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千葉地方裁判所松戸支部 昭和50年(ワ)191号 判決 1978年11月27日

原告

岡野浩明

ほか二名

被告

鎌ケ谷市

ほか二名

主文

一  被告梅田は、原告浩明に対し金一、〇六三万〇、六〇六円、原告文雄、同道子に対し各金三九万一、三〇〇円、および各金員に対する昭和五〇年八月二三日以降完済まで年五分の割合による金員を各支払え。

二  原告の、被告市および同会社に対する請求、およびその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告らと被告梅田との間においては、原告らに生じた費用を九分し、その二を被告梅田の、その余は原告らの負担とし、原告らと被告会社、被告市との間においては、全部原告らの負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは各自、原告岡野浩明に対し金一七八九万円、同岡野文雄に対し金五五万円、同岡野道子に対し、金五五万円、および各金員に対する被告梅田および同東京トヨペツト株式会社は昭和五〇年八月二三日から同鎌ケ谷市は同月二四日から各完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに一項について仮執行宣言

二  被告ら

原告らの被告らに対する各請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告浩明は、昭和四九年四月一四日午後一時一五分ころ、鎌ケ谷市鎌ケ谷四五九番地市道一一八号の道路とこれと直角に交差する道路(東側非舗装道路の幅員は約三・二メートル、西側非舗装道路の幅二・六メートル)との交差点を他の子供二人に続き(各間隔は約三ないし五メートル)子供用自転車に乗つて東方から西方に通過しようとした際、折から右市道一一八号を北方から南方に向つて時速四〇キロメートルの速度で進行してきた被告梅田が運転する自家用貨物自動車の前部に衝突され、頭部外傷頭蓋骨々折、右顔面神経麻痺、右聴力障害および脳挫傷等の傷害を被つた。

2  被告らの責任

(一) 被告梅田および被告会社はいずれも本件加害車の保有者である。

被告会社は、被告梅田に本件加害者を所有権留保約款付で割賦販売し、代金未完払いであつて、本件加害車を支配していたものである。

したがつて、自賠法三条により、右被告らは本件事故による損害賠償責任がある。

(二) 被告市は、本件事故現場の市道を所有管理するものであるが、本件交差点附近の市道は両側から樹が繁り、北方から進行する車両の運転手は本件交差点の存在に気付かないので、両側の樹木を切り払つて見通しをよくし、交差点手前三〇メートルの地点に「おとせスピード」の標識を設置し、右交差点際にカーブミラーを設置するなどして、本件交差点の存在を表示すべきであるのに、被告市はこれを怠つていたので、本件道路には瑕疵があり、これが原因で被告梅田は事前に本件交差点の存在を知らなかつたため本件事故を惹起したものである。

したがつて、被告市は国賠法二条一項ないし民法七一七条により本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

3  原告らの損害

(一) 原告浩明は、本件事故時八歳で健康であつたが、本件傷害により、昭和四九年四月一四日から五月二九日まで四六日間倉本病院に入院、同日退院後同年一一月一五日まで実日数七五日、同病院に通院し、また同年六月七日から今日まで東大附属病院耳鼻咽喉科に通院し、同四九年八月ないし一二月の診断で右耳神経性難聴、右眼瞼不全麻痺、右顔面神経麻痺、記銘力障害、右耳鳴、平衡障害、右上肢筋力低下の後遺症を残し、現在治癒の見込みがない。

