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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)3254号 判決 1996年5月13日

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  被告メーコートレーディングサービス株式会社は、各原告に対し、それぞれ別表「被害金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成元年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Y1及び同Y2は、各自、原告X1に対し金三二〇万四一八六円、原告X2に対し金六四八万九五二〇円、その余の各原告に対しそれぞれ別表「被害金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成元年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告Y3は、原告X16に対し金二〇〇万円、原告X17に対し金五八万四四〇〇円、原告X23に対し金二九〇万七〇四九円及びこれらに対する平成元年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告メーコートレーディングサービス株式会社(以下「被告会社」という。)、同Y1、同Y2は、各原告に対し、各自それぞれ別表「被害金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成元年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告Y3は、原告X16に対し金二〇〇万円、原告X17に対し金二二八万四四八六円、原告X23に対し金二九〇万七〇四九円及びこれらに対する平成元年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

被告Y1、同Y3は、いずれも以下の判決を求めた。

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告会社の責任

(一) 被告会社は、本店を名古屋市<以下省略>に置き、海外商品取引所に上場された粗糖、大豆等の先物取引の国内における受託業務等を目的として昭和五九年六月一三日に設立された会社であるが、以前から海外商品先物取引の受託業務を行っていたトーコートレーディングサービス株式会社(以下「トーコートレーディング」という。)の名古屋支店、岐阜支店、大阪支店の事務所等の物的設備、従業員並びにその顧客を引き継いで、従来のトーコートレーディング名古屋支店を本社とし、トーコートレーディングの岐阜支店、大阪支店をそれぞれ被告会社の岐阜支店、大阪支店として、昭和六〇年一〇月一日から営業を開始した。

(二) 被告会社は、資本金三〇〇〇万円で設立され、昭和五九年七月四日に増資されて資本金六〇〇〇万円となったが、設立及び増資に当たっては、トーコートレーディングからこれに見合う資金を借り入れ、銀行に一時的に預金して株式払込金保管証明書をとり、登記後直ちに預金を払い戻してトーコートレーディングに返還する、いわゆる見せ金による払込みの方法がとられ、資本額に相当する会社資産はなかった上、設立以来営業活動を行っておらず、いわゆる休眠会社であった。そして、商品の先物取引においては、その受託業者は、売買委託契約額の概ね一割程度で予め定められている額の委託保証金を顧客から預かり、取引が決済された際に、損益の精算をした上で、これを顧客に返還すべきところ、被告会社は、営業を開始した昭和六〇年一〇月一日において、トーコートレーディングから引き継いだ右委託保証金の顧客に対する返還債務が四億七三三六万九七〇二円であるのに対し、手持ちの現金、預金の合計は約三一六万円に過ぎず、営業開始当初から顧客に対する委託保証金の返還が困難な財政状況であり、顧客からの手数料以外にはほとんど収入がなかったので、右の委託保証金を返還できる確かな当てもなかった。

(三) トーコートレーディングは、顧客から受けた売買注文を香港の先物取引所である香港期貨交易所有限公司(以下「香港先物取引所」という。)の正会員である新都商品有限公司(以下「新都商品」という。)に委託していたが、その際、保証金を送金しないで済むようにするため、顧客の注文した建玉と同限月、同数の反対玉をトーコートレーディングが建てる(いわゆる「向い玉」を建てる。)などして、顧客から預かった委託保証金を留保し、これを人件費等の経費として費消する一方、委託保証金を顧客に返還しないようにするため、顧客に無用な建玉、玉の手仕舞いを繰り返させて手数料を稼いだり、顧客に売買による損失を与えるなどの方法で、顧客の出金要求にはできるだけ応じないようにしていた。

