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千葉地方裁判所 昭和33年(行モ)1号 決定 1958年3月27日

申立人 小泉直治 外九名

被申立人 小櫃村選挙管理委員会

主文

申立人等の本件執行停止の申立はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は申立人等の負担とする。

理由

申立人等の申立の趣旨は(イ)の申立中「小櫃村議会解散請求者署名簿に関する異議申立につきなした棄却決定の効力」とあるのを「小櫃村議会解散請求者署名簿に関する異議申立につき亀井よし以下六九二名の署名に関しなした棄却決定の効力」と訂正する外別紙申立書記載の通りである。

而してその理由は第三項に「亀井よし以下合計六四二名」とあるのを「亀井よし以下合計六九二名」と訂正し、第九項の(ロ)の「第三冊(大字戸崎第一部落住民分)」とあるのを「第一冊(大字西原部落住民分)」と訂正し、第一〇項の「(b)の「第二、三、四、五、八、九、一〇、一一、一二各号冊」とあるのを「(b)の第一、二、四、五、八、九、一〇、一一、一二各号冊」と訂正し、(b)の末尾に、「有権者総数四、三二〇名中署名総数は二、一四五名で、被申立人はその内二五八名の署名を無効とし一、八八七名の署名を有効とした。右二五八名の内訳は異議申立を容認して無効としたもの一一〇名、異議申立前職権により無効としたもの一四八名(その内金田実外八名については職権により無効としたものに異議が申立てられ、却下された)、一、八八七名中には異議申立棄却決定があつた六九二名分を含んでいる。要するに被申立人が有効を認めたものの内実際無効のものは六九二名分以上に多数に含んでいるが申立人等において異議申立をしなかつた部分があるから本訴において取消を申立てているのは六九二名の署名に関してなした棄却決定であり、従つて本件停止の申立において効力の停止を求めるのは右六九二名の署名に関しなした異議申立棄却決定の効力である」と附加した外は(以上の各訂正及び附加については審尋調書参照)別紙申立書記載通りである。