(二) そして、これらの傷害による損害は次のとおりである。

(1) 原告浩明について

<一> 治療費金一〇七万八、〇八二円

治療費は倉本病院分 金一〇七万一、五七〇円

東京大学医学部附属病院分 金六、五一二円

<二> 通院費 金一万三、六三〇円

<三> 近親者付添費 金二二万二、三〇〇円

原告文雄が入院中二五日、通院中一五日

同道子が入院中四六日、通院中八五日

入院中付添費 一日 二、〇〇〇円

通院中付添費 一日 一、〇〇〇円

<四> 雑費 金六万三、四七五円

<五> 傷害慰謝料 金一〇九万、八〇〇〇円

入院 四六日

通院 六ケ月

重傷入通院慰謝料の一・二倍

(46×22.5万×1/30+57)×1.2=109.8万

<六> 文書作成費 金二、五〇〇円

<七> 後遺症損害金 金一、四九八万三、八〇九円

右聴力障害は、後遺傷害別等級表九級七号

右眼瞼不全麻痺は同表一一級三号

記銘力障害、右顔面神経麻痺、平衡障害等、同表九級一〇号

にそれぞれ該当し第一三級以上の障害が二つ以上あるときは重い方の障害の等級を一級繰り上げた等級とし、八級とする。

<1> 逸失利益

年間収入金額は、昭和四八年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計男子労働者の年齢計給与額を基礎にする。

107,200×12+337,800=162万4,200円となる。

労働能力喪失率四五パーセント

就労可能年数一八歳~六七歳

ホフマン係数一九・五七三

162万4,200×0.45×19,573=1,430万5,709円となる。

<2> 慰謝料

三三六万円

(2) 原告浩明の父文雄、同母道子について

慰謝料 各金五〇万四、〇〇〇円

(3) 弁護士費用

各原告の請求額の一割とする。

原告浩明分 一六〇万円

原告文雄、同道子分 各五万円

4  よつて、原告浩明は、金一、七八九万円、原告文雄、同道子は各五五万円、および右各金員に対する不法行為後である、被告梅田および同東京トヨペツトは昭和五〇年八月二二日以降、同鎌ケ谷市は同月二三日以降各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

(被告梅田)

1 請求原因1のうち被告梅田が原告ら主張の日時場所において時速四〇キロメートルの速度で自動車を十字路内に進入させ、原告浩明の乗つた自転車に自車を衝突させたことは認めるが、傷害の点は不知。

2 同2の保有者責任は認める。

3 同3のうち、原告文雄と道子が原告浩明の父母であること、原告浩明の治療費が一〇七万二、五七〇円であることは認めるが、その余の事実は不知。

(被告会社)

請求原因のうち、同被告が本件事故車を被告梅田に所有権留保付で割賦販売し代金が未済であつたことは認めるが、同被告が保有者であるとの点は否認、その余の事実は不知。所有権留保付売買契約は代金担保のためであり、被告会社は被告梅田の本件自動車の進行につき何ら支配利益を有しなかつたものである。

(被告市)

請求原因のうち、原告ら主張の市道が同被告の所有管理するものであることは認めるが、右道路に瑕疵があつたことは否認、その余の事実は不知。

三  被告梅田の抗弁

(一)  過失相殺

原告浩明は、事故当日鎌ケ谷市内において発生した火事のため出動した消防車をみるべく、他の友人二名と各別に自転車に乗り、本件交差点は見通しが悪いので一旦停止するなどして左右の安全を確認すべきであるのに、何ら安全確認をせず、突然飛び出し本件事故を発生させたものであるから同原告にも重大な過失があり、原告文雄、同道子にも原告浩明に対し危険を回避するような処置をしなかつた過失があるので、損害賠償額の算定につき原告らの右過失をしんしやくすべきである。

(二)  損害のてんぽ

(1) 原告浩明の損害について自賠責保険から二五八万一、九〇〇円が支払われた。

(2) 被告梅田は、原告浩明の治療費一〇七万二、五七〇円および見舞金二万円を支払つた。

四  被告梅田の抗弁に対する答弁

同被告主張の保険金、治療費(但し一〇七万一、五七〇円である)が支払われたことは認めるが、見舞金の点は否認。

第三証拠〔略〕

理由

第一被告会社に対する請求について

被告会社が本件加害車を被告梅田に所有権留保約款付で販売し本件事故当時その代金が完済されていなかつたことは当事者間に争いがないが、本件全証拠によるも、被告梅田の本件事故時の右自動車の運行について被告会社の支配ないし利益を認めるに足りる証拠はなく、右約款は売買によりなお所有権が被告会社にあるということだけでは本件事故時における右自動車の運行が被告会社のためになされているものとはいえず、その他責任を肯認するに足る特段の事情も認められないので、被告会社につき自賠法三条の責任を肯認することはできず、したがつてその余の点について判断するまでもなく、原告らの被告会社に対する各請求は理由がなく失当である。