(四) 被告会社においても、前記のとおりの事情から、営業開始以来同様の営業方針がとられていた。

すなわち、被告会社は、顧客の注文した建玉に対しては、できるだけ差玉が生じないように他の顧客から反対玉の注文をとってこれに向かわせ、それでも生じた差玉に対しては被告会社の自己玉を向い玉として建てることにより、新都商品に対して保証金を送金しなくて済むようにし、顧客から預かった委託保証金を社内に留保し、人件費等の経費として費消する一方、顧客からの入金額を増やし、顧客に対する出金額を少なくすることを経営の基本方針とし、これを「向上を上げる」と称して、右方針の従業員に対する徹底を図っていた。そして、顧客に対する出金額を少なくして「向上を上げる」ために、①既存の建玉を仕切ると同時に委託保証金限度いっぱいに建玉をし、顧客にとって無意味な売買を繰り返す方法で手数料稼ぎをする、②顧客に利益が出たときに、これを委託保証金に組み入れ、その限度額いっぱいの建玉をしたり(いわゆる「利乗せ満玉」)、相場の状況とは無関係に利益の出ている建玉を仕切ってその反対の建玉をする(いわゆる「途転」)、③以上のような方法で顧客に損失を被らせるため、顧客に何の連絡もせず又は顧客の了解を得ずに建玉をしたり、建玉を仕切る(いわゆる「無断売買」)、④顧客に計算上利益が出ている状態で出金要求があった場合にも、これを無視して放置したり、居留守を使って電話の応対に出なかったり、計算上生じたことになっている利益金で増し玉を勧めるなど、被告会社は、右のようないわゆる「客殺し」の方法で出金を免れていたものであり、従業員に対し、顧客に返還しなければならない金額を示す委託者総合管理表の差引欄の数字を右のような方法を用いて減らす意味で「有効を減らせ」とか、手数料で顧客に損をさせる意味で「手数料を振れ」と繰り返し指示していた。

(五) 幹部会議について

被告会社においては、右営業方針を達成するために、本社、支店、営業所の副長あるいは係長以上の会社幹部が月一回本社に集まって行う幹部会議が開催されていた。

幹部会議では、当月の営業成績の報告とともに、本社の各課、各支店毎の向上目標額の提出が義務付けられており、次期の営業目標達成のための方策が協議されていた。すなわち、客殺しの方法で向上を上げるという被告会社の営業方針を達成するための具体的方策は幹部会議で決定されていた。

(六) このように、被告会社の営業方針は、営業そのものが顧客に損害を与え、顧客から預かった委託保証金も返還しないというものであり、被告会社は、商品先物取引に名を借りて、その知識が乏しく、夫に内緒で利殖しようとする家庭の主婦等に対し、言葉巧みにいかにも有利な利殖方法であるかのように装い、これを海外商品先物取引に応じさせ、このようにして取引に一旦応じた顧客に対しては、更に、損を取り返すなどと偽って、困惑する顧客にその有する預貯金や保険を解約させるのみならず借金までさせて、その委託保証金名下に多額の金員を交付させ、これを騙取したものである。

(七) 原告らは、被告会社の右営業方針の実践によって、後記5のとおり損害を被ったものであり、また、被告会社の従業員である被告Y1、同Y2、同Y3は、後記2ないし4のとおり被告会社の営業方針の実践に関与していたものであるから、被告会社は、原告らに対し、民法七〇九条又は同法七一五条に基づいて右損害を賠償すべき責任を負う。

2  被告Y2の責任について

(一) 被告Y2は、トーコートレーディングを中心とした商品先物取引の受託を業とする会社からなる、いわゆるトーコーグループに属する北辰物産株式会社、東海交易株式会社、メディエーションカンパニー株式会社(以下「メディエーション」という。)に勤務した後、昭和六〇年一〇月、当時メディエーションの社長をしていたBから被告会社の内勤の責任者に任命され、それ以降は、右立場で被告会社の業務に従事していたものである。

被告Y2は、被告会社が受託して行った建玉の管理を主要な業務内容としており、自ら顧客の勧誘等の営業活動をすることはほとんどなかったため、原告らに対して直接の欺罔行為をしたことはないが、従業員を含めた組織体として緊密な共同性を持ち一体となって詐欺商法を遂行していた被告会社において、その内勤の責任者として、右組織体の不法行為の中心的役割を果たしてきたものである。

(二) 被告Y2は、昭和六一年七月一日に被告会社の代表取締役に就任したA、被告会社の取締役C、同Dらと同様、内勤の責任者として常に顧客の損益の状況を把握していたものであり、顧客に返還すべき委託保証金に見合う現金や預金が被告会社にないこと、顧客から預かった委託保証金を次から次へと被告会社の経費として費消してしまっていること、被告会社の営業形態そのものがいわゆる客殺しの手法によって手数料・取引損名目で顧客に損をさせるものであること、被告会社が向い玉を建てることによって顧客から受け入れた委託保証金を香港の新都商品に送ることなく被告会社に留めておき、その資金を経費として費消してしまうこと、営業担当従業員が顧客を欺くセールスを繰り返していることについて、既に被告会社設立当初あるいは設立後間もないころから十分知り尽くしていた。

