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名古屋地方裁判所 平成2年(行ク)13号 決定 1990年11月09日

申立人(本案事件被告) 西尾武喜

右申立人代理人弁護士 大場民男

被申立人 名古屋市長 西尾武喜

本案事件原告 浅井岩根

同 橋本修三

主文

平成二年(行ウ)第三〇号損害賠償請求事件につき、被申立人を申立人のために参加させる。

理由

一  本件申立ての趣旨及びその理由の要旨は別紙一、二に、被申立人の意見の要旨は別紙三に、本案事件原告らの意見の要旨は別紙四に各記載のとおりである。

二  そこで、本件申立ての適否について判断するに、本案事件は、名古屋市が本案事件被告の財団法人世界デザイン博覧会協会から物品を購入したことにつき、当該購入代金の支出に関与した申立人ほか三名に対し、購入代金相当額の損害を名古屋市に賠償するよう求める住民訴訟であるところ、一件記録によると、被申立人は、右購入代金の支出を命令した行政庁であることが認められる。

ところで、地方自治法二四二条の二第六項、行政事件訴訟法四二条三項及び四一条一項によって準用される同法二三条の規定は、財務会計上の行為をし、又はこれに関係した行政庁を訴訟に引き入れてその有する訴訟資料等を法廷に提出させることによって、適正な審理裁判を実現することを目的とするものであるところ、前記のような立場にある被申立人を本案事件に参加させることにより、右の法の目的に沿う結果となることを期待できることは明らかである。

したがって、被申立人を本案事件に参加させることが必要であると認めるのが相当である。

三  ところで、右のように被申立人の参加を認めるとしても、本案事件の当事者のいずれに参加させるべきかが問題となるので判断するに、本件で問題となっている行政庁の訴訟参加は、前記のとおり、訴訟資料を豊富にすることにより適正な審理裁判を実現することを目的とするものであるところ、右目的の実現のためには、本案事件で適否が争われている財務会計上の行為をした行政庁を、右行為の適法性を主張、立証する側に参加させることが相当であると解されるから、被申立人は本案事件被告である申立人のために参加させるべきものというべきである。

この点に関し、本案事件原告らは、本案事件は、地方自治法二四二条の二第一項四号の請求であり、住民が名古屋市のために、名古屋市が私人である申立人外本案事件の被告らに対して有する権利を代位行使するものであるところ、名古屋市長が本案事件被告側に参加することを認めると、市の機関である市長が市と対立することとなり、その立場に矛盾が生じる旨主張する。しかしながら、名古屋市自体が本案事件における原告となっているわけではなく、また、もともと住民訴訟は、民事上の債権者代位権の行使とは異なり、住民が住民固有の立場に基づく参政権の行使として地方公共団体の権利を行使するものであり(最高裁判所昭和五三年三月三〇日第一小法廷判決、民集三二巻二号四八五頁)、住民訴訟における住民の立場と地方公共団体の立場とを全く同一のものと見ることはできないのであるから、本案事件原告らの右主張は理由がない。

四  よって、申立人の本件申立てには理由があるから、これを認めることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 杉原則彦 裁判官 岩倉広修)

別紙 一

参加決定申立書(平成二年九月三〇日)

一 申立ての趣旨

被申立人名古屋市長を本件に参加させる旨の決定を求める。

二 申立ての理由

1 被告西尾は、現在名古屋市長の職にある。

しかしながら、原告の主張する支出負担行為及び支出命令に係る行為者とその内容及び適否等に関する資料は、行政庁たる被申立人名古屋市長(現実には、名古屋市の担当事務部局)が、これを所持しているものであるから、被告西尾が個人として提訴された本件訴訟に応訴するため、これらの資料を提出することは、不可能な状態にある。

したがって、訴訟資料を豊富にし、適正な裁判の実現を図るためには、前記資料を所持している被申立人名古屋市長を本件に参加させる必要がある。

2 本件につき、仮に原告勝訴の判決があった場合には、その効力は名古屋市に及ぶものであるから、名古屋市に攻撃防禦の手段を尽くさせるためにも、名古屋市の長たる執行機関である被申立人名古屋市長を本件に参加させる必要がある。

3 よって、被申立人名古屋市長を本件に参加させられたく、地方自治法第二四二条の二第六項並びに行訴法第四三条第三項、第四一条第一項及び第二三条により申し立てる。

なお、学説においても、行政庁の参加に関する行訴法第二三条の規定は、本件のような地方自治法第二四二条の二第一項第四号の代位請求訴訟に準用があることを肯定する(三好達「住民訴訟の諸問題」新・実務民訴講座九巻三二四頁)のみならず、「積極的に同条(行訴法第二三条を指す。被告代理人加筆)の運用を図るべきである」とされている(大和勇美「住民訴訟の諸問題」実務民訴講座九巻五七頁)。

別紙 二

申立人の意見書(平成二年一一月一日)

一 申立人(本案事件被告西尾)の平成二年九月二〇日付参加決定の申立ては、行政事件訴訟法第二三条による行政庁参加の申立てであって、民事訴訟法第六四条による補助参加の申立てではない。

二 補助参加の申立ては、当事者の「一方」を補助するための訴訟参加であるので、原告又は被告のどちらに参加するかを明示しなければならない。

三 しかし、本件申立ては、裁判所が行政庁を参加させることが必要であると認めるように、職権の発動を促す趣旨を含む行政事件訴訟第二三条の「当事者の申立て」であり、行政庁がどちらに参加するかを明示して申立てるものでなく(本件申立ても、そのような明示をしていない。)、したがって、これまでの裁判所の行政庁参加の決定は、すべて、「○○市長(○○知事)を本件に参加させる」とされている。