申立人等は疏明として甲第一乃至第二七号証(甲第二二号証のみは一乃至一〇)を提出した。

まず(イ)の異議申立棄却決定の効力停止の申立につき按ずるに申立人等主張の第一項乃至第三項の事実は甲第一乃至第四号証で疏明せられる。

よつて第一、被申立人委員会の構成が不適法であるかどうかにつき審究するに甲第五号証によれば小櫃村議会は昭和三二年七月二七日一人の欠席議員もなく全員出席し全員異議なく申立人等主張の通り選挙管理委員に根本亮、小林正信、塩谷保の三名、補充員に太田奈美(順位一)高橋幸造(順位二)保坂権次(順位三)の三名を指名推選の方法により選んだことが認められる。そこで(a)申立人等は選挙管理委員は至公至平のものであるから一般に指名推選の方法では選ぶことができない旨主張するが、前記認定の如く会議に村会議員の全員が出席して全員異議のない場合には地方自治法第一一八条第二項により村議会は選挙管理委員の選挙についても指名推選の方法を用いることができると解するのが相当であるから右申立人等の主張は採用しない(b)次に申立人等は補充員については同法第一八二条第三項により補充の順序が定められているものであるから指名推選の方法を用いることができない旨主張するが補充員の選挙についても指名推選の方法を用いることができると解すべく、同時に三名の補充員が指名推選されたときは同項の趣旨に則り委員長は補充に当りくじにより補充すべきものを定むべきものであること勿論である。それならば議会は右補充員を定めるに当りその補充の順序を予め定めて置くことができるかどうかというに、斯くすることはより丁寧な方法であつて前記法条第三項の趣旨に反するものと云うことができないから、かかる定め方をしたからというて選挙管理委員及び補充員の選定は無効と云うことはできない(c)更に申立人等は右選挙管理委員及び補充員を選んだ村議会の決議は小櫃村議会々議規則に反し午後五時以後になされたから無効である旨主張するが甲第七号証に依れば右決議は午後五時以前になされたものと一応認むべく、仮りに右決議が申立人等主張の如く午後五時を過ぎてなされたとするも、甲第六号証により認められる右会議規則第一〇条には「議長が必要であると認めたときはこの限りでない」という極めて寛大な漠とした但書がついて居り、時間外の決議をして無効ならしめるが如き厳格なる規則とは到底解し得ない。次に申立書第五項記載の申立人等の主張事実は甲第九乃至第一六号証により疏明せられる。思うに選挙管理委員長の退職の承認は委員長にとり地方自治法第一八九条第二項に所謂「自己の一身に関する事件」であると解するのを相当とすべく、右第一八九条第二項の規定は同法第一八六条所定の選挙管理委員会の事務の処理についてのみその適用を見ると解すべき根拠はこれを発見することができない。申立人等代理人は委員長選挙に当り委員は自己を委員長に投票し得るから委員長は自己の退職の承認の決議にも加はることができる旨主張するが選挙は特別の性質を有するものでありこれと他の事務とを同一に見ることはできない。それはそうとして昭和三三年二月七日根本亮の委員長退職の承認を同人を除く二名の委員でなしたのは地方自治法第一八九条第一項第三項に違反し無効であること明であり、従つて同日小林正信を委員長に互選したこと(甲第一〇号証で明である)も亦無効であり、又従つて同月九日における小林委員長の根本亮の委員退職の承認も無効であると云わなければならない。然らば同月一一日改めて根本亮の委員長退職の承認を委員小林正信、塩谷保、及び第一順位補充員太田奈美によつてなしたのは適法というべく(太田奈美の補充の適法性については前記(b)で述べたところで明である)、更に同日改めて根本亮、小林正信、塩谷保が委員長として小林正信を互選したこと及び同月一三日根本亮の委員退職の承認を改めて小林委員長がなしたことはいずれも適法というべきである。次に根本亮が小櫃中学校長であること並びに小櫃村選挙管理委員長及び同委員が報酬を伴う職であることは甲第一七乃至一八号証により疏明せられ、同人の就職につき小櫃村教育委員会の許可を受けなかつたことは甲第二七号証によりこれを認め得る。而して之が違法であること勿論であるが地方公務員法第三八条は地方公務員をして公務に公平に専心従事せしむることを目的とする規定であるに鑑み、右許可を受けないでなした他の職えの就職すなわち本件の場合で言えば選挙管理委員及び選挙管理委員長えの選定行為を、当然無効と解し、根本亮の小櫃村選挙管理委員及び同委員長としての行為までを全部違法と解することは到底できない。尚申立人等は昭和三三年二月一日小櫃村議会が昭和三二年七月二七日における選挙管理委員及び補充員選定の決議を取消した旨主張するが(申立書第三項末尾)右取消の効力はこれを認めることができない。

以上の如くであるから被申立人委員会の構成を不適法とし右委員会のなした一切の行為を無効乃至違法と主張する申立人等の主張は容れ難い。

次に第二、「署名の無効」につき按ずるに、申立書第九項(イ)(ロ)の事実(但し(ロ)の事実中第三号冊とあるのを第一号冊と訂正したもの)は甲第二〇号証第二一号証に依り疏明せられる。(ロ)申立人等は解散請求書写、代表者証明書写及び署名収集委任状と賛成者の署名ある第一葉との間には解散代表者三名の契印があるだけであるから署名収集の際には解散請求書写等を添付してなかつた旨主張するが申立人等は右形式の九冊のうち第一〇号冊については署名収集の際委任状が添付してあつたことを認めているものである(甲第四号証の異議申立の要旨)、そうとすれば他の同一形式の八冊についても署名収集の際から附属書類が添付があつたものと一応認めるのを相当とすべく、この点に関する甲第二二号証の一乃至一〇の記載はたやすく措信し難い(イ)右九冊のうち第一号冊につき一四四番と一四五番との契印を欠く事実につき疏明のあること前記の如くであるが、それのみによつてはまだ契印のない前後の署名が別々に収集されたものと認定することができない。蓋しもし右の如く違法に署名が収集されたのを解散請求代表者において一通としてとじ合せたものとすれば、却つて他の冊の署名簿の形式から見て契印のいることを知つていたと認められる右代表者において右非違を隠すため両者の間に契印の存するように取計つたであろう、これをその儘放置するが如きことは到底考えられないという見方もあるからである、されば申立人等が停止の申立書において「署名の無効」の事由として主張した事実については疏明が十分でないと云はなければならない。