被告Y2は、そのような事実関係を知りながら、内勤の責任者として、組織体として行う不法行為の中心的役割を担ってきたものである。

(三) したがって、被告Y2は、個々の原告に対する直接の欺罔行為の担当者ではないが、原告らの被った後記5の損害全額について賠償すべき責任を免れることはできない。

3  被告Y1の責任について

(一) 被告Y1は、昭和五八年一一月ころトーコートレーディングに入社し、営業を担当して昇進し、昭和五九年九月に同社の大阪支店長に就任し、昭和六〇年一〇月に被告会社が営業を開始してから、被告会社の大阪支店長となり、昭和六一年二月に同大阪支店が閉鎖になったため、被告会社の本社に転勤となり、本社副長代行(第一支店長)を経て、同年六月に岐阜支店長となり、昭和六三年には営業部次長に就任した。

(二) 被告Y1は、昭和六〇年一〇月に開催された幹部会議において、昭和六一年六月三〇日まで被告会社の代表取締役であったBから、被告会社の顧客に対する委託保証金の返還債務が四億七〇〇〇万円位であるのに対し、手持ちの現金、預金が三〇〇万円余りに過ぎず、顧客に対する委託保証金の返還が困難な財政状況であり、委託保証金を返還できる確かな当てがないことを聞かされていた。また、その際、被告Y1は、Bから「商いをやって向上を増やさないとやっていけない。」と言われたが、その「商い」という言葉が、顧客の無知に乗じた売買、無断売買、無意味な売買などを意味することを認識していたし、本社第一支店長当時から、委託者総合管理表に「自己」という項目があって、これに枚数が記載されていたことから、被告会社が向い玉を建てていることも認識していた。

右のように、被告Y1は、被告会社の違法な営業方針を認容しながら、被告会社の取引行為に関与していた。

(三) 一方、被告Y1は、被告会社が営業を開始した昭和六〇年一〇月から幹部会議に出席し、客殺しによって向上を上げる具体的方策の決定にも加担していた。

(四) 被告会社において行われた客殺しは、単に個々の取引に直接関与した従業員による行為というに止まらず、被告会社の営業方針としてされたものであり、右営業方針の具体的方策の決定は幹部会議で行われていたから、幹部会議の決定に関与していた会社幹部らは、被告会社の違法行為に加担した共同不法行為者として責任を負うというべきである。

(五) よって、被告Y1も、幹部会議に出席しその決定に関与していたから、原告らの被った後記5の損害全額について賠償すべき責任を負うものというべきである。

4  被告Y3の責任について

(一) 被告Y3は、昭和六〇年六月ころトーコートレーディング大阪支店に入社し、同年一〇月にトーコートレーディングの業務が被告会社に引き継がれてから、引き続き被告会社の大阪支店に勤務し、昭和六一年二月末に同支店が閉鎖されたため本社勤務となり、同年五月の松阪営業所の開設に伴い同営業所に転勤して係長代行に昇格し、昭和六二年一月中旬に同営業所閉鎖に伴い岐阜支店勤務となり、同年三月ころ係長に昇格し、同年九月下旬に同支店が閉鎖されたため本社に戻り、同年一〇月末に退社したものであるが、この間、専ら営業に携わっていた。

被告Y3は、松坂営業所の係長代行となってから、幹部会議に出席したり、上司からの指導、教育を受けることにより、被告会社における取引が、顧客に対し、安全で短期間に多くの利益が得られるとの虚偽の事実を述べて委託保証金を出捐させ、無断売買等によりこれを返還しないようにする違法なものであることを承知しながら、具体的には以下のとおり違法な勧誘を行った。

(二) 原告X16に対する責任

(1) 被告Y3の勧誘行為

ア 原告X16は、海外商品先物取引はもとよりその他の商品取引の経験もない主婦であるが、被告Y3は、昭和六一年一二月一七日午前七時三〇分ころ、一面識もない原告X16に対し、電話によって海外商品先物取引の勧誘を行った。