第二被告市に対する請求について

本件事故現場の市道一一八号を同被告が所有管理していることは当事者間に争いがない。

原告らは、本件交差点手前の両側の土地の樹木が繁り、本件交差点の手前から右市道と交差する道路の存在に気付かないので、その存在を知らせるような措置がなされていなかつたとして本件道路に瑕疵がある旨主張し、本件事故当時の現場の写真であることに争いのない甲第五号証の一ないし四、本件事故当時本件交差点の北側市道両側に木が繁つていたことは認められるが、証人堀野隆正の証言中右交差点北側五メートルに接近しなければ市道と交差する道路の存在に気付かない趣旨の証言は成立に争いのない乙第一号証に照らして信用することができず、他に原告ら主張のような交差点の存在を事前に予知することが困難な程度の周囲の状況を認めるに足りる証拠はない。かえつて、右乙第一号証によれば、被告梅田の進行方向において右交差点の手前少くとも約二〇メートルの地点から交差道路の存在に気付く状態にあつたことが認められるので、この点に関する原告の主張は失当である。また、同被告が原告ら主張の標識等を設置すべき法的根拠はない。原告らは被告梅田が本件交差点の存在に気付かなかつたため本件事故を惹起した旨主張し、同被告本人尋問の一部には右主張にそうような供述部分があるが、右は同本人尋問の他の供述部分に照らして信用することができず、同供述部分によれば、同被告は事前に本件交差点のあることを知つていたこと、前記乙第一号証、成立に争いのない乙第二、四号証および同被告本人尋問の結果によれば、原告浩明が本件交差点に進入する前、他の子供二人が各々自転車で通過したことが認められるので、被告梅田において前方を充分注視しておれば本件交差道路のみならずこれを通過する者のあることは容易に予想しえたものといわねばならない。

以上の次第で本件市道に瑕疵があつたことを前提とする原告らの被告市に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がなく失当である。

第三被告梅田に対する請求について

一  請求原因一のうち被告梅田が原告ら主張の日時場所において時速四〇キロメートルのスピードで自動車を十字路内に進入させ、原告浩明の乗つた自転車に自車を衝突させたことは当事者間に争いがなく、原告文雄本人尋問(第一回)の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし四によれば右衝突事故により原告浩明が原告ら主張の傷害を被つたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  被告梅田が本件加害自動車の保有者であることは当事者間に争いがない。

三  前記甲第七号証の一ないし四、原告文雄本人尋問(第二回)の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第八号証の一ないし四、同本人尋問(第一回)の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第九号証の一、二、第一〇号証の三、同本人尋問(第一、二回)の結果を総合すれば、原告浩明は、昭和四〇年九月七日生れの八歳で健康な小学生であつたが、本件事故による前記傷害のため昭和四九年四月一四日から五月二九日まで四六日間倉本病院に入院し、以後同年一一月一五日まで実日数七五日間病院に通院して治療を受け、この間六月一一日から一一月一一日まで実日数一一日間東大病院耳鼻科に通院して治療をうけ、同年一二月一一日現在記銘力障害(学力低下)、右神経性聴力障害(つんぼの状態)、右顔面神経麻痺、右耳鳴の自他覚症状および平衡障害(重いものを長時間背負えない)の自覚症状、右上肢筋力低下、右眼瞼不全麻痺(涙の出がわるく、瞼が閉じきれない)の他覚症状を残して治癒したこと、その後右顔面神経麻痺はやゝ好転し、耳鳴りも訴えなくなり、聴力障害以外はなお回復の可能性を残していること、この間、両親である原告文雄および道子(同原告らが、原告浩明の父母であることは、当事者間に争いがない。)が、入、通院時に付添をしたこと、倉本病院に治療代一〇七万一、五七〇円、東大病院に六、五一二円の治療代、二、五〇〇円の文書代を要したこと(治療費合計一〇七万二、五〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。)が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告らの被つた損害は次のとおり認めるのが相当である。