而して小櫃村の有権者総数が四、三二〇人であることは甲第二三号証で明であり、内二、一四五名が署名したものとして署名簿が選挙管理委員会に提出されたことは甲第二〇号証により疏明せられ、二、一四五名の署名中管理委員会により無効と認定されたものが二五八名、有効と認定されたものが一、八八七名であり、右一、八八七名の署名中六九二名の署名について異議申立棄却の決定がなされたことは甲第四号証により一応推認される。

而して右棄却された異議申立の理由として申立人等が(一)六九二名の署名が本人の自署でないこと(二)署名簿第一〇号冊について承諾しない署名収集受任者の氏名を委任状に記載し、之を添付して署名を収集したこと(三)署名簿第一一号冊につき解散請求代表者及び署名収集受任者以外の者が署名を収集したことの三項目を主張したことは甲第四号証により明であるが、申立人等は(一)及び(三)の事実につき被申立人の認定を覆すべき一応の疏明をも提出せず又甲第四号証によれば署名簿第一〇号冊につき署名収集受任者とならなかつた三名の者を署名収集受任者として委任状に記載し、之を添付して署名を収集した部分の存することを認め得るけれども、之を以て詐欺による署名収集とまでは言い難く、これを無効の署名と解することはできない。

以上は当裁判所が簡単な手続を以て急ぎ審理して得た結論であつて、他日本訴において慎重審理するにおいては右と異る結論が出て来るかも知れないこと勿論である。然らば之に備えて、本件疏明は十分ではないが尚疏明なきに非ずとして本件執行停止の申立を許容すべきやというに、本件記録全体から看取せられるところによれば、署名に関する異議申立棄却決定の取消の本訴の確定するに至るまで本件六九二名の署名に関する異議申立棄却決定の効力を停止し、以て解散請求による選挙人の投票の施行を不可能にしておくことの小櫃村々民に与える影響は重大であり、一方申立人等は本件停止の許されない場合にも直に議員たる身分を失うものでなく選挙人の投票により尚その身分を保ち得るかも知れないのである。そう見て来ると本訴の取消請求権の存在につき十分の疏明のない以上本件棄却決定の効力停止の申立は到底之を許すことができないと云わなければならない。よつて申立人等の本件棄却決定の効力停止の申立は全部理由がないとしてこれを却下すべきものとする。

次に(ロ)の告示の効力の停止の申立につき按ずるに、本件の本訴は申立の趣旨(イ)の棄却決定の取消であるから(ロ)の告示は行政訴訟の目的たる行政処分そのものでなく、右を前提とする後続の行政処分であること言を俟たない。今棄却決定の効力を停止した場合を考えるに棄却決定の効力の停止された署名数を控除して尚有効署名数が有権者の三分の一以上存するときは、右停止決定は選挙人の解散賛否投票の施行の妨とならない停止の結果有効署名数が法定数を割るときにおいて右投票の施行を不可能とするものと解するを相当とする。されば後続の告示の効力は前提たる棄却決定の効力の停止によりそれが相当数に上る以上、反射的に十分に止めることを得べく、前提たる行政処分取消訴訟を本訴として直接に後続行政処分の効力までを停止することはその必要がなく、行政訴訟特例法第一〇条はかかる執行停止を許容していないと解するのを相当とする。よつて申立人等の(ロ)の申立は不適法としてこれを却下すべきものとする。

以上の次第につき本件執行停止の申立はいずれもこれを却下すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 内田初太郎 山崎宏八 桜林三郎)

(別紙)

