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千葉地方裁判所佐倉支部 平成4年(ワ)278号 判決 1993年12月08日

原告 日本ハウジングローン株式会社

被告 国

代理人 開山憲一 佐藤謙一 山岸誠 ほか三名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  別紙物件目録記載二の土地につき千葉地方裁判所佐倉支部平成三年ケ第一一九号不動産競売事件の配当手続について同支部が作成した配当表のうち、被告に交付すべき金五一万九三〇〇円の部分を取消し、右五一万九三〇〇円を原告に交付する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、訴外富士ハウジング株式会社(以下、富士ハウジングという)に対し、別紙物件目録記載一の土地について平成元年一〇月一六日付金銭消費貸借契約に基づく<1>元金二億二五〇〇万円<2>前記元金に対する平成三年一〇月一八日から完済まで年一四%の割合による遅延損害金を被担保債権とする千葉地方法務局成田出張所平成元年一〇月一八日受付第二六八四六号の抵当権の実行を千葉地方裁判所佐倉支部に申立て、同支部は、平成三年一一月二〇日、不動産競売開始決定(以下、前件競売事件という)をなした。

2  原告は、富士ハウジングに対し、別紙物件目録記載二の土地について平成元年一〇月一六日付金銭消費貸借契約に基づく<1>元金一億二五〇〇万円<2>前記元金に対する平成三年一〇月一八日から完済まで年一四%の割合による遅延損害金を被担保債権とする千葉地方法務局成田出張所平成元年一〇月一八日受付第二六八二〇号の抵当権の実行を千葉地方裁判所佐倉支部に申立て、同支部は平成三年一一月二〇日、不動産競売開始決定(以下、本件競売事件という)をなした。

3  被告は、富士ハウジングの消費税・法人税の延滞(本税合計七六九四万九〇〇〇円)に基づき、別紙物件目録一、二の土地について、それぞれ、平成三年五月二九日差押えをなした。

4  訴外千葉県印旛郡富里町(以下、富里町という)は、前件競売事件及び本件競売事件について、法人町民税・固定資産税合計二六二万七〇〇〇円の交付要求をなした(交付要求日平成四年三月九日)。

右交付要求のうち、平成三年度修正法人町民税一七万四七〇〇円の法定納期限等は、昭和六三年七月三一日、平成三年度修正法人町民税二六万六五〇〇円の法定納期限は、平成元年七月三一日であった。

5  千葉地方裁判所佐倉支部は、前件競売事件の平成四年九月二四日午前一〇時の配当期日において、富里町の法人町民税・固定資産税の法定納期限及び被告の差押え先着の関係から、富里町の法人町民税・固定資産税の本税合計四四万一二〇〇円及び損害金七万八一〇〇円の合計五一万九三〇〇円(以下、富里町の地方税という)を被告に対し配当した。

6  千葉地方裁判所佐倉支部は、前件競売事件の配当手続に続く本件競売事件の同日午後一時の配当期日において、被告に対する配当額を決定するにあたり、前件競売事件の配当の際にも用いられた富里町の地方税(五一万九三〇〇円)の再度の優先的使用を認め、被告に対し優先的に右五一万九三〇〇円を配当する旨の配当表を作成した。

7  原告は、本件競売手続の右配当期日に右配当表に記載された被告に対する配当額は、国税徴収法の解釈を誤った違法のものであるとして、全額原告に配当されるべきである旨の異議を述べた。

被告は、右異議を否認した。

二  争点

前件競売事件において、原告(抵当債権)と被告(国税)と富里町(地方税)が三すくみとなり、法定納期限が原告設定の抵当権より先だったため原告より優先する富里町の地方税(合計五一万九三〇〇円)が、富里町と被告との関係では差押先着手により被告が右五一万九三〇〇円の配当を受けている場合、本件競売事件において、同じ富里町の地方税(合計五一万九三〇〇円)を原告より優先する税として再度計算の基礎に入れて配当すべきか否か。