四 そこで、本件のように、本案事件原告が「参加させるとの決定をすることに異議がない」と認めている事案において、同原告の主張のように、どちらに参加させるかを議論する実益があるかについて、疑問を有するものである。

五 右の疑問を有しつつ、行政事件訴訟法第二三条第三項が行政庁の訴訟参加について民事訴訟法第六九条を準用していることから、実質的に補助参加に類似しているとして、どちらに参加させるかについての明示はなくとも、実質上、どちらに参加させるかを論ずべきであるとして、申立人は、次のように考える。すなわち、本案訴訟においては、本案事件被告と被申立人の名古屋市長とは訴訟物に関し利害を同じくし、いずれも本案事件原告の住民と対立関係にあることが明らかである。そうであるとすると被申立人の名古屋市長は、本件事件被告と同一の利害関係を有し、同被告のため訴訟参加することができると考えるのが相当である(同旨 仙台高決平成二年一月二六日判例地方自治七〇号一〇頁)。

別紙 三

被申立人意見書(平成二年一〇月九日)

(意見の趣旨)

原告浅井岩根外一名、被告西尾武喜外三名間の御庁平成二年(行ウ)第三〇号損害賠償請求事件(本案事件)において、本案事件被告のため被申立人が参加することが相当である。

(理由)

一 名古屋市は、被告財団法人世界デザイン博覧会協会(以下「協会」という。)との間の売買契約により、平成二年一月一六日から同年三月一四日までの間に、代金合計一〇億三六三一万九三二四円を支払い、時計塔、街路灯等の物件を取得した。

二 右取得に伴う予算執行は、適法な行為である。

1 すなわち、名古屋市は、デザインに配慮して製造され、世界デザイン博覧会で好評を得た右物件を取得し、その有効活用を図ることが、名古屋市の行政運営上特に必要であるとの理由により右取得を行ったものである。

2 取得に際しては、地方自治法施行令第一六七条の二第一項第一号及び第二号の規定により、協会との随意契約を締結することとし、取得価格については、協会が示した転用評価額に、一定の減価をして得た額を基準として算定することとした。

3 名古屋市の取得した右物件は、現に利用に供され、又は設置工事中若しくは設置に向けて準備中であり、被申立人は、前記予算執行は、行政上の措置として、その方法、内容、効果とも、すべて適法であると信じている。

4 しかるに万一、本訴において前記予算執行が違法であると判断されれば、名古屋市としては、既に利用に供し、又は設置工事中若しくは設置に向けて準備中の別紙目録記載の物件を撤去し、協会に返還することが必要となり、ひいては、名古屋市が、世界デザイン博覧会を契機とした今後の重点施策として推進している「デザインに配慮したまちづくり」は、その端緒において停滞せざるを得ない。

そのような事態が発生するならば行政上の責任は誠に大なるものがあり、行政庁としては、この訴訟に重大な利害関係を有する。

三 さらに、本案訴訟における主要な争点は、前記予算執行が違法であるか否かであるが、これらが明らかにされるためには相当の関係資料が必要とされるところ、かかる資料は被申立人が保管しているから、訴訟経済上の見地からも当職の参加が相当である。

別紙 四

本案事件原告ら意見書(平成二年一〇月一七日)

一 意見の要旨

被申立人を本案事件原告らに参加させるとの決定をすることについては異議はないが、被申立人を申立人に参加させるとの決定をすることは許されないと考える。

二 意見の理由

1 行政訴訟法第二三条は、抗告訴訟において、係争行政処分に関与した行政庁が当事者とならない場合があるので、そのような場合に当該行政庁の有する資料や知識、経験を訴訟の場に提供させ、もって行政裁判の適正に資することを目的として設けられたものである。右目的は本案訴訟においても妥当するので、被申立人を本案訴訟に参加させることについては、これを認めるべきである。

2 但し、本案訴訟は、原告らが名古屋市を代位して提起したものであって、実質上の当事者・権利帰属者は名古屋市自身というべきであるから、名古屋市あるいはそれを代表する名古屋市長である被申立人が、相手方である申立人に参加するということは、訴訟における対立当事者の基本概念に違反する。

3 よって、本件においては、被申立人を本案原告らに参加させるとの決定をなすべきである。

4 申立人の引用する学説には、行政庁を本案事件被告側に参加させることが当然であるかのような記述があるが、これは抗告訴訟への行政庁の参加について、係争行政処分又は裁決の適法・有効を主張・立証すべき側(=本案事件被告側)を補助することとなるとの学説を形式的にあてはめたためであって、地方自治法第二四二条の二第一項第四号の代位請求訴訟が抗告訴訟と異なり行政庁ではなく私人を被告とするものであり、むしろ原告が地方自治体の側に立ってその権利を実現するために提起するものであるという特質を看過する見解である。なお、地方自治法第二四二条の二第一項第四号の代位請求訴訟においては、行政訴訟法第二三条を根拠として行政庁を被告側に参加させることはできないとの学説(仲江利政編「住民訴訟の実務と判例」一四八頁以下)や、民事訴訟法第六四条による行政庁の被告への補助参加を否定した判例(東京高裁決定昭和五八年九月三〇日判例時報一一〇一号四〇頁)の存することを付言する。

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