イ 被告Y3は、右同日午前九時ころに、原告X16宅を訪れて、海外商品先物取引に関心のない原告X16を取引に引き込むために、海外商品先物取引の仕組み、保証金制度、危険性等について一切説明することなく、「政府の認可がある業者とそうでない業者があり、詐欺などに引っかかるのはニセの会社のことです。当社はちゃんとした認可を受けてやっている会社で絶対にそのようなことはないので安心して任せてください。」、「利息が下がって銀行預金なんてばかばかしいですよ。それより手っとり早く大きく増やせる方法があるのに、みすみす見逃す手はないでしょう。」などと言い、海外商品先物取引が危険性の高い投機的な取引である旨の説明を一切行わなかったことから、原告X16は、海外商品先物取引があたかも確実に利益が上がり儲かるものであると誤信し、その結果、香港砂糖五枚の買建取引を承諾し、委託保証金名下に二〇〇万円を出捐した。

ウ その後、同年一二月二五日ころに、被告Y3は、原告X16に対し、電話で「先日の値段が急落し奥さんの買い注文がマイナスになっているので、今切り替えときますがいいですか。」と言うだけで、その時の値段、相場状況などを詳しく説明しないまま「切り替え」という言葉を用いて途転取引を行わせた。

(2) 違法性

原告X16は、前記(1)のアの事情からすれば、海外商品先物取引を勧誘する適格を有しない者であるというべきであり、被告Y3の前記(1)のアの行為は、商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項(以下「指示事項」という。)の一が禁止する無差別電話勧誘並びに指示事項の二及び新規取引不適格者参入防止協定(受託業務適正化推進協定第一号、以下「協定第一号」という。)が禁止する不適格者の勧誘に当たり、同イの行為は、指示事項の四が禁止する投機性等の説明の欠如及び海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律(以下「海外規制法」という。)一〇条一号が禁止する断定的判断の提供に当たり、同ウの行為は、指示事項の七が禁止する無意味な反復売買(コロガシ)に当たる違法なものである。

(3) 損害

原告X16の前記(1)の取引は、昭和六二年になってから、被告会社の従業員のE、被告Y1らに引き継がれ、結局、原告X16は、その後の出捐も含めて、平成元年三月二三日までの間に後記5記載のとおりの損害を被った。

(三) 原告X17に対する責任

(1) 被告Y3の勧誘行為

原告X17は、商品先物取引の経験や株式等への投資経験もない独身の看護婦であるが、昭和六一年七月ころから、被告会社の従業員Fらから勧誘を受けて被告会社における海外商品先物取引に引きずり込まれ、委託保証金として既に五〇万円を出捐していたが、被告Y3は、原告X17に対し、昭和六二年二月一一日に電話によって突然「三月には一セント上がります。現在の状況では損になっていますが、その損をなくすため新たに四〇万円を入れて下さい。」と委託保証金の追加名目での出捐を要求し、原告X17が、「どうして損になる前に連絡してくれなかったのか。」「Fさんと話をさせて下さい。」などと抗議した後、「決済して下さい。」と手仕舞いを指示したのにもかかわらず、被告Y3は、「今決済すれば損をします。」などと言って原告X17の仕切り注文を拒否し、その結果原告X17に対し四〇万円を出捐させた。

(2) 違法性

被告Y3の右行為は、指示事項の一二が禁止する担当者の交替、海外規制法一〇条五号が禁止する仕切り等の拒否に当たる違法なものである。

(3) 損害

原告X17の前記(1)の取引は、その後、被告会社の従業員のG、被告Y1に引き継がれ、結局、原告X17は、昭和六三年二月二九日までの間に、当初のFらにより出捐させられた分も含め、後記5記載のとおりの損害を被った。

(四) 原告X23に対する責任

(1) 被告Y3の勧誘行為

ア 原告X23は、海外商品先物取引はもとよりその他の商品取引の経験もない主婦であるが、被告Y3は、昭和六二年四月二日、被告会社の従業員のHと共に原告X23宅に赴き、海外商品先物取引に関心のない原告X23を取引に引き込むために、原告X23に対し、海外商品先物取引の仕組み、保証金制度、危険性の告知等を一切せずに、「絶対に儲かります。国が勧奨している取引であり、銀行等へ預金するよりはるかに財テクです。豊田商事のような会社とは全く違います。」「今、砂糖の取引にいちばん儲かる時期です。貯金をおろして岐阜の会社へ来て下さい。会社を見れば安心するでしょう。」などと言い、海外商品先物取引が危険性の高い投機的な取引である旨の説明を一切行わず、あたかも確実に利益が上がり儲かるものであると誤信させた。その結果、原告X23は、香港砂糖五枚の買建て取引を承諾し、委託保証金名下に二〇〇万円を出捐した。

