させた被告木戸の過失は極めて重大であるが、原告においても、少なくとも、ヘルメットを着用せず、誘いに応じて、自動二輪車に同乗し、加えて、三人乗りという無謀運転をも制止しなかった点で過失があるものと言わざるをえず、右過失を損害額の算定に当たって斟酌するのが相当であり、前示一の損害額のうち弁護士費用を除いた部分についてその二割を減額するのが相当である。

3  したがって、前示一の損害のうち、弁護士費用を除く一億二四四〇万五六一五円からその二割を控除し、残額に弁護士費用四〇〇万円を加えると、次のとおり一億〇三五二万四四九二円となる

(計算)

124,405,615×(1−0.2)+4,000,000=103,524,492

三損害の填補

右二、3の残額から原告が損害の填補を受けたことに争いのない合計二四八三万円を控除すると、残額は七八六九万四四九二円である

四結論

以上の次第で、原告の請求は、被告らに対し、連帯して七八六九万四四九二円及びこれに対する本件事故発生の日である平成元年一〇月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判長裁判官大橋英夫 裁判官夏目明德 裁判官野村朗)

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