1  原告浩明

(一) 治療費 合計一〇七万八、〇八二円

(二) 付添費 入院一日当り二、五〇〇円

四六日間 一一万五、〇〇〇円

通院一日当り一、五〇〇円

八六日間 一二万九、〇〇〇円

(三) 入院雑費 一日当り六〇〇円 四六日間二万七、五〇〇円

(四) 文書代 二、五〇〇円

(五) 後遺症による逸失利益 一、三七二万五、一七〇円

前記認定の後遺症のうち、神経性聴力障害の点は回復の可能性がないので、後遺症等級九級七号に該当し、将来これにより一般人に比べて労働能力の低下をきたすものと推認しうるが、その余は労働能力低下をきたす程のものとは認められないので、後記慰謝料しんしやく事情として考慮することとする。

昭和四九年賃金センサス第一巻第一表によれば産業計企業規模計男子労働者の年齢計給与額は二〇四万六、七〇〇円である。

13万3,400円×12+44万5,900円=204万6,700円

労働能力喪失率 三五パーセント

就労可能年数 一八歳から六七歳

ホフマン係数 一九・一六

逸失利益額 一三七二万五、一七〇円

204万6,700円×0.35×19.16=1372万5,170円

(六) 通院費

同原告は、通院費として一万三、六三〇円を主張し、前記通院によつて相応の費用を要したことは容易に推認しうるけれども本件全証拠によるも、その金額を確認しうる証拠はないので後記慰謝料等算定事情として右通院費をしんしやくすることとする。

(七) 慰謝料

入通院中のもの(通院費を含む。) 七〇万円

後遺症によるもの 三三〇万円

(八) 以上合計金額 一九〇七万七、二五七円

2  原告文雄、同道子

(一) 慰謝料 各五〇万九、〇〇〇円

四  過失相殺

同被告主張の原告側の過失については、当事者間に争いがないので、本件賠償額の算定に当つてこれをしんしやくすると、その各三割を減ずるのが相当である。そうすると各原告の損害額は次のとおりである。

原告浩明 金一三三五万四、〇七六円

その余の原告 各金三五万六、三〇〇円

五  損害てんぽによる控除

原告浩明の損害について自賠責保険から二五八万一、九〇〇円、被告梅田から治療費として少くとも一〇七万一、五七〇円の支払がなされたことは当事者間に争いがなく、原告文雄本人尋問(第一回)の結果によれば、被告梅田が原告浩明に対し、同原告の傷害見舞金として二万円を支払つたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないが、本件全証拠によるも、それ以上の支払の事実を認めるに足りる証拠はない。そこで原告浩明に対する右賠償額からこれら既払分を控除するとその残額は金九六八万〇、六〇六円となる。

六  弁護士費用

原告浩明につき九五万円

その余の原告らにつき各三万五、〇〇〇円

と認めるのが相当である。

七  そうすると、原告らの損害賠償額は、次のとおりとなる。

原告浩明 金一〇六三万〇、六〇六円

その余の原告 金三九万一、三〇〇円

第四結論

よつて、原告らの被告会社、被告市に対する請求を棄却し、原告らの被告梅田に対する本訴請求のうち、右認定の損害額およびこれらに対する不法行為後である昭和五〇年八月二三日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度でこれを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 若林昌子)

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