1  原告の主張

(一) 所詮「三すくみ」の解消は、不動産競売手続外で十分調整可能であるが、この調整を不動産競売事件の配当手続内に取り込んでも、「強制換価手続」の性質に反しない。国税徴収法二六条三号は、国税等の租税間の分配の便宜に資するため、不動産競売代金の配当にあたって租税債権間の分配の調整をした規定に過ぎない。

したがって、租税公課グループ内の調整(配当)手続を越えて、たとえ「結果」としてであれ、私債権(本件では、原告の債権)との関係において、国税徴収法二六条三号を適用することによって、本来劣後する租税債権(本件では、国税)が私債権に優先してしまう解釈をとるべきではない。

前件競売事件の配当手続において、形式的(配当表上)には、国税に配当したが、私債権との関係においては、富里町の地方税に対する配当がなされたと解釈する以外にない。

また、右のように解釈しても、配当表の「債権の種類」欄によって、私債権と租税公課の優先関係が明確にされているから、後行の強制換価手続に何ら混乱を生ずることはなく、租税債権の優先・租税の公平の負担に反しないばかりか、最も合理的な解釈というべきである。

本件争点のような場合について国税徴収法に「限定がない」のは、立法者の意思は、右解釈を当然の前提としており、これが最も「公平」に適うと考えているが故というべきである。

(二) 後記被告主張の解釈を採用すると、被告(国)は、富里町の地方税を何度でも利用できるから、国税を全額回収することができ、国税の回収完了後は富里町は地方税を、原告に対し優先権を主張できるはずであるから、結局国も富里町もその全額を回収することも可能であり、仮に、富里町の地方税が多額の場合は、原告の債権は全く回収されない場合もありうることになるのは不合理であるというべきである。

(三) 予測可能性の原則、即ち、租税債権と担保物件によって担保される債権との優劣関係を租税の法定納期限等と担保権の設定の先後によって決することにしたのは、「法定納期限等」が到来すると納税者の納税額を把握することが可能となるので、私債権は債務者に課せられる租税債権の存在を予測して担保権を設定することができるようになり、租税の法定納期限等の到来した後に設定された担保権がその租税債権に遅れても担保権者が不測の損害を受けることにはならない。ところが、後記被告主張の解釈を採用すると、租税の法定納期限等の到来する以前に設定された担保権がその租税債権に遅れることになっては担保権者が予測できない損害を受けることになり、予測可能性の原則に反することになる。

2  被告の主張

(一) 国税徴収法二六条には、最初に申立てのあった強制換価手続又は最初に配当手続に入った強制換価手続に限り同条の一ないし四号に従った処理を行うとか、後行の強制換価手続においては、右と異なる取扱いをするなどとは規定しておらず、また、租税公課グループの配当額を確定させる計算の基礎にした租税公課を再度利用することはできない旨の規定もない(ただし、債権額全額の配当を受けたものを除く。)のであるから、先行する強制換価手続において満足を得ることのできなかった租税公課及び私債権の各債権は、その後の強制換価手続においても、やはり先行した強制換価手続と同様に、同条各号の定める処理方法に従って配当されると解釈すべきである。

本件において、富里町の地方税(五一万九三〇〇円)は、前件競売事件の配当表作成上、租税公課グループの配当額を定める計算の基礎には入っているが、富里町自体は、実際には右事件において配当を受けておらず、依然として富士ハウジングに対し、右同額の租税債権を有していたのであり、他方、右配当手続において現実に配当を受けないまま、その債権を消滅させる旨の規定も存しないのであるから、富里町の有する地方税を本件競売事件の租税公課グループの配当額を定める計算の基礎とすべきことになる。

