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千葉家庭裁判所 昭和45年(少ハ)12号 決定 1971年2月16日

少年 JK(昭二六・三・一生)

主文

本件収容継続申請を棄却する。

理由

本人は昭和四四年一一月一一日千葉家庭裁判所で窃盗、住居侵入保護事件により医療少年院送致決定を受け、東京医療少年院で収容されているものであるが、昭和四六年三月一日で満二〇歳に達し、その前日をもつて期間満了となるため、このたび東京医療少年院長梶村洋一からなお矯正教育の必要があるとして収容継続の申請があつた。その理由とするところは次のとおりである。

(申請の理由)

本人は入院以来懲戒に付すべき事故は一度も起していないが、寮内、実科場ともに無気力で全く意欲なく、自分のやりたいようにやろうとする我儘なところがあり、友人を一人もつくろうとせず、孤立し、他生からも相手にされていない。職員の命令、指示にもほとんど反応を示さず、わずかに首を動かすといつた状態である。昭和四五年一一月の行動観察によれば、大便をもらしたり、日誌に「朝起きてごはんを食べてテレビを見ました」を一週間もくりかえして書いたり、室内でなにもせず足を投げだした姿勢でぼんやりして何時間も過ごす毎日のくりかえしであつて、その行動は異常である。精神科医家近一郎の診断によれば接枝分裂病の疑いがあるとされている。処遇段階は昭和四五年一一月一日ようやく一級の下になつたばかりで、家庭の引受状況も悪く、本人の引受を拒否している状態である。以上の次第で東京医療少年院の治療教育の課程を終えるにはまだ相当の期間が必要であり、また出院の場合には保護司などの指導監督が必要であるので、その保護観察期間をも含めて、一年間収容を継続する旨の決定を申請する。

そこで当裁判所は東京医療少年院分類保護課長竹内達郎の意見をきき、在院者本人に供述を求め、更らに家庭裁判所調査官中村敏和の意見をきいたうえ次のとおり判断する。

(当裁判所の判断)

本人はIQ43の痴愚級精神薄弱であるが、東京医療少年院は本人に対し作業療法及び薬物療法によつて治療、教育を試みたが期待された効果はあがらなかつた。のみならず一面ではかえつて悪くなつたと思われる点がみられる。即ち、医療少年院送致決定当時は、問われたことに対しては要領をえないが曲りなりにも答えることができ、とにかく不充分ながら会話力はあつたが、現在では、なすことすべてに無気力で、問われたことに対してそれを肯定する場合にのみかろうじてわずかに頭を下げる程度で、会話力は全くない状態である。また、申請の理由で述べられているとおり歩きながら大便をもらすなどの行動がみられ、これらは従前になかつたことである。精神科医家近一郎の診断によれば接枝分裂病の疑いがあるとのことである。

本人が右のような状態であるため、東京医療少年院の竹内分類保護課長は本人はもはや同院における矯正教育の対象ではないとの意見を述べており、これ以上同院に収容しておいても矯正教育の効果は期待できそうもない。なお、本人の犯罪的傾向は、前記のような無気力な状態からみて、微弱になつたものと認められる。

一方、本人の家庭環境についてみると、本人の両親はすでになく、嫁いだ姉達と世帯をもつた兄達は本人の引取を敬遠している実情であり、受入れ態勢は送致決定当時同様まことに不十分である。

右のような次第で、現状では収容継続を認めても矯正教育の効果を期待することはできないので、かかる実情にある以上は、たとえ前記のとおり本人の心神に障害があり、また家庭の受入れ態勢が不十分であるとしても、収容継続を認めることはできない。

(なお、当裁判所は、前記諸事情に鑑み、本人に対し精神病院入院を検討し、精神衛生法による入院措置もしくは生活保護法による医療扶助の余地があるか否かについて関係機関に非公式に打診したところ、そのいずれかの適用を検討する余地があるとの回答を得ている。本人に対してはこれらの適用を望みたい。)

よつて、本件収容継続申請は理由がないので、主文のとおり決定する。

(裁判官 角田進)

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