イ その後、原告X23の取引には、被告会社の従業員のI、被告Y1らも加わったが、昭和六二年四月八日午後、被告Y3は、原告X23宅に赴いた際、原告X23に対し、「もう少しやれませんか。」「今なら絶対に損をしません。」と言って、さらに六〇万円を出捐させた。

(2) 違法性

原告X23は、前記(1)のアの事情からすれば海外商品先物取引を勧誘する適格を有しない者であるというべきであり、被告Y3の前記(1)のアの行為は、指示事項の二及び協定第一号が禁止する不適格者の勧誘、指示事項の四が禁止する投機性等の説明の欠如並びに海外規制法一〇条一号が禁止する断定的判断の提供に当たり、同イの行為は、海外規制法一〇条一項が禁止する断定的判断の提供に当たる違法なものである。

(3) 損害

原告X23の前記(1)の取引は、その後、I、被告Y1に引き継がれ、結局、原告X23は、その後の出捐も含めて、昭和六二年八月五日までの間に後記5記載のとおりの損害を被った。

(五) 被告Y3は、右各原告に直接関与した範囲では、原告X16について二〇〇万円、原告X17について四〇万円、原告X23について二六〇万円をそれぞれ出捐させたものであるが、しかし、被告会社が客殺しの方法で向上を上げることを営業方針としていたことを十分に理解し、右営業方針に従って、右のような違法行為を行い、右原告らが被告Y3の手を離れた後も、他の担当者が被告会社の右営業方針に従って、可能な限りの金員を騙取することを十分に認識していたものであるから、右各原告の被った損害については、被告Y3が直接関与したことによる出捐金額に止まらず、その前後を含めた右各原告の後記5記載の損害額全体について賠償すべき責任を負う。

5  損害

右被告らの不法行為により、原告らは別表「財産的損害」欄記載の金額をそれぞれ被告会社に対し委託保証金として出捐し、同額の財産的損害を被るとともに、精神的苦痛を受けたが、その慰謝料は、各原告について別表記載の「精神的損害」欄記載の金額が相当である。

また、原告らは、右損害の賠償を求めるため、本件訴訟の提起及び遂行を弁護士である訴訟代理人らに依頼したが、その費用は、各原告について別表記載の「弁護士費用」欄記載の金額が相当である。

6  よって、不法行為に基づく損害賠償として、原告らは、被告会社、被告Y1及び被告Y2に対し、財産的損害、精神的損害及び弁護士費用の合計額である別表「被害金額」欄記載の金員、原告X16は、被告Y3に対し、同合計額である一〇〇五万六〇〇〇円のうち二〇〇万円、原告X17は同被告に対し、同合計額である二七四万一三八二円のうち二二八万四四八六円、原告X23は、同被告に対し、同合計額である二九〇万七〇四九円、並びに、これらに対する不法行為の後の日である平成元年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告Y3

請求原因4のうち、被告Y3が昭和六〇年五月から昭和六二年一〇月まで被告会社に在職していたことは認めるが、その余の各事実は、すべて否認し、若しくは争う。

2  被告Y1

請求原因事実は、すべて否認し、若しくは争う。

3  被告Y2

被告Y2は、請求原因に対する認否をしなかったが、弁論の全趣旨によれば、請求原因事実を否認していることが認められる。

三  被告Y3の反論

被告Y3は、顧客に対して、委託保証金、取引差益を返還することが可能であると信じていたものである。

被告Y3が、係長に昇格してからも、自己の管理下にある部下についてはともかく、自己の管理下に存しない他の社員の行動についてまで責任を負う理由はない。

四  被告Y3の反論に対する原告らの認否

すべて争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  被告会社に対する請求について

1  被告会社は、適式な呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しないから、被告会社に関する請求原因事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