(二) 租税は負担の公平が期されなければならないところ、負担の公平は第一に課税標準の決定の公平、第二に確定した租税の公平な実現により図られることになる。そこで、租税の公平な実現を図るために制定された徴収法において、租税徴収の確保の必要性はもちろんのこと、私債権に対する租税の特殊性(租税の共益費用性、無選択性、無対価性)を考慮した結果、租税債権の他の債権に対する一般優先権が認められたのである。

そうすれば、そもそも本件強制換価手続において被告が交付要求したのは、主債務者である富士ハウジングがその所得に応じた租税を滞納したことから、右の配当により租税債権の徴収をせざるを得ない状況になったためであるから、右に述べた租税の負担の公平という観点からすると、国家財政の根幹をなす国税債権や地方自治財政を担う地方税にすべて配当し、私債権者への配当がなかったとしても、そのことが直ちに不当ということができない。

(三) 予測可能性の原則といえども、徴税制度における一つの方策として近時の立法政策上の選択されたものであって、これがあらゆる場合を通じて例外を許さないほどの絶対的なものと解すべき根拠はない上、私債権の担保権設定等の日以後に法定納期限等がある租税債権に基づき当該財産を差押えた場合には、私債権者に対してその旨通知しているのであるから、私債権者に対する予測可能性については、ある程度の考慮が払われている。

したがって、結果的に抵当権者が不利益を受けることがあるとしても、それは租税の一般的優先の原則上やむを得ない結論であって、その限度で抵当権者の予測可能性は制限を受けていると解するほかなく、強制換価手続の性格上、私債権と租税債権の優劣関係は形式的・一義的に決せられなければならない。

第三争点に対する判断

一  国税徴収法は、納税者の総財産について国税優先を原則(同法八条)とするが、納税者が国税の法定納期限以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その国税は、換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する(同法一六条)と定めている。これにより租税公課と私債権とが競合する場合の優劣関係が定められても、国税徴収法の他の条項や、地方税等の法律における規定により租税公課と私債権との優劣関係の決定基準が異なるため、これらの規定に従って各債権の優劣関係を追っていくと、「ある私債権に優先する租税公課がその私債権に劣後する別の租税公課に劣後する。」といういわゆる「三すくみ」の事態を生じることがある。

このような三すくみの事態になった場合、国税及び地方税等と私債権との競合の調整のために国税徴収法二六条の規定が設けられている。同条の規定によれば、右のような特殊な競合が生じた場合の配当手続においては、換価代金はまず強制換価手続費用等に充て(同条一号)、その後に、配当を要する債権を租税公課グループと私債権グループとに分けた上で、右各グループごとの配当総額を確定し(同条二号)、次いで租税公課グループに対する配当を租税公課相互の優先・劣後の関係に従って再配分し(同条三号)、私債権グループに対する配当を私債権相互の優先順位に従って再配分する(同条四号)することになる。

二  前件競売事件の配当手続において、原告(抵当権者)と被告(国税)と富里町(地方税)が右三すくみの事態となり、法定納期限等が原告の抵当権に先立つ富里町の地方税(五一万九三〇〇円)分が国税徴収法二六条三号の規定に従って差押先着手により被告に配当された。

この点について、原告は私債権との関係において右富里町の地方税に対する配当がなされたと解釈する以外にはないと主張するが、前件競売事件において富里町の地方税(五一万九三〇〇円)は私債権に優先する租税公課グループの総額を確保するため用いられただけであって、被告の国税債権に劣後するため、配当を受けなかったのであるから、配当を受けて消滅していると解することはできない。

そこで、前件競売事件の配当手続において右富里町の地方税が現実の配当がないので消滅していないとしても、同じ富里町の地方税(五一万九三〇〇円)が本件競売事件の配当手続において、再度、私債権に優先する租税公課グループの総額を確定するために用いることができるかを検討する。

(原告の前記私債権との関係において右富里町の地方税の配当がなされたと解すべき旨の主張は、実質的には再度私債権に優先する租税公課グループの総額を確定するために用いてはならないとの解釈と同じといえる。)