執行停止申立

申立の趣旨

申立人等(原告等)と被申立人(被告)間の御庁昭和三十三年(行)第四号議会解散請求者署名簿の署名に関する異議事件の判決確定に至るまで。

(イ) 被申立人が昭和三十三年二月十二日申立人等の小櫃村議会解散請求者署名簿に関する異議申立につきなした棄却決定の効力及び

(ロ) 被申立人が昭和三十三年三月九日小櫃村議会解散請求により住民投票期日を昭和三十三年三月二十九日とする告示(昭和三十三年告示第三九号)の効力

は夫々これを停止する。

との御決定あらんことを求めます

事実理由

一、申立人等はいずれも千葉県君津郡小櫃村村議会の議員である。

二、訴外小沢武夫、小沢周司、大野豊の三名は、昭和三十二年十一月十四日被申立人に対し、小櫃村議会解散請求代表者として、これが代表者証明書の交付を申請し、被申立人は、これに対し、昭和三十二年十一月十六日小櫃村選挙管理委員会委員長根本亮の名義を以てその旨の証明書を交付し、且つ同日該証明書を交付した旨を同名義を以て告示した。

そして、右訴外人等は、昭和三十二年十二月十七日小櫃村議会解散請求者署名簿を被申立人に提出し、被申立人は、該名簿を昭和三十三年一月六日より同月十二日までの間、右根本委員長名義の告示により関係人の縦覧に供した。

三、申立人等は、同月十二日被申立人に対し右署名簿の署名に関する異議の申立をなしたところ、被申立人等は、同年二月十二日の決定を以て、異議申立に係る署名中、小沢新次外一〇九名の署名については、異議を認容し、金田実外八名の署名については、異議申立前既に被申立人に於て無効と認定したものとして、異議申立を却下し、亀井よし以下合計六四二名の署名については、いずれも署名は有効であるとして、異議申立を棄却した。そして被申立人は、同年二月十三日附小選第七八号を以て叙上決定を申立人等に通知し、該通知は翌十四日申立人等に到達した。

第一、被申立人委員会の構成の不適法

四、小櫃村議会は、昭和三十二年七月二十七日定例会に於て、被申立人即ち小櫃村選挙管理委員会の委員定員三名として根本亮、小林正信、塩谷保の三人並に補充員定員三名として太田奈美を第一順位、高橋幸造を第二順位、保坂権次を第三順位として、夫々これを選定したのであるが、その選定は、選挙投票によらないで、すべて議長田中祐一の指名推薦の方法によつてこれを決定したのである。

然し乍ら

(A) 地方自治法が、第一八二条を以て、選挙管理委員及びその補充員は普通地方公共団体の議会に於て選挙権を有する者の中からこれを選挙すべき旨を定め、また、委員中に欠員があるときは選挙管理委員会の委員長は補充員の中からこれを補欠するものとし、その順序は、選挙の時が異るときは選挙の前後により、選挙の時が同一であるときは得票数により、得票数が同じであるときはくじにより、これを定めるべき旨を規定し、更に、委員長若くは委員の退職、職務の執行、指揮監督、自律規定の制定等につき、すべて委員会の独立自治を強化確保する諸規定を設けたる所以の立法精神は、選挙管理委員の職務がその本質上至公至平超党派的であるべきことに鑑み、その選定はあくまで議会に於ける公平厳格なる投票選挙によらしめ、かくて選挙当選したる委員をして、外部の干渉影響等の制約を受くることなく、安んじてその職務を遂行することを得せしめんとする趣旨に出てたるものであることは、多言を俟たないところであるから、選挙管理委員の選定は、議会に於て、必ず、単記無記名自書投票を以てする選挙方法によるべきものであつて、議会に於て特定人の推薦指名によつてこれを選定するが如きことは、全然許されないものと謂わなければならない(青森地方裁判所昭和二三年(行)三七号昭和二四、九、一九、判決、月報二〇第三三五号、行政事件裁判例集総索引下巻一、一七五頁御参照)。故に叙上小櫃村議会に於ける前記三人の選挙管理委員並に前記三人の補充員の選定は、如上の理由により、いずれも無効であり、従つて、前記の六人は、夫々有効に選挙管理委員若くは補充員たる資格を獲得するに由なく、小櫃村選挙管理委員会は、叙上村議会推薦指名方法を以てする選定の議決によつては、有効に構成せらるることはなかつた筋合である。