2  そうすると、被告会社は、営業を開始した時点で、手持ちの現金、預金の合計が約三一六万円に過ぎなかったのに対し、トーコートレーディングから顧客に対する五億円近い委託保証金の返還債務を引き継いだのであるから、右委託保証金を返還することは到底不可能な状況であったことに加え、その後は、いわゆる向い玉を建てることによって、顧客から預かった委託保証金を新都商品に送金しなくて済むような態勢を取った上、海外商品先物取引の知識に乏しい原告らに対し、無用な建て玉、手仕舞いを繰り返させて手数料を発生させるなどの方法により、顧客に対する帳簿上の返還債務を減らし、顧客に返還すべき委託保証金を被告会社の人件費等の経費として費消していたのであるから、このような被告会社の営業方針に従って営業活動等を行っていた被告Y2らを含む被告会社の従業員らは、委託保証金を返還する意図がないにもかかわらず、被告会社の経費等に充当する資金として、原告らから、委託保証金の名目の下に金員を徴収したものというべきであって、被告会社の従業員らの右行為は、海外先物取引の外形を有しているものではあっても何らその実体を伴なわず、詐欺ともいうべき違法な行為であることが明白であるから、被告会社は、民法七一五条に基づき、その従業員らの右不法行為によって原告らが被った損害を賠償する責任を負うものというべきである。

3  原告らが、被告会社の従業員らの右不法行為によって、被告会社に対し、請求原因5記載のとおりの金員を出捐し、同額の損害を被ったことについて、被告会社と原告らとの間で自白が成立することは前記のとおりであり、さらに、被告会社の従業員らが原告らに対して行った行為の態様、原告らが委託保証金として出捐した金額等を考慮すると、原告らが被った精神的苦痛に対する慰藉料、及び、原告らが本件訴訟を遂行するために訴訟代理人である弁護士を依頼するのに要した費用は、請求原因5記載の金額が相当であるものというべきである。

4  したがって、原告らの被告会社に対する請求は、理由がある。

二  被告Y1、被告Y2に対する請求について

1  いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第八ないし第一二号証、第五一、第五二号証、甲第五六ないし第六二号証によれば、請求原因1の(一)ないし(六)、同2の(一)、(二)、同3の(一)ないし(三)の各事実を認めることができる。

2  以上の事実によれば、被告会社は、前記一の2記載のとおり、原告らに対し、委託保証金を返還する意図がないにもかかわらず、自らの経費等に充当する資金として、委託保証金の名目の下に金員を微収するという詐欺ともいうべき違法な行為を組織的に行っていたものであるが、被告Y2は、被告会社の営業行為が右のように違法なものであることを認識しつつ、昭和六〇年一〇月一日に被告会社の内勤の責任者に任命されてから、被告会社の建玉の管理を行うという被告会社の行う違法行為の中心的な役割を担ってきたものであり、また、被告Y1は、被告会社がトーコートレーディングから引き継いだ返還債務の額が約四億七〇〇〇万円にも及ぶ一方、右債務を履行することが到底不可能な資産状況であったことや、顧客の無知に乗じた売買、無断売買、無意味な売買等の違法な営業行為を行うことを認識しつつ、岐阜支店長、営業部次長等の被告会社の中枢的な幹部を務め、幹部会議に出席して、被告会社の右のような違法な営業方針を推進する決定に関与していたのであるから、被告Y2及び被告Y1は、被告会社において組織的に行われていた違法行為の営業開始当初からの中心的実行者として、少なくとも被告会社が営業を開始した後に原告らが被った損害について、民法七〇九条、七一九条に基づき、連帯して賠償する責任を負うものというべきである。

3  損害

(一)  原告X8本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二二号証、原告X10本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二三号証、原告X23本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三五号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一五ないし第二一号証、第二四ないし第三四号証、第三六ないし第四四号証、第四五号証の一、二、第四八ないし第五〇号証、第五三号証の一ないし三二、第五四号証の一、二、第五五号証の一ないし四、原告X8、原告X10及び原告X23の各本人尋問の結果によれば、被告Y2及び被告Y1の前記不法行為により、原告X1は二六七万〇一五六円、原告X2は五四〇万七九三四円、その余の各原告は別表「財産的損害」欄記載の各金額を、それぞれ被告会社に対して出捐し、同金額の財産的損害を被ったことが認められる。