三  原告は、国税徴収法二六条三号は国税等の租税間の分配の便宜に資するため、不動産競売代金の配当に当たって租税債権間の分配を調整をした規定にすぎないので、本来劣後する租税公課が私債権に優先することになる解釈を引き出すべきでない旨を主張する。

しかし、租税公課と私債権が競合する場合は、国税徴収法二六条によって競合の調整がなされているが、同条は一号から四号の各規定を順次適用して各私債権と各租税公課の配当がなされるもので、同条三号の規定だけをとらえて原告の右主張のとおり解釈することはできない。

また、原告の右主張は、私債権と租税公課が三すくみになっている場合も国税徴収法第二章第三節(国税と被担保債権の調整)の各規定により私債権と租税公課の優劣関係が決まっていると解することになるが、私債権と租税公課が三すくみになっている場合には国税徴収法第二章第五節(二六条)の規定によって調整しているところであるから、原告の主張をにわかに採用しがたい。

そして、国税徴収法は、最初に申立てのあった強制換価手続又は最初に配当手続に入った強制換価手続に限り同法二六条の一ないし四号に従った処理を行うとか、後行の強制換価手続においては同条の各号と異なる取扱いをするといった規定はしておらず、また、租税公課グループの配当額を確定させる計算の基礎にした租税公課を再度利用することはできない旨の規定もないから、先行する強制換価手続において満足を得ることの出来なかった租税公課及び私債権の各債権は、その後の強制換価手続においても、同条各号の定める処理方法に従って配当されると解すべきである。

四  原告は、右解釈を採用すると、被告(国税)は原告(私債権)に優先する富里町の地方税を何度でも利用できるから、国税を全額回収することができ、国税の回収完了後は富里町も右地方税の優先権を原告に主張できることになり、不合理である旨を主張する。

確かに、納税者の財産につき強制換価手続が一度の配当手続だけで行われなかった場合、その後の配当手続において私債権に優先する租税公課が何度でもその優先権の主張を許すことになり、租税公課グループは何度もその優先する租税公課分の配当にあずかれることになり、結果的に私債権者が不利益を受けることがある。

しかし、強制換価手続において、私債権と租税公課は法律の規定によりその優先関係が決まる以上、これに従って配当手続も行わなければならない。そこで、私債権者に不利益となる右事態があるとしても、明文の規定に反して解釈することはできない。

また、私債権者は、優先する租税公課が何度でも優先権を主張することを阻止するため、優先する租税公課を納税者に代位して納付することもできる。この場合、私債権者は優先する租税公課が右納付によって消滅することにより、その分が優先する私債権者に配当されるから、これにより実質的に回収できている。

債権者としては、債務者(納税者)の財産について、今後も強制換価による配当手続がなされ、同手続において私債権と租税公課の三すくみが生じてくるのを判断して、債権者に優先する租税公課を債務者に代位して納付するかを決める必要がある。

五  原告は、前記三の解釈を採用すると租税の法定納期限等の到来する以上に設定された担保権が予測できない損害を受けることになり、予測可能性の原則に反すると主張する。

確かに、再度の優先権の主張が許されると、法定納期限等を基準として債務者の滞納税額を把握し、抵当権を設定した債権者に不測の不利益を招来することがあることは否定できない。

しかし、徴税制度における予測可能性の原則は立法政策上考慮されてはいるが、絶対的で例外を許さないと解すべき根拠はない。

したがって、結果的に抵当権者が不利益を受けることがあるとしても、それは租税の一般的優先の原則上やむを得ない結論であり、また、抵当権者に優先する租税公課を代位して納付することにより、再度の優先権の主張を阻止することもできるのであるから、その限度で抵当権者の予測可能性は制限を受けているものと解するほかはない。

六  以上の次第により、原告の配当異議は失当である。

(裁判官 駒谷孝雄)

別紙物件目録<略>

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