(B) 委員欠員となつた場合補充員から補欠せらるべき補充員の順位は、両者の選挙の時か同時であるときは得票数によつて委員長が自らこれを補欠すべきことは一八二条三項の明定するところであるのみならず、委員会構成当初の委員及び補充員の選挙は委員の選挙と同時にこれを行わなければならないことまた同条二項の明定するところであるから、補充員の順位を定めるための右唯一の基準たる選挙による得票数を算定するに由なき叙上推薦指名による補充員の選定は、この点からみても無効である。そして、選挙管理委員会を組織する三人の選挙管理委員の選挙を行う場合に於ては同時に委員と同数の補充員を選挙しなければならないことは一八二条二項の明定するところであるから、最初に選挙管理委員会を構成せしめるに当つては、法定数の委員を選挙する場合には必ず同時に法定数の補充員を選挙しなければならないし、法定数の補充員を選挙する場合には必ず同時に法定数の委員を選挙しなければならないのであつて、若し一方のみを選定し、他方を選定しないか若くは他方の選定が無効であれば、その一方の選定も亦無効であると謂わなければならない。故に、小櫃村選挙管理委員会の最初の構成に当り、同時に選定せられた委員及び補充員につき、補充員の選定が如上の理由により無効なる以上、他方の委員の選定が仮令選定方法そのものとしては違法でないと認められても、補充員の有効なる選定と同時に選定せられたものではないことになるのであるから、結局該委員の選定もまた無効たるを免れないと謂わなければならない。

(C) 加之、小櫃村議会会議規則によれば、村議会の会議は、午後五時までに議事時間の延長の決議をなすにあらざれば、午後五時以後に議事を行うことができない旨明定せられているところ、小櫃村議会の前記選挙管理委員三人及び補充員三人の推薦指名による選定決議は、昭和三十二年七月二十七日午後五時以後に如上延長決議なくしてなされたものであるから(議事録には午後五時以前に決議せられたる如く記載せられているけれどもこれは体裁を繕うたもので真実に反する)、この点からしても、該選定の決議は違法である。その後、小櫃村議会は、叙上委員及び補充員の推薦指名による選定決議の違法なこと及びその決議が時間的に規則違反であることを認めて、昭和三十三年二月一日の定例会に於て、叙上選定決議の取消の決議をなした。

五、然るに、叙上の推薦指名により選挙管理委員に選定せられた根本、小林、塩谷の三人による選挙管理委員会は、昭和三十二年七月三十日委員長に根本亮を選定し、同人が委員長に就職し、爾来引続きその職に在つたのであるが、右根本亮は、昭和三十三年二月七日選挙管理委員会(委員小林正信、塩谷保)の承認を得て委員長の職を退職し、次いで翌々日即ち九日に小林委員長の承認を得て、委員の職を退職し、小林委員長は、同日告示第二八号を以て根本亮の委員退職の旨を告示した。

然るに、根本亮は、叙上委員長の退職及び委員の退職は取消されたとして、同月十一日改めて委員長の退職を申出て、同日開催の選挙管理委員会に於ては、根本の委員長退職の申出があつたことにより委員中に欠員を生じたものであるとの建前並に前記村議会に於て議長の推薦指名により第一順位の補充員として選定せられた太田奈美が当然に第一順位補充員たる資格を有するものであるとの前提の下に、右太田奈美を該委員会に委員として出席せしめ委員小林及び塩谷並に右太田の三人にて根本亮の委員長退職の承認決議をなし、その決議が終るや否や右太田は退席して根本が出席し、小林、塩谷、根本の三人にて小林正信を委員長に選挙した。そして、根本亮は同月十三日改めて小林委員長の承認を得て委員を退職し、小林委員長は同日告示第三六号を以て右退職を告示した。

六、而して、根本亮は、千葉県君津郡小櫃中学校長であり、従つて教育公務員特例法第三条により地方公務員としての身分を有するものであるところ、選挙管理委員及び委員長は報酬を伴う職であるから根本亮は、地方公務員法第三八条により、任命権者たる千葉県知事の許可を受けなければ右委員若くは委員長の職務に従事することはできない筋合である。然るに、右根本は右委員若くは委員長就職の当初よりその退職するに至るまでついにその任命権者より如上許可を受けることなくして終始したものであるから、根本亮の選挙管理委員若くは委員長の就職は不適法のものである。