原告X2は、被告Y1及び被告Y2らの共同不法行為によって七四〇万七九三四円の財産的損害を被った旨主張するが、前掲甲第一六号証によれば、右金額のうち二〇〇万円の部分については、原告X2が、被告会社が営業を開始した昭和六〇年一〇月一日以前に、トーコートレーディングとの取引で被った損害であることが認められ、右損害部分が被告Y2及び被告Y1が関与した不法行為により生じたものであることを認めるに足りる証拠はない。

また、原告X1は、二七五万〇一五六円の財産的損害を被った旨主張するが、右認定額を超えて原告X1が財産的損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。

(二)  そして、被告Y2及び被告Y1が原告らに対して行った行為の態様、原告らが委託保証金として出捐した金額等を考慮すると、原告らが被った精神的苦痛に対する慰藉料の額は、原告X1について二六万七〇一五円、原告X2について五四万〇七九三円、その余の各原告については前記一の3に説示したとおり別表「精神的損害」欄記載の各金額が、原告らが本件訴訟を遂行するために訴訟代理人である弁護士を依頼するのに要した費用は、原告X1について二六万七〇一五円、原告X2について五四万〇七九三円、その余の各原告については前記一の3に説示したとおり別表「弁護士費用」欄記載の各金額がそれぞれ相当であるものというべきである。

三  被告Y3に対する請求について

1  前掲甲第一〇、第二九、第三〇、第三五号証、被告Y3本人尋問の結果によれば、請求原因4の(一)、同(二)ないし(四)の各(1)及び(3)の各事実を認めることができる。

また、右各証拠によれば、被告Y3は、被告会社の営業方針が、「向上」の額を増加させること、すなわち、顧客からできるだけ多くの委託保証金を集め、一方、集めた委託保証金をなるべく顧客に返還しないようにすることを目標とし、顧客から委託保証金を集めるに際しては、その取引が先物取引であって損失を被るリスクがあることを説明せず、かえって短期間に多くの利益が安全に得られると虚偽の説明をして勧誘し、初めての顧客に対して新規の取引を勧誘する場合には、説明が容易であるというそれだけの理由から、投資対象の相場の動向に関係なく常に買い建てから入るように勧誘し、一旦取引が始まると、顧客に無断で取引を行い、また、顧客から取引の解約を請求された場合には一〇営業日以内に委託保証金の残額を返還すべき義務があるにもかかわらず、被告会社には右解約を拒むための折衝に当たる専門の係員が置かれていて、容易に右返還に応じないことを認識していたことが認められる。

2  以上の事実によれば、被告Y3は、いずれも商品先物取引等の投資経験が全くない原告X16、原告X17及び原告X23に対し、前記認定のような勧誘を行ったものであるが、右勧誘行為は、原告らの主張するように、海外規制法が禁止する断定的な勧誘(同法一〇条一号)や仕切り等の拒否(同条五号)に該当するとともに、顧客を保護するために、国内における先物取引の受託業者の自主規制として制定された指示事項や協定第一号の趣旨にも反するものというべきである。

そして、右の取締法規に違反したことが、顧客との関係において直ちに違法な行為であって不法行為になるということはできないものの、商品先物取引は投機性が強く、委託者が不測の損害を被る危険があることから、商品先物取引を勧誘する取引員は、顧客の知識、経験、判断能力を考慮して、顧客が自らの責任と判断で取引を行うために必要な情報を提供した上で勧誘すべき義務があるというべきであり、被告Y3の右勧誘行為は、当初から顧客に適切な情報を提供する意図を持たず、ただ単に顧客から海外商品先物取引を行うという名目で委託保証金を徴収することのみを目的としたものであるというべきであるから、商品先物取引員が尽くすべき右注意義務を著しく欠き、社会的相当性を逸脱した違法な行為であることは明白である。

3  また、前記認定の事実によれば、被告Y3は、右各原告に直接関与した範囲では、原告X16について二〇〇万円、原告X17について四〇万円、原告X23について二六〇万円をそれぞれ出捐させたに過ぎず、また、被告Y3は、被告会社の係長に昇格したのを最後に退職しているから、被告Y1や被告Y2と比較すれば、被告会社の営業方針を決定するような中心的な幹部であったということはできないものの、しかし、被告Y3は、被告会社において組織的に行われていた詐欺ともいうべき違法な営業行為の内容を概ね認識していたといい得るのであって、被告Y3が関与した後の取引については、被告Y3は、自らの手を離れた後にも、他の担当者が被告会社の前記のとおりの違法な営業方針に従って、顧客から可能な限りの金員を騙取することを十分に認識して右勧誘を行っていたものであるから、少なくとも被告Y3が被告会社を退社するまでの間に右原告らが被った損害については、被告Y3が直接関与したことによる出捐金額に止まらず、その後の出捐額を含めた損害について賠償する責任を負うものというべきである。

