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吉井簡易裁判所 昭和34年(ろ)16号 判決 1959年8月06日

被告人 白水政美

大一一・三・一二生 自動車運転者

主文

被告人は無罪

理由

本件公訴事実は「被告人は昭和三四年三月七日午後一時五二分頃佐賀県三養基郡基山町秋光橋道路上において、佐賀県公安委員会が追越禁止の場所として定めた橋上において緊急自動車以外の小型乗用車(福第五あ―三五五三号)を運転して、普通貨物自動車を追越したものである。」と言うにあつて、罪名は道路交通取締法施行令違反、罰条は同令第二三条第一項、第七二条佐賀県道路交通取締法施行細則第五条第一号に該当する、と言うにある。

よつて審究するに、当裁判所のなした証人緒方満夫に対する尋問調書並びに検証調書、司法巡査作成の交通違反報告書、被告人作成の供述書の各記載に、被告人の当公廷における供述を綜合すると、被告人が昭和三四年三月七日午後一時五二分頃小型四輪自動車(福五あ―三五五三号)を運転して佐賀県三養基郡基山町第一級国道三号線を基山駅方面より鳥栖方面に向け進行中、同国道上同町秋光橋上において、同一方向に進行する貨物自動車一台を追越した事実を認めるに十分である。

而して検察事務官作成の佐賀県道路交通取締法細則抜粋と題する書面の記載に依つて認め得る同細則第五条の規定に依れば、佐賀県下の橋上においては緊急自動車以外の自動車は他の自動車及原動機付自転車の追越を禁止せられていることを認めるに足り且つ同細則第五条の規定中「令第二三条の規定によるの外」との文理並びに規定の趣旨等よりして右五条の規定は道路交通取締法施行令第二三条第一項の規定に依る委任に基き、佐賀県公安委員会において、追越禁止の規定を設けたものであることを明白に認め得る。

従つて被告人の前記追越の行為は佐賀県道路交通取締法施行細則第五条の規定に基く禁止に違反し、延いては同法施行令第七二条第二号の罰則に該当するものの如くである。

然るに同施行令第五条の規定に依れば、同令第二三条第一項の規定に基き公安委員会が必要な禁止を行うときは道路標識又は区画線によつてしなければならない旨規定され、道路標識の設置の方法、様式等については、同令第六条に規定するところであるので前記佐賀県道路交通取締法施行細則第五条の規定による追越禁止は、法定の道路標識の設置に依つて、公示されて始めて、具体的且つ完全に追越禁止の効力を生ずるものと言うべきところ、前記検証調書及証人尋問調書の各記載に依れば前記秋光橋附近には、曽て追越禁止の道路標識を設置したことはなかつた事実を認めるに足るので道路標識による公示を欠ぐ前記佐賀県道路交通取締法施行細則第五条の禁止に違反したものと論断することは出来ない。

これを要するに被告人の本件追越行為は違法性を欠ぐものというべきである。

仍て本件被告事件は罪とならないので、刑事訴訟法第三三六条に則り、無罪の裁判を言渡すべきものとする。

(裁判官 真庭春夫)

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