七、かくの如き経過事実であるから、結局

(イ) 被申立人選挙管理委員会の構成は、第三項に述べたる理由により不適法であり、従つてかかる不適法な構成による被申立人委員会が本件村議会解散請求事件につきなした前記解散請求代表者証明書の交付及びその告示、解散請求書の署名簿の閲覧告示並に解散請求者署名簿の署名に関する本件異議に対する決定等すべて全然無効である。

(ロ) 仮りに第四項の所論理由なしとするも、第五項に述べた如く、根本亮は、昭和三十三年二月九日有効に選挙管理委員会の委員を退職し、同日その旨告示せられたものであるに拘らず、申立人等よりする本件解散請求署名簿の署名に関する異議申立に対する決定の件の上程せられた昭和三十三年二月十二日の被申立人選挙管理委員会の会議に法定委員三人の中の一人として出席して該決定に関与したものであるから、その点に於て、被申立人委員会の本件決定は違法である。

(ハ) 加之、第六項に述べた理由により、根本亮の選挙管理委員会委員若くは委員長の就職は不適法であるから、本件村議会解散請求につき根本委員長のなした該解散請求代表者証明書の交付及びその旨の告示並に解散請求者署名簿の閲覧の告示は無効であり、またこれら一連の手続を前提としてなされた被申立人委員会の申立人等よりする解散請求者署名簿の署名に関する異議申立につき、根本が委員の一人として関与してなされた本件決定も亦違法たるを免れない。

八、原告等よりする叙上異議に対する被申立人委員会の本件決定が第七項(イ)所載の理によつて当然無効であるとすれば、本訴に於ける請求趣旨としては、その無効確認を求むべきであるともみられるが、とにかく本件決定は外形上一応申立人委員会の決定として存在している関係上、これが取消を求むるを至当と思料し取消を訴求したのであるけれども、かかる場合には訴訟法上無効確認をなすべきものとすれば、本訴求はその趣旨をも包含する趣意であることを念のためここに釈明しておきたい。

第二、署名の無効

九、本件村議会解散請求者署名簿として請求代表者より被申立人に提出せられたものは、小櫃村の大字の住民毎に一冊宛合計十三冊に分冊せられこれに夫々第一号乃至第十三号の番号が附せられているところ

(イ) 第一号冊のうち、署名者の通し番号一番より二〇番までのうち、一四四番より一四五番に亘る別用紙写にはこれが前後継続使用せられたることを証すべき何等の契印も存在しない。

(ロ) 第二号冊(大字賀恵淵   住民分) 第三号冊(大字戸崎第一部落住民分)

第四号冊(大字戸崎第二部落住民分) 第五号冊(大字戸崎第三部落住民分)

第八号冊(大字上新田   住民分) 第九号冊(大字俵田    住民分)

第十号冊(大字末吉    住民分) 第十一号冊(大字三田   住民分)

第十二号冊(大字長谷川  住民分)

に於ては、夫々各号冊中、解散請求書写、代表者証明書写及び署名収集委任状と賛成者の署名ある第一葉との間には、解散請求代表者三名の契印があるだけで、第一葉若くは第二葉以下に署名したる者乃至署名収集を委任せられた者による契印は全然存在しない。

(ハ) 右の如く、署名簿若くはこれが附属書類との写に所要の契印の存在しない以上、該契印のない署名用紙及びその次葉以下の署名用紙に署名せられた者の署名は、すべて、地方自治法施行令九二条一項若くは二項所定の書類を附したる署名簿によつて署名を求められてなされたものとは、反証ない限り認め得られないのみならず、請求代表者から適法に署名収集の委任を受けた者によつて署名を求められてなされたものとは、反証ない限り認め得られない。現に前記署名簿各号冊分の住民に対する署名収集に当つて、法定の書類を附することなく単なる署名用紙のみを持参して署名を求められ、若しくは適法なる署名収集被委任者以外の者から求められて、その署名用紙に署名したる事実の判明し居れるもの多々あり、しかも、右の如く署名を収集したる署名用紙に、後日に至り、請求代表者等に於て、夫々法定の附属書類を添付したる事実も存在し判明している。