なお、既に認定したとおり、原告X17については、被告Y3が同人の勧誘に関与する以前に、既に五〇万円を出捐しており、これについては被告Y3の行為によって同原告に生じた損害ということはできないし、また、被告Y3が、被告会社を退社した後には、他の従業員によって原告らの損害が拡大することを止めることは到底困難であったものといい得るから、その時期に原告らが被告会社に出捐したことによって生じた損害についてまで、被告Y3が不法行為による賠償責任を負うものということはできず、他に、右各出捐額が被告Y3の不法行為による損害となるべき事情を認めるに足りる証拠はない。

4  そうすると、前記認定の事実によれば、被告Y3は昭和六二年一〇月末に被告会社を退社していて、前掲甲第二九、第三〇、第三五号証によれば、被告Y3が勧誘に関与した後、昭和六二年一〇月末までの間に、原告X16は六〇〇万円を、原告X17は四八万七〇〇〇円を、原告X23は二四二万二五四一円をそれぞれ被告会社に対して出捐し、同額の財産的損害を被ったことが認められ、また、被告Y3が右各原告に対して行った行為の態様、右各原告が被った財産的損害の金額等を考慮すると、被告Y3の右不法行為と相当因果関係があると認められる右各原告の慰藉料の相当額は、原告X16について六〇万円、原告X17について四万八七〇〇円、原告X23について二四万二二五四円であり、弁護士費用についても、右同額が相当であるものというべきである。

四  以上によれば、原告らの被告らに対する不法行為に基づく本訴各請求のうち、原告らの被告会社に対する請求、原告X1及び原告X2を除くその余の原告らの被告Y1及び同Y2に対する各請求、原告X16及び原告X23の被告Y3に対する各請求、原告X1が被告Y1及び同Y2に対し前記二の3記載の財産的損害、精神的損害及び弁護士費用の合計額である三二〇万四一八六円及びこれに対する不法行為の後の日である平成元年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分、原告X2が被告Y1及び同Y2に対し同合計額である六四八万九五二〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める部分、原告X17が被告Y3に対し前記三の4記載の同合計額である五八万四四〇〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める部分はいずれも理由があるからこれらを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条ただし書及び九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大谷禎男 裁判官 貝原信之 裁判官 前田郁勝)

当事者目録

三重県四日市<以下省略>

原告 X1

愛知県西尾市<以下省略>

原告 X2

三重県四日市<以下省略>

原告 X3

愛知県西尾市<以下省略>

原告 X4

愛知県岡崎市<以下省略>

原告 X5

茨城県つくば市<以下省略>

原告 X6

愛知県豊田市<以下省略>

原告 X7

岐阜県各務原市<以下省略>

原告 X8

三重県四日市<以下省略>

原告 X9

愛知県岡崎市<以下省略>

原告 X10

愛知県豊川市<以下省略>

原告 X11

愛知県岡崎市<以下省略>

原告 X12

愛知県岡崎市<以下省略>

原告 X13

三重県鈴鹿市<以下省略>

原告 X14

岐阜県大垣市<以下省略>

原告 X15

三重県鈴鹿市<以下省略>

原告 X16

岐阜県可児市<以下省略>

原告 X17

岐阜県各務原市<以下省略>

原告 X18

愛知県岡崎市<以下省略>

原告 X19

愛知県岡崎市<以下省略>

原告 X20

三重県鈴鹿市<以下省略>

原告 X21

愛知県一宮市<以下省略>

原告 X22

岐阜県各務原市<以下省略>

原告 X23

右原告二三名訴訟代理人弁護士 井口浩治

同 太田勇

同 大田清則

同 柴田義朗

同 髙柳元

同 藤田哲

同 山崎浩司

名古屋市<以下省略>

被告 メーコートレーディングサービス株式会社

右代表者代表取締役 A

名古屋市<以下省略>

被告 Y1

愛知県豊川市<以下省略>

被告 Y2

大阪市<以下省略>

被告 Y3

右訴訟代理人弁護士 中村善胤

<以下省略>

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