叙上所要の契印の存在しないことは、取りも直さず、反証ない限り、地方自治法施行令九二条一項及二項所定の手続を履践せられたものとは認め得ないのみならず、同令九一条四項所定の一箇月の期間内に署名が収集せられたものとは認め得ない筋合である。従つて、これらの署名はすべて無効と謂わなければならない。

十、而して、

(A) 前項(イ)所載の第一号冊署名簿に於ける叙上理由により無効と認めらるべき署名は、六一名なるところ、そのうち一〇名については申立人に於て無効と認定しているから、残り松崎保以下合計五一名の署名が無効とせらるべきである。

(B) 前項(ロ)所載の第二、三、四、五、八、九、十、十一、十二、各号冊の署名簿に於ける叙上理由により無効と認めらるべき署名は合計一、六四三名なるところ、そのうち一六三名については、被申立人に於て無効と認定しているから、残り亀井よし以下合計一、四八四名の署名が無効とせらるべきである。

なお、小櫃村の有権者総数は合計四、三二〇名であり、従つて申立人主張の無効署名者数に被申立人の認定した無効署名者数を加えたるものの数は、右有権者数の三分の二を遥かに超過する計算となる。

十一、而して、被申立人は、昭和三十三年三月九日本件小櫃村議会解散請求による住民投票期日を昭和三十三年三月二十九日とする告示(告示第三九号)をなした。

十二、然し乍ら、本案訴訟の審理如何によつては、被申立委員会のなした本件棄却決定は、被申立委員会の構成不適法のため若くは有権者の署名が法定数を欠くため、無効若くは取消さるべきものとせられ、その後に於て行われた若くは行われる賛否投票手続もその根拠を失うこととなり、しかも、被申立委員会の叙上決定の有効無効未確定のまま爾後の手続が進行せられ賛否投票の施行となりその結果賛成投票が過半数を占めるに於ては、申立人等は直ちに村議会議員の職を失い償うことのできない損害を蒙ることとなりまた村政上も著しき紛乱を惹起するばかりでなく、多大の失費を来たし、且つ村民に及ぼす各方面の影響も甚大であるから、此の際申立趣旨記載通りの執行停止の申立に及ぶ次第である。なお被申立委員会のなした本件棄却決定の効力が停止せられれば、爾後の賛否投票に関する一切の手続はなし得られないものと思料するが、該手続の中賛否投票期日の効力の停止をも併せて申立に及ぶ次第である(附述1、2、3)

附述1 選挙管理委員会の決定の効力の執行停止申請を認容せられたる

大分地方裁判所昭和三二、一二、一六、決定、判例タイムズ七六号七〇頁

同説、柳川真佐夫氏著「全訂新版保全訴訟」四一頁以下

附述2 選挙管理委員会の賛否投票の施行に関する告示の効力の執行停止申請を認容せられたる

(一) 神戸地方裁判所昭和三二、一、一二、決定、行政事件裁判例集八巻一号一一五頁

(二) 仙台地方裁判所昭和三一年(行モ)二号昭和三一、一〇、一〇決定、右例集七巻一〇号二四三六頁

(三) 仙台地方裁判所昭和三一年(行モ)一号昭和三一、一〇、一〇決定、右例集一〇号二四三〇頁

(四) 水戸地方裁判所昭和三一、八、一、決定、右例集七巻八号二〇二三頁

(五) 神戸地方裁判所昭和二八、一〇、九、決定、右例集四ノ一二、三四八

(六) 大津地方裁判所昭和二七、一二、四、決定、右例集三ノ一、二八三

附述3 執行停止の効力問題に関する

(一) 最高裁判所昭和二九、六、二二、決定、民集八巻六号一一六二頁

(二) 行政事件訴訟特例法逐条研究(ジユリスト)選書三四